ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期

第99話 収穫祭

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 今日は十一月の第二日曜日。この日の地上階は、帝国建国祭の時とはまた違った喧騒に包まれていた。



「ふわぁ……めんどくせえ。何で私なんだよ畜生……」
「ネム~」


 乱暴に飛び跳ねているベージュ色のロングヘアー。大きい眼鏡をかけて白い羊を連れた女性は、やっとのことで王城の前に到着した。

 そこにブルーノとマキノが声をかけてくる。


「……ローザ? お前ローザか!? 明日はあられでも降るのか!?」
「うっせーよブルーノ……私の姿見ただけではしゃぐんじゃねーよ……」
「ネム~」
「ネムリンおっはよぅ。マッキーは今日も元気だよっ」
「……あのさ、その兎耳誰だよ」



 ローザは目をこすり、ブルーノの隣にいる白い兎耳の魔術師を注視する。まだ眠いのか目つきはかなり悪い。



「貴女がローザ殿……初めまして。私はマーロン、ウィングレー家に仕える魔術師であります」
「……うっす。ローザだ。こっちがナイトメアのネムリン……」
「ネム~」

「ネムリン殿、よろしくお願いします。あ、私のナイトメアは今家にいまして……」
「だー、いいからそんなの。それよりあれなの? ウィングレーってことはルドミリア様に何か言われて出向してきたの?」
「いえ、そのようなことではありません。純粋にお手伝いがしたくて志願したのです」

「お前が上司であるトレック様に叩き起こされたからといって、皆そうだとは限らないんだよ」
「知るかボケエエエエだわそんなん」
「ネム~」


 ローザは大きく欠伸をするが、一向に眠気は覚めないようだった。


「ごめんな、こいつ礼儀作法を覚える前に社会に投げ出されたから。無礼な所があっても許してやってくれよな」
「はあ……ですが実力は相当なものだとお伺いしています」
「伊達に魔術師やってないからな。本気を出せば強いんだが、本気を出すまでに時間がかかるっていう……」


 ブルーノはそう言いながらローザの方に振り向くが、そこに彼女の姿はなかった。


「……さては逃げやがったなあいつ」
「な、何か不味いことでも……?」
「事件を起こすような奴ではないから安心しろ。ただそうでなくとも厄介だからなあ……最近はその傾向が強かったがどうだろう」


 ブルーノが頭を掻くと、後ろからアドルフの声が聞こえてくる。


「始まるな。我が主君一世一代の大イベントだ」
「アドルフ様にはいつも娘がお世話になっています……ここで少しでも御恩を返さないと」
「ははっ、まあそう固くならずに」


 そうして二人も持ち場に就いていった。




「え~、皆様お集りいただき誠にありがとうございます。さて皆様のご支援を賜り、今年も無事に学園祭を成功させることができました。先ずはそれに関して御礼申し上げます」


 王城に入る前の中庭にどんと置かれた、巨大な鍋。庭の八割程の面積を占領するその鍋を前にして、アドルフは集まった魔術師達に対して演説をする。


「そして学園祭とついでに仮装祭が終わると、今年もやって参りました収穫祭! ご存知の通りグレイスウィルの食料事情は我々ウェルザイラが担っております」

「毎年山のように作物が実り、一生かかっても消費しきれないと贅沢の極みである悩みをこぼすのです! それに感謝して作物を美味しくいただこうというのがこの祭のコンセプトでございまあっつうっ!!!」



 鍋の下には巨大な魔法陣が敷かれ、そこから炎が生成され鍋を熱している。アドルフはそれに背中からぶつかってしまい、数秒程飛び回った。


 しかし隣に控えていたフォンティーヌが水を生成し頭上からかけたことによって、何とか落ち着きを取り戻した。



「ありがとうフォンティーヌ! さあさあご覧くださいこちらの今私がぶつかった鍋! 我がウェルザイラの精鋭魔術師達が一から造り上げた、収穫祭の為だけに降臨せし一級品の魔術鍋! 御託はいいからさっさと料理せんかいワレと言わんばかりにぐつぐつ煮立っております!」


 鍋は巨大であるため、中に入れられた液体が煮立つ音は話し声程度なら遮断できそうな程に大きい。


「うし、そろそろ時間になるな! では挨拶もこの辺に早速初めて参ろう! 収穫祭名物魔術ミネストローネをなああああああああ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 アドルフのテンションに当てられて、集まった魔術師達のテンションも一気に最高潮に達する。





 一方の城下町。学生達は思い思いに練り歩き、ふと鼻に入る匂いに心を躍らせる。



「あうう……お腹空いてきた……」
「さっき朝食を食べてきたばかりだろう」
「それはそうなんだけど……ぐう」


 エリス、アーサー、カタリナ、イザークのいつもの四人。彼女達もまた特に理由はないが城下町を散策していた。


「いや~屋台の数が凄いね。建国祭の比じゃねえよ」
「しかもこれ全部食べ物のお店だよ? 涎が止まらないよう……」
「あ、あのお店……第二階層にあるお店だ」
「マジで? 出張販売とかするんだな」
「……」


 アーサーは首からかけたペンダントを触りながら、町の様子を見回す。


「ん? 何だアーサー、いつの間にそんなペンダントなんて持っちゃって」
「……ちっ」
「あー何だよ舌打ちしやがってー! ちょっと訊いただけじゃんかよー!?」
「一々オレに突っかかってくるなっ……!?」


 屋台と屋台の間から伸びてきた腕に、アーサーは腕を掴まれてしまう。


「なっ……!?」
「ちょっと!?」


 ずるずると屋台の間に引き摺り込まれるアーサーを追って、エリス達も続いていく。





「おおーっ、釣れた釣れた。へっへっへ……結構なお点前で……」
「ネム~」
「離せ貴様……!!」



 アーサーを路地裏に引き摺り込んだのは、爆発でもしたように飛び跳ねている長髪の女性。


 その隣には顔を埋めても支障がないぐらいの毛を湛えた白い羊が控えている。



「まあそうキレんなよ。折角の収穫祭だ、私と楽しもうぜイケメン君」
「……すみません。わたしの友達に手を出さないでくれますか」
「あ?」


 エリスは二人に追い付き、女を睨み付けながら声をかける。


「なんてこった……ダチ連れかよ。しかも三人も……こりゃハズレか。久しぶりに外に出たってのに……」
「ネム~」
「ぐはぁ!?」
「ネムネム~」



 眠そうにしていた羊が目を見開き、女性を後ろ足で蹴り飛ばす。


 そのままゆっくりと三人に近付き、鳴き声を上げる。



「ふむふむ。我が主君が申し訳ないことをしたと申しておりますな」
「あ……通訳ありがとう、セバスン」
「よしサイリ、お前も通訳やれ。……成程。この羊はネムリンで、女の方はローザというんだってさ」

「でめぇ……めっぢゃ久々に牙向きやがって……」
「ネム~」


 ローザは脇腹を抱えながらふらふらと立ち上がる。一方のネムリンは蹴り飛ばしのことはなかったかのように、眠そうな目と声とで鳴いている。


「ワンワン!」
「まあ、当然の報いだな」


 アーサーはローザから解放された後、握られていた箇所を砂を落とすように払う。


 そこに遠くから、爆音が風に乗って聞こえてきた。


「ん、この音は……?」
「先生が言ってたヤツだろ。王城で何かスゴいことやるって。それじゃね?」
「じゃあ……見に行く?」
「その方がいいだろう」


 アーサーは女の方を振り向く。すると彼女は完全に背中を向けて、路地裏の奥そそくさと消えようとしていた所だった。


「……どこに行く」
「ひぃっ!? いやだって、王城行くんでしょ? だったら私には関係ない――」
「……ふん」


 今度はアーサーが女の腕を握り、ずるずると引き摺っていく。


「こいつに何か奢ってもらうことを提案する」
「……アーサー君も意地悪な方向に思考が及ぶようになってきましたなあ」
「等価交換だ。人に危害を加えた者には、それ相応の罰を要求するまで。とにかく連れて行くぞ」

「わーったわーった!! それはわかったから王城だけはやめてくれえ……!!」
「ネム~」


 懇願するローザの言葉は、誰にも聞く耳を持たれることはなかった。
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