ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

文字の大きさ
103 / 247
第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期

第100話 魔術師いろいろミネストローネ

しおりを挟む
「……すごかったね」
「ああ、スゴかった」
「ふええ……」
「どうしよう、カタリナの意識が飛んでる」



 エリス達五人は王城の庭での催し物を見物した後、入り口の門まで戻ってきていた。



「まず……鍋がね。もう鍋の時点ですごかったよね。庭のほとんど埋まっていたよね」
「その後に投入される食材もな……第一階層の家一軒に匹敵する量だぞあれ。毎年あんなに野菜採れるのが予想外だわ」
「学園長先生、それにそのご先祖様とか、本当に頑張ったんだね……」
「……ふむ……」


 現在門は閉じられ、中で魔術師達が何かを行っているようだった。アーサーはその様子を何とか見ようとしているが、首をどのように伸ばしても無駄だと気付いたので諦めた。


「アーサーはどうだった? 収穫祭名物」
「……特に攪拌が凄まじいと感じたな。あの量をあの勢いで、しかも料理だからむらなく混ぜないといけない。それを行える点に魔術師達の実力の高さを窺えられた」
「うん、冷静な分析ありがとう。確かに魔術師の人達、気合がすごかったね」

「魔術師もそうなんだけど、それを率いる学園長もだよ。オマエら学園長の顔見た? 完全にイってたぞあれ」
「主催は学園長先生って話だから、気合の入れようが違うんだろうね」



 そこで門が開けられ、魔術師が数人駆け寄ってくる。



 中で留まっていた匂いも解放され、城下町を包み込んでいく。



「……ふわあ……いい匂い……お腹空いたあ……」
「あ、戻ってきた。これ中に入っていいのかな?」
「そりゃあ折角作ったもんなんだから食わねえといけねえだろ」


 今まで黙っていたローザが口を開く。


「おおう、生きてた。んじゃあ中に入ろうぜ」
「待て。それはやめろ。生きてたって物言いには突っ込まないでやるからやめろ」
「ったくよー、何だって王城に入るの嫌がって……」



 そこにエリス達四人は知っている顔、ローザにとっては悪魔の化身に他ならない人物が歩み寄ってきた。



「げぇ……!?」
「ネム~」
「あ、ブルーノさんこんにちは」
「おお、君達は……九月の研鑽大会で見た顔だな。特に金髪の君、あの応援は鮮烈だったぞ。事件があった以外では一番印象に残っている」
「……」


 アーサーは顔を俯け、その拍子にローザを掴んでいた手を離してしまう。


「よっしゃ!! 行ける!!」
「うん!! 残念!!」

「クソがぁぁぁぁぁ……!!」
「ネム~」
「あははぁ。抵抗すらしないんだねネムリン」



 ブルーノの杖から触手が伸び出て、ローザを拘束して引き摺り戻す。青い肌の少女マキノは、飛び出たと同時にネムリンの身体に乗りかかった。



「嫌じゃ~嫌じゃ~働きたくないんじゃ~!!」
「どうせお前のことだからな。いい感じの生徒をハントしてキャッキャウフフするつもりだったんだろうが、こっちに来たのが運の尽きだったな」
「だからこっち来たくなかったんだよ!! 小僧共てめえらのせいだ!!」


 ローザは顔に青筋を浮かべ、腕の代わりに足を必死に動かして脱出を試みている。


「あの……知り合いですか?」
「おうよ。こいつはローザ、アールイン家に仕える宮廷魔術師だ」
「宮廷魔術師……ええ!?」


 エリスに続き、アーサー、カタリナ、イザークもそれぞれ驚いた素振りを見せる。


「ほらー、驚かれてるぞ? いいのかこんなんで?」
「いいからさっさと放せ!!!」
「うん、いいか君達こんな大人になっちゃ駄目だぞ。なるならアドルフ様やルドミリア様のような情熱に溢れる大人になるんだぞ」
「はぁ……」
「……うう。もう、あたし、限界だよぉ……」


 その瞬間、カタリナの腹が大きく音を立てた。


「ああ……う、うう……」
「ははは、豪快に腹が鳴ったな! こりゃあミネストローネもたくさあだぁ!?」
「あのねぇ!! 年頃の女の子ってそういうの気にするんだよっ!! 大声で言うんじゃないよ、このニブチン!!」



 マキノはブルーノに平手打ちすると、四人の前にひらりと躍り出る。



「というわけでねぇ。出来上がったミネストローネは城下町の皆に配って食べてもらうことになっているんだぁ」
「なーるほど、だからあんなでっかい鍋でどどーんと作る必要があったんですなあ」
「そゆことっ! さあさあ、学生だからって遠慮しないで食べていってよぉ!」
「よっしゃ、そうとなったら行くとしようぜ!」


 イザークに捲し立てられて、エリス、アーサー、カタリナも続いていく。


「じゃあ大人はここで……」
「ワットアーユーセイン、お前は何を言ってるんだ。さあさあ行くとしようぜ!」
「ぎゃああああああ……!!」
「ネム~」
「ネムリンって本当に動じないよねぇ……まっ、そこが面白いんだけどぉ」


 魔術師の二人も、彼らに続いて後についていった。





「はぁ……アタシってホント素敵……」


 明るい黄緑色の髪を団子に束ねた女性は、そう呟いて配膳用のお玉を手に取る。


「エプロンでもローブでも……ドレスを着てても映える女……」


 数十個の鍋に分けられたミネストローネをよそい、器に注ぐ。


「そして魔術研究も……家事もこなせる女……」


 仕上げに少しだけパセリを振りかける。


「やっぱりアタシっててんさ」
「フィルロッテ殿、もう少し静かに作業できませんか?」




 受け渡し口に向かおうとした瞬間、女性はマーロンと目が合い固まる。




「……」
「ああ、気に障られましたらすみません……ただ他の魔術師の方もいらっしゃるので……私は別に構わないのですが……」
「……いや、うん……」



 フィルロッテが立ち竦んでいると、そこにエリス達が受け取り口にやってきた。



「はあ~い! いらっしゃいませ~!」
「えっ……」
「ミネストローネをご所望ですね? ただいまお待ちくださいませ~!」


 困惑するエリス達をよそに、フィルロッテは一方的に言い放ち屋台の奥に戻っていった。


「ほらマーロン、さっさとやるぞ」
「……え、ええ……あの、人数……」
「四人だろうがどう見てもよ。やるぞやるぞ!」
「……はぁ」



 数分後。



「お待たせしました~! 大地の恵みと魔術の叡智がぎゅぎゅっと詰まったミネストローネ八人前で~す!」
「え……八人ですか?」
「そうだよ? だって主君が四人ってことはナイトメアも四人でしょ?」
「あの……その、色々あって七人前で大丈夫なんですけど……」
「……」


 フィルロッテは両手の人差し指と中指を立てポーズを決めていたが、その状態のまま固まってしまった。



 後ろからマーロンが申し訳なさそうに出てくる。


「ほらあ……しっかりと話を聞かないから……」
「……」

「えっと……そういうこともありますよ、多分。だから……大丈夫です」
「ああ、なんて出来た学生さんなんだ。とりあえず一個こちらでもらっておきますね」
「ありがとうございまーす」
「ふん、ざまあみろとしか言いようがないな、フィルロッテ」



 マーロンとエリスの間で器の受け渡しが行われている横から、トレックがミネストローネを食べながらやってきた。



「トレック様こんにちは。第二階層から昇って来ていたんですね」
「うむ。折角の祭りだからな」
「……」


 フィルロッテは変な態勢のまま眼球だけをトレックに向ける。顔は完全に強張って、心なしか角が生えてきたように見える。


「あの、さっきから……フィルロッテさんの目付きが怖いんですけど……」
「このクソ人間のことなぞ気にすることはない」
「クソ人間って、言い方が……」

「何を隠そう、こいつは家で空想小説ばかり読みふけっている引き籠りでな。流石にこのままでは不味いと親が判断したのか、ルドミリアに頼んで魔術師として強制的に働かせるようになったんだ」
「ルドミリア先生ですか?」
「こいつルドミリアの従妹いとこなんだよ。十歳ぐらい年が離れているが。だから四大貴族の家系に連なっている影響で、ある程度教養があるのが救いだったな」
「へぇ……へぇ……」
「……ふむ」


 頭の先から見える部分全て、アーサーとイザークはフィルロッテをじっと見つめる。


「いわゆるぶりっ子ってヤツっすか」
「まあそうだな。将来はそこそこの貴族と結婚して、仕事をせずにぐうたらするのが夢だ。そんな夢なぞクソくらえだ」

「……あの~、トレック様? 流石にもうそろそろ自重してもらえませんこと……?」
「これは僕の親切だ。貴様のような駄目な人間に引っかからないようにするという、大人としての責務をこなしているのだ」
「……」


 フィルロッテの目には明らかな殺意が込められているが、トレックは平然としたまま睨み返した。


「……ねえアーサー」
「何だ」
「……最近、模範にならないような大人にしか会ってない気がするんだけど……」
「……オレに言われても困る」
「だよね……ごめんね……」




 そこにようやくブルーノとローザ、マキノとネムリンが到着した。


 依然として触手に拘束されたまま、ローザはトレックと再会する。




「……あぴぃ」
「おおローザ、なんとブルーノに連れられてきたか。貴様が真面目に仕事をするかどうか心配で見に来たんだ。決してミネストローネを食べたいからではないぞ」

「……もぉ何でぇ……」
「さて、生徒達よ。奥の方に椅子と丸机が置いてある区画がある。そこに行ってミネストローネを食べてくるといい。器には保温の魔法をかけているとはいえ、冷めてしまうと勿体ないからな」
「ありがとうございます」



 トレックの言葉を受けて、生徒四人はその場を後にする。すると当然残ったローザに話の主軸が向くわけで。



「ところでローザ」
「……何だよクソが」
「次の仕事が決まったぞ」
「えっ」
「喜べ、貴様にはイズエルト駐屯の仕事が与えられた。あっちはいいぞぉ、何も起こらない限りは暖かい部屋でずーっと寝ていられるからな、何も起こらない限りは」


 トレックはねっとりとした笑顔で話しているが、一方でローザはどんどん顔を引き攣らせていく。


「……アルシェスと仲良くやれよ?」
「……あああああああああああ!!! 今日は厄日だああああああああああああ!!!」
「ネム~」



 そんなローザの様子を見たブルーノは、触手を解除して彼女を自由に暴れ回させることにした。杖を仕舞った後、受け取り口に向かう。



「あれ? マーロン、フィルロッテの奴は何で倒れているんだ?」
「さっき暴れようとしたら、急に身体に電流が走ったようで。そうしたらぱたりと動かなくなりました」
「電流か……まあルドミリア様が何かやったんだろうが。しかしそこまでするか?」
「身内だから厳しくしているんでしょうね。本当に、魔術師としての可能性はあるのに……」
「腐っても四大貴族の血が流れているってことだな。羨ましい才能だ。性格が全てを台無しにしているが」


「……はい、ブルーノ殿。ミネストローネ二人分です」
「悪いな。さて、あの生徒達に合流して食べるとするか……」



 マーロンから器を受け取り、ブルーノとマキノも生徒達に合流しに向かう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ
ファンタジー
東京・渋谷から少し外れた路地の奥、築五十年のビルの地下一階。看板は小さく、知っている人しか辿り着けない。  カウンター八席、テーブル二卓。深夜零時から夜明けまでの営業。 ルーカス(本名:ルカシュ・ヴァルド)  異世界の小さな王国の第三王子として生まれたが、王位継承争いに巻き込まれ、魔法陣の暴走によって現代日本に転移してきた。外見は三十代前半の白人男性。銀灰色の髪と、光の加減で金色にも見える瞳を持つ。日本語は「声の魔法」で習得した。  他人の「最も深い渇望」が視える力を持つ——それは意識的な欲求ではなく、本人すら気づいていない魂の底の叫び。酒や料理を通じてその渇望に応える。  自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

無能と追放された結界師、三十路のおっさんですが17歳の辺境伯令嬢と婚約して人生逆転します

みかん畑
ファンタジー
無能と蔑まれ、Aランクパーティを追放された結界師フィン。 行き場を失った彼を拾ったのは、辺境伯の娘リリカだった。 国土結界の恩恵が届かない辺境で、フィンの結界は本当の価値を発揮していく。 領地再建、政治の駆け引き、そして少女のまっすぐな想い。 これは無能と呼ばれた男が、辺境で居場所を見つけ、やがて年の差婚へと至る物語。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

手折れ花

アヒル
恋愛
王族から見捨てられ、とある村で暮らしていた第四王女だったが……。 侵略した王子×亡国の平凡王女のお話。 ※注意※ 自サイトでボーイズラブとして書いたお話を主人公を女の子にして加筆したものです。 (2020.12.31) 閲覧、お気に入りなど、ありがとうございます。完結していますが、続きを書こうか迷っています。

異世界に転生したので錬金術師としてダラダラ過ごします

高坂ナツキ
ファンタジー
 車道に飛び出した猫を助けた吾妻和央は車に轢かれて死んでしまった。  気が付いたときには真っ白な空間の中にいて目の前には発光していて姿形が良くわからない人物が。  その人物は自分を神と名乗り、主人公を異世界に転生させてくれると言う。  よくわからないけれど、せっかく異世界に転生できるのならと、元の世界ではできなかったことをしてダラダラ過ごしたいと願う。  これは錬金術師と付与魔術師の天職を与えられた男が異世界にてだらだら過ごすだけの物語。 ※基本的に戦闘シーンなどはありません。異世界にてポーションを作ったり魔導具を作ったりなどの日常がメインです。 投稿開始の3日間、1/1~1/3は7:00と17:00の2回投稿。1/4以降は毎日7:00に投稿します。 2月以降は偶数日の7:00のみの投稿となりますので、よろしくお願いします。

ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます

黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。 だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ! 捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……? 無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!

処理中です...