114 / 247
第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期
第111話 氷賢者
しおりを挟む
トナカイ車に揺られること一時間。エリス達はアルーインの最北端、城下町まで到着した。観光協会の建物の前にある馬舎、もといトナカイ舎に停められる。
「きれい……」
「でしょー? すっごいキラキラしている町でしょー!?」
「ふむ、今日が快晴でよかったな。雨や曇りでも風情はあるが、やはり快晴が一番だ」
「雪が太陽の光を反射して綺麗ですからね!」
リーシャは我先に馬車から飛び降りた。雪が踏み締められる心地良い音が鳴る。
「ふかふかの雪……ここまで綺麗なのは初めてかも……」
「ログレス平原より北に行かないとこの雪は無理だろうなー」
「……ふむ」
エリス、アーサー、イザークは慣れた足つきで軽やかに馬車を降りる。瞬間、カヴァスが飛び出て近くを跳ね回りだした。
「ワンワン! ワオーン!」
「おー、犬は喜び庭駆け回るってヤツだな。本当に喜ぶのか」
「ガウッ!!!」
「痛っでぇ!?!?」
カヴァスが豪快にイザークの膝に噛み付く後ろで、カタリナとルシュドは馬車の中から地面をじっくりと見つめている。
「二人共大丈夫? 降りれる?」
「あ……大丈夫、だよ」
「……よし。降りる」
そうして二人はたどたどしく馬車を降りた。すぐにセバスンが現れ、カタリナを励ますように肩に乗る。
「……あたし、雪は噂でしか聞いたことなくて……本物見るの、初めて……だから」
「そっか。初めてならそんな感じだよね」
「気にすることはありませんよお嬢様」
「……ジャバウォック」
「いいぜ。ごぉーっ」
ジャバウォックは地面の雪に向かって火を吹きかける。当然のように雪は溶けて水になった。
「雪……水、冷たい……むぅ」
「ははは! いやー、ルシュドって本当面白いな! 目の付け所がさ!」
イザークが両手を頭の後ろに回しながら話していると。
突然やかましいバイオリンの音が聞こえてきた。
「ん?」
「バイオリン……? 誰が弾いているんだろ?」
「……何だろう。知っている人で、かつ模範にならないような大人が来る気がする」
「……オレもだ」
かくしてエリスとアーサーの予想は当たることになる。
「うっほほ~い! ふかまえてほら~ん!」
「ははは、ここまでおいでー!」
「賢者さま、遅いよー! みんなもう着いちゃうよー!」
毛皮のコートを羽織り、マフラーやニット帽を被った子供達。その中で一際目立つ、水色の長髪で左の目を前髪で隠した青年が、鉄の仮面を口に挟みバイオリンを掲げて走ってきた。
彼はイリーナの前まで来てから膝に手をつき息を切らす。対峙した彼女は幻滅したように息を漏らした。
「ストラム殿……何をされているのですか」
「ぜえぜえ……何って子供達と遊んであげてるんだよ! この美しい僕がね!」
「……アーサー、この人知ってる。ナルシストバカさんだ」
「誰だ今僕のこと馬鹿にした奴はぁ!?」
ストラムはすぐさまエリスとアーサーの方に振り向く。
「……ってあれ? そう罵倒してきた奴は美しい僕の美しい記憶領域によるとこの世に一人しかいなかったような……?」
「えー……その一人の娘と友達です」
「何だと!! ということは君達、グランチェスターでの勇姿を見届けてくれた子だね!? ふっふっふ……!! これは僕のファンサービスさっ!!」
「おわわっ」
ストラムはエリスの両手を握り、ぶんぶんと握手をする。アーサーは怪訝そうにそれを見ていたが、すぐに彼にも順番が回ってきた。
「船の中でも聞いたが、本当に驚くばかりだ。まさかエリスがユーリス殿の娘だなんて」
「お父さん、あの時たくさん魔力を使ったって言ってたから……すごく頑張って、すごい魔法を繰り出したんだと思います」
「農家とは言っているがどうなんだ? 実際は魔術師の端くれじゃないのか?」
「それは……うーん……」
考えてはみるものの、実の娘にも知らないことはあるのだ。
一方のリーシャ達は、ストラムと一緒にやってきた子供達に絡まれている。
「リーシャお姉ちゃん、お帰りなさい!」
「ただいま! 半年ぶりだなあ!」
「お姉ちゃん、大丈夫? けがしてない?」
「怪我は治してもらえるからだいじょーぶっ! 皆の方こそ大丈夫か?」
「姉ちゃん姉ちゃん、学園のお話聞かせて! お勉強は大変? 課外活動は楽しい?」
「こっちも話したいこといっぱいあるよ! 夕食の時にでも話そう!」
「スノウ、後で雪合戦しようよ! ぼく負けない!」
「こっちもなのです!」
子供達と揉みくちゃになるリーシャを、カタリナ、イザーク、ルシュドの三人は微笑ましく見ている。
そんな彼女らの所にも、好奇心を煌めかせた子供がちらほらやってきた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん……もしかして、リーシャお姉ちゃんのお友達?」
「そうだよ。あたしはカタリナで……この子がセバスン」
「すごい……ゴブリンがタキシード着てる。ちょっとかっこいいかも」
「ねえねえ、この黒い人もナイトメアなの?」
「そーだぜ。コイツはサイリ、ボクのナイトメアだ。でもってボクの名前はイザークだ」
「わぁ……全身黒ずくめで、アサシンって感じでかっこいい!」
「ナイトメアってみんなかっこいいのかな? でもこのちっちゃいトカゲみたいに、かっこよくないのもいるね」
「かっこいいだろ俺はよぉ!? あとトカゲじゃねえよ!! ドラゴンだぞドラゴン!!」
「……でも、小さい」
「ルシュドてめえ!?」
そんな風に、それぞれが和気藹々と談笑していると、
「……やっど追いづいだぁぁぁぁ……」
低く、暗く、絞り出すような声が敷地の入り口から聞こえてきた。
「あ、賢者さま。ようやく追いついたの? 遅いよ!」
「あのがめんにばなぁ……もうなんが色々ずるぢがらがあるんだぞぉ……ぞれをぎみだぢ……毎度毎度……」
エメラルドグリーンの瞳に艶めく灰色の髪。しかし顔と体格はやけに細長く、暗褐色が目立って不健康そうな印象を与える。
そんな男が入り口から入ってくるものだから、全員が会話を止めて押し黙る。しかし子供達とストラムはそうではなかった。
「ちなみに仮面はこっちだよーん」
「あっ……!?」
ストラムが掲げた仮面に男は食い付く。必死で飛び跳ね、何とか仮面を取ろうともがいている。
「げひゃひゃひゃ!!! 面白いなホント!!! 仮面外すとこの変わりようだもんな!!!」
「……あの……」
「何だいお嬢さん!?」
「もう止めた方がいいと思います。大人げない……いえ、美しくないです」
「……ッ!?」
「よじ!」
エリスの一言に雷に打たれたような顔になるストラム。その隙に男は仮面を奪い去り顔に着ける。
「ふぅ……ん? 魔力の調子がおかしいな?」
「あ、さっき口に咥えて持って行ったからそれかも゛っ」
仮面の男の拳がストラムの鳩尾に直撃する。
「何でそんなことするのかなぁ君はなぁ!!! また魔力を込め直さないといけないじゃないか!!! 本当に、本当に君は何故こんな残念な人間になってしまったんだ……!!!」
「……え? 何の話?」
「何でもない!!! うむ、仮面も取り戻せたし切り替えるとしよう。イリーナが連れて来た生徒の皆はこっちにおいで。城下町の子供達は向こうに行って」
顔面を全て覆い隠す白い仮面。男はそれを着けると、打って変わって凛々しい声で話しかける。心なしか体格も健康そうに見えた。
「みなは私のことを氷賢者と呼ぶ。王国に仕えて政に意見を出す、有識者のような扱いを受けているんだ。ここで会ったのも何かの縁、よろしくお願い致そう」
氷賢者は胸に手を当て頭を下げる。
「スゲえや、またしても偉い人直々のお出迎えだ」
「えらい人ではあるんだけどねー。仮面取るとさっきみたいになって、なーんにもできないの」
「だから面白いんだよねー!」
「子供達よ、余計なことを言うのは止めてもらえないか。それに君達には重要な仕事があったはずだ」
「仕事……あっ!」
一番体格が大きい子供が頭に手を当て、思い出したような顔になる。
「そうだよ! 賢者さま見かけて、ついでに姉ちゃん来たって聞いたから嬉しくなっちゃったけど、おれ達買いも……っ!」
「しーっ! お姉ちゃん目の前にいるでしょ! 言っちゃだめ!」
「そ……そういうことだから! じゃあね!」
慌てた態度を露骨に見せながら、子供達は退散していった。
「買い物……何の買い物だろう……?」
「多分私達の歓迎パーティでもするんだろうね。でもこれは聞かなかったことにして、皆精一杯喜んだ振りをしようね」
「もちろんだよっ」
子供達とリーシャの関係を予想しながら、エリスは頷く。そこに氷賢者が再び話を持ちかけた。
「さて、イリーナから大体の話は聞いている。この後は城下町を見て回るんだったな。何処か行き先の希望はあるか?」
「はーい! 雪華楽舞団の舞台を見て温泉に入りたいでーす!」
「ふむ、雪華楽舞団か。では本日の公演のうち、一番近い物で席を取ってもらっておこう。人数は六人分でいいか?」
「六人分でいいよね?」
「あー……」
「……ふむ」
「……うーん」
提案を受けたにも関わらず、アーサー、イザーク、ルシュドの男子三人組は難しそうな表情をしていた。
「ボク、ぶっちゃけ演舞とかにときめくタチじゃないからなあ……」
「……オレも、まあそうだな」
「おれ、動き回る、したい」
「成程。そういうことなら、騎士団宿舎に行ってみるのはどうだ?」
氷賢者の提案に男子達は目を丸くする。
「騎士団宿舎って……行っていいんすか、そんな所」
「ここの騎士団も結構開かれていてな。訓練場に行けば気軽に稽古をつけてもらえるんだ」
「……稽古? つまり、訓練?」
「まあそうだな。武術の授業の勉強になるんじゃないか?」
「ならば決まりだ。オレはそちらに向かう」
「おれも。訓練、する」
「……見学だけってのはありすか?」
「勿論。第一見て学べることもあるだろうしな」
「んじゃボクもそっちで~」
「ならば女子だけでめいいっぱい楽しんでこよう! いえーい!」
「いえーい!」
「い、いえーい……?」
エリス、カタリナ、リーシャの女子三人組はそれぞれハイタッチを交わす。
「よし、話は纏まったな。男子が騎士団宿舎で女子が雪華楽舞団の舞台。ううむ、見事に分かれたな」
「十代の若者なんてこんなものですよ。次に先程上がった温泉は……これはムスペル大浴場でいいな」
「銅貨一枚で入れるお手軽温泉だ。非常に庶民的だが、学生の小旅行なんだ。ここは背伸びせずにありのままを体験するのがいいだろう」
「それにイズエルトの温泉はどれもレベル高いしね!」
リーシャはその場で一回転する。誰よりもこの旅行を楽しんでいるのは恐らく彼女だろう。
「じゃあこっちの舞台が終わり次第、合流して大浴場に向かうってことで!」
「そうだな。では早速移動しようか。私は女子の三人に付き添うとしよう」
「では私は男子の方に」
「あ、女子の方は美しい僕も一緒に行くよ! 暇だし!」
「うおっ、死んでたかと思った」
「死んでたは酷くね!? あのねえ、僕我慢してたんだよ? ここは口を挟む場所じゃないって察して自己主張を我慢してたんだよ!? 偉いでしょ!!! 美徳でしょ!!!」
ストラムは胸を大きく張る。先程まで掲げていたバイオリンは、いつの間にか背中にしまわれていた。
「……何なのコイツ。アーサーは知り合いだったみたいだけど」
「知り合いと言っても、不慮の事故の様なものだ。こいつのことはナルシストバカと呼んでやれ」
「わかった。よろしく、です。ナルシスト、バカ、さん」
「ちょっとー!? 悪口布教すんのやめてくれるー!?」
こうして一泊二日の小旅行、長くも短くもあるイズエルト観光の幕が上がる。
「きれい……」
「でしょー? すっごいキラキラしている町でしょー!?」
「ふむ、今日が快晴でよかったな。雨や曇りでも風情はあるが、やはり快晴が一番だ」
「雪が太陽の光を反射して綺麗ですからね!」
リーシャは我先に馬車から飛び降りた。雪が踏み締められる心地良い音が鳴る。
「ふかふかの雪……ここまで綺麗なのは初めてかも……」
「ログレス平原より北に行かないとこの雪は無理だろうなー」
「……ふむ」
エリス、アーサー、イザークは慣れた足つきで軽やかに馬車を降りる。瞬間、カヴァスが飛び出て近くを跳ね回りだした。
「ワンワン! ワオーン!」
「おー、犬は喜び庭駆け回るってヤツだな。本当に喜ぶのか」
「ガウッ!!!」
「痛っでぇ!?!?」
カヴァスが豪快にイザークの膝に噛み付く後ろで、カタリナとルシュドは馬車の中から地面をじっくりと見つめている。
「二人共大丈夫? 降りれる?」
「あ……大丈夫、だよ」
「……よし。降りる」
そうして二人はたどたどしく馬車を降りた。すぐにセバスンが現れ、カタリナを励ますように肩に乗る。
「……あたし、雪は噂でしか聞いたことなくて……本物見るの、初めて……だから」
「そっか。初めてならそんな感じだよね」
「気にすることはありませんよお嬢様」
「……ジャバウォック」
「いいぜ。ごぉーっ」
ジャバウォックは地面の雪に向かって火を吹きかける。当然のように雪は溶けて水になった。
「雪……水、冷たい……むぅ」
「ははは! いやー、ルシュドって本当面白いな! 目の付け所がさ!」
イザークが両手を頭の後ろに回しながら話していると。
突然やかましいバイオリンの音が聞こえてきた。
「ん?」
「バイオリン……? 誰が弾いているんだろ?」
「……何だろう。知っている人で、かつ模範にならないような大人が来る気がする」
「……オレもだ」
かくしてエリスとアーサーの予想は当たることになる。
「うっほほ~い! ふかまえてほら~ん!」
「ははは、ここまでおいでー!」
「賢者さま、遅いよー! みんなもう着いちゃうよー!」
毛皮のコートを羽織り、マフラーやニット帽を被った子供達。その中で一際目立つ、水色の長髪で左の目を前髪で隠した青年が、鉄の仮面を口に挟みバイオリンを掲げて走ってきた。
彼はイリーナの前まで来てから膝に手をつき息を切らす。対峙した彼女は幻滅したように息を漏らした。
「ストラム殿……何をされているのですか」
「ぜえぜえ……何って子供達と遊んであげてるんだよ! この美しい僕がね!」
「……アーサー、この人知ってる。ナルシストバカさんだ」
「誰だ今僕のこと馬鹿にした奴はぁ!?」
ストラムはすぐさまエリスとアーサーの方に振り向く。
「……ってあれ? そう罵倒してきた奴は美しい僕の美しい記憶領域によるとこの世に一人しかいなかったような……?」
「えー……その一人の娘と友達です」
「何だと!! ということは君達、グランチェスターでの勇姿を見届けてくれた子だね!? ふっふっふ……!! これは僕のファンサービスさっ!!」
「おわわっ」
ストラムはエリスの両手を握り、ぶんぶんと握手をする。アーサーは怪訝そうにそれを見ていたが、すぐに彼にも順番が回ってきた。
「船の中でも聞いたが、本当に驚くばかりだ。まさかエリスがユーリス殿の娘だなんて」
「お父さん、あの時たくさん魔力を使ったって言ってたから……すごく頑張って、すごい魔法を繰り出したんだと思います」
「農家とは言っているがどうなんだ? 実際は魔術師の端くれじゃないのか?」
「それは……うーん……」
考えてはみるものの、実の娘にも知らないことはあるのだ。
一方のリーシャ達は、ストラムと一緒にやってきた子供達に絡まれている。
「リーシャお姉ちゃん、お帰りなさい!」
「ただいま! 半年ぶりだなあ!」
「お姉ちゃん、大丈夫? けがしてない?」
「怪我は治してもらえるからだいじょーぶっ! 皆の方こそ大丈夫か?」
「姉ちゃん姉ちゃん、学園のお話聞かせて! お勉強は大変? 課外活動は楽しい?」
「こっちも話したいこといっぱいあるよ! 夕食の時にでも話そう!」
「スノウ、後で雪合戦しようよ! ぼく負けない!」
「こっちもなのです!」
子供達と揉みくちゃになるリーシャを、カタリナ、イザーク、ルシュドの三人は微笑ましく見ている。
そんな彼女らの所にも、好奇心を煌めかせた子供がちらほらやってきた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん……もしかして、リーシャお姉ちゃんのお友達?」
「そうだよ。あたしはカタリナで……この子がセバスン」
「すごい……ゴブリンがタキシード着てる。ちょっとかっこいいかも」
「ねえねえ、この黒い人もナイトメアなの?」
「そーだぜ。コイツはサイリ、ボクのナイトメアだ。でもってボクの名前はイザークだ」
「わぁ……全身黒ずくめで、アサシンって感じでかっこいい!」
「ナイトメアってみんなかっこいいのかな? でもこのちっちゃいトカゲみたいに、かっこよくないのもいるね」
「かっこいいだろ俺はよぉ!? あとトカゲじゃねえよ!! ドラゴンだぞドラゴン!!」
「……でも、小さい」
「ルシュドてめえ!?」
そんな風に、それぞれが和気藹々と談笑していると、
「……やっど追いづいだぁぁぁぁ……」
低く、暗く、絞り出すような声が敷地の入り口から聞こえてきた。
「あ、賢者さま。ようやく追いついたの? 遅いよ!」
「あのがめんにばなぁ……もうなんが色々ずるぢがらがあるんだぞぉ……ぞれをぎみだぢ……毎度毎度……」
エメラルドグリーンの瞳に艶めく灰色の髪。しかし顔と体格はやけに細長く、暗褐色が目立って不健康そうな印象を与える。
そんな男が入り口から入ってくるものだから、全員が会話を止めて押し黙る。しかし子供達とストラムはそうではなかった。
「ちなみに仮面はこっちだよーん」
「あっ……!?」
ストラムが掲げた仮面に男は食い付く。必死で飛び跳ね、何とか仮面を取ろうともがいている。
「げひゃひゃひゃ!!! 面白いなホント!!! 仮面外すとこの変わりようだもんな!!!」
「……あの……」
「何だいお嬢さん!?」
「もう止めた方がいいと思います。大人げない……いえ、美しくないです」
「……ッ!?」
「よじ!」
エリスの一言に雷に打たれたような顔になるストラム。その隙に男は仮面を奪い去り顔に着ける。
「ふぅ……ん? 魔力の調子がおかしいな?」
「あ、さっき口に咥えて持って行ったからそれかも゛っ」
仮面の男の拳がストラムの鳩尾に直撃する。
「何でそんなことするのかなぁ君はなぁ!!! また魔力を込め直さないといけないじゃないか!!! 本当に、本当に君は何故こんな残念な人間になってしまったんだ……!!!」
「……え? 何の話?」
「何でもない!!! うむ、仮面も取り戻せたし切り替えるとしよう。イリーナが連れて来た生徒の皆はこっちにおいで。城下町の子供達は向こうに行って」
顔面を全て覆い隠す白い仮面。男はそれを着けると、打って変わって凛々しい声で話しかける。心なしか体格も健康そうに見えた。
「みなは私のことを氷賢者と呼ぶ。王国に仕えて政に意見を出す、有識者のような扱いを受けているんだ。ここで会ったのも何かの縁、よろしくお願い致そう」
氷賢者は胸に手を当て頭を下げる。
「スゲえや、またしても偉い人直々のお出迎えだ」
「えらい人ではあるんだけどねー。仮面取るとさっきみたいになって、なーんにもできないの」
「だから面白いんだよねー!」
「子供達よ、余計なことを言うのは止めてもらえないか。それに君達には重要な仕事があったはずだ」
「仕事……あっ!」
一番体格が大きい子供が頭に手を当て、思い出したような顔になる。
「そうだよ! 賢者さま見かけて、ついでに姉ちゃん来たって聞いたから嬉しくなっちゃったけど、おれ達買いも……っ!」
「しーっ! お姉ちゃん目の前にいるでしょ! 言っちゃだめ!」
「そ……そういうことだから! じゃあね!」
慌てた態度を露骨に見せながら、子供達は退散していった。
「買い物……何の買い物だろう……?」
「多分私達の歓迎パーティでもするんだろうね。でもこれは聞かなかったことにして、皆精一杯喜んだ振りをしようね」
「もちろんだよっ」
子供達とリーシャの関係を予想しながら、エリスは頷く。そこに氷賢者が再び話を持ちかけた。
「さて、イリーナから大体の話は聞いている。この後は城下町を見て回るんだったな。何処か行き先の希望はあるか?」
「はーい! 雪華楽舞団の舞台を見て温泉に入りたいでーす!」
「ふむ、雪華楽舞団か。では本日の公演のうち、一番近い物で席を取ってもらっておこう。人数は六人分でいいか?」
「六人分でいいよね?」
「あー……」
「……ふむ」
「……うーん」
提案を受けたにも関わらず、アーサー、イザーク、ルシュドの男子三人組は難しそうな表情をしていた。
「ボク、ぶっちゃけ演舞とかにときめくタチじゃないからなあ……」
「……オレも、まあそうだな」
「おれ、動き回る、したい」
「成程。そういうことなら、騎士団宿舎に行ってみるのはどうだ?」
氷賢者の提案に男子達は目を丸くする。
「騎士団宿舎って……行っていいんすか、そんな所」
「ここの騎士団も結構開かれていてな。訓練場に行けば気軽に稽古をつけてもらえるんだ」
「……稽古? つまり、訓練?」
「まあそうだな。武術の授業の勉強になるんじゃないか?」
「ならば決まりだ。オレはそちらに向かう」
「おれも。訓練、する」
「……見学だけってのはありすか?」
「勿論。第一見て学べることもあるだろうしな」
「んじゃボクもそっちで~」
「ならば女子だけでめいいっぱい楽しんでこよう! いえーい!」
「いえーい!」
「い、いえーい……?」
エリス、カタリナ、リーシャの女子三人組はそれぞれハイタッチを交わす。
「よし、話は纏まったな。男子が騎士団宿舎で女子が雪華楽舞団の舞台。ううむ、見事に分かれたな」
「十代の若者なんてこんなものですよ。次に先程上がった温泉は……これはムスペル大浴場でいいな」
「銅貨一枚で入れるお手軽温泉だ。非常に庶民的だが、学生の小旅行なんだ。ここは背伸びせずにありのままを体験するのがいいだろう」
「それにイズエルトの温泉はどれもレベル高いしね!」
リーシャはその場で一回転する。誰よりもこの旅行を楽しんでいるのは恐らく彼女だろう。
「じゃあこっちの舞台が終わり次第、合流して大浴場に向かうってことで!」
「そうだな。では早速移動しようか。私は女子の三人に付き添うとしよう」
「では私は男子の方に」
「あ、女子の方は美しい僕も一緒に行くよ! 暇だし!」
「うおっ、死んでたかと思った」
「死んでたは酷くね!? あのねえ、僕我慢してたんだよ? ここは口を挟む場所じゃないって察して自己主張を我慢してたんだよ!? 偉いでしょ!!! 美徳でしょ!!!」
ストラムは胸を大きく張る。先程まで掲げていたバイオリンは、いつの間にか背中にしまわれていた。
「……何なのコイツ。アーサーは知り合いだったみたいだけど」
「知り合いと言っても、不慮の事故の様なものだ。こいつのことはナルシストバカと呼んでやれ」
「わかった。よろしく、です。ナルシスト、バカ、さん」
「ちょっとー!? 悪口布教すんのやめてくれるー!?」
こうして一泊二日の小旅行、長くも短くもあるイズエルト観光の幕が上がる。
0
あなたにおすすめの小説
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
『異界酒場 ルーナ』
みぎみみ
ファンタジー
東京・渋谷から少し外れた路地の奥、築五十年のビルの地下一階。看板は小さく、知っている人しか辿り着けない。
カウンター八席、テーブル二卓。深夜零時から夜明けまでの営業。
ルーカス(本名:ルカシュ・ヴァルド)
異世界の小さな王国の第三王子として生まれたが、王位継承争いに巻き込まれ、魔法陣の暴走によって現代日本に転移してきた。外見は三十代前半の白人男性。銀灰色の髪と、光の加減で金色にも見える瞳を持つ。日本語は「声の魔法」で習得した。
他人の「最も深い渇望」が視える力を持つ——それは意識的な欲求ではなく、本人すら気づいていない魂の底の叫び。酒や料理を通じてその渇望に応える。
自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
無能と追放された結界師、三十路のおっさんですが17歳の辺境伯令嬢と婚約して人生逆転します
みかん畑
ファンタジー
無能と蔑まれ、Aランクパーティを追放された結界師フィン。
行き場を失った彼を拾ったのは、辺境伯の娘リリカだった。
国土結界の恩恵が届かない辺境で、フィンの結界は本当の価値を発揮していく。
領地再建、政治の駆け引き、そして少女のまっすぐな想い。
これは無能と呼ばれた男が、辺境で居場所を見つけ、やがて年の差婚へと至る物語。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
手折れ花
アヒル
恋愛
王族から見捨てられ、とある村で暮らしていた第四王女だったが……。
侵略した王子×亡国の平凡王女のお話。
※注意※
自サイトでボーイズラブとして書いたお話を主人公を女の子にして加筆したものです。
(2020.12.31)
閲覧、お気に入りなど、ありがとうございます。完結していますが、続きを書こうか迷っています。
ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます
黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。
だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ!
捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……?
無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる