ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期

第114話 温泉

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 案内されたムスペル大浴場は、城下町の中央通り沿いにある巨大な木造の建物。松明による照明が煌々と照らし、木の温もりと相まって包み込むような雰囲気を醸し出している。




「やっほい!! 美しいこの僕は君達より先んじて温泉に入ってきたぜ!!」
「道理で後ろになかったわけだ、ちゃっかりと抜けるなんて、うーんちゃっかりしている」


 エリス達は大浴場のロビーで、首にタオルをかけて濡れた髪のストラムとばったり遭遇する。


「まあこの死人のような髪の男はさておいて。皆はもう入っておいで」
「いやさておかないで賢者様よ!? これは温泉に入って濡れただけだから!! 僕乾燥機は使わないタイプだからさ!!」
「では私と氷賢者殿はここで待っているとしよう。気を遣わずゆっくりしてくるといい」
「はーい」
「華麗にスルーですかイリーナさん!?」


 生徒達は料金を支払い終え、それぞれ浴場に向かっていく。見届けたイリーナはストラムに切り出す。


「ところでストラム殿」
「何だい? この僕に頼み事かい?」
「まあ頼み事ではあるな。もうじき日が暮れる。そうしたら領主館から外には出ないでほしい」
「え゛っ」

「最近何かと物騒なんだ。その所をわかってもらいたい」
「いやーでも酒場とかって夜に開くじゃん……? そこに行けなくなったら、僕の武勇伝を布教するチャンスがさぁ……」
「領主館に泊めてもらう代わりにイリーナの言うことを聞く、そういう条件だったはずだ。それを守れないとなれば、君は魔物が絶賛増殖中のブルニア雪原に放り出されることになるが」
「ハイワカリマシタスミマセンナニモシマセン」







 アーサー、イザーク、ルシュドの男子三人。彼らは青い暖簾をくぐって更衣室に入る。数人用の鏡と椅子、涼風を起こす魔法具と体重計。加えて着替えている地元の住民。アーサーをその全てを興味深そうに見ていた。



「……」
「ワンワン!」
「おっとアーサー、ナイトメアは仕舞うんだぞ。かなり混むって言ってたからな、スペースを圧迫してしまうぜ」
「そうか」


 指でカヴァスに指示をする。


「にしても珍しいな。アーサーが目を白黒させるなんて」
「……」

「おれ、わかる。風呂、大きい、初めて。こうなる」
「え? アーサー大浴場入ったことないの? 塔にあるだろ?」
「……」
「まあいいや。それは置いといてさっさと脱ごうぜ」



 四角に区切られた着替えを入れる棚。それの適当に空いている三箇所を見繕い、衣服を脱ぎ出す。



「……ほーん」
「……何だ」

「いやぁ……結構サイズあるなって」
「……はぁ」

「え? それも自覚ないの? マジで半年間シャワー生活してたの?」
「……」


 離れには浴槽とシャワー両方がありどちらも使用可能。それでもアーサーはシャワーしか使ったことがない。浴槽に水を溜めておくのは想像以上に手間だと彼は学習している。


「おれ、終わった。風呂、楽しみ」
「うっし、んじゃ行こうぜ」
「ああ」


 アーサーは浴場に向かおうとするが、イザークに肩を掴まれ引き留められる。


「ちょっと待て! 何そのまま行こうとしてんだよ!」
「悪いか」
「アーサーは良くてもボク達が困る! ほら、受付でタオル貸してもらっただろ! それで股間を隠すんだよ!」
「成程」


 イザークはタオルを投げてよこし、それをアーサーは受け取る。


「……こりゃあやばいぜ。一から叩き込まないといけないようだなぁルシュドさんよぉ……」
「おれ、イザーク、教える。しっかり、風呂、気持ちいい」
「……はぁ」



 三人はそのまま浴場の扉を開け放つ。




 浴場は石造りになっており、五メートル四方の浴槽に大勢の男性が浸かっている。子供から老人、人間から獣人まで。個性豊かな形の頭が水面から覗いていた。



 アーサーはそこに向かっていくが、イザークに今度は腕を掴まれて右側に引っ張られる。



「……温泉はあれじゃないのか」
「あれだけどさ、まずは準備しないといけないんだよ!」
「準備?」


 そう言って連れてこられたのは、湯がかけ流しにされている区画。極小の滝の前には木の椅子が置かれ、既に数人の男性が滝に打たれながら身体を洗っている。


「いきなり熱い温泉に入るとさ、心臓がびっくりして最悪死ぬんだ。だから先ずはいい塩梅の温度で慣らすってわけさ」
「髪、身体、洗う、一緒。えっと、効率、いい」
「そーゆーこと! さっ、洗おうぜ!」


 イザークとルシュドは隣同士に座り、目の前に置いてあった桶を手に取る。


「あ~。あっつ~い。でも気持ちいいんじゃ~」
「……ふぅ。落ち着く」


 ぼさついた頭も、ツンツン頭も、等しく湯に濡れていく。


「……」
「……おい? まさか身体の洗い方もわからないなんて冗談言うなよ?」
「……それはわかる」
「じゃあ早くした方がいいぜ」
「ああ」
「ちゃんと象徴シンボルも丁寧に洗いなさいよ~っと……」




 十分程して、三人は身体の垢を綺麗に洗い流した。お湯を被ったので程よく身体も温まってくる。




「よし洗ったな。じゃあいよいよ温泉に入るぞ」
「……人、たくさん」
「そうだなあ……」


 三人は改めて浴場を見回す。正方形の浴槽には仕切りや手すり、座れる段差が設置されており、中央までしっかりと入れる作りになっている。そこまで面積を確保しているにも関わらず、人で溢れ返っている。


「……おい見ろよ。あっちの浴槽空いてるぜ」


 そう言ってイザークは、見ていた浴槽の左側を指す。大理石でできたその浴槽は、人が入っていないにも関わらず中身を溢れ出させている。


「ラッキーラッキー! ボクらで一人占めしようー……



 ……ぜぇーっ!?」



 イザークは右足首まで水面に入れた途端、飛び上がって戻ってきた。



「冷たっ、冷たぁ!? 何だよこれ!?」
「……水風呂?」
「そうだ、これ水風呂だ! 何で温泉というあったまる場所に水風呂なんて置いてあるの!? 頭沸いてんじゃないの!?」
「……」


 アーサーは水風呂の隣にある木製の扉に目を遣る。そしてイザークが滝から湯を足にかけて落ち着きを取り戻す頃に、二つの因果関係を推測した。


「……恐らくだが、あの木の扉の先に行った後に水風呂に入ると思われる」
「あっそう。でも今は暑熱いお湯に浸かりたいんだけどなー」
「ならばもう選択肢は一つだけだな」
「ああうん、もう入ろうぜ……?」



 三人はとぼとぼと浴槽に向かっていった。約一名は若干落ち込んだ様子で。



 その後何とか三人は入れるだけのスペースを見つけ、次々に入っていく。するとへこんでいた気分も爆上がりである。



「くぅー……!」
「はぁ……」
「……」

「おいアーサー、お前も声出しながら入れよ。そうすると疲労回復にいいって話だぜ」
「……あー」


 感情のない声を出して入るアーサーに、イザークは頭を抱える。


「オマエなあ……温泉初心者みたいな動きすんなよ」
「……」
「でも、覚えた。次、やる」
「ん、それもそうだな……あ、タオルはこうすんだ」
「むっ……」


 イザークはアーサーのタオルを奪い取り、四つ折りにして頭に乗せる。


「こうして頭に乗せて浸かるのが醍醐味ってもんよ!」
「……乗せていない者が大半だが」
「ありゃあ慣れちまった地元民だよ。オマエは特に初心者だからこれでいいの!」
「……はぁ」


 イザークとルシュドもタオルを頭に乗せながら浴槽に入る。そして中央には行かずに、三人揃って一番端の段差に腰かけた。


「……」
「どうだ? 温泉気持ち良いだろ?」
「……そうだな……」



 ゆっくりと目を瞑る。視覚に回されていた身体の神経が他に回されていく。

 それは温められた血が身体中を巡っていくのを、じんわりと感じさせてくれた。

 温泉の温度は体温以上、熱さを通り越して段々と痛みに変わっていく温度。しかしそれでいるにも関わらず心地良い。



「……賞賛に値する」
「またまたー、難しいこと言っちゃって。そんなだからルシュドも完全にオネムになっちゃってるぞ」
「……んごっ。おれ、呼ばれた?」

「何でもねえよ。まあ今はよかったけど、寝落ちされてしまったらこっちが困るから、するなよ?」
「……気、つける……ふー……」
「ははは……」
「……ふっ」







「ふぅー……」


 一方の女子風呂。一足先に身体を洗い終えたエリスは、ゆっくりと身体を浴槽に入れていく。


「……はぁ……」


 男子風呂同様、浴槽にはたくさんの女性が入っている。腰を折りながら浸かる老婆、泳ごうとする子供を止める母親、思いっきり身体を伸ばす獣人など、実に多様だ。


「……えへへっ」


 大半の人がしているように、手に合ったタオルを四つ折りにして頭に乗せてみる。外が見えるように張られたガラスに映る自分の姿を受けて、エリスはまた一つ満足した。




「よっと~。隣入るね~」
「はーい」
「あ、熱い……」
「だいじょーぶ、慣れるから! さあさあ!」
「あっ、ああ……」


 リーシャに引っ張られて、カタリナは一気に浴槽に入る。二人はエリスの隣に座り一息つく。そこから胸まで浸かれる程度の場所まで移動し、段差に座った。


「それにしても、色んな種族の人がいるなあ……ウェンディゴの人もいるけど、氷属性が強くて苦手だ~とかじゃないの?」
「何でもねー、温泉に入ると血があったかくなるでしょ? それが身体を巡る感覚が良くて、結構気持ちいいみたい」
「へぇ、意外。異種族って奥深いなあ……」
「わかるわその気持ちぃ……」



 リーシャはエリスの方に身体を向ける。



 すると、彼女の顔が突然硬直した。



「……」
「ん? どうしたのリーシャ?」
「え……? いや何も?」
「もしかして、のぼせた……?」
「いやいや、本当に大丈夫だよ!?」


 リーシャは大慌てで手を振るが、依然としてぎこちなさは残っている。現に彼女の視線はエリスの胸元一点に向けられている。


「はぁ……やっぱりお風呂はお湯に身体を沈めるに限るよね……シャワーじゃどうにも……」
「ん? こんな感じのお風呂なら塔にもあるでしょ。入ったことないの?」
「……諸事情ありまして。わたし、シャワーしか使ったことないんです……」

「え、そうなの? でもシャワールームにも浴槽あるよね……?」
「……水溜めて沸かすのめんどくさい」
「あ~……」


 エリスは腕を組んで前方に伸ばす。顔にも血が巡り、果実が熟していくように真っ赤になっている。


「……ねえエリス?」
「ん、なにー?」
「エリスって……今何歳?」
「……今ここで訊くこと?」
「ま、まあ……嫌なら別にいいけど……」

「ううん、拒否する理由もないし。三月二十三日生まれで、まだ十二歳だよ」
「へえ、十二……」
「いわゆる早生まれってやつだよ」


 エリスは段差を一段昇り、足の間に両手を挟んで座り直す。


 胸元のが露わになり、更に両側から腕で押されて存在を強調させられる。


「……も一個訊いてもいい?」
「なーに?」
「エリスって……学園に来る前は、お風呂どんな感じだった?」

「んっとね、樽風呂に近い感じだったかな。大人一人か子供と大人一人ずつの。まあ何というか、狭かったよ」
「……それはつまり、誰かと入る機会がそんなになかったと?」
「んー、まあそうだね……もしかしたら、お母さんぐらいしか一緒に入ったことないかも?」
「……そっかー……」


 その間にカタリナも一段昇り、エリスの隣に座った。


 エリス程ではないが彼女の果実も露わになり、リーシャはそちらにも目を奪われる。


「リーシャ……あたしも質問いいかな?」
「えっ!? な、何かなカタリナさん……?」
「さ、さん? えっと……あの木の扉と大理石の浴槽。あれ、気になって……」
「あっ温泉の話!? カラダの話じゃなくて!?」
「ふえっ!?」

「あっごめんね!!! こっちの話だよ!!! えっとね、木の扉は蒸し風呂! 中は物凄く熱い蒸気で満たされていて、気を付けないと失神するほどには熱い! そうして熱くなった身体を大理石の水風呂で冷やす! すると血液の流れが活発になるんだ!」
「へー。温泉ってお湯に浸かるだけじゃないんだね」
「聞いた話だとそっちの方があったまるらしいよ~……でも怖くて入れないや……」


 リーシャも段差を昇り上半身を出して座る。


「……いいもん。揺れる物が無い方が曲芸体操やりやすいもん」
「ん、どうしたの急に?」
「何でもないで~す……」
「いや、絶対何かあったでしょ……」
「あったとしてもこっちの話で~す……」


 そこから浴場を出るまで、リーシャは丸みの一切ない自身の果実を恨みがましく見つめていたのだった。
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