117 / 247
第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期
第114話 温泉
しおりを挟む
案内されたムスペル大浴場は、城下町の中央通り沿いにある巨大な木造の建物。松明による照明が煌々と照らし、木の温もりと相まって包み込むような雰囲気を醸し出している。
「やっほい!! 美しいこの僕は君達より先んじて温泉に入ってきたぜ!!」
「道理で後ろになかったわけだ、ちゃっかりと抜けるなんて、うーんちゃっかりしている」
エリス達は大浴場のロビーで、首にタオルをかけて濡れた髪のストラムとばったり遭遇する。
「まあこの死人のような髪の男はさておいて。皆はもう入っておいで」
「いやさておかないで賢者様よ!? これは温泉に入って濡れただけだから!! 僕乾燥機は使わないタイプだからさ!!」
「では私と氷賢者殿はここで待っているとしよう。気を遣わずゆっくりしてくるといい」
「はーい」
「華麗にスルーですかイリーナさん!?」
生徒達は料金を支払い終え、それぞれ浴場に向かっていく。見届けたイリーナはストラムに切り出す。
「ところでストラム殿」
「何だい? この僕に頼み事かい?」
「まあ頼み事ではあるな。もうじき日が暮れる。そうしたら領主館から外には出ないでほしい」
「え゛っ」
「最近何かと物騒なんだ。その所をわかってもらいたい」
「いやーでも酒場とかって夜に開くじゃん……? そこに行けなくなったら、僕の武勇伝を布教するチャンスがさぁ……」
「領主館に泊めてもらう代わりにイリーナの言うことを聞く、そういう条件だったはずだ。それを守れないとなれば、君は魔物が絶賛増殖中のブルニア雪原に放り出されることになるが」
「ハイワカリマシタスミマセンナニモシマセン」
アーサー、イザーク、ルシュドの男子三人。彼らは青い暖簾をくぐって更衣室に入る。数人用の鏡と椅子、涼風を起こす魔法具と体重計。加えて着替えている地元の住民。アーサーをその全てを興味深そうに見ていた。
「……」
「ワンワン!」
「おっとアーサー、ナイトメアは仕舞うんだぞ。かなり混むって言ってたからな、スペースを圧迫してしまうぜ」
「そうか」
指でカヴァスに指示をする。
「にしても珍しいな。アーサーが目を白黒させるなんて」
「……」
「おれ、わかる。風呂、大きい、初めて。こうなる」
「え? アーサー大浴場入ったことないの? 塔にあるだろ?」
「……」
「まあいいや。それは置いといてさっさと脱ごうぜ」
四角に区切られた着替えを入れる棚。それの適当に空いている三箇所を見繕い、衣服を脱ぎ出す。
「……ほーん」
「……何だ」
「いやぁ……結構サイズあるなって」
「……はぁ」
「え? それも自覚ないの? マジで半年間シャワー生活してたの?」
「……」
離れには浴槽とシャワー両方がありどちらも使用可能。それでもアーサーはシャワーしか使ったことがない。浴槽に水を溜めておくのは想像以上に手間だと彼は学習している。
「おれ、終わった。風呂、楽しみ」
「うっし、んじゃ行こうぜ」
「ああ」
アーサーは浴場に向かおうとするが、イザークに肩を掴まれ引き留められる。
「ちょっと待て! 何そのまま行こうとしてんだよ!」
「悪いか」
「アーサーは良くてもボク達が困る! ほら、受付でタオル貸してもらっただろ! それで股間を隠すんだよ!」
「成程」
イザークはタオルを投げてよこし、それをアーサーは受け取る。
「……こりゃあやばいぜ。一から叩き込まないといけないようだなぁルシュドさんよぉ……」
「おれ、イザーク、教える。しっかり、風呂、気持ちいい」
「……はぁ」
三人はそのまま浴場の扉を開け放つ。
浴場は石造りになっており、五メートル四方の浴槽に大勢の男性が浸かっている。子供から老人、人間から獣人まで。個性豊かな形の頭が水面から覗いていた。
アーサーはそこに向かっていくが、イザークに今度は腕を掴まれて右側に引っ張られる。
「……温泉はあれじゃないのか」
「あれだけどさ、まずは準備しないといけないんだよ!」
「準備?」
そう言って連れてこられたのは、湯がかけ流しにされている区画。極小の滝の前には木の椅子が置かれ、既に数人の男性が滝に打たれながら身体を洗っている。
「いきなり熱い温泉に入るとさ、心臓がびっくりして最悪死ぬんだ。だから先ずはいい塩梅の温度で慣らすってわけさ」
「髪、身体、洗う、一緒。えっと、効率、いい」
「そーゆーこと! さっ、洗おうぜ!」
イザークとルシュドは隣同士に座り、目の前に置いてあった桶を手に取る。
「あ~。あっつ~い。でも気持ちいいんじゃ~」
「……ふぅ。落ち着く」
ぼさついた頭も、ツンツン頭も、等しく湯に濡れていく。
「……」
「……おい? まさか身体の洗い方もわからないなんて冗談言うなよ?」
「……それはわかる」
「じゃあ早くした方がいいぜ」
「ああ」
「ちゃんと象徴も丁寧に洗いなさいよ~っと……」
十分程して、三人は身体の垢を綺麗に洗い流した。お湯を被ったので程よく身体も温まってくる。
「よし洗ったな。じゃあいよいよ温泉に入るぞ」
「……人、たくさん」
「そうだなあ……」
三人は改めて浴場を見回す。正方形の浴槽には仕切りや手すり、座れる段差が設置されており、中央までしっかりと入れる作りになっている。そこまで面積を確保しているにも関わらず、人で溢れ返っている。
「……おい見ろよ。あっちの浴槽空いてるぜ」
そう言ってイザークは、見ていた浴槽の左側を指す。大理石でできたその浴槽は、人が入っていないにも関わらず中身を溢れ出させている。
「ラッキーラッキー! ボクらで一人占めしようー……
……ぜぇーっ!?」
イザークは右足首まで水面に入れた途端、飛び上がって戻ってきた。
「冷たっ、冷たぁ!? 何だよこれ!?」
「……水風呂?」
「そうだ、これ水風呂だ! 何で温泉というあったまる場所に水風呂なんて置いてあるの!? 頭沸いてんじゃないの!?」
「……」
アーサーは水風呂の隣にある木製の扉に目を遣る。そしてイザークが滝から湯を足にかけて落ち着きを取り戻す頃に、二つの因果関係を推測した。
「……恐らくだが、あの木の扉の先に行った後に水風呂に入ると思われる」
「あっそう。でも今は暑熱いお湯に浸かりたいんだけどなー」
「ならばもう選択肢は一つだけだな」
「ああうん、もう入ろうぜ……?」
三人はとぼとぼと浴槽に向かっていった。約一名は若干落ち込んだ様子で。
その後何とか三人は入れるだけのスペースを見つけ、次々に入っていく。するとへこんでいた気分も爆上がりである。
「くぅー……!」
「はぁ……」
「……」
「おいアーサー、お前も声出しながら入れよ。そうすると疲労回復にいいって話だぜ」
「……あー」
感情のない声を出して入るアーサーに、イザークは頭を抱える。
「オマエなあ……温泉初心者みたいな動きすんなよ」
「……」
「でも、覚えた。次、やる」
「ん、それもそうだな……あ、タオルはこうすんだ」
「むっ……」
イザークはアーサーのタオルを奪い取り、四つ折りにして頭に乗せる。
「こうして頭に乗せて浸かるのが醍醐味ってもんよ!」
「……乗せていない者が大半だが」
「ありゃあ慣れちまった地元民だよ。オマエは特に初心者だからこれでいいの!」
「……はぁ」
イザークとルシュドもタオルを頭に乗せながら浴槽に入る。そして中央には行かずに、三人揃って一番端の段差に腰かけた。
「……」
「どうだ? 温泉気持ち良いだろ?」
「……そうだな……」
ゆっくりと目を瞑る。視覚に回されていた身体の神経が他に回されていく。
それは温められた血が身体中を巡っていくのを、じんわりと感じさせてくれた。
温泉の温度は体温以上、熱さを通り越して段々と痛みに変わっていく温度。しかしそれでいるにも関わらず心地良い。
「……賞賛に値する」
「またまたー、難しいこと言っちゃって。そんなだからルシュドも完全にオネムになっちゃってるぞ」
「……んごっ。おれ、呼ばれた?」
「何でもねえよ。まあ今はよかったけど、寝落ちされてしまったらこっちが困るから、するなよ?」
「……気、つける……ふー……」
「ははは……」
「……ふっ」
「ふぅー……」
一方の女子風呂。一足先に身体を洗い終えたエリスは、ゆっくりと身体を浴槽に入れていく。
「……はぁ……」
男子風呂同様、浴槽にはたくさんの女性が入っている。腰を折りながら浸かる老婆、泳ごうとする子供を止める母親、思いっきり身体を伸ばす獣人など、実に多様だ。
「……えへへっ」
大半の人がしているように、手に合ったタオルを四つ折りにして頭に乗せてみる。外が見えるように張られたガラスに映る自分の姿を受けて、エリスはまた一つ満足した。
「よっと~。隣入るね~」
「はーい」
「あ、熱い……」
「だいじょーぶ、慣れるから! さあさあ!」
「あっ、ああ……」
リーシャに引っ張られて、カタリナは一気に浴槽に入る。二人はエリスの隣に座り一息つく。そこから胸まで浸かれる程度の場所まで移動し、段差に座った。
「それにしても、色んな種族の人がいるなあ……ウェンディゴの人もいるけど、氷属性が強くて苦手だ~とかじゃないの?」
「何でもねー、温泉に入ると血があったかくなるでしょ? それが身体を巡る感覚が良くて、結構気持ちいいみたい」
「へぇ、意外。異種族って奥深いなあ……」
「わかるわその気持ちぃ……」
リーシャはエリスの方に身体を向ける。
すると、彼女の顔が突然硬直した。
「……」
「ん? どうしたのリーシャ?」
「え……? いや何も?」
「もしかして、のぼせた……?」
「いやいや、本当に大丈夫だよ!?」
リーシャは大慌てで手を振るが、依然としてぎこちなさは残っている。現に彼女の視線はエリスの胸元一点に向けられている。
「はぁ……やっぱりお風呂はお湯に身体を沈めるに限るよね……シャワーじゃどうにも……」
「ん? こんな感じのお風呂なら塔にもあるでしょ。入ったことないの?」
「……諸事情ありまして。わたし、シャワーしか使ったことないんです……」
「え、そうなの? でもシャワールームにも浴槽あるよね……?」
「……水溜めて沸かすのめんどくさい」
「あ~……」
エリスは腕を組んで前方に伸ばす。顔にも血が巡り、果実が熟していくように真っ赤になっている。
「……ねえエリス?」
「ん、なにー?」
「エリスって……今何歳?」
「……今ここで訊くこと?」
「ま、まあ……嫌なら別にいいけど……」
「ううん、拒否する理由もないし。三月二十三日生まれで、まだ十二歳だよ」
「へえ、十二……」
「いわゆる早生まれってやつだよ」
エリスは段差を一段昇り、足の間に両手を挟んで座り直す。
胸元の果実が露わになり、更に両側から腕で押されて存在を強調させられる。
「……も一個訊いてもいい?」
「なーに?」
「エリスって……学園に来る前は、お風呂どんな感じだった?」
「んっとね、樽風呂に近い感じだったかな。大人一人か子供と大人一人ずつの。まあ何というか、狭かったよ」
「……それはつまり、誰かと入る機会がそんなになかったと?」
「んー、まあそうだね……もしかしたら、お母さんぐらいしか一緒に入ったことないかも?」
「……そっかー……」
その間にカタリナも一段昇り、エリスの隣に座った。
エリス程ではないが彼女の果実も露わになり、リーシャはそちらにも目を奪われる。
「リーシャ……あたしも質問いいかな?」
「えっ!? な、何かなカタリナさん……?」
「さ、さん? えっと……あの木の扉と大理石の浴槽。あれ、気になって……」
「あっ温泉の話!? カラダの話じゃなくて!?」
「ふえっ!?」
「あっごめんね!!! こっちの話だよ!!! えっとね、木の扉は蒸し風呂! 中は物凄く熱い蒸気で満たされていて、気を付けないと失神するほどには熱い! そうして熱くなった身体を大理石の水風呂で冷やす! すると血液の流れが活発になるんだ!」
「へー。温泉ってお湯に浸かるだけじゃないんだね」
「聞いた話だとそっちの方があったまるらしいよ~……でも怖くて入れないや……」
リーシャも段差を昇り上半身を出して座る。
「……いいもん。揺れる物が無い方が曲芸体操やりやすいもん」
「ん、どうしたの急に?」
「何でもないで~す……」
「いや、絶対何かあったでしょ……」
「あったとしてもこっちの話で~す……」
そこから浴場を出るまで、リーシャは丸みの一切ない自身の果実を恨みがましく見つめていたのだった。
「やっほい!! 美しいこの僕は君達より先んじて温泉に入ってきたぜ!!」
「道理で後ろになかったわけだ、ちゃっかりと抜けるなんて、うーんちゃっかりしている」
エリス達は大浴場のロビーで、首にタオルをかけて濡れた髪のストラムとばったり遭遇する。
「まあこの死人のような髪の男はさておいて。皆はもう入っておいで」
「いやさておかないで賢者様よ!? これは温泉に入って濡れただけだから!! 僕乾燥機は使わないタイプだからさ!!」
「では私と氷賢者殿はここで待っているとしよう。気を遣わずゆっくりしてくるといい」
「はーい」
「華麗にスルーですかイリーナさん!?」
生徒達は料金を支払い終え、それぞれ浴場に向かっていく。見届けたイリーナはストラムに切り出す。
「ところでストラム殿」
「何だい? この僕に頼み事かい?」
「まあ頼み事ではあるな。もうじき日が暮れる。そうしたら領主館から外には出ないでほしい」
「え゛っ」
「最近何かと物騒なんだ。その所をわかってもらいたい」
「いやーでも酒場とかって夜に開くじゃん……? そこに行けなくなったら、僕の武勇伝を布教するチャンスがさぁ……」
「領主館に泊めてもらう代わりにイリーナの言うことを聞く、そういう条件だったはずだ。それを守れないとなれば、君は魔物が絶賛増殖中のブルニア雪原に放り出されることになるが」
「ハイワカリマシタスミマセンナニモシマセン」
アーサー、イザーク、ルシュドの男子三人。彼らは青い暖簾をくぐって更衣室に入る。数人用の鏡と椅子、涼風を起こす魔法具と体重計。加えて着替えている地元の住民。アーサーをその全てを興味深そうに見ていた。
「……」
「ワンワン!」
「おっとアーサー、ナイトメアは仕舞うんだぞ。かなり混むって言ってたからな、スペースを圧迫してしまうぜ」
「そうか」
指でカヴァスに指示をする。
「にしても珍しいな。アーサーが目を白黒させるなんて」
「……」
「おれ、わかる。風呂、大きい、初めて。こうなる」
「え? アーサー大浴場入ったことないの? 塔にあるだろ?」
「……」
「まあいいや。それは置いといてさっさと脱ごうぜ」
四角に区切られた着替えを入れる棚。それの適当に空いている三箇所を見繕い、衣服を脱ぎ出す。
「……ほーん」
「……何だ」
「いやぁ……結構サイズあるなって」
「……はぁ」
「え? それも自覚ないの? マジで半年間シャワー生活してたの?」
「……」
離れには浴槽とシャワー両方がありどちらも使用可能。それでもアーサーはシャワーしか使ったことがない。浴槽に水を溜めておくのは想像以上に手間だと彼は学習している。
「おれ、終わった。風呂、楽しみ」
「うっし、んじゃ行こうぜ」
「ああ」
アーサーは浴場に向かおうとするが、イザークに肩を掴まれ引き留められる。
「ちょっと待て! 何そのまま行こうとしてんだよ!」
「悪いか」
「アーサーは良くてもボク達が困る! ほら、受付でタオル貸してもらっただろ! それで股間を隠すんだよ!」
「成程」
イザークはタオルを投げてよこし、それをアーサーは受け取る。
「……こりゃあやばいぜ。一から叩き込まないといけないようだなぁルシュドさんよぉ……」
「おれ、イザーク、教える。しっかり、風呂、気持ちいい」
「……はぁ」
三人はそのまま浴場の扉を開け放つ。
浴場は石造りになっており、五メートル四方の浴槽に大勢の男性が浸かっている。子供から老人、人間から獣人まで。個性豊かな形の頭が水面から覗いていた。
アーサーはそこに向かっていくが、イザークに今度は腕を掴まれて右側に引っ張られる。
「……温泉はあれじゃないのか」
「あれだけどさ、まずは準備しないといけないんだよ!」
「準備?」
そう言って連れてこられたのは、湯がかけ流しにされている区画。極小の滝の前には木の椅子が置かれ、既に数人の男性が滝に打たれながら身体を洗っている。
「いきなり熱い温泉に入るとさ、心臓がびっくりして最悪死ぬんだ。だから先ずはいい塩梅の温度で慣らすってわけさ」
「髪、身体、洗う、一緒。えっと、効率、いい」
「そーゆーこと! さっ、洗おうぜ!」
イザークとルシュドは隣同士に座り、目の前に置いてあった桶を手に取る。
「あ~。あっつ~い。でも気持ちいいんじゃ~」
「……ふぅ。落ち着く」
ぼさついた頭も、ツンツン頭も、等しく湯に濡れていく。
「……」
「……おい? まさか身体の洗い方もわからないなんて冗談言うなよ?」
「……それはわかる」
「じゃあ早くした方がいいぜ」
「ああ」
「ちゃんと象徴も丁寧に洗いなさいよ~っと……」
十分程して、三人は身体の垢を綺麗に洗い流した。お湯を被ったので程よく身体も温まってくる。
「よし洗ったな。じゃあいよいよ温泉に入るぞ」
「……人、たくさん」
「そうだなあ……」
三人は改めて浴場を見回す。正方形の浴槽には仕切りや手すり、座れる段差が設置されており、中央までしっかりと入れる作りになっている。そこまで面積を確保しているにも関わらず、人で溢れ返っている。
「……おい見ろよ。あっちの浴槽空いてるぜ」
そう言ってイザークは、見ていた浴槽の左側を指す。大理石でできたその浴槽は、人が入っていないにも関わらず中身を溢れ出させている。
「ラッキーラッキー! ボクらで一人占めしようー……
……ぜぇーっ!?」
イザークは右足首まで水面に入れた途端、飛び上がって戻ってきた。
「冷たっ、冷たぁ!? 何だよこれ!?」
「……水風呂?」
「そうだ、これ水風呂だ! 何で温泉というあったまる場所に水風呂なんて置いてあるの!? 頭沸いてんじゃないの!?」
「……」
アーサーは水風呂の隣にある木製の扉に目を遣る。そしてイザークが滝から湯を足にかけて落ち着きを取り戻す頃に、二つの因果関係を推測した。
「……恐らくだが、あの木の扉の先に行った後に水風呂に入ると思われる」
「あっそう。でも今は暑熱いお湯に浸かりたいんだけどなー」
「ならばもう選択肢は一つだけだな」
「ああうん、もう入ろうぜ……?」
三人はとぼとぼと浴槽に向かっていった。約一名は若干落ち込んだ様子で。
その後何とか三人は入れるだけのスペースを見つけ、次々に入っていく。するとへこんでいた気分も爆上がりである。
「くぅー……!」
「はぁ……」
「……」
「おいアーサー、お前も声出しながら入れよ。そうすると疲労回復にいいって話だぜ」
「……あー」
感情のない声を出して入るアーサーに、イザークは頭を抱える。
「オマエなあ……温泉初心者みたいな動きすんなよ」
「……」
「でも、覚えた。次、やる」
「ん、それもそうだな……あ、タオルはこうすんだ」
「むっ……」
イザークはアーサーのタオルを奪い取り、四つ折りにして頭に乗せる。
「こうして頭に乗せて浸かるのが醍醐味ってもんよ!」
「……乗せていない者が大半だが」
「ありゃあ慣れちまった地元民だよ。オマエは特に初心者だからこれでいいの!」
「……はぁ」
イザークとルシュドもタオルを頭に乗せながら浴槽に入る。そして中央には行かずに、三人揃って一番端の段差に腰かけた。
「……」
「どうだ? 温泉気持ち良いだろ?」
「……そうだな……」
ゆっくりと目を瞑る。視覚に回されていた身体の神経が他に回されていく。
それは温められた血が身体中を巡っていくのを、じんわりと感じさせてくれた。
温泉の温度は体温以上、熱さを通り越して段々と痛みに変わっていく温度。しかしそれでいるにも関わらず心地良い。
「……賞賛に値する」
「またまたー、難しいこと言っちゃって。そんなだからルシュドも完全にオネムになっちゃってるぞ」
「……んごっ。おれ、呼ばれた?」
「何でもねえよ。まあ今はよかったけど、寝落ちされてしまったらこっちが困るから、するなよ?」
「……気、つける……ふー……」
「ははは……」
「……ふっ」
「ふぅー……」
一方の女子風呂。一足先に身体を洗い終えたエリスは、ゆっくりと身体を浴槽に入れていく。
「……はぁ……」
男子風呂同様、浴槽にはたくさんの女性が入っている。腰を折りながら浸かる老婆、泳ごうとする子供を止める母親、思いっきり身体を伸ばす獣人など、実に多様だ。
「……えへへっ」
大半の人がしているように、手に合ったタオルを四つ折りにして頭に乗せてみる。外が見えるように張られたガラスに映る自分の姿を受けて、エリスはまた一つ満足した。
「よっと~。隣入るね~」
「はーい」
「あ、熱い……」
「だいじょーぶ、慣れるから! さあさあ!」
「あっ、ああ……」
リーシャに引っ張られて、カタリナは一気に浴槽に入る。二人はエリスの隣に座り一息つく。そこから胸まで浸かれる程度の場所まで移動し、段差に座った。
「それにしても、色んな種族の人がいるなあ……ウェンディゴの人もいるけど、氷属性が強くて苦手だ~とかじゃないの?」
「何でもねー、温泉に入ると血があったかくなるでしょ? それが身体を巡る感覚が良くて、結構気持ちいいみたい」
「へぇ、意外。異種族って奥深いなあ……」
「わかるわその気持ちぃ……」
リーシャはエリスの方に身体を向ける。
すると、彼女の顔が突然硬直した。
「……」
「ん? どうしたのリーシャ?」
「え……? いや何も?」
「もしかして、のぼせた……?」
「いやいや、本当に大丈夫だよ!?」
リーシャは大慌てで手を振るが、依然としてぎこちなさは残っている。現に彼女の視線はエリスの胸元一点に向けられている。
「はぁ……やっぱりお風呂はお湯に身体を沈めるに限るよね……シャワーじゃどうにも……」
「ん? こんな感じのお風呂なら塔にもあるでしょ。入ったことないの?」
「……諸事情ありまして。わたし、シャワーしか使ったことないんです……」
「え、そうなの? でもシャワールームにも浴槽あるよね……?」
「……水溜めて沸かすのめんどくさい」
「あ~……」
エリスは腕を組んで前方に伸ばす。顔にも血が巡り、果実が熟していくように真っ赤になっている。
「……ねえエリス?」
「ん、なにー?」
「エリスって……今何歳?」
「……今ここで訊くこと?」
「ま、まあ……嫌なら別にいいけど……」
「ううん、拒否する理由もないし。三月二十三日生まれで、まだ十二歳だよ」
「へえ、十二……」
「いわゆる早生まれってやつだよ」
エリスは段差を一段昇り、足の間に両手を挟んで座り直す。
胸元の果実が露わになり、更に両側から腕で押されて存在を強調させられる。
「……も一個訊いてもいい?」
「なーに?」
「エリスって……学園に来る前は、お風呂どんな感じだった?」
「んっとね、樽風呂に近い感じだったかな。大人一人か子供と大人一人ずつの。まあ何というか、狭かったよ」
「……それはつまり、誰かと入る機会がそんなになかったと?」
「んー、まあそうだね……もしかしたら、お母さんぐらいしか一緒に入ったことないかも?」
「……そっかー……」
その間にカタリナも一段昇り、エリスの隣に座った。
エリス程ではないが彼女の果実も露わになり、リーシャはそちらにも目を奪われる。
「リーシャ……あたしも質問いいかな?」
「えっ!? な、何かなカタリナさん……?」
「さ、さん? えっと……あの木の扉と大理石の浴槽。あれ、気になって……」
「あっ温泉の話!? カラダの話じゃなくて!?」
「ふえっ!?」
「あっごめんね!!! こっちの話だよ!!! えっとね、木の扉は蒸し風呂! 中は物凄く熱い蒸気で満たされていて、気を付けないと失神するほどには熱い! そうして熱くなった身体を大理石の水風呂で冷やす! すると血液の流れが活発になるんだ!」
「へー。温泉ってお湯に浸かるだけじゃないんだね」
「聞いた話だとそっちの方があったまるらしいよ~……でも怖くて入れないや……」
リーシャも段差を昇り上半身を出して座る。
「……いいもん。揺れる物が無い方が曲芸体操やりやすいもん」
「ん、どうしたの急に?」
「何でもないで~す……」
「いや、絶対何かあったでしょ……」
「あったとしてもこっちの話で~す……」
そこから浴場を出るまで、リーシャは丸みの一切ない自身の果実を恨みがましく見つめていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
『異界酒場 ルーナ』
みぎみみ
ファンタジー
東京・渋谷から少し外れた路地の奥、築五十年のビルの地下一階。看板は小さく、知っている人しか辿り着けない。
カウンター八席、テーブル二卓。深夜零時から夜明けまでの営業。
ルーカス(本名:ルカシュ・ヴァルド)
異世界の小さな王国の第三王子として生まれたが、王位継承争いに巻き込まれ、魔法陣の暴走によって現代日本に転移してきた。外見は三十代前半の白人男性。銀灰色の髪と、光の加減で金色にも見える瞳を持つ。日本語は「声の魔法」で習得した。
他人の「最も深い渇望」が視える力を持つ——それは意識的な欲求ではなく、本人すら気づいていない魂の底の叫び。酒や料理を通じてその渇望に応える。
自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
手折れ花
アヒル
恋愛
王族から見捨てられ、とある村で暮らしていた第四王女だったが……。
侵略した王子×亡国の平凡王女のお話。
※注意※
自サイトでボーイズラブとして書いたお話を主人公を女の子にして加筆したものです。
(2020.12.31)
閲覧、お気に入りなど、ありがとうございます。完結していますが、続きを書こうか迷っています。
異世界に転生したので錬金術師としてダラダラ過ごします
高坂ナツキ
ファンタジー
車道に飛び出した猫を助けた吾妻和央は車に轢かれて死んでしまった。
気が付いたときには真っ白な空間の中にいて目の前には発光していて姿形が良くわからない人物が。
その人物は自分を神と名乗り、主人公を異世界に転生させてくれると言う。
よくわからないけれど、せっかく異世界に転生できるのならと、元の世界ではできなかったことをしてダラダラ過ごしたいと願う。
これは錬金術師と付与魔術師の天職を与えられた男が異世界にてだらだら過ごすだけの物語。
※基本的に戦闘シーンなどはありません。異世界にてポーションを作ったり魔導具を作ったりなどの日常がメインです。
投稿開始の3日間、1/1~1/3は7:00と17:00の2回投稿。1/4以降は毎日7:00に投稿します。
2月以降は偶数日の7:00のみの投稿となりますので、よろしくお願いします。
無能と追放された結界師、三十路のおっさんですが17歳の辺境伯令嬢と婚約して人生逆転します
みかん畑
ファンタジー
無能と蔑まれ、Aランクパーティを追放された結界師フィン。
行き場を失った彼を拾ったのは、辺境伯の娘リリカだった。
国土結界の恩恵が届かない辺境で、フィンの結界は本当の価値を発揮していく。
領地再建、政治の駆け引き、そして少女のまっすぐな想い。
これは無能と呼ばれた男が、辺境で居場所を見つけ、やがて年の差婚へと至る物語。
ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます
黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。
だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ!
捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……?
無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる