118 / 247
第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期
第115話 孤児院の夜・その1
しおりを挟む
六人が温泉から上がる頃にはすっかり空は夕焼け模様。橙色の中に紫が混じる空を背に、準備されていた馬車に乗る。
「いやー温泉気持ちよかったなあ」
「それはともかくさぁ、風呂上がってから長すぎじゃね? 軽く数十分は待ったよ?」
「女の子は色々あるんですよーだ」
リーシャは髪を触りながら会話に参加している。
「でも男子も色々やってたでしょ?」
「まあ……やってたよ? 温泉名物風呂上がりの牛乳とか」
「……」
まだ中身が残っていた牛乳を飲みながら、アーサーは景色を眺める。
「……ぐー……」
「ルシュド起きて。もうすぐ着くよ」
「……はっ。おれ、寝てた?」
「それはそれはもう」
「ふにゃぁ……この後もあるんだよね……」
「そうだよ。これから皆でご飯の時間だ!」
「あたし、眠い……」
「寝るならご飯食べた後! さあ降りるよー!」
「ああ……」
リーシャを筆頭に生徒達は馬車を降りる。
最後に御者台からイリーナが降りて、六人の前に立つ。
「よし、全員降りたな。ではこれで一旦お別れだ。明日の十時に大浴場の前でまた集合しよう」
「イリーナさん、今日は本当にありがとうございました」
代表してリーシャが頭を下げる。
「気にするな。子供達とのひととき、楽しんでおいで」
「はーい」
「では失礼する」
イリーナはまた御者台に上る。
そしてトナカイに引っ張られ、馬車は夕暮れを掻き分けて城下町の方に向かって行った。
「さて……と」
「ここがリーシャの家かあ……」
「……うん」
馬車に揺られること数十分。城下町の賑わいから離れた場所にあったのは、木造の大層な建物だった。窓の位置から二階建てであることがわかり、現在は一階右の大きそうな部屋だけに明かりが灯されている。
「……まずは入ろうか。ここにいても寒いだけだし」
「そうだね」
六人は扉の前に進む。入り口もガラス製の明かりで照らされており、表札に『メアリー孤児院』と書いてあるのが読み取れた。
リーシャが一番後ろに着き、アーサーが先導して扉を開ける。
「こんばんはー! リーシャの友達のエリスでーす! 今日はお邪魔しまーす!」
中に入るやすぐに、無言で壁に背中をつけ、さながら潜入任務のようなアーサーの代わりにエリスが挨拶をする。しかしその声は明かりの一切灯っていない廊下に吸い込まれていく。
「……気を付けろ。何人か気配を感じる。視線もこちらに向けられている」
「待ってアーサー、ここリーシャの家だよ? そんな警戒しなくても……」
すると――
「……ッ!?」
「……えっ!?」
「……はぁ?」
弾けるように軽快な爆発音と共に、
紙テープが頭上や正面から降ってきた。
突然の衝撃にエリス達は驚き、紙テープを分厚く纏った魔人と化したまま立ち尽くしてしまう。
「な、何これ?」
「……肩凝りそうなんですけど」
「え、それって……」
すると次々に廊下の明かりが点灯され、
別の部屋や廊下の奥から子供がわらわらと出てくる。
「何やってんだよおまえー! 何で扉開いたタイミングでやらなかったんだよー!」
「だ、だって! なんかまりょくかいろが詰まっちゃって、ひもを引っ張ってもテープが出なくって……!」
「後ろの方から叩いていたら、全部一度にばくはつしちゃった……」
「ちぇっ! 今回はせっかくだから、信じたのに!」
「やっぱりジャネットはしんよーできないね! まほうぐはおうこくのすご~い人が作ったのにかぎるね!」
子供達はそれぞれぶつくさ言いながら、エリス達にかかった紙テープを回収する。一足先に脱出したリーシャは指揮を取っていたであろう子供を満面の笑顔で見下ろす。
「……うん。私達を歓迎しようっていうのはわかった。でもさあ、これは流石に多すぎなぁい……?」
「う~……でもこれは仕方ない! だって他のまほうぐに比べて、紙テープの量が多いっていってたもん!」
「それならさあ、元から買う分を減らせばよかったのではないかなぁ……?」
「……うーん! さすがは学生! 目のつけどころがちがうなあ!」
「はぐらかさないで……っ!?」
リーシャの背中に、足がよろめいた子供が倒れかかってきた。
「ごめん……足がテープに絡まって……」
「うんしょ、うんしょ……どうしよう、ぼくたちじゃ手におえない。どうすればいいかな……?」
「……仕方ないわね。スノウ!」
「はーいなのです!」
リーシャの呼びかけに応じて、スノウが彼女の身体からひらりと現れる。
「この山のようになった紙テープを処分してくれる? 方法は屋外でやるなら何でもいいよ!」
「りようかいなのです!」
スノウは紙テープをいくらか抱えて宙に放り投げる。それに息を吹きかけると、たちまち凍って四散する。
「スノウだ! 氷の魔法使えるの、やっぱりスノウかっこいい!」
「えっへへーなのです!」
「ねえねえスノウ、あれやって? えっと、シャベリン!」
「わかったのです!」
スノウは大気を凍らせ尖った氷を生成する。それは紙テープの中央に刺さりそして両断させた。
「きゃーっ! スノウ、かっこいいー!」
「ありがとーなのでーす!」
スノウはぴょんぴょんと飛び跳ね、頭を子供達に撫でられてご機嫌である。
「ん……スノウもやるならセバスンもお願い。数は多い方がいいと思う」
「承知しました、お嬢様」
「よーしオマエも行ったれサイリー!」
「――」
「ジャバウォック。燃やせ」
「おらっしゃあ!」
「……あんたも行く流れだな」
「ワン!」
セバスン、サイリ、ジャバウォック、カヴァスもそれぞれ出現し、思い思いの方法で紙テープを外に持っていく。
「わっ、びっくりした!」
「もしかしてナイトメア……?」
「すごい! すごいや!」
子供達は紙テープの片付けを放り投げ、もはやナイトメアの一挙一動に夢中になりつつある。
「あれ、もしかしてドラゴン!? かっくいー!」
「おっ、わかる奴もいるんだな! ならいつもより多めに燃やしてやるぞぉ!」
「……建物、燃える」
「わーってるってそんぐらい! 冗談だよ! そんぐらいの意気込みでやるってことだよ!」
「見て見て! 黒い人もかっこいいよ! こう、ばちばちばちーって!」
「コイツは雷属性だからな~。雷落としてドカーンよ!」
「ねえねえお兄ちゃん、ズボンのチャック開いてるよ」
「マジで!? 嘘だろ!? ちょっ、誰か閉めてくれえええ!」
「はいはい。まったくお手数おかけするんだから~」
「あ、このゴブリンさんタキシード着てる。ゴブリンのくせにおしゃれだね」
「仮にもお嬢様に使える身です故。服装には細心の注意を払うのですよ。それよりも、わたくしの隣に来ると危ないですぞ?」
「……きゃっ!? ああ、怖かった~」
「セバスン……魔力を固めた刃で紙テープ切っていくのはいいけど、怪我させないでね?」
「それは元より承知の上ですよ……ほっほっほ」
「ワンワン!」
「なんだ……なんだこの光!? すげえぞ!?」
「お兄ちゃん、後でわんちゃん撫でてもいい?」
「……こいつに訊け」
「わんちゃん、後で撫でてもいい?」
「わふ~ん」
「……後で、だ。今じゃない。伏せてないで早く仕事に戻れ」
「くぅ~ん」
「……お前達何やってるんだ?」
賑やかに事後処理が進む背後から、少年が一人やってきて話しかける。
その姿を視界に収めた子供達は、少し落ち着いたようだった。
「姉ちゃん達歓迎するーって出て行って、中々戻ってこないと思ったら……」
「え、えっとね……やばいことになっちゃったけど、ナイトメアが何とかしてくれたんだよ!」
「ナイトメア……そうか」
カヴァスやセバスンを舐めるように見つめながら、少年はリーシャ達に近付く。
「ただいま兄さん。相変わらず手を焼いているみたいで」
「まあな。けどそれはリーシャもじゃないか?」
「うーん……どうかな!」
リーシャよりも背が高く、年齢も高そうな橙色の髪の少年。彼はリーシャの後ろにいるエリス達に目を向けた。
「リーシャのお友達だね。ようこそ、メアリー孤児院へ。もう夕食の準備が終わったから、食堂へどうぞ」
「はい、ありがとうございます」
「お前達、上着の片付けとか手伝ってやれよ」
「「「もっちろん!」」」
少年が食堂に戻っていった後、子供達に揉みくちゃにされながらエリス達は孤児院の中に入っていった。
食堂には長机が置かれ、席の一つ一つにキャンドルと皿が置かれてあった。入るとすぐにコクの深い匂いが鼻から入り、空腹を埋めていく。
「うふふ、小さい子供達が張り切っていたようで……」
「ただいまっ、シスター! 私は元気だよ!」
「見ればわかりますよ、リーシャ。今日は帰って来てくれて本当にありがとう」
食堂の一番奥から、修道服に身を包んだ老齢の女性がやってきた。顔には幾本の皺があり、瞼も垂れていて穏やかな雰囲気を漂わせている。
「初めましてご友人方。私はメアリー、この孤児院の院長を務めています。この子達からするとお母さんってところかしら」
そう言いながら既に席に着いている子供達を見つめる。およそ二十名程の子供が、席にきっちりと座って食事の始まりを今か今かと待ちわびている。
「メアリーさん、初めまして。わたしはエリスで、こっちがアーサーとカヴァスです」
「……よろしく」
「ワン!」
「ボクはイザークでこっちがサイリでーす」
「ルシュド、です。こっち、ジャバウォック」
「……カタリナとセバスンです」
それぞれ会釈をすると、メアリーはそっと微笑む。
「リーシャも素敵な人と知り合ったのね……さあこちらにどうぞ」
エリス達は食堂の奥、両手を広げた女神像に最も近い席に案内されて座る。席に向かう間、子供達は興味深そうに彼女達を見つめていた。
「何だか……初めて。こんな厳かな感じで食べるの」
「あたしも……」
「……」
「イザーク、どうした。緊張?」
「……いや、なーんも」
唯一リーシャだけは、移動の途中で子供達に引き留められていた。
「だめよ! お姉ちゃん、あたしと食べるんだから」
「ぼくと一緒だよ! 邪魔しないで!」
「わ~やめて~。私ちぎれちゃうよ~」
「……むう」
三つ編みの少女はポケットから硬貨を取り出す。それはヴォンド硬貨ではなく、麦の穂と草が描かれた赤銅の硬貨だった。
「げっ、影の世界のやつじゃん~。おまえまだそれ持ってたの?」
「捨てられるわけないじゃない、お母さんの形見なんだから……とにかくこれで決めるよ! 表だったらあたしね!」
「いいよ!」
そう言って投げたコインは、表を上にして机に落ちた。
「よし! お姉ちゃんあたしの隣!」
「えー……! 嫌だ! もっかいやって!」
「何よ! いいよって言ったのそっちじゃない!」
「はいはい、お前は僕と座ろうなあ」
「ううー……!」
おかっぱ頭の少年は、背の高い少年にずるずると引き摺られていった。そしてリーシャも決まった席に着く。
「さあ皆。今日はお知らせした通り、お客様が来ています。グレイスウィルからやってきたリーシャのお友達。一緒に食事をしながらお話してみてくださいね。ではアルドス……」
「はい」
先程エリス達にも会った橙色の髪の少年が返事をする。子供達は待ってましたと言わんばかりに、胸の前で手を合わせた。
「氷雪の守護者カルシクル神と豊穣の齎贈者アングリーク神、万物の主マギアステル神に感謝の意を込めて。今我等眼前の食物を糧とせん――いただきます」
「「「いただきまーす!」」」
「いやー温泉気持ちよかったなあ」
「それはともかくさぁ、風呂上がってから長すぎじゃね? 軽く数十分は待ったよ?」
「女の子は色々あるんですよーだ」
リーシャは髪を触りながら会話に参加している。
「でも男子も色々やってたでしょ?」
「まあ……やってたよ? 温泉名物風呂上がりの牛乳とか」
「……」
まだ中身が残っていた牛乳を飲みながら、アーサーは景色を眺める。
「……ぐー……」
「ルシュド起きて。もうすぐ着くよ」
「……はっ。おれ、寝てた?」
「それはそれはもう」
「ふにゃぁ……この後もあるんだよね……」
「そうだよ。これから皆でご飯の時間だ!」
「あたし、眠い……」
「寝るならご飯食べた後! さあ降りるよー!」
「ああ……」
リーシャを筆頭に生徒達は馬車を降りる。
最後に御者台からイリーナが降りて、六人の前に立つ。
「よし、全員降りたな。ではこれで一旦お別れだ。明日の十時に大浴場の前でまた集合しよう」
「イリーナさん、今日は本当にありがとうございました」
代表してリーシャが頭を下げる。
「気にするな。子供達とのひととき、楽しんでおいで」
「はーい」
「では失礼する」
イリーナはまた御者台に上る。
そしてトナカイに引っ張られ、馬車は夕暮れを掻き分けて城下町の方に向かって行った。
「さて……と」
「ここがリーシャの家かあ……」
「……うん」
馬車に揺られること数十分。城下町の賑わいから離れた場所にあったのは、木造の大層な建物だった。窓の位置から二階建てであることがわかり、現在は一階右の大きそうな部屋だけに明かりが灯されている。
「……まずは入ろうか。ここにいても寒いだけだし」
「そうだね」
六人は扉の前に進む。入り口もガラス製の明かりで照らされており、表札に『メアリー孤児院』と書いてあるのが読み取れた。
リーシャが一番後ろに着き、アーサーが先導して扉を開ける。
「こんばんはー! リーシャの友達のエリスでーす! 今日はお邪魔しまーす!」
中に入るやすぐに、無言で壁に背中をつけ、さながら潜入任務のようなアーサーの代わりにエリスが挨拶をする。しかしその声は明かりの一切灯っていない廊下に吸い込まれていく。
「……気を付けろ。何人か気配を感じる。視線もこちらに向けられている」
「待ってアーサー、ここリーシャの家だよ? そんな警戒しなくても……」
すると――
「……ッ!?」
「……えっ!?」
「……はぁ?」
弾けるように軽快な爆発音と共に、
紙テープが頭上や正面から降ってきた。
突然の衝撃にエリス達は驚き、紙テープを分厚く纏った魔人と化したまま立ち尽くしてしまう。
「な、何これ?」
「……肩凝りそうなんですけど」
「え、それって……」
すると次々に廊下の明かりが点灯され、
別の部屋や廊下の奥から子供がわらわらと出てくる。
「何やってんだよおまえー! 何で扉開いたタイミングでやらなかったんだよー!」
「だ、だって! なんかまりょくかいろが詰まっちゃって、ひもを引っ張ってもテープが出なくって……!」
「後ろの方から叩いていたら、全部一度にばくはつしちゃった……」
「ちぇっ! 今回はせっかくだから、信じたのに!」
「やっぱりジャネットはしんよーできないね! まほうぐはおうこくのすご~い人が作ったのにかぎるね!」
子供達はそれぞれぶつくさ言いながら、エリス達にかかった紙テープを回収する。一足先に脱出したリーシャは指揮を取っていたであろう子供を満面の笑顔で見下ろす。
「……うん。私達を歓迎しようっていうのはわかった。でもさあ、これは流石に多すぎなぁい……?」
「う~……でもこれは仕方ない! だって他のまほうぐに比べて、紙テープの量が多いっていってたもん!」
「それならさあ、元から買う分を減らせばよかったのではないかなぁ……?」
「……うーん! さすがは学生! 目のつけどころがちがうなあ!」
「はぐらかさないで……っ!?」
リーシャの背中に、足がよろめいた子供が倒れかかってきた。
「ごめん……足がテープに絡まって……」
「うんしょ、うんしょ……どうしよう、ぼくたちじゃ手におえない。どうすればいいかな……?」
「……仕方ないわね。スノウ!」
「はーいなのです!」
リーシャの呼びかけに応じて、スノウが彼女の身体からひらりと現れる。
「この山のようになった紙テープを処分してくれる? 方法は屋外でやるなら何でもいいよ!」
「りようかいなのです!」
スノウは紙テープをいくらか抱えて宙に放り投げる。それに息を吹きかけると、たちまち凍って四散する。
「スノウだ! 氷の魔法使えるの、やっぱりスノウかっこいい!」
「えっへへーなのです!」
「ねえねえスノウ、あれやって? えっと、シャベリン!」
「わかったのです!」
スノウは大気を凍らせ尖った氷を生成する。それは紙テープの中央に刺さりそして両断させた。
「きゃーっ! スノウ、かっこいいー!」
「ありがとーなのでーす!」
スノウはぴょんぴょんと飛び跳ね、頭を子供達に撫でられてご機嫌である。
「ん……スノウもやるならセバスンもお願い。数は多い方がいいと思う」
「承知しました、お嬢様」
「よーしオマエも行ったれサイリー!」
「――」
「ジャバウォック。燃やせ」
「おらっしゃあ!」
「……あんたも行く流れだな」
「ワン!」
セバスン、サイリ、ジャバウォック、カヴァスもそれぞれ出現し、思い思いの方法で紙テープを外に持っていく。
「わっ、びっくりした!」
「もしかしてナイトメア……?」
「すごい! すごいや!」
子供達は紙テープの片付けを放り投げ、もはやナイトメアの一挙一動に夢中になりつつある。
「あれ、もしかしてドラゴン!? かっくいー!」
「おっ、わかる奴もいるんだな! ならいつもより多めに燃やしてやるぞぉ!」
「……建物、燃える」
「わーってるってそんぐらい! 冗談だよ! そんぐらいの意気込みでやるってことだよ!」
「見て見て! 黒い人もかっこいいよ! こう、ばちばちばちーって!」
「コイツは雷属性だからな~。雷落としてドカーンよ!」
「ねえねえお兄ちゃん、ズボンのチャック開いてるよ」
「マジで!? 嘘だろ!? ちょっ、誰か閉めてくれえええ!」
「はいはい。まったくお手数おかけするんだから~」
「あ、このゴブリンさんタキシード着てる。ゴブリンのくせにおしゃれだね」
「仮にもお嬢様に使える身です故。服装には細心の注意を払うのですよ。それよりも、わたくしの隣に来ると危ないですぞ?」
「……きゃっ!? ああ、怖かった~」
「セバスン……魔力を固めた刃で紙テープ切っていくのはいいけど、怪我させないでね?」
「それは元より承知の上ですよ……ほっほっほ」
「ワンワン!」
「なんだ……なんだこの光!? すげえぞ!?」
「お兄ちゃん、後でわんちゃん撫でてもいい?」
「……こいつに訊け」
「わんちゃん、後で撫でてもいい?」
「わふ~ん」
「……後で、だ。今じゃない。伏せてないで早く仕事に戻れ」
「くぅ~ん」
「……お前達何やってるんだ?」
賑やかに事後処理が進む背後から、少年が一人やってきて話しかける。
その姿を視界に収めた子供達は、少し落ち着いたようだった。
「姉ちゃん達歓迎するーって出て行って、中々戻ってこないと思ったら……」
「え、えっとね……やばいことになっちゃったけど、ナイトメアが何とかしてくれたんだよ!」
「ナイトメア……そうか」
カヴァスやセバスンを舐めるように見つめながら、少年はリーシャ達に近付く。
「ただいま兄さん。相変わらず手を焼いているみたいで」
「まあな。けどそれはリーシャもじゃないか?」
「うーん……どうかな!」
リーシャよりも背が高く、年齢も高そうな橙色の髪の少年。彼はリーシャの後ろにいるエリス達に目を向けた。
「リーシャのお友達だね。ようこそ、メアリー孤児院へ。もう夕食の準備が終わったから、食堂へどうぞ」
「はい、ありがとうございます」
「お前達、上着の片付けとか手伝ってやれよ」
「「「もっちろん!」」」
少年が食堂に戻っていった後、子供達に揉みくちゃにされながらエリス達は孤児院の中に入っていった。
食堂には長机が置かれ、席の一つ一つにキャンドルと皿が置かれてあった。入るとすぐにコクの深い匂いが鼻から入り、空腹を埋めていく。
「うふふ、小さい子供達が張り切っていたようで……」
「ただいまっ、シスター! 私は元気だよ!」
「見ればわかりますよ、リーシャ。今日は帰って来てくれて本当にありがとう」
食堂の一番奥から、修道服に身を包んだ老齢の女性がやってきた。顔には幾本の皺があり、瞼も垂れていて穏やかな雰囲気を漂わせている。
「初めましてご友人方。私はメアリー、この孤児院の院長を務めています。この子達からするとお母さんってところかしら」
そう言いながら既に席に着いている子供達を見つめる。およそ二十名程の子供が、席にきっちりと座って食事の始まりを今か今かと待ちわびている。
「メアリーさん、初めまして。わたしはエリスで、こっちがアーサーとカヴァスです」
「……よろしく」
「ワン!」
「ボクはイザークでこっちがサイリでーす」
「ルシュド、です。こっち、ジャバウォック」
「……カタリナとセバスンです」
それぞれ会釈をすると、メアリーはそっと微笑む。
「リーシャも素敵な人と知り合ったのね……さあこちらにどうぞ」
エリス達は食堂の奥、両手を広げた女神像に最も近い席に案内されて座る。席に向かう間、子供達は興味深そうに彼女達を見つめていた。
「何だか……初めて。こんな厳かな感じで食べるの」
「あたしも……」
「……」
「イザーク、どうした。緊張?」
「……いや、なーんも」
唯一リーシャだけは、移動の途中で子供達に引き留められていた。
「だめよ! お姉ちゃん、あたしと食べるんだから」
「ぼくと一緒だよ! 邪魔しないで!」
「わ~やめて~。私ちぎれちゃうよ~」
「……むう」
三つ編みの少女はポケットから硬貨を取り出す。それはヴォンド硬貨ではなく、麦の穂と草が描かれた赤銅の硬貨だった。
「げっ、影の世界のやつじゃん~。おまえまだそれ持ってたの?」
「捨てられるわけないじゃない、お母さんの形見なんだから……とにかくこれで決めるよ! 表だったらあたしね!」
「いいよ!」
そう言って投げたコインは、表を上にして机に落ちた。
「よし! お姉ちゃんあたしの隣!」
「えー……! 嫌だ! もっかいやって!」
「何よ! いいよって言ったのそっちじゃない!」
「はいはい、お前は僕と座ろうなあ」
「ううー……!」
おかっぱ頭の少年は、背の高い少年にずるずると引き摺られていった。そしてリーシャも決まった席に着く。
「さあ皆。今日はお知らせした通り、お客様が来ています。グレイスウィルからやってきたリーシャのお友達。一緒に食事をしながらお話してみてくださいね。ではアルドス……」
「はい」
先程エリス達にも会った橙色の髪の少年が返事をする。子供達は待ってましたと言わんばかりに、胸の前で手を合わせた。
「氷雪の守護者カルシクル神と豊穣の齎贈者アングリーク神、万物の主マギアステル神に感謝の意を込めて。今我等眼前の食物を糧とせん――いただきます」
「「「いただきまーす!」」」
0
あなたにおすすめの小説
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
『異界酒場 ルーナ』
みぎみみ
ファンタジー
東京・渋谷から少し外れた路地の奥、築五十年のビルの地下一階。看板は小さく、知っている人しか辿り着けない。
カウンター八席、テーブル二卓。深夜零時から夜明けまでの営業。
ルーカス(本名:ルカシュ・ヴァルド)
異世界の小さな王国の第三王子として生まれたが、王位継承争いに巻き込まれ、魔法陣の暴走によって現代日本に転移してきた。外見は三十代前半の白人男性。銀灰色の髪と、光の加減で金色にも見える瞳を持つ。日本語は「声の魔法」で習得した。
他人の「最も深い渇望」が視える力を持つ——それは意識的な欲求ではなく、本人すら気づいていない魂の底の叫び。酒や料理を通じてその渇望に応える。
自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。
無能と追放された結界師、三十路のおっさんですが17歳の辺境伯令嬢と婚約して人生逆転します
みかん畑
ファンタジー
無能と蔑まれ、Aランクパーティを追放された結界師フィン。
行き場を失った彼を拾ったのは、辺境伯の娘リリカだった。
国土結界の恩恵が届かない辺境で、フィンの結界は本当の価値を発揮していく。
領地再建、政治の駆け引き、そして少女のまっすぐな想い。
これは無能と呼ばれた男が、辺境で居場所を見つけ、やがて年の差婚へと至る物語。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
手折れ花
アヒル
恋愛
王族から見捨てられ、とある村で暮らしていた第四王女だったが……。
侵略した王子×亡国の平凡王女のお話。
※注意※
自サイトでボーイズラブとして書いたお話を主人公を女の子にして加筆したものです。
(2020.12.31)
閲覧、お気に入りなど、ありがとうございます。完結していますが、続きを書こうか迷っています。
ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます
黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。
だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ!
捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……?
無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる