ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期

第119話 事件は朝に端を発す・後編

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「……」
「ふごぉ~。ふごぉ~」
「ぐぅ……」


 日付が変わるまで遊び呆けていた男子三人。朝日が完全に昇り切っても、優雅にだらりと爆睡中である。


 だがそんな彼らも一夜限りの冬眠から徐々に目を覚ます。


「……うい~す……」
「ん……」
「……あれ? ここどこ?」
「リーシャの実家の孤児院だよ。学生寮じゃない、目を覚ませ」
「う~……」


 ルシュドは頬をぱんぱんと叩く。


「いやあ……楽しかったな、昨日は。沢山遊んで観光して、もうね……楽しかったな」
「おれ、今日、お土産。楽しみ」
「ん、そうだな。ボクも町の観光したいな」

「……他の連中の意見も聞いてからだ」
「まーそれはそうなんだけどさあ? でも何をするにも、飯を食わなきゃ始まらねえな」
「食堂、行く。ご飯、楽しみ」
「……ああ」



 こうして三人は、しっかりと身支度を整えてから食堂へと向かう。



 食堂に入ると、中には年上の子供が一人いて、机に座って本を読んでいるだけだった。



「ん……君達。ようやく起きてきたのか」
「おはようございます。誰もいないようですけど、もしかしてボクら一番乗りっすか?」
「……逆だ。君達時計を見てみろ」
「ん~?」



 三人は女神像と反対の位置にある時計に向かって首を回す。

 針は朝食を飛び越えておやつの時間、十時過ぎを指していた。



「……マジかよ」
「聞いたよ、昨日は子供達とかなり盛り上がっていたようじゃないか。まあこの孤児院に住んでいる以上ということで、子供達は叩き起こしたんだが、君達は客だしそのままにしとこうってことになった」
「いや客に対して無礼じゃないすかねそれ!?」

「ツッコまれたので実を言うとだな。君達が遅くに起きてきても客人扱いせず、朝食は準備するなとリーシャに釘を刺されていた。子供達にもう一度負担をかけるわけにはいかないとのことだ」
「一理ある……のか?」
「どっちにしても何か異議申し立てをしないといけない気がするー! んでお姉さん、そのリーシャは今どこに?」
「ん……? そういや、朝から姿を見かけていないな。この辺りの店とかを散歩しているんじゃないか?」





「……へんだぁ~!」


 そこに子供が一人、息せき切って扉を開けてきた。


「はぁ、はぁ……! 大変だよ姉ちゃん! 掲示板に何か書いてあって……!」
「……掲示板? 殺害予告か何かか?」
「それもわからないんだ! ぼく達字なんて読めないから……!」
「よしそれなら見てやる。君達は……」

「……流れに乗って行くしかなくない?」
「ああ……」
「おれ、気になる」





 孤児院の入り口にある掲示板には、王国からの通達や迷い犬の情報などといった様々な内容が紙に書かれて張り出される。現在そこには十数人の子供が集まって一枚の掲示を見ていた。


「あっ、お姉ちゃん……!」
「待たせたな。それで何が書いてあるんだ?」
「えっとね……あの、赤い文字……」


 子供の一人が震えながら一枚の紙を指す。そこには赤く大きな文字で何かが走り書きされていた。


「……これは。大分慌てて書いたようだな……」
「読める?」
「ああ、大丈夫だ。えっと……ブルニア雪原に行ってきます、エリス、カタリナ、リーシャ……」



 それを聞いていた者も、読み上げた少女も、全て一堂に青褪あおざめる。



「……雪原ってアレだよな? 確か、魔物がスッゲーいるから行くのはダメっていう……」
「ああ、そうだ……エリスとカタリナは昨日の客人だよな? 彼女らはともかく、リーシャが……?」
「……理由、ある。おれ、信じる」
「……そうだ。絶対にな」


 アーサーは若干の力強さを込めて言いながら、文字が書いてあった紙を破り取る。


「とりあえず、えっと……孤児院で一番偉い人! 確かメアリーさんだっけ?」
「シスターなら城下町に向かった。王国の方から呼び出しがあったそうだ」
「よし、城下町なら都合がいいな。これはボク達が巻き込まれているようなもんだし、行ってくるよ」
「……悪いけど頼めるかな。私は子供達を宥めないといけない……」


 リーシャが雪原に向かったと知り、動揺を隠せない年下の子供達を見遣る。


「勿論だ……うし、準備してさっさと行くぞ」
「ここから道なりに歩いて数分の場所に、城下町行き馬車の停留所がある。そこから向かうといい」
「サンキュー」
「……何かの手違いで城下町にいてくれるといいんだが」
「ああ、ボクもそう思うよ……」





 こうして一時間もしないうちに城下町に到着。事が事だったので馬車が停まるや否や、勢いよく飛び降りるイザーク。



「おい、周りをよく見て動け……」
「わーってるってそんなん!!! ……痛っでえ!?」



 アーサーは目も当てられなくなって顔を手で覆う。イザークはこちらを見ながら走っていた為、正面から人にぶつかってしまったのだ。


 ルシュドがすぐに駆け付け、顔を青くしながらも頭を下げる。



「ああっ、えっと、すみません!! ごめんなさい!!」
「サーセンしたー!!」
「……悪いな」


 ぶつかった相手はというと、三人の姿に驚愕しながら服のほこりを手で払って落としている。灰色の長髪をオールバックにした、挑発的な吊り上がった目が特徴的な男だ。


「何だ小僧共は!! ローブに汚らわしい塵が付いたではないか!! 私を誰だと思って……ハハッ、まあいい」

「光栄に思え? 大いなる聖教会、イズエルト支部司祭長クリングゾルが許してやるのだからな」

「普通なら懲役になる所を、わざわざ見逃してやるのだ!! ハッハッハ……!!!」



 男は大仰に笑った後その場を去っていった。



「……訊いてもいないのに勝手に名乗ったな」
「つーことはあれだな、小物!!! いやそんなことはどうでもいいんだよ!!!」
「あ、アルシェスさん! あれだ!!」
「おっしゃーらー!!!」





 城下町は中央広場。凍結防止の為水が止まっている噴水を前に、アルシェスは修道服を着た濃い化粧の女に絡まれていた。


「さてはてアルシェス様。今日も素晴らしい太陽ですわね。これも我が主のご加護があってこそですわ」
「あーはいそうっすねー」
「我が女王マギアステルは黎明の化身。遥か天上の地から民を見守っていらっしゃるのですわ。そしてそれを広められました教祖エリザベス様も素晴らしいお方ですわ」
「あーはいそうっすねー」



 耳の穴を指でほじりながら、適当に返事をして受け流す。


 そこに馬車から駆け寄る三人の少年が目に入ったので、これでこいつを撒くことができると心の奥底から万々歳。



「……探したぞ」
「パリピの兄ちゃん!! 昨日以来だな!!」

「あらアルシェス様、お知り合いかしら?」
「んー……まあちょっとな! 悪いけどコイツらと話すから、今日はもうお別れだ!」
「そうなの? それは残念だわ。でもまた機会がありましたら……」
「わーったわーった、暇を見つけて聖堂に行くから」
「お待ちしておりますわ」


 そう言って女は去っていく。おーっほっほっほと、もはや古臭さを通り過ぎて化石のような高笑いも添えながら。





「……アイツ俺に気があるんだぜ。アラフィフのくせに。聖教会のくせに。マジキメえの何の。モテるなら若い子がいいよなぁ!?」
「ローブ、白い。えっと、メアリーさん、同じ?」
「そーんなカンジィ。でもメアリー殿はいい聖教会でさっきのアイツは悪い聖教会だぜ?」
「色々あるんだなあ」
「この国は特にそうさ。聖教会の連中が幅を利かせてんだよ」
「へぇ……」


 そう思って改めて町を見回すと、尖塔のついた建物が多い気がする。木や石で造られた質素な建物の合間合間に、一際飾り付けられている建物。その全てが聖教会関連の施設なのだろう。


「……ってー! そんなことはどうでもいいんだよ今はー!!」
「そんなことって何だそんなことってー! 俺の人生に関わる重要事項だぞー!」
「いやそれはわかるんだけど!! こっちは人の生き死にが関わってるんだよ!!」
「え、それマジ? 一体何があったかお兄さんに話してみ?」
「ああ、実はだな――」




           どすん




「……え?」


           めきめき


「……地震?」


        ぎりりりり……





ごおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!





「――ッ!」
「何だ……!?」


 方角にして西、雪原へと続く方向から――


「……魔物!?」
「なっ、何であんな大群で……!」



 ゴブリン、コボルト、ウルフェン、グリズリー、果てには体長三メートル越えの巨象まで。様々な化物が、一斉に城下町に乗り込んできた。

 種族は様々、然るべき食物連鎖の関係。しかし今の彼らには、そんな摂理も飛び越えた共通点がある。



 姿は全て黒一色ののっぺらぼうで――生気のない、白い目をしていた。





「――テメエら! 絶対に外に出るんじゃねえぞ!」
「えっ!?」



 イザーク達が声の方を振り向くと、そこにいたのは、


 薄っぺらな陽気な男ではなく幾多の戦場を超えてきた魔術師であった。



「ユフィッ!」
「うん……! ごめんね……!」
「がっ!?」


 瞬時にアルシェスの身体から出てきたユフィが、腕をしならせて三人を叩き付ける。




 その衝撃で、彼らは近くにあった酒場まで投げ飛ばされ、更に扉をぶち破ってしまう。


「ぐうっ……!」
「ちょっとあんた! 何だ急に……」
「すんません! それこっちも訊きたいんですわ! 何かいきなり黒い化物が町を襲ってきて……!」
「黒い化物……?」


 店長と思われる人物は、窓の外から町の様子を偵察する。


「――なぁ!? あれ『奈落』じゃねえか!?」
「店長それ本当ですか!?」
「本当だ、あれは昔習った通りの姿をしている――店内の客にじっとしておくように知らせろ!! あんたらは店内を落ち着かせることに集中するんだ!!」
「わかりました!!」
「で、扉ぶち破ったあんたら!! 壊したんだから入り口押さえるの手伝え!!」


 店長は適当な机を投げて三人に寄越す。数人で囲む前提の木の丸机を、受け取る者の状態なぞ気にせず豪快に飛ばしてきた。


「うおーっと!!! ……よくわかんないけどやるしかねえ!! サイリ!!」
「――」

「ジャバウォック!!」
「やるぜぇぇぇ!!」

「……行くぞ」
「ワンッ!」
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