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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期
第128話 幕間:獣人の国・その2
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そして翌日。レーラ達はアメリアの屋敷の一室を借り、これからの予定について話し合っていた。
「……理解してもらえたのか、あれは」
「一応使用人を借りられるように手筈はしてもらえたけど……やはり視察だと思われたままだったわね……」
「でもぶっちゃけそっちの目的もあるからなあ。ほら、こいつ」
アルベルトは懐から一枚の紙を取り出す。
「アドルフ様からだ。リュッケルト様絡みのことで色々報告しろってさ」
「暫くパルズミールに行けてなかったとお話されていたわ。身内のことが心配なのでしょうね。まあそっちにも人員をやるとして……どこの調査に行く?」
「そりゃあ現場に決まってるだろ?」
アルベルトは広げた地図のうち、とある場所を指した。
「ラズ家の屋敷。ラズに貸し出されたなら、最も警備が厳しいここに保管するだろ。先ずそこに行ってみよう」
「そうね。早速従者達に話をつけてきましょう」
「屋敷に向かうとなると、経路は……」
レーラはゆっくりと地図を指でなぞる。
「……そうねぇ。安定且つ最短で行くならザイカ自治区を通るのが一番良いわ」
「……そうなるよなあ」
「嫌かしら?」
「……別に」
「そう。ならこの進路で提案してくるわね」
「任せる」
レーラは地図を持って立ち上がり部屋を後にする。残されたアルベルトは、座ったまま頬杖をついていた。
それから使用人と打ち合わせをしたところ、難無く馬車を出してもらえることが決定した。出発は三時間後で、それまで待機することになった。
「待機っつても、なーんもすることねえや」
「それなら魔法学園にでも行きましょうか」
「近いのか?」
「徒歩五分です。この屋敷は五年前、リュッケルト様がご入学なさる際に、気軽に訪ねられるようにと建てられたものだそうです」
「ほーう……親馬鹿なんだな」
「口には気を付けたほうがいいわよ。貴方自分が騎士だってこと時折忘れるわよね。まああの方なら喜びそうなものだけど……」
後ろからレーラとウェンディがやってきて、屋敷の入り口で話しているアルベルトとカイルに合流する。
「お前はどうすんだ? 武器の手入れでもするか?」
「それも考えたけど、折角の出張なんだし。私も散歩をしようと思って」
「あっ、あああのっ、私はカイル君と……」
「それならば一緒に魔法学園に参りましょう」
「はっ、はひぃ!」
こっそりイズヤとロイが主君の身体から出てきて、二人でひそひそ会話を始める。
「ううむ、作戦成功……か?」
「イズヤは完璧を求めるから失敗だと断ずるぜ」
「いやでも一昔前に比べりゃ立派な進歩……」
「ロイー!! 何してんの行くよー!!」
「イズヤ、お前も早く来い」
「待っとって今行くー!」
「イズヤは会話を終えて飛んでいくぜー!」
この日は日曜日だったので、学園内は更に閑散としていた。事務員に声だけかけて、四人は園舎内を散策する。
「先輩はここの魔法学園の出身なんですよね」
「まあな。成績はそんなによくはなかったが」
「あなたらしいわね。学生の頃からブレていない」
「……まあー、な……」
「それにしても、この構造……グレイスウィルとほぼ変わらないですね……」
コの字型の園舎をゆっくり歩きながら、ウェンディが呟く。
「最低限必要な教養を教えるための設備を整えるとなると、大体この構造になるんだ。んで、こっちにパルズミールの特色とも言える施設がある」
六人が立ち止まったのは三階、階段付近から伸びる通路だった。
「……この通路はグレイスウィルにはありませんでしたね。何があるのでしょうか」
「円形闘技場。外からちらちら見えてたどでかいの、あれぜーんぶ生徒用の闘技場だ。規模は大きく非常に機能的で、複数の訓練を同時に行えるし強い衝撃にも耐えれる」
「成程、ここは獣人の生徒が多いから彼らが存分に動き回れるようにってことね」
「そうそう。それでも壊れることがあるんだから、成長期恐ろしい」
「え、一体どんな暴れ方を……」
「ひゃっ!?」
突然園舎内が揺れ、六人は突き上げられる。
「地震……か? 結構強い揺れだが……」
「いや……」
アルベルトは目を凝らして中庭を観察する。不定期且つ瞬間的な揺れは依然として続く。
「……行ってくる。てめえらは階段使ってのんびり降りてこいや」
「ちょっと、ええ!?」
そして近くの窓を開け、躊躇することなく飛び降りていった。
「や、やめろぉ……」
「グルゥ……」
「お、おれが悪かった……悪かったよぉ……!!」
「ガウッ!」
「あ゛あ゛っ!!」
その少年は、猫の獣人の少年の胸倉を掴み、そのまま後方へ投げ飛ばした。
「ぎゃあ……!!」
少年が園舎の壁に衝突し、壁に僅かに亀裂が走る。少年の身体はそのまま地面に落ち、僅かに細い息を立てて動かなくなる。
「ガルゥ……」
「ひいいいい……!!!」
少年は投げ飛ばした少年の後ろにいた、他の少年達を睨む。皆それぞれ獣の耳や尻尾を生やしていた。
「グオオオオオ……!!!」
赤い目に黒い兎耳の少年は咆哮を突き上げて、その生徒達に向かって突進する――
「ほい、そこまでだ」
「ガウッ!?」
アルベルトは少年の耳を鷲掴みにし、ぐるっと回して背中を見つめる。少年は手足を必死に動かすが、それでも目の前の敵は動じない。
「ガッ……ガアアアアッ!!!」
「はいはい、落ち着けよー」
「グルアァ!!」
「兎神エオスカレ様、どうかこの暴れる子兎に導きをっ……ってなぁー」
慣れた手付きで尻尾の付け根をまさぐりだし、そこに手を当て魔力を流し込むアルベルト。
「ア……ア……」
すると少年の動きが次第に治まり、目の色も元の色であろう橙色に戻っていく。
「あ……」
「……よしっと」
少年が動かなくなったのを確認し、アルベルトは耳から手を放し身体を抱え込む。
「……ふく、しゅう……ともだち……人間……ジル……」
呼吸の中に混じった少年の言葉が、微かに聞こえた所にカイルとイズヤが駆け付けてくる。
「先輩、今のは……」
「ん、丁度いい。あの逃げようとしているガキ共捕まえてくんねえ?」
「……了解しました。イズヤ、行くぞ」
「イズヤは一応命令には従うけど事情はよくわかってないぜ!」
カイルが右手を伸ばし、手から黄色い糸を放つ。イズヤがそれを手に取り、輪にしてからぐるぐる回して飛ばしていく。
「ぎゃあ! 痺れるっ……!」
「失礼します。貴方達にはご縁はありませんが、捕まえろと命令されたもので」
「やめろ! おれ達は関係ねえ!!!」
しかし糸をほどこうとしても動けないので、結局全員がずるずると引き寄せられたのだった。
レーラとウェンディも合流し、レーラは駆け付けるやすぐに少年を寝かせて回復魔法の行使を開始。ウェンディはおろおろしていたが、ロイにどつかれて正気に戻り、壁に打ち付けられた少年達の手当てに向かった。
「さっきのイズヤの気分は荒馬に乗ってる魔物ハンターだったぜ!」
「ご苦労だった。さて、一まとめにしておきましょうか……」
「回復魔法の行使完了。後は安静にしておけば大丈夫よ」
「こっちも行使完了でっす!」
「カイルもレーラも、それからウェンディも済まない。さて」
アルベルトは少年達の前に一歩踏み出し、押し潰すように見下ろす。
「あいつに何をした? 言え」
「う……」
「暴化ってんのはなあ、大体人的要因で引き起こされるんだよ。つまりてめえらの責任だ」
「ち、ちが……」
「あいつさっき睨み付けてたぞ? それも怒れる獣の目付きだった。だから何をしたのか訊ねているんだよ」
「……」
震えが一番大きい少年が、ゆっくりと口を開く。
「……本当に!! おれ達は悪くないんだ……!! 寮の外にいたらいきなり殴りかかってきて……!! どんどん喧嘩していくうちに、目が真っ赤になって……」
「……んで、そのまま園舎まで来ちまったと」
「そ、そうだ! 最初はジル様を狙おうとしたけど、皆で庇ってなんとかこっちまで持ってきたんだ! おれ達は頑張ったんだ! だから……!」
「……ボア案件かよ畜生が……」
アルベルトが苛立ちを見せた所に、大人の獣人が数人駆け寄ってくる。恐らく魔法学園の職員だろう。
「すみません、うちの生徒がこんな……!」
「……困っている獣人を見たらお互い様。それがパルズミールの掟だろ?」
「……本当に、すみません……」
「頭下げてる暇あんなら、さっさとこいつら連れて行って補導してくれよ。俺はもう疲れた。あ、応急手当はしておいたぞ」
「そうさせていただきます。重ね重ね、ありがとうございました。ほら戻るぞ!」
獣人は兎耳の生徒や、それ以外にも怪我を負った生徒を背中に抱えて移動する。まだ動ける少年達は、アルベルトから逃げるようにそれについていった。
「カイルとウェンディは初めて見るか? さっきのやつは」
「一応話にまでは」
「……あの、めっちゃ怖かったです!! あんな温厚そうな子供が、あんなに暴れ回るんですか……?」
「そうだ。獣人っていうのはな、獣の特徴を持っている影響で素の能力が非常に高いんだ。それこそ、ナイトメア無しで奈落と渡り合えるぐらいに」
「えっ、嘘でしょ!?」
「ガチだ。ナイトメアがいないのにグレイスウィル騎士やってる俺が何よりの証拠だ。ま、ナイトメア出した方が効率がいいとされてるんだけどな……他にも地元で何人も、奈落をタイマンで消滅させた奴を知っているぞ」
「う、うわあ……怒らせたらやばいですね、獣人さんって……」
「怒らせるとさっきのように暴れてしまうってわけだな。感情が暴走してしまうと、高い能力がそれに引っ張られて制御できなくなる、その現象を暴化って呼んでるんだ」
アルベルトは改めて園舎に視線を向ける。
「ここではな、そういう力の制御の方法も教えてるのさ。自分で制御するのもそうだし、他人が暴走したらそれを抑える方法も学ぶ。魔法学園の中では暴れ回っていいから、社会に出たら暴れるなっていうのがここのコンセプトなんだ」
そう言って首をぽきぽきと鳴らす。余計に静まり返った園舎の中で、その音だけがはっきりと聞こえた。
「さて……戻ろうぜ。俺は窘めるので疲れちまった。だから休みたい」
「先輩がそう言うなら、自分はいいですよ」
「私も賛成。功労者の意見には従っておきましょ」
「私も賛成です!」
「うっし。じゃあ来た道戻るぞ~」
「……理解してもらえたのか、あれは」
「一応使用人を借りられるように手筈はしてもらえたけど……やはり視察だと思われたままだったわね……」
「でもぶっちゃけそっちの目的もあるからなあ。ほら、こいつ」
アルベルトは懐から一枚の紙を取り出す。
「アドルフ様からだ。リュッケルト様絡みのことで色々報告しろってさ」
「暫くパルズミールに行けてなかったとお話されていたわ。身内のことが心配なのでしょうね。まあそっちにも人員をやるとして……どこの調査に行く?」
「そりゃあ現場に決まってるだろ?」
アルベルトは広げた地図のうち、とある場所を指した。
「ラズ家の屋敷。ラズに貸し出されたなら、最も警備が厳しいここに保管するだろ。先ずそこに行ってみよう」
「そうね。早速従者達に話をつけてきましょう」
「屋敷に向かうとなると、経路は……」
レーラはゆっくりと地図を指でなぞる。
「……そうねぇ。安定且つ最短で行くならザイカ自治区を通るのが一番良いわ」
「……そうなるよなあ」
「嫌かしら?」
「……別に」
「そう。ならこの進路で提案してくるわね」
「任せる」
レーラは地図を持って立ち上がり部屋を後にする。残されたアルベルトは、座ったまま頬杖をついていた。
それから使用人と打ち合わせをしたところ、難無く馬車を出してもらえることが決定した。出発は三時間後で、それまで待機することになった。
「待機っつても、なーんもすることねえや」
「それなら魔法学園にでも行きましょうか」
「近いのか?」
「徒歩五分です。この屋敷は五年前、リュッケルト様がご入学なさる際に、気軽に訪ねられるようにと建てられたものだそうです」
「ほーう……親馬鹿なんだな」
「口には気を付けたほうがいいわよ。貴方自分が騎士だってこと時折忘れるわよね。まああの方なら喜びそうなものだけど……」
後ろからレーラとウェンディがやってきて、屋敷の入り口で話しているアルベルトとカイルに合流する。
「お前はどうすんだ? 武器の手入れでもするか?」
「それも考えたけど、折角の出張なんだし。私も散歩をしようと思って」
「あっ、あああのっ、私はカイル君と……」
「それならば一緒に魔法学園に参りましょう」
「はっ、はひぃ!」
こっそりイズヤとロイが主君の身体から出てきて、二人でひそひそ会話を始める。
「ううむ、作戦成功……か?」
「イズヤは完璧を求めるから失敗だと断ずるぜ」
「いやでも一昔前に比べりゃ立派な進歩……」
「ロイー!! 何してんの行くよー!!」
「イズヤ、お前も早く来い」
「待っとって今行くー!」
「イズヤは会話を終えて飛んでいくぜー!」
この日は日曜日だったので、学園内は更に閑散としていた。事務員に声だけかけて、四人は園舎内を散策する。
「先輩はここの魔法学園の出身なんですよね」
「まあな。成績はそんなによくはなかったが」
「あなたらしいわね。学生の頃からブレていない」
「……まあー、な……」
「それにしても、この構造……グレイスウィルとほぼ変わらないですね……」
コの字型の園舎をゆっくり歩きながら、ウェンディが呟く。
「最低限必要な教養を教えるための設備を整えるとなると、大体この構造になるんだ。んで、こっちにパルズミールの特色とも言える施設がある」
六人が立ち止まったのは三階、階段付近から伸びる通路だった。
「……この通路はグレイスウィルにはありませんでしたね。何があるのでしょうか」
「円形闘技場。外からちらちら見えてたどでかいの、あれぜーんぶ生徒用の闘技場だ。規模は大きく非常に機能的で、複数の訓練を同時に行えるし強い衝撃にも耐えれる」
「成程、ここは獣人の生徒が多いから彼らが存分に動き回れるようにってことね」
「そうそう。それでも壊れることがあるんだから、成長期恐ろしい」
「え、一体どんな暴れ方を……」
「ひゃっ!?」
突然園舎内が揺れ、六人は突き上げられる。
「地震……か? 結構強い揺れだが……」
「いや……」
アルベルトは目を凝らして中庭を観察する。不定期且つ瞬間的な揺れは依然として続く。
「……行ってくる。てめえらは階段使ってのんびり降りてこいや」
「ちょっと、ええ!?」
そして近くの窓を開け、躊躇することなく飛び降りていった。
「や、やめろぉ……」
「グルゥ……」
「お、おれが悪かった……悪かったよぉ……!!」
「ガウッ!」
「あ゛あ゛っ!!」
その少年は、猫の獣人の少年の胸倉を掴み、そのまま後方へ投げ飛ばした。
「ぎゃあ……!!」
少年が園舎の壁に衝突し、壁に僅かに亀裂が走る。少年の身体はそのまま地面に落ち、僅かに細い息を立てて動かなくなる。
「ガルゥ……」
「ひいいいい……!!!」
少年は投げ飛ばした少年の後ろにいた、他の少年達を睨む。皆それぞれ獣の耳や尻尾を生やしていた。
「グオオオオオ……!!!」
赤い目に黒い兎耳の少年は咆哮を突き上げて、その生徒達に向かって突進する――
「ほい、そこまでだ」
「ガウッ!?」
アルベルトは少年の耳を鷲掴みにし、ぐるっと回して背中を見つめる。少年は手足を必死に動かすが、それでも目の前の敵は動じない。
「ガッ……ガアアアアッ!!!」
「はいはい、落ち着けよー」
「グルアァ!!」
「兎神エオスカレ様、どうかこの暴れる子兎に導きをっ……ってなぁー」
慣れた手付きで尻尾の付け根をまさぐりだし、そこに手を当て魔力を流し込むアルベルト。
「ア……ア……」
すると少年の動きが次第に治まり、目の色も元の色であろう橙色に戻っていく。
「あ……」
「……よしっと」
少年が動かなくなったのを確認し、アルベルトは耳から手を放し身体を抱え込む。
「……ふく、しゅう……ともだち……人間……ジル……」
呼吸の中に混じった少年の言葉が、微かに聞こえた所にカイルとイズヤが駆け付けてくる。
「先輩、今のは……」
「ん、丁度いい。あの逃げようとしているガキ共捕まえてくんねえ?」
「……了解しました。イズヤ、行くぞ」
「イズヤは一応命令には従うけど事情はよくわかってないぜ!」
カイルが右手を伸ばし、手から黄色い糸を放つ。イズヤがそれを手に取り、輪にしてからぐるぐる回して飛ばしていく。
「ぎゃあ! 痺れるっ……!」
「失礼します。貴方達にはご縁はありませんが、捕まえろと命令されたもので」
「やめろ! おれ達は関係ねえ!!!」
しかし糸をほどこうとしても動けないので、結局全員がずるずると引き寄せられたのだった。
レーラとウェンディも合流し、レーラは駆け付けるやすぐに少年を寝かせて回復魔法の行使を開始。ウェンディはおろおろしていたが、ロイにどつかれて正気に戻り、壁に打ち付けられた少年達の手当てに向かった。
「さっきのイズヤの気分は荒馬に乗ってる魔物ハンターだったぜ!」
「ご苦労だった。さて、一まとめにしておきましょうか……」
「回復魔法の行使完了。後は安静にしておけば大丈夫よ」
「こっちも行使完了でっす!」
「カイルもレーラも、それからウェンディも済まない。さて」
アルベルトは少年達の前に一歩踏み出し、押し潰すように見下ろす。
「あいつに何をした? 言え」
「う……」
「暴化ってんのはなあ、大体人的要因で引き起こされるんだよ。つまりてめえらの責任だ」
「ち、ちが……」
「あいつさっき睨み付けてたぞ? それも怒れる獣の目付きだった。だから何をしたのか訊ねているんだよ」
「……」
震えが一番大きい少年が、ゆっくりと口を開く。
「……本当に!! おれ達は悪くないんだ……!! 寮の外にいたらいきなり殴りかかってきて……!! どんどん喧嘩していくうちに、目が真っ赤になって……」
「……んで、そのまま園舎まで来ちまったと」
「そ、そうだ! 最初はジル様を狙おうとしたけど、皆で庇ってなんとかこっちまで持ってきたんだ! おれ達は頑張ったんだ! だから……!」
「……ボア案件かよ畜生が……」
アルベルトが苛立ちを見せた所に、大人の獣人が数人駆け寄ってくる。恐らく魔法学園の職員だろう。
「すみません、うちの生徒がこんな……!」
「……困っている獣人を見たらお互い様。それがパルズミールの掟だろ?」
「……本当に、すみません……」
「頭下げてる暇あんなら、さっさとこいつら連れて行って補導してくれよ。俺はもう疲れた。あ、応急手当はしておいたぞ」
「そうさせていただきます。重ね重ね、ありがとうございました。ほら戻るぞ!」
獣人は兎耳の生徒や、それ以外にも怪我を負った生徒を背中に抱えて移動する。まだ動ける少年達は、アルベルトから逃げるようにそれについていった。
「カイルとウェンディは初めて見るか? さっきのやつは」
「一応話にまでは」
「……あの、めっちゃ怖かったです!! あんな温厚そうな子供が、あんなに暴れ回るんですか……?」
「そうだ。獣人っていうのはな、獣の特徴を持っている影響で素の能力が非常に高いんだ。それこそ、ナイトメア無しで奈落と渡り合えるぐらいに」
「えっ、嘘でしょ!?」
「ガチだ。ナイトメアがいないのにグレイスウィル騎士やってる俺が何よりの証拠だ。ま、ナイトメア出した方が効率がいいとされてるんだけどな……他にも地元で何人も、奈落をタイマンで消滅させた奴を知っているぞ」
「う、うわあ……怒らせたらやばいですね、獣人さんって……」
「怒らせるとさっきのように暴れてしまうってわけだな。感情が暴走してしまうと、高い能力がそれに引っ張られて制御できなくなる、その現象を暴化って呼んでるんだ」
アルベルトは改めて園舎に視線を向ける。
「ここではな、そういう力の制御の方法も教えてるのさ。自分で制御するのもそうだし、他人が暴走したらそれを抑える方法も学ぶ。魔法学園の中では暴れ回っていいから、社会に出たら暴れるなっていうのがここのコンセプトなんだ」
そう言って首をぽきぽきと鳴らす。余計に静まり返った園舎の中で、その音だけがはっきりと聞こえた。
「さて……戻ろうぜ。俺は窘めるので疲れちまった。だから休みたい」
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