ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

文字の大きさ
170 / 247
第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦

第164話 ナイトメア学の復習

しおりを挟む
 桜の花びらが芽吹きを始めた、ある四月の上旬のこと。




「よーアーサー、ボクが来てやったぜ!!」
「あ、あたしも来ちゃいました。うん」



 エリスとアーサーが暮らしている離れに、やってきたのはイザークとカタリナ。二人して手には紙束と筆記用具を携えている。


 訪問された二人はというと、今日の予定について話し合うべくリビングに集まっていた所だった。急いで寝間着から着替えて出迎える。



「おはよ~二人共。カタリナはともかく、イザークが真面目モードなんて珍しいね」
「流石にそろそろやらんと宿題がやべえ!!!」
「今になって火が付いたか。ふん……」


 紙束とペンが見えた時点で、二人が何を目的としてここにやってきたかなんて、わかり切っているようなものだ。


「オレは二人と一緒に宿題をやることに賛成する」
「わたしもいいかな~。宿題をやらないとまずいのは、こっちも同じだしね」
「おっほお!? アーサーまだ宿題終わってないのぉ!?」
「うるさいな、オレにもオレのペースがあるんだよ」


 話をしながら部屋に上がる上がられるの準備がそれぞれ進む。


「じゃあしばらく準備をするのでお待ちを~」
「折角来てくれたんだ、茶でも出すよ。セイロンでいいな?」
「ボクが苦手なの知っておいてそれか??? おん???」





 こうしてリビングの机を囲むようにして、ソファーに座って宿題を開く四人。窓の外では春の嵐に吹かれて、桜の花びらが飛び交っている。





「それで、一体何の宿題を持ってきたんだ?」
「これっすよこれ~。ナイトメア学」


 イザークが一際憂鬱そうに出した紙束は、一際分厚さと分量の多さを誇っていた。


「最初はあたしとイザークだけでやろうとしたんだけどね。でもこれだけ量があるってことは、それだけ重要ってことだから。もっと大人数で復習しようってことになったんだ」
「確かに言えてる~。ナイトメアって身近にいるから、ちゃんと知っておかないといけないんだよね」


 エリスがアーサーにちらっと視線を送る間に、カタリナの身体からセバスンが、イザークの身体からサイリがそれぞれ出てくる。

 遅れてカヴァスも出てきて、一際可愛らしく吠えた。


「ほっほっほ。二年生からは実践的な内容が増えますからな。復習は大事ですぞ、お嬢様」
「――」

「ワンワン! ワワン!」




 こうしてペンを走らせる。大半が穴埋め問題で構成されていた。




「ナイトメアは、別名騎士の夢。悪夢を意味するナイトメアとは同音異義語なので注意すべし……っと」
「『Knight』で騎士、『night』で夜。うーん、古代語難しいな!!」


「ナイトメアから見て、自身を発現させた者は主君と呼ぶ。属性や系統は主君に準ずる。これは主君の魔力を与えて発現させているのが理由……」
「系統云々の所はボクも覚えてるぜ!」
「皆と一緒に試験勉強したからな」
「え~、イザークったら試験勉強してたの? 真面目か~?」
「色々あったんすよボクにも!!」


「ナイトメアが流す血は、魔力で構成されている為幾何学模様となっているっと」
「そういや実際に見てみる授業があったっけ。オマエらそん時何してた?」

「……レポート書いてました」
「同様だ」
「そっちもそっちで大変だなあ……」



 つまみの苺をほいほい食べながら、好ペースで宿題は進む。全員がやる気になっているのが大きいだろう。



「ナイトメアの死は消滅と呼ばれる。その光景は布がほつれて糸に戻っていくようだと形容される」
「死ぬタイミングは主君の死と同一であるが、そうでないパターンも存在する……」
「主君とは別に強力な攻撃を受け続けた場合だっけか? 有り得るのかそれ?」
「可能性は低いが、無いとは言い切れない。ナイトメアは騎士と呼ばれる以上、主君を守るのが務めだからな」


 エリスを見遣り、改めてそれを自覚するアーサー。


 自分もナイトメアと呼ばれる存在である以上――それの可能性から逃れることはできないのだと。


「何だよアーサー、ナイトメアのことわかり切ったような言い方だな」
「……」
「まあいいっしょ。ボクらまだまだそんな危険性の高い場所に行くわけじゃねーし」
「でも試験勉強とかで無茶をさせても危ないって聞いたよ……?」
「わーわーわー気を付けまっす!!!」



 正体を悟られないように上手くやりつつ、宿題も上手くやっていく。



「ナイトメアは特殊な魔力結晶から生まれる魔力生命体……っと」
「魔力結晶?」
「アーサー知らねえのかよ。目には見えない魔力を冷やすだが何かして、手に触れるようにしたもの……だぜ?」
「イザーク、わからないってことはないでしょ。叙勲式やってサイリが来たんでしょ?」
「そうだけど、言って一年も前の話じゃん?」


 叙勲式は、古くは王侯貴族が騎士を任命するのに執り行った儀式。現在ではナイトメアを騎士に見立て、それを発現する儀式の名称となっている。


「特殊っていうのは、術式が予め組み込まれてるんだって。発現させた主君の肉体に入るとか、主君が危険な時は自動的に身体に入るとか」
「で、術式を組み込むのがしんどいから、生産には時間がかかるっと!」
「思い出してきたか」
「徐々に呼び起こされてきた!!」




 この宿題には、一年の復習に加え、二年で取り扱う内容の予習も含まれている。




「内部強化……」


 エリスはその穴埋めを前にして、腕を組んだ。


「内部強化なー。二年生から遂にやれるぜ」
「えーと……ナイトメアに身体に入ってもらって、特定の器官に魔力として流れてもらうんだよね」
「魔力の流れを良くしてもらうのも内部強化なんだって。ややこしいね」

「むー。ナイトメアってさ、普段は魔力になって身体に納まるじゃん」
「そうだね」
「それとはまた違う感じなの?」
「違う……って、教科書には書いてある。普通の魔力化は心臓に留まってる感じだけど、内部強化は、こう、その部分に魔力が行ってるーって感じ……?」


「まっ、とにかくそれができれば劇的な身体強化が見込まれる! アーサー、こっちこい?」
「何だ」



 イザークが拳を突き合わせていたので、アーサーは掌を差し出す。


 すると予想通りにパンチが飛んできた。至って普通の威力の、何の変哲もないパンチだ。



「ってぇー……」
「何故イザークの方が痛がっている」
「いやさ、今ちょろっとやってみたんだよ。内部強化。でも上手くいかなかったなー」


 サイリがイザークの身体から出てきて、上手くいかないなあとばかりに首を振る。


「今はサイリに拳に向かって流れてもらうようにしてもらった。んだけど、ムラがありすぎて力が分散しちまった」
「成程……肉体に追加で流れる魔力を制御する必要があるのか」
「そういうこと。結構負担が大きいから、授業でやるのは二年生以降。それで、これはもうナイトメアが必要になってくるとは思うんだけど……」


 続きの言葉を察して、カタリナから視線を外すエリス。


「わ、わたしのナイトメアは恥ずかしがり屋なんで。それにアーサーもカヴァスがいるしね」
「……あ、そっか。アーサーはともかく、エリスはそうだったね」
「ワンワン~!」
「忘れられていて若干不貞腐れてるな」
「ごめんね……」

「っていうか家にまで来たんだから、ボクらもエリスのナイトメアにお目にかかれるんじゃねー?」
「本当の本当に恥ずかしがり屋なの。もうひどすぎて、人前に滅多に出てこないんだよ。今もわたしの部屋でびくびくしてるんだから」
「あ、そっすか……」




 次第に問題の内容は、理論的なものから歴史的なものに移っていく。




「現在の形のナイトメアが広まったのは、帝国が王国になってから」
「当時貴族にしか教えられてなかった魔力結晶の製造過程が、賠償って形で公開されたんだよね」


 六十年も経てば世界中に広まるには十分だった模様。


「昔は偉い人しか発現できなかったなんて、それこそ本当の騎士みたいだね」
「一方で『使い魔』なんて表現もあるけどな。人外が大半だしそりゃそうか」



「んで、その貴族特権を遡っていくと出てくるのが~」
「原初のナイトメア、騎士王アーサー……」


 ご丁寧に壁画の模写や絵巻物の抜粋も一緒に描かれている。


「昔々聖杯を守護した騎士が魔力生命体で、それを元にして改良版が続々生まれていったと」
「彼の活躍をまとめたのが、騎士王伝説と呼ばれる物語群。正直創作じゃないかって説もあるけど……でも、ナイトメアはここにいる」



 騎士王がいなければ、現在のイングレンスには、一個人に仕える騎士なんて存在は生まれていなかった。

 ナイトメアは逆説的に、騎士王の存在を証明している――



「何でも願いを叶える聖杯なんて、そっちも本当に存在したのかな」
「騎士王よりも確証があるレベルでそっちは証明されてるっぽいぜ。何でもやっべー魔力が付着していたんだそうだ」
「魔力が? ……ふうん」





 アーサーはこの間、手を顔面で組んで考え事をしていたが、

 それがたった今終了し、一言切り出した。


「イザーク、カタリナ……あんた達は」

「騎士王伝説に出てくる騎士王について、どう思っている」




 エリスは若干呆気に取られた表情で、三人の会話に耳を傾ける。


「ん~? 別に何とも思わねえけど……オマエの目が明確な答えを求めてそうだから考えるわ」
「……」


 カタリナにも同様の視線を向けるアーサー。


「どう思うって言われても……例えば、もしも目の前にいたらって意味でもいいの?」
「構わない。何か思う所があるなら教えてほしい」
「……うん。そうだなあ……」



 一呼吸置いてからカタリナは続ける。



「凄い人なんだなって思うよ。あたしには成し得ないような冒険を沢山してきて……現実にいたら萎縮しちゃうかも」

「遠く手の届かない存在、って感じなのかな……」


 カタリナが言葉を切ると、すかさずイザークが割り込んでくる。


「ほーい、考えまtkまったんで行きまーす。先ず前提なんだけど、大体出てくる騎士王って少年だろ」
「そうだな」


「そこで思ったのは、まだまだ子供なのに重いもん背負わされて大変だなー……と」


 アーサーが目を丸くするのもお構いなしに、イザークは続ける。


「ボクは何だかんだで、気ままに勉強して遊びまくる今の生活が楽しいからさ。その分だけこういうこと思っちまうんだわ」

「騎士王ももしかしたら、ボクらみたいに勉強して課外活動もして、魔法学園に通いたかったんじゃねーかなー……ってさ」



 そこまで言うとイザークはソファーの背もたれに寄りかかる。



「ああもう、真面目なこと言うのはやっぱガラじゃねーわ。どうだ? アーサー満足したか?」

「……十分だ。急に訊いて悪かったな、二人共」
「全然大丈夫。寧ろアーサーがそういうこと訊いてくるなんて、珍しいね」
「おセンチにでもなったんか~? はははっ」



 三人は笑いながら一斉に宿題に視線を落としたので、エリスも慌ててそれに続く。



(……ハインリヒ先生の研究だってまだ途中だし)

(アーサーの知らないことはたくさんある……そして、どうしてわたしの所に来たのかも)

(うーん、考えることが多い……)



「でも苺は美味しい」
「どういう意味の『でも』だよエリス。ちょっと、ボクにもくれや」
「あたしも苺食べるー」
「オレも貰おうか」

「ワンワン! ワオーン!」
「――」
「エリス様、我々にも分けてくださると大変喜びます」

「いいよいいよ~。みんなで食べて、ペンドラゴンさんの評判を広めていこう」




 少女と少年の出会いから一年。二人で過ごす日々はこれから二年目。

 大半の未知が既知に変わった年月を、果たしてどのように過ごしていくのか――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

異世界に転生したので錬金術師としてダラダラ過ごします

高坂ナツキ
ファンタジー
 車道に飛び出した猫を助けた吾妻和央は車に轢かれて死んでしまった。  気が付いたときには真っ白な空間の中にいて目の前には発光していて姿形が良くわからない人物が。  その人物は自分を神と名乗り、主人公を異世界に転生させてくれると言う。  よくわからないけれど、せっかく異世界に転生できるのならと、元の世界ではできなかったことをしてダラダラ過ごしたいと願う。  これは錬金術師と付与魔術師の天職を与えられた男が異世界にてだらだら過ごすだけの物語。 ※基本的に戦闘シーンなどはありません。異世界にてポーションを作ったり魔導具を作ったりなどの日常がメインです。 投稿開始の3日間、1/1~1/3は7:00と17:00の2回投稿。1/4以降は毎日7:00に投稿します。 2月以降は偶数日の7:00のみの投稿となりますので、よろしくお願いします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ
ファンタジー
東京・渋谷から少し外れた路地の奥、築五十年のビルの地下一階。看板は小さく、知っている人しか辿り着けない。  カウンター八席、テーブル二卓。深夜零時から夜明けまでの営業。 ルーカス(本名:ルカシュ・ヴァルド)  異世界の小さな王国の第三王子として生まれたが、王位継承争いに巻き込まれ、魔法陣の暴走によって現代日本に転移してきた。外見は三十代前半の白人男性。銀灰色の髪と、光の加減で金色にも見える瞳を持つ。日本語は「声の魔法」で習得した。  他人の「最も深い渇望」が視える力を持つ——それは意識的な欲求ではなく、本人すら気づいていない魂の底の叫び。酒や料理を通じてその渇望に応える。  自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。

手折れ花

アヒル
恋愛
王族から見捨てられ、とある村で暮らしていた第四王女だったが……。 侵略した王子×亡国の平凡王女のお話。 ※注意※ 自サイトでボーイズラブとして書いたお話を主人公を女の子にして加筆したものです。 (2020.12.31) 閲覧、お気に入りなど、ありがとうございます。完結していますが、続きを書こうか迷っています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

処理中です...