ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦

第191話 騎士様と実践訓練・前編

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 というわけで、騎士団寮の前の広場が空けられ、正円状に場所が確保される。

 中央にカイルとイズヤ、ダグラスとマベリが立つ。デューイは円の外に出て、片側に重心をかけながら立っている。




「では再度条件を確認しますね。制限時間は十分です」

「その間に俺達に膝を付かせることができればお前らの勝ちだ! 何でも使ってきていいからな!」

「イズヤは舌を出して右目の下あたりを右手で引っ張るぜー! やれるもんならやってみろと煽るぜー!」

「タイムキーパーはオイラが担当するヨン。あと戦闘続行の可否もナ~」




 カイルが身に着けているのは、よく磨かれた鉄の鎧と兜。その肩にはグレイスウィルを象徴する赤薔薇の紋章が刻まれている。左手には小さい盾、右手には細身の剣。足元をイズヤがスキップに似た動きで歩き回っている。


 一方のダグラスも鉄の鎧だが、右手にはどっしりと大盾が構えられている。左手に握られているのはやや小振りな斧で、それを片手で器用に回している。大柄な体格も相まって厳つい雰囲気ではあるが、彼の身体をゆったりと這い付くマベリによって多少は緩和されている。




 背中合わせに立ち、互いに預け合うように立つ二人。


 いつの間にか集まってきた観客達も、その姿に魅了されている。




「へへっ……今こそ訓練の成果を見せる時だ!」
「相手はかなりの強敵だ。油断はするなよ、クラリア」


「……うう。どきどきする。研鑽大会、同じ……」
「それならやることだって同じだ。ただ敵の動きを見切って、勝つ!」


「――」
「何だよサイリ!? そんなボクのことが心配か!? へーきだって、死にはしねーから!」


「ワンワン! ワンワンッ!」
「そうだな……なるべくイザークを援護するように……だな」




 円周上の四ヶ所に立つアーサー、イザーク、ルシュド、クラリア。その隣に待機するカヴァス、サイリ、ジャバウォック、クラリス。持っているのは木製ではなく、青銅製。


 つまり多少は切れ味が上がっている。最も相手は鉄を纏っているので木製では傷を負わせられない。それでも衝撃の度合いは変わらないが。




「準備もできたようだし行くぜェ。三、二、一……」

「始めッ!!」



 研鑽大会の時と全く同じ、角笛の音が木霊する。





「――オオオッ!!」



 音が鳴り止むのとほぼ同じタイミング。

 ルシュドが地面を蹴り付け、一気に間合いを詰める。



「ガァッ!!」
「よぉっ……!」



 右手を真っ直ぐ突き出し、ダグラスの身体に向かって一撃を入れようとする。

 そうして感じたのは身体に当たる感触ではなく、堅い物に跳ね返される感触。



 ダグラスはルシュドとの間合いに間に大盾を突っ込み、攻撃を弾き返していた。



「これは中々の――」
「おらあああああ!!!」
「――!!」


 右から飛んでくる雄叫び。素早く向き直ると、クラリアが斧を振りかぶって落ちてこようとしていた。


「――どぅりゃぁ!!」
「があっ!?」



 ダグラスは地面に置いて弾いた大盾を、今度は上空に向かって突き上げた。

 クラリアの斧が弾かれ地面に落ちる。彼女は背中から地面に打ち付けられたが、すぐに立ち上がって斧を回収する。



 ふとルシュドの方を振り返ると、大盾を持ち上げられる程の腕力に驚いているようだった。

 しかしそれも一瞬で、ダグラスと目が合うとすぐに構えを立て直す。




(なーるほどなぁ……戦いの癖が読めてきた。んじゃあそっちの二人は頼むぜ!)


(ええ、任せてください)




 後ろを僅かに振り向き、ニメートル後ろで立っているカイルに、視線だけで合図を送るダグラス。




「さて……前置きはこれぐらいにしましょう。次の手をどうぞ」
「くぅ……」
「……」



 盾を持つ左手を身体に寄せ、右手の剣を身体の前に引き寄せ真っ直ぐ突き立てる。そしてこちらもまた、剣の如く鋭い瞳で二人を見据える。


 片やイザーク、既に肩で息をしている。態勢もかなり前屈みで、何とか呼吸を取り戻そうとしていた。サイリは彼の後ろでずっと待機している。


 片やアーサー、まだ余裕といったところか。目をぐるぐる動かして必死に自分の動きを観察しようとしているのが窺える。



(二人はまだナイトメアとの戦い方を心得ていないとイズヤは推測するぜ)
(そうだな。イザーク殿は既に勝てないと思っているだろう。ナイトメアに頼れば勝ち筋はまだあるんだけどな。アーサー殿はまだ情報が足りないが、彼のナイトメアが身体に入っているにも関わらず動く様子が見られない。元々からこのような戦い方をしてきたのだろうな)


(……だったらイズヤ達が教え込んでやることを提案するぜ)
(俺も同感だ。昔はこうして訓練を重ねてきた――模擬戦の中で身体の使い方を学ぶ)


(……こちらから動くぞ)




 右足から踏み出して、大股三歩で一気に詰め寄る。対象はイザークの方だ。




「……っ!」



 彼は急に動くと思っていなかったのか、顔が引き攣る。

 お陰で構えも満足に取れていない。咄嗟に回避行動も行えないだろう。



「失礼――」
     「――させるかっ!!」



 アーサーの声と共に、自分の一撃は弾かれる。



「……先に行ってよかったんじゃ、なかったんですか」
「煮えを切らしました。相手の出方を窺いすぎて、手を打たないそちらが悪い」
「っ……」


 剣を身体の右に戻して、再び対象を見据える。


 アーサーは自分とイザークの中に割って入り、庇うように立っている。ありがとうとイザークがもぞもぞと言うのが見えた。




(……戦うことに慣れていないのだろうとイズヤは追加の推測をするぜ。そしてアーサーがイザークを庇うのは友達だからで、無理をさせたくないと思っているからだと更にイズヤは考えるぜ)


(……甘いな)
(イズヤも同感だぜ)


(……しかし、俄然燃えてきた)
(イズヤはもう燃え尽きそうだぜ)



 二人を見据えるカイルの顔からは、微笑が消え失せ冷然満ちる――





「キャー!! カイル様ー!! かっこいいー!!」
「もっと汗をお流しになられてー!! キャー!!」
「ちょっとあんた!! 今私のこと押したでしょ!!」
「何よそっちこそ難癖つけて!!」



 騎士団寮の入り口付近に続々と集結する女性騎士の皆さん。エリスはデューイの真後ろで、試合よりもそちらに気を取られてしまっていた。



「……何というか、凄い、ですねえ……」
「カイルの野郎はメチャクチャモテるんだよナ。オイラもわかるぜェ、目鼻立ちがすっきりしてるもン。丸刈りじゃなかったら男からもモテてただろうなァ」
「へぇ……丸刈りじゃないカイルさん、ちょっと気になるかも」
「本人曰く髪の手入れがメンドクサイんだとヨ。それが変わんねー限りまあ無理だろうなア」


 そこに詰め寄る新たなる客人。


「こっち! こっちだよロイ! こっちに行けばカイル君の顔がもっと近くにぃぃぃぃ……!」
「アホーッ!! 耳引っ張んじゃねえーッ!!」

「あらまあ、災難やのう」
「その声はチェスカ!?」
「んえぇ!? 何でレベッカもこっちに来てるのよぉぉぉ!?」
「一人抜け駆け、何て行いが許されるとでも~? バカッ!」



 片方の女性の声に、聞き覚えがあったのはエリスとリーシャ。思わず声のする方向に振り向いてしまう。



「……ウェンディさん!?」
「あ! 誰かと思ったら一緒にガトーショコラ作った子だ! 久しぶりだね!」
「ふうん、ウェンディの知り合いねえ……」


 にやりと笑うと八重歯がきらりと輝く。ペパーミントグリーンのボブカット、そこに輝くオレンジ色の瞳。隣のアルミラージも妖しく笑っている。


「私はレベッカよ。この鉄砲玉とは何の不幸か同期になっちゃったのよね~。まあ、これも何かの縁だし、よろしくねっ♪」
「不幸って何のつもりよー!!」

「まあまあ落ち着いて。ウェンディさんにレベッカさん、二人で一緒に観ましょうよ? ねっ?」
「うっ、うちは……エリスちゃんがそう言うなら構わないけど……」
「私は子供風情に流される大人ではないわ! ウェンディ、今すぐここを去りなさい!」
「やだ!!」
「何よ駄々をこねて! いいわよ、そこまで言うなら力づくで――」



「「うるせえ今いい所なんだよ!!!」」



 サラとハンスの罵倒が同時に飛んでくる。エリス達三人ははっとして二人の方を振り向く。


 二人の眼差しは真剣そのものであった。



「……アナタ達ねえ、しっかりと試合観ておきなさいよ。今凄くいい所よ……?」
「そうだそうだ。ちゃんと観てやれよ……でないとルシュドが可哀想だろうが!!」






(……!?)


 ダグラスに伸ばした手が中途半端な所で止まる。


(おれ……かわい、そう……?)



 そこに生まれた隙を見逃す騎士ではない。



「ああっ……!!」



 勢いよく振るった斧の一撃が腹に入る。


 ルシュドは弱々しい声を出して飛ばされてしまう。




「……どうした? 気になることでもあったか?」


 大盾を構えながら様子を見る。傷跡を押さえながら、ジャバウォックが治療を行っている。怪我の程度は浅く、彼ならまだ戦えるだろう。


 しかし先程とは違って目が泳いでいる。動揺している証拠だ。


(――?)
(これは……霧か? 大気中の水分が冷やされて液体になっていく……)

(!)
(そうだな……カイルの奴、本気を出してきたようだ)
(――! !――)
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