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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦
第192話 騎士様と実践訓練・後編
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「くっ……!!」
「何処を見ているッ!」
「がっ……!」
徐々に視界が白くなり、顔を上げていては見える物はほとんどない。
自分がどこに立っているかもわからないまま、じわじわとカイルの攻撃が飛んでくる。
一撃一撃が重く感じる。飛び跳ねて、屈んで、かわしていくのが精一杯だ。
その様子をひしひしと感じながら、カイルは呟く。
「さて、これでは助けにも入れはしませんね。どうしますか?」
「ぐっ……」
アーサーは神経を研ぎ澄まし、カイルの位置を探る。
現在は二時の方角、そこから更に剣を振るう音が聞こえる。
直後に、身体に何かがぶつかる鈍い音もした。イザークの一撃が命中したのだろう。
(ワンワン……!)
(そうだ……さっきからカイルさんの声はするのに、イズヤの声が全くしない。オレ達を煽ってきそうなものだが……)
「……くっ!」
足の健を狙い、低めの剣戟が入ってくる。アーサーは飛び退いて躱すが、着地した所でカヴァスが悲鳴を上げる。
「キュウン!!」
「……っ! すまない! 尻尾踏んだな!」
「くっくっく~。視界が悪いと何にもできないことはイズヤにはお見通しだぜ!」
「……! どこに……」
「このままじゃつまらないから、イズヤはちびっ子共にサービスしてやることにしたぜ。実はこの霧はイズヤの魔法で生み出しているんだぜ」
「そしてイズヤはカイルのナイトメア。この状況どうすればいいか、その頭で考えてみることをイズヤはお勧めするぜー!」
かっかっか、という甲高い声の高笑いが聞こえた後、
「くはっ……!?」
霧の一部が氷の棘と化し突き刺ってくる。
傷跡を確認する前に、棘は大気に溶けて水に戻る。傷口に水がかかって、じんじん痛む。
(クソッ……このままじゃ埒が明かねえよ! どうすれば……)
(……)
(……ナイトメア? サイリにどうにかしてもらえば……?)
「――サイリ!」
「――」
「オマエこの状況何とかできない!?」
「……」
「え、ぐ、具体的にって……あーっと……えーっと……」
指示を考えていると、足元が疎かになる。
氷の棘と剣の一撃が、今度は脹脛に切り傷をつけていった。
「いっでえ……!!」
「――!!」
「ああもう……いいや! 適当に身体強化でもしてよ!! 授業でやり立てだけど、ノリだノリ!!!」
「――」
サイリは静かにイザークの中に入り、直後彼の身体が僅かに光る。同時に足が軽くなっていく。
心なしか霧も晴れていく。まだ薄らではあるが、カイルの姿を捉える。
「よっ……しゃああああ!! まだ行ける!! まだ行けるはずだ!!」
(……気付いたか。どうやら戦闘の中で、考えられる程度に落ち着いてはいるようだ)
(カイルに頼まれた通り、ナイトメアによる身体強化で視界が晴れるようにイズヤは仕込んでおいたぜ)
やり取りの最中、間合いを詰めてきたイザークの一撃を、ひらりと躱すカイル。
「おわわわっ……!?」
「ふんっ!」
カウンターの要領で、剣峰で鳩尾を突く。顔から倒れ込む姿がばっちりとカイルの視界に入った。
「がーっ!! 痛え……!! な、何でだよ……!? サイリに頼んで、強くしてもらったはずなのに!!」
「その答え、残りの時間で得られるといいですね」
再びイザークに向き直ったその時――
「――くっ」
「おわっ!?」
背中合わせに誰かとぶつかる。そして、
「目標はこっちだな!? 行くぜえええええ!」
「――よっと!」
振り下ろされる斧の一撃。それを一旦盾で受け止め、
抑えきれなくなった所で右に飛び退く。
「逃げただと!? くっそぉー……どこだー!! ダグラスさーん!!」
先程クラリアが来たのは十時の方向から。今度彼女が向かって行ったのは、八時の方角だった。
(……あの一撃。ナイトメアによる身体強化が入っていたな。ならば霧の影響は軽いはず……)
(……ダグラス。貴方も本気を出してきたようですね)
心臓が早く、激しく動く。
頭を回し、耳と目を研ぎ澄まし、腕を一心不乱に動かす。
それでも心は落ち着かない。
「ああ……!! ああああ……!!」
「ルシュド、落ち着け! くっそぉ……」
ジャバウォックが火を吐き、足元を掃除するように安全を確保していく。
「ほらほら、どうした? 俺はここにいるぞ?」
「ほらほら、どうした? 俺はここに」
「ほらほら、どうした?」
「どうした?」
「ほら?」
「ああああああああああああ!!!」
攻撃して倒したはずなのに、また聞こえてくる声。耐え兼ねて慟哭の声を出してしまう。
「お……落ち着け、おれ……!」
「そうだルシュド! 一体ずつ確実に倒していけば、いつかは本体にっ……!?」
……よ……こだ……
「え……?」
横だ……
「ハンス……?」
――横だ! きみの右手の方向! そっちに真っ直ぐ行けば、本体はいる――!
「……坊ちゃん、随分と威勢のいい声出すねェ」
「黙れ!! こうでもしないと聞こえんだろうがよ!!」
「しかし部外者が口を挟むのは妨害行為に値するんでネェかい?」
「知るかよ!! こっちはルシュドの勝敗が懸かってるんだぞ!!」
腕を組み、左足を揺すりながら試合を見守るハンス。珍しくシルフィが身体の外に出て、ハンスに向けて魔力を供給している。
「凄い……」
「凄いわね……」
「え……?」
「あんなに本気を出したカイル君、初めて見たかも……」
「わ、私は噂に聞いていたけどね。訓練の時のカイルは物凄い真剣で、団長にも匹敵する程だって」
「そうなんですか……」
ウェンディとレベッカの話を聞きながら、エリスは必死に目を凝らす。
「赤い髪のお嬢サン。この霧はナイトメアにちょちょいと魔力を投入してもらえば、あっちゅー間に見えるゼ。他のお嬢サン方もそうしてるだロ?」
「あーっと……わたし、ナイトメアが……」
「いないのカ? 学生なのニ?」
「うう……」
「おっと、済まねえナ。オイラも発現すらしてねえかラ、とやかく言うことではねえナ」
「それなら私に任せて! ロイ!」
「うおらっしゃーーーー!!」
ロイが雄叫びをあげると、エリスの中に奇妙な感覚が走る。それは妙にもさもさしていた。
「な、何かくすぐったいですぅ……」
「そいつはどうにもならねえな!! ワイはコボルトだからな!!」
「うう、でも……何とか見えてきて……あ!」
「アーサーが……!」
相手は戦場に身も投じたことのない子供達。それは頭の中で理解していた。
だからあえて試練を与え、自分で答えを導き出せるように仕向けた。現にイザークは自分が思った通りに動いてくれている。
しかし、もう片方は――
「ふんっ!」
「たあ――っ!」
鉄と青銅が交わる。細く鋭い音が響き、火花が散った。
勢いで弾き飛ばされ、間合いが開く。互いの記憶が正しいなら、こうして間合いが空くのは六回目だ。
「……その実力、隠していましたね? やはり霧を展開して正解だったようだ。貴方とこうして剣を交えることができるだなんて」
カイルの賞賛に対し、アーサーは切っ先を向けて返す。
「もう一つ。気付いているかもしれませんが、この霧はナイトメアに何らかの魔法を行使してもらわないと晴れないようになっています。貴方は自分のナイトメアに何をしてもらってますか?」
「――秘密です」
「それは、それは。結構なことで――!」
身体を前に倒し、間合いを詰めてくるのはカイル。
アーサーは逃げることなく、剣を手に迎え撃つ。またしてもかち合う音が鳴る。
「ふんっ!」
「はっ――」
「くそっ! またか……よぉっ!」
「よぉっ」
イザークもイザークで、アーサーが剣を交えている隣で、カイルを相手取って悪戦苦闘。
当たらない拳を振るい、攻撃を躱す。たまに失敗して、着実に切り傷が増えていく。
「くっそぉー……何で当たんないんだ……ぜぇ……」
「……大分疲弊しているようですね。もう休みますか?」
「いや……まだだ! まだ行けます!」
「ああ、大変威勢がよろしい――」
「圧倒的な力に、力を求める姿勢。自分はどちらも好いていますよ――
――なあんて、我が主君だったら言うんだろうなあって、イズヤは推測するぜ!」
(!?)
イザークが相手にしていたカイルが、にちゃりと笑ってから、飛び上がり空中で一回転。
その身体は着地するかと思うと――霧に溶け込み、氷と化した。
「がっ……! 偽物……!?」
「さあて、イズヤはそろそろ仕上げにかかるとするぜ。本物のカイル、こっから見つけてみな!」
イザークの視界に吹雪が舞う。ごうごうと吹雪く風の音も追加され、まるで彼の世界だけ切り離されたようで。
(ぐっ……!)
(――)
(わーってる……! 頼むぞ、サイリ……!)
サイリによる魔力で強化された足で、風に吹き飛ばされまいと踏ん張る。
(研ぎ澄ませ……研ぎ澄ますんだ……そうすればどっかに……!)
(……)
(……)
キィン
(……!)
カァァァァン
(この音は……!)
――くっ!
休む暇は、ありませんよ――!
(こっちか――!)
その方向に一気に駆け出し、そして――
「おらあああああっ!!」
飛び上がって、下に向かって拳を振り下ろす。
「来ましたか……!」
カイルは咄嗟に振り向き、盾で弾き返す。
しかし無理があったようで、右に重心をずらしてしまう。
「――ふんっ!」
「おおっとぉ!」
すかさず入るアーサーの一撃。すんでの所で氷の棘が防ぐ。
「サイリィ! 全力出せ! 一気に詰め寄る!」
「――」
瞬刻、稲妻のような物が見えたかと思えば――
「オラァァァァ!!」
「くっ……!!」
素早く、重く、何よりも確実に狙いを定めた、イザークの連打が襲ってくる。
盾と剣を用いて弾き返すが、ほんの少し、少しだけ、相手の速度の方が上回っている。
「とうっ!」
「――!」
それにアーサーも加わった。連打の間に生み出された僅かな隙を狙って、鋭い剣の攻撃が入る。
「へへっ……これには敵わないだろ!」
「ああ、一気に詰めるぞ!」
「「この戦いオレ達の、
ボク達の勝利だ――!!」」
「何処を見ているッ!」
「がっ……!」
徐々に視界が白くなり、顔を上げていては見える物はほとんどない。
自分がどこに立っているかもわからないまま、じわじわとカイルの攻撃が飛んでくる。
一撃一撃が重く感じる。飛び跳ねて、屈んで、かわしていくのが精一杯だ。
その様子をひしひしと感じながら、カイルは呟く。
「さて、これでは助けにも入れはしませんね。どうしますか?」
「ぐっ……」
アーサーは神経を研ぎ澄まし、カイルの位置を探る。
現在は二時の方角、そこから更に剣を振るう音が聞こえる。
直後に、身体に何かがぶつかる鈍い音もした。イザークの一撃が命中したのだろう。
(ワンワン……!)
(そうだ……さっきからカイルさんの声はするのに、イズヤの声が全くしない。オレ達を煽ってきそうなものだが……)
「……くっ!」
足の健を狙い、低めの剣戟が入ってくる。アーサーは飛び退いて躱すが、着地した所でカヴァスが悲鳴を上げる。
「キュウン!!」
「……っ! すまない! 尻尾踏んだな!」
「くっくっく~。視界が悪いと何にもできないことはイズヤにはお見通しだぜ!」
「……! どこに……」
「このままじゃつまらないから、イズヤはちびっ子共にサービスしてやることにしたぜ。実はこの霧はイズヤの魔法で生み出しているんだぜ」
「そしてイズヤはカイルのナイトメア。この状況どうすればいいか、その頭で考えてみることをイズヤはお勧めするぜー!」
かっかっか、という甲高い声の高笑いが聞こえた後、
「くはっ……!?」
霧の一部が氷の棘と化し突き刺ってくる。
傷跡を確認する前に、棘は大気に溶けて水に戻る。傷口に水がかかって、じんじん痛む。
(クソッ……このままじゃ埒が明かねえよ! どうすれば……)
(……)
(……ナイトメア? サイリにどうにかしてもらえば……?)
「――サイリ!」
「――」
「オマエこの状況何とかできない!?」
「……」
「え、ぐ、具体的にって……あーっと……えーっと……」
指示を考えていると、足元が疎かになる。
氷の棘と剣の一撃が、今度は脹脛に切り傷をつけていった。
「いっでえ……!!」
「――!!」
「ああもう……いいや! 適当に身体強化でもしてよ!! 授業でやり立てだけど、ノリだノリ!!!」
「――」
サイリは静かにイザークの中に入り、直後彼の身体が僅かに光る。同時に足が軽くなっていく。
心なしか霧も晴れていく。まだ薄らではあるが、カイルの姿を捉える。
「よっ……しゃああああ!! まだ行ける!! まだ行けるはずだ!!」
(……気付いたか。どうやら戦闘の中で、考えられる程度に落ち着いてはいるようだ)
(カイルに頼まれた通り、ナイトメアによる身体強化で視界が晴れるようにイズヤは仕込んでおいたぜ)
やり取りの最中、間合いを詰めてきたイザークの一撃を、ひらりと躱すカイル。
「おわわわっ……!?」
「ふんっ!」
カウンターの要領で、剣峰で鳩尾を突く。顔から倒れ込む姿がばっちりとカイルの視界に入った。
「がーっ!! 痛え……!! な、何でだよ……!? サイリに頼んで、強くしてもらったはずなのに!!」
「その答え、残りの時間で得られるといいですね」
再びイザークに向き直ったその時――
「――くっ」
「おわっ!?」
背中合わせに誰かとぶつかる。そして、
「目標はこっちだな!? 行くぜえええええ!」
「――よっと!」
振り下ろされる斧の一撃。それを一旦盾で受け止め、
抑えきれなくなった所で右に飛び退く。
「逃げただと!? くっそぉー……どこだー!! ダグラスさーん!!」
先程クラリアが来たのは十時の方向から。今度彼女が向かって行ったのは、八時の方角だった。
(……あの一撃。ナイトメアによる身体強化が入っていたな。ならば霧の影響は軽いはず……)
(……ダグラス。貴方も本気を出してきたようですね)
心臓が早く、激しく動く。
頭を回し、耳と目を研ぎ澄まし、腕を一心不乱に動かす。
それでも心は落ち着かない。
「ああ……!! ああああ……!!」
「ルシュド、落ち着け! くっそぉ……」
ジャバウォックが火を吐き、足元を掃除するように安全を確保していく。
「ほらほら、どうした? 俺はここにいるぞ?」
「ほらほら、どうした? 俺はここに」
「ほらほら、どうした?」
「どうした?」
「ほら?」
「ああああああああああああ!!!」
攻撃して倒したはずなのに、また聞こえてくる声。耐え兼ねて慟哭の声を出してしまう。
「お……落ち着け、おれ……!」
「そうだルシュド! 一体ずつ確実に倒していけば、いつかは本体にっ……!?」
……よ……こだ……
「え……?」
横だ……
「ハンス……?」
――横だ! きみの右手の方向! そっちに真っ直ぐ行けば、本体はいる――!
「……坊ちゃん、随分と威勢のいい声出すねェ」
「黙れ!! こうでもしないと聞こえんだろうがよ!!」
「しかし部外者が口を挟むのは妨害行為に値するんでネェかい?」
「知るかよ!! こっちはルシュドの勝敗が懸かってるんだぞ!!」
腕を組み、左足を揺すりながら試合を見守るハンス。珍しくシルフィが身体の外に出て、ハンスに向けて魔力を供給している。
「凄い……」
「凄いわね……」
「え……?」
「あんなに本気を出したカイル君、初めて見たかも……」
「わ、私は噂に聞いていたけどね。訓練の時のカイルは物凄い真剣で、団長にも匹敵する程だって」
「そうなんですか……」
ウェンディとレベッカの話を聞きながら、エリスは必死に目を凝らす。
「赤い髪のお嬢サン。この霧はナイトメアにちょちょいと魔力を投入してもらえば、あっちゅー間に見えるゼ。他のお嬢サン方もそうしてるだロ?」
「あーっと……わたし、ナイトメアが……」
「いないのカ? 学生なのニ?」
「うう……」
「おっと、済まねえナ。オイラも発現すらしてねえかラ、とやかく言うことではねえナ」
「それなら私に任せて! ロイ!」
「うおらっしゃーーーー!!」
ロイが雄叫びをあげると、エリスの中に奇妙な感覚が走る。それは妙にもさもさしていた。
「な、何かくすぐったいですぅ……」
「そいつはどうにもならねえな!! ワイはコボルトだからな!!」
「うう、でも……何とか見えてきて……あ!」
「アーサーが……!」
相手は戦場に身も投じたことのない子供達。それは頭の中で理解していた。
だからあえて試練を与え、自分で答えを導き出せるように仕向けた。現にイザークは自分が思った通りに動いてくれている。
しかし、もう片方は――
「ふんっ!」
「たあ――っ!」
鉄と青銅が交わる。細く鋭い音が響き、火花が散った。
勢いで弾き飛ばされ、間合いが開く。互いの記憶が正しいなら、こうして間合いが空くのは六回目だ。
「……その実力、隠していましたね? やはり霧を展開して正解だったようだ。貴方とこうして剣を交えることができるだなんて」
カイルの賞賛に対し、アーサーは切っ先を向けて返す。
「もう一つ。気付いているかもしれませんが、この霧はナイトメアに何らかの魔法を行使してもらわないと晴れないようになっています。貴方は自分のナイトメアに何をしてもらってますか?」
「――秘密です」
「それは、それは。結構なことで――!」
身体を前に倒し、間合いを詰めてくるのはカイル。
アーサーは逃げることなく、剣を手に迎え撃つ。またしてもかち合う音が鳴る。
「ふんっ!」
「はっ――」
「くそっ! またか……よぉっ!」
「よぉっ」
イザークもイザークで、アーサーが剣を交えている隣で、カイルを相手取って悪戦苦闘。
当たらない拳を振るい、攻撃を躱す。たまに失敗して、着実に切り傷が増えていく。
「くっそぉー……何で当たんないんだ……ぜぇ……」
「……大分疲弊しているようですね。もう休みますか?」
「いや……まだだ! まだ行けます!」
「ああ、大変威勢がよろしい――」
「圧倒的な力に、力を求める姿勢。自分はどちらも好いていますよ――
――なあんて、我が主君だったら言うんだろうなあって、イズヤは推測するぜ!」
(!?)
イザークが相手にしていたカイルが、にちゃりと笑ってから、飛び上がり空中で一回転。
その身体は着地するかと思うと――霧に溶け込み、氷と化した。
「がっ……! 偽物……!?」
「さあて、イズヤはそろそろ仕上げにかかるとするぜ。本物のカイル、こっから見つけてみな!」
イザークの視界に吹雪が舞う。ごうごうと吹雪く風の音も追加され、まるで彼の世界だけ切り離されたようで。
(ぐっ……!)
(――)
(わーってる……! 頼むぞ、サイリ……!)
サイリによる魔力で強化された足で、風に吹き飛ばされまいと踏ん張る。
(研ぎ澄ませ……研ぎ澄ますんだ……そうすればどっかに……!)
(……)
(……)
キィン
(……!)
カァァァァン
(この音は……!)
――くっ!
休む暇は、ありませんよ――!
(こっちか――!)
その方向に一気に駆け出し、そして――
「おらあああああっ!!」
飛び上がって、下に向かって拳を振り下ろす。
「来ましたか……!」
カイルは咄嗟に振り向き、盾で弾き返す。
しかし無理があったようで、右に重心をずらしてしまう。
「――ふんっ!」
「おおっとぉ!」
すかさず入るアーサーの一撃。すんでの所で氷の棘が防ぐ。
「サイリィ! 全力出せ! 一気に詰め寄る!」
「――」
瞬刻、稲妻のような物が見えたかと思えば――
「オラァァァァ!!」
「くっ……!!」
素早く、重く、何よりも確実に狙いを定めた、イザークの連打が襲ってくる。
盾と剣を用いて弾き返すが、ほんの少し、少しだけ、相手の速度の方が上回っている。
「とうっ!」
「――!」
それにアーサーも加わった。連打の間に生み出された僅かな隙を狙って、鋭い剣の攻撃が入る。
「へへっ……これには敵わないだろ!」
「ああ、一気に詰めるぞ!」
「「この戦いオレ達の、
ボク達の勝利だ――!!」」
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