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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦
第196話 頑張れるだけの理由
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月曜日はカイルとダグラスと行った訓練の余波で、筋肉痛が酷かったので休みにすることに。イザークが再び訓練に入ったのは、その翌日の火曜日のことだった。
「――つーわけで! 今日から訓練頑張っぞ!」
ぱんぱんとイザークの手が鳴らされる。時刻は午後四時、課外活動が始まる時間だ。
「今日のメニューは確か、ナイトメアとの戦闘訓練だったか」
「そうそう! ハインリヒ先生にも教えを乞いたんだし、これでばっちりだ!」
そう言ってメモを高々に掲げるイザーク。そこには昨日の放課後にハインリヒから訊いたことがぎっしりと書かれている。
授業のノートはほとんど白紙な癖に、こればかりは文字で敷き詰められているのだ。
「問題は場所だが。また武術部に行くか」
「いやいやそこに行ったら何をされるかわかったもんじゃ……」
そこにがらがらと音を立てて、二人の生徒が戻ってくる。
「あれ。二人共まだ残ってたんだ」
「エリスにカタリナ! どしたん?」
「んーっとね……二人共、この後は訓練だよね」
「そうだぜ! サイリと一緒にバリバリやるぜ!」
「そ、それなら提案なんだけど……」
カタリナが杖を懐から取り出しながら、口をもごもご動かす。
「ま、魔法の訓練も……いいかな?」
「え? どゆこと?」
「サラとクラリアの訓練覚えてる? サラが魔法で球体作って、ばーってやつ」
「あああれか~。かっこよかったよな」
「それと同じ感じで、わたし達もやってみようかなって」
「余裕でオッケー! いつも通りの訓練ってのもつまんないからな!」
「……いいぞ」
「ありがとっ。場所はいつもの島でどうかなって思ったんだけど……」
「おお島があったか! じゃあそこでいいじゃん!」
「ああ……」
「んじゃあ先行ってるー!!」
エリスは引き留めようとするが、イザークはそのまま出て行ってしまう。
「先にお菓子とか持って行こうかなって……思ったんだけど」
「まああいつのことだ、何差し出されても食うだろ」
それから三十分後、秘密の島に四人が姿を見せる。
「そういえば花壇の手入れもしないとなー」
「先にやっちゃおうか? 疲れてからだとあれだし」
「やっちゃうかぁー。アーサーとイザークは待っててもらっていいよ」
「わかった」
「うっす!」
エリスとカタリナは森に歩いて行き、その間アーサーとイザークは近くの石柱にもたれかかる。
「アーサー、訓練付き合ってくれてありがとうな!」
「何故今……」
「伝えたくなったからだよぉ!」
その後指を鳴らし、サイリを呼び出す。カヴァスも対応するように出てきた。
「ワン!」
「――」
「こんにちはって言ってるぜカヴァス!」
「ワンワン!」
サイリはゆっくりと頭を下げ、以降はただ佇んでいる。
「……」
「何だアーサー? サイリが気になるのか?」
「まあ……確かに気になるな」
「どの辺!?」
「サイリの戦闘能力」
肩透かしを喰らったのか、がくっとイザークが地面に落ちる。
「えぇ~……」
「えぇーでもないだろ。正直この間までは、オレはサイリのことをただの雑用係だと思っていたぞ」
「ナイトメアだぜ!? 魔法は使えるよ!」
「その魔法を使っている所を碌に見たことがないんだが……」
「それはあれだからな? 実践の時に本気出すタイプだからな?」
「そうか……」
「幻滅したように言うなよ! サイリに失礼だよ!」
「それはすまないな」
「よし許す!」
「はいはい……」
それを最後に会話は途切れる。
暖風が吹き、波が押しては引いていく。沈黙の時間が場に訪れた。
「……なあ」
「何?」
「……お前さ、その」
「なぁんだよ。ボクとオマエの仲じゃん。遠慮なく言えよ」
「……」
「お前はどうして……強くなりたいんだ?」
細い波が途切れなくやってくる横で、イザークは目を丸くする。
「いや……お前って、あまり武術に積極的じゃなかったじゃないか。オレとの訓練も、正直投げ出すようなもんだと思っていたが……結構ついてきていた。そこまでさせる理由があるのかなって……」
「……」
「……その、嫌ならいいぞ。言えない事情があるのなら詮索は……」
「……いんや」
もたれかかっていた石柱から起き上がり、海の向こうを見つめる。
「……知り合いがいるんだよ」
「知り合い?」
「ああ。その人はボクを何かと気遣ってくれる人でさ。ボクが今ここにいるのもその人のお陰……」
「……」
「……んで、その人はリネスにいることが多くてさ。対抗戦の時もいると思うから、絶対に観戦に来ると思うんだ」
「……まあなんだ! その人にボクが頑張ってる所を見せたいなって思ったんだよ! 世話になってるから! 以上!」
照れ隠しにはにかむ笑顔が、落ち行く太陽に照らされる。
「お待たせー。手入れ終わったよー」
「お疲れ! んじゃあやろうぜ!」
「はーい。アーサーもこっち来てー」
「……ああ」
海岸から視線を戻す。気が付くと他の三人は森の近くに移動していた。
「え~っと……サラに倣って風魔法にしようかな」
エリスは両手で杖を構えて、目を瞑る。
「祝歌を共に、奔放たる風の神よ――」
すると強めの風が吹いてきた。
「あ、あれ……上手くできないな?」
「あたしもしてみていいかな?」
「うーん……カタリナ、やってみて?」
「よし……」
エリスの隣にカタリナが立ち、同じように杖を構えて呪文を唱える。しかし風が吹くだけであった。
「うーん……まだまだイメージ力が足りないのかなあ」
「エリスの方が風が強かったような?」
「わたしは魔法使いだから……その影響?」
エリスとカタリナが悩んでいる所で、イザークが手を叩く。
「じゃあさ、こういうのはどうだ! 二人揃って風をびゅーびゅー起こしてもらって、そん中で訓練!」
「あ~……それでいいかな、アーサー?」
「……オレは構わない」
「うっし! サイリ、準備すっぞ!」
「――」
「カヴァス、やるぞ……」
「ワン!」
イザークとアーサーの準備が整ったのを見計らって、
「よし、せーので行くよ」
「せ、せーの……」
「祝歌を共に、奔放たる風の神よ……」
エリスとカタリナの呪文が吹き抜ける。
「おおっ……!」
「くっ……!」
木々が揺れ、石が転がっていく。髪と服が激しく乱れ、視界の邪魔をしてくる。
「ど、どうかなー? 強すぎるかなー?」
「……いや、これでいい。ナイトメアと協力しないと、耐えられないぐらいで……」
カヴァスはアーサーに、サイリはイザークに魔力を送る。しばらくすると二人はそれぞれ身体に戻っていく。
「よし……やるぞ! 先ずは素振り!」
「おっすじゃねえはい!!」
イザークは返事をしてから、すっかり身に染み付いた構えを取る。
「一……二……三……」
(その人にボクが頑張ってる所を見せたいなって思ったんだよ!)
「……いいぞ、その調子だ。三十……三十一……三十二……」
――彼には理由が、願いがあった。頑張りたいと思えるだけの。
「……折り返しだな。五十……五十一……五十二……」
――それが叶うためには、必ず対抗戦を行わなければならない。
「……気を抜くなよ。七十……七十一……七十二……」
――ならば。自分の為そうとしていること、ヴィクトールの計画が達成された時、
彼の気持ちは、一体何処に消えていく?
「――つーわけで! 今日から訓練頑張っぞ!」
ぱんぱんとイザークの手が鳴らされる。時刻は午後四時、課外活動が始まる時間だ。
「今日のメニューは確か、ナイトメアとの戦闘訓練だったか」
「そうそう! ハインリヒ先生にも教えを乞いたんだし、これでばっちりだ!」
そう言ってメモを高々に掲げるイザーク。そこには昨日の放課後にハインリヒから訊いたことがぎっしりと書かれている。
授業のノートはほとんど白紙な癖に、こればかりは文字で敷き詰められているのだ。
「問題は場所だが。また武術部に行くか」
「いやいやそこに行ったら何をされるかわかったもんじゃ……」
そこにがらがらと音を立てて、二人の生徒が戻ってくる。
「あれ。二人共まだ残ってたんだ」
「エリスにカタリナ! どしたん?」
「んーっとね……二人共、この後は訓練だよね」
「そうだぜ! サイリと一緒にバリバリやるぜ!」
「そ、それなら提案なんだけど……」
カタリナが杖を懐から取り出しながら、口をもごもご動かす。
「ま、魔法の訓練も……いいかな?」
「え? どゆこと?」
「サラとクラリアの訓練覚えてる? サラが魔法で球体作って、ばーってやつ」
「あああれか~。かっこよかったよな」
「それと同じ感じで、わたし達もやってみようかなって」
「余裕でオッケー! いつも通りの訓練ってのもつまんないからな!」
「……いいぞ」
「ありがとっ。場所はいつもの島でどうかなって思ったんだけど……」
「おお島があったか! じゃあそこでいいじゃん!」
「ああ……」
「んじゃあ先行ってるー!!」
エリスは引き留めようとするが、イザークはそのまま出て行ってしまう。
「先にお菓子とか持って行こうかなって……思ったんだけど」
「まああいつのことだ、何差し出されても食うだろ」
それから三十分後、秘密の島に四人が姿を見せる。
「そういえば花壇の手入れもしないとなー」
「先にやっちゃおうか? 疲れてからだとあれだし」
「やっちゃうかぁー。アーサーとイザークは待っててもらっていいよ」
「わかった」
「うっす!」
エリスとカタリナは森に歩いて行き、その間アーサーとイザークは近くの石柱にもたれかかる。
「アーサー、訓練付き合ってくれてありがとうな!」
「何故今……」
「伝えたくなったからだよぉ!」
その後指を鳴らし、サイリを呼び出す。カヴァスも対応するように出てきた。
「ワン!」
「――」
「こんにちはって言ってるぜカヴァス!」
「ワンワン!」
サイリはゆっくりと頭を下げ、以降はただ佇んでいる。
「……」
「何だアーサー? サイリが気になるのか?」
「まあ……確かに気になるな」
「どの辺!?」
「サイリの戦闘能力」
肩透かしを喰らったのか、がくっとイザークが地面に落ちる。
「えぇ~……」
「えぇーでもないだろ。正直この間までは、オレはサイリのことをただの雑用係だと思っていたぞ」
「ナイトメアだぜ!? 魔法は使えるよ!」
「その魔法を使っている所を碌に見たことがないんだが……」
「それはあれだからな? 実践の時に本気出すタイプだからな?」
「そうか……」
「幻滅したように言うなよ! サイリに失礼だよ!」
「それはすまないな」
「よし許す!」
「はいはい……」
それを最後に会話は途切れる。
暖風が吹き、波が押しては引いていく。沈黙の時間が場に訪れた。
「……なあ」
「何?」
「……お前さ、その」
「なぁんだよ。ボクとオマエの仲じゃん。遠慮なく言えよ」
「……」
「お前はどうして……強くなりたいんだ?」
細い波が途切れなくやってくる横で、イザークは目を丸くする。
「いや……お前って、あまり武術に積極的じゃなかったじゃないか。オレとの訓練も、正直投げ出すようなもんだと思っていたが……結構ついてきていた。そこまでさせる理由があるのかなって……」
「……」
「……その、嫌ならいいぞ。言えない事情があるのなら詮索は……」
「……いんや」
もたれかかっていた石柱から起き上がり、海の向こうを見つめる。
「……知り合いがいるんだよ」
「知り合い?」
「ああ。その人はボクを何かと気遣ってくれる人でさ。ボクが今ここにいるのもその人のお陰……」
「……」
「……んで、その人はリネスにいることが多くてさ。対抗戦の時もいると思うから、絶対に観戦に来ると思うんだ」
「……まあなんだ! その人にボクが頑張ってる所を見せたいなって思ったんだよ! 世話になってるから! 以上!」
照れ隠しにはにかむ笑顔が、落ち行く太陽に照らされる。
「お待たせー。手入れ終わったよー」
「お疲れ! んじゃあやろうぜ!」
「はーい。アーサーもこっち来てー」
「……ああ」
海岸から視線を戻す。気が付くと他の三人は森の近くに移動していた。
「え~っと……サラに倣って風魔法にしようかな」
エリスは両手で杖を構えて、目を瞑る。
「祝歌を共に、奔放たる風の神よ――」
すると強めの風が吹いてきた。
「あ、あれ……上手くできないな?」
「あたしもしてみていいかな?」
「うーん……カタリナ、やってみて?」
「よし……」
エリスの隣にカタリナが立ち、同じように杖を構えて呪文を唱える。しかし風が吹くだけであった。
「うーん……まだまだイメージ力が足りないのかなあ」
「エリスの方が風が強かったような?」
「わたしは魔法使いだから……その影響?」
エリスとカタリナが悩んでいる所で、イザークが手を叩く。
「じゃあさ、こういうのはどうだ! 二人揃って風をびゅーびゅー起こしてもらって、そん中で訓練!」
「あ~……それでいいかな、アーサー?」
「……オレは構わない」
「うっし! サイリ、準備すっぞ!」
「――」
「カヴァス、やるぞ……」
「ワン!」
イザークとアーサーの準備が整ったのを見計らって、
「よし、せーので行くよ」
「せ、せーの……」
「祝歌を共に、奔放たる風の神よ……」
エリスとカタリナの呪文が吹き抜ける。
「おおっ……!」
「くっ……!」
木々が揺れ、石が転がっていく。髪と服が激しく乱れ、視界の邪魔をしてくる。
「ど、どうかなー? 強すぎるかなー?」
「……いや、これでいい。ナイトメアと協力しないと、耐えられないぐらいで……」
カヴァスはアーサーに、サイリはイザークに魔力を送る。しばらくすると二人はそれぞれ身体に戻っていく。
「よし……やるぞ! 先ずは素振り!」
「おっすじゃねえはい!!」
イザークは返事をしてから、すっかり身に染み付いた構えを取る。
「一……二……三……」
(その人にボクが頑張ってる所を見せたいなって思ったんだよ!)
「……いいぞ、その調子だ。三十……三十一……三十二……」
――彼には理由が、願いがあった。頑張りたいと思えるだけの。
「……折り返しだな。五十……五十一……五十二……」
――それが叶うためには、必ず対抗戦を行わなければならない。
「……気を抜くなよ。七十……七十一……七十二……」
――ならば。自分の為そうとしていること、ヴィクトールの計画が達成された時、
彼の気持ちは、一体何処に消えていく?
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