9 / 10
観測者
しおりを挟む
──ここはどこだ!?
パソコンのディスプレイ……?
左を向くと壁にかけられたコレクションの腕時計が見えた。
特徴的な曲面の横長ディスプレイが点灯する。人感センサーが反応したのか、昨日購入したばかりのRPGが戦闘画面のまま放置された状態になっていた。
俺の部屋?
慌てて、パソコンの時計を確認する。
17時39分、だ。
ゴクリと唾を飲み込む。まさか、瞬間移動?俺の行動がなかったことにされたのか?
そして、自分がゲーミングチェアに座って、右手にマウスを持っている事に気がついた。
あまりの気味の悪さに慌てて右手を離し、椅子を後ろにずらして立ち上がった。
俺、靴を履いている……。
取り繕う気があるのか、ないのか、全く分からない。目茶苦茶な能力だ。
サイコメトリーなんて、これと比べれば子供の手遊びと一緒だ。
正直、ゾッとした。
その時、ポケットが振動し始めた。
体がビクッと反応する。
スマホが振動しているだけだと気がついて、安堵の息をもらす。
山下、か。
『安井くん、今どこにいる? 』
「……自分の部屋だ。山下は? 」
『私も自分の部屋。ここからじゃ、もう風花ちゃんのところに間に合わない。迂闊だった……どうしよう、私のせいで……』
珍しく山下が冷静さを失っている。
正直、この能力は人間の限界を超えている。大したことが分からないのに強制力が尋常ではない。
端的に言って、理不尽だ。
だからこそ対策はしてある。
「山下……切り札は用意してある。多分、問題はない」
『えっ?』
「本来そこにいるべき人間が、倒れている風花を確認しているはずだ」
『……どういうこと? 』
「不幸な未来が確実に実現するということは、必ず役者はあの場に揃うんだ」
電話口の山下が少し沈黙する。何か考えているのかもしれない。
『……もしかして、観測者は不特定多数じゃなくて、全部同じ人なの? 』
「そうだ」
山下は観測者が不特定多数と推理していた。だから、『観測者は誰でも良い』
という間違った仮説を元に行動をしてしまったのだ。
結果、その場にいるはずのない山下や俺は排除されたのだ。
「サイコメトリーで風花の予告編の記憶と観測者の記憶を比較してみたら、完全に合致した」
「観測者の名前は──」
──祐二くん?
「……その声は祐二くんなの?」
駆け寄ってくる足音が聞こえた。絶望的な気分になる。
トマトジュースを服の脇腹に染み込ませて、産業道路に倒れたふりをしているなんて、どう説明したらいいものか……。
これじゃ、完全に変な人に見えるよ。
「風花ちゃん、意識があるの? そ、そうだ、救急車。救急車を呼ばないと」
慌てて、立ち上がり祐二くんの袖をつかむ。
「大丈夫。怪我なんてしてないよ」
「でも、血が……」
「これ、トマトジュースだよ」
体裁を気にしている余裕がないことに気がついて、正直に話す。
祐二くんはよほど慌てていたのだろう。黒縁の眼鏡のフレームが斜めになっていた。
「眼鏡……曲がってるよ」
そう言って、眼鏡をそっと直してあげた。
「よかった……風花ちゃんが死んじゃったのかと思ったら、俺……俺」
祐二くんの目が潤んていた。いや、もう涙が零れ落ちていた。
「大袈裟だなぁ……」
「だってさぁ……」
その時、スマホの着信音が遠くでなっている気がした。
「ごめん、ちょっと待ってて」
自転車のかごに入れてあるトートバッグからスマホを取り出すと、まるで急かすような大きな音が着信音が響き渡った。
相手はりえちゃんだった。
「大丈夫だったよ。りえちゃんも無事だったんだね、良かった。うん、うん……分かった。後で折り返すね」
そういうと手早く電話を切った。
りえちゃんの着信履歴がたくさん残っていた。現場にりえちゃんも安井くんもいないところを見ると、予告編に強制退場させられたのだろう。
でも、りえちゃんの自転車はそのまま置いてあって、予告編の半端な影響力に苦笑いした。
やっぱり、ポンコツだ。予告編は。
振り返ると祐二くんのもとに駆け寄る。
「なあ、風花ちゃん……これは一体なんなんだ?藤井や安井と何かあったのか?」
小首をかしげる。
安井くんは分かるが、藤井くんはなんのことだか分からない。
「ごめん、藤井くんは話した事がないからよくわからないけど、安井くんは今日いろいろ助けてもらったんだ」
「いろいろって……何を? 」
「うーん、彼は占い師なんだよ。……で、占ってもらったら……こうなった」
祐二くんはポカンとした顔をしていたが、私も内心、彼の話がチンプンカンプンだった。
でも、理由はともかく、ここに君がいることが嬉しい。それは恥ずかしくて本人に言えなかった。
祐二くんはタオルとサマーセーターを私に差し出した。
「安井が……風花ちゃんにタオルと上着を渡してやれって。その時は意味が分からなかったけど渡すなら、今だよな」
「うん、ありがと」
安井くんはやっぱり本物の占い師だ。予告編なんかより、人の役に立つ凄い能力だ。
私の顔を祐二くんがじっと見つめていた。
な、なんだろう?
少し、口を尖らせながら聞いてきた。
「安井……とは仲がいいのか? 」
「どうかな? でも、友達だとは思う。なんで、そんなことを聞くの? 」
「いや、だって安井の名前を出したら嬉しそうだから……さ」
彼は目を逸らすように斜め下を見ながら、小さな声でつぶやいた。
「そうだね。安井くんのおかげで今日はすごく助かったんだ」
祐二くんはちょっと驚いた顔をしていた。
ほんの少し間、彼は沈黙したかと思うと、何か意を決したかのように私の顔をまっすぐと見つめた。
「風花ちゃん、俺、君のことが──」
えっ……?
パソコンのディスプレイ……?
左を向くと壁にかけられたコレクションの腕時計が見えた。
特徴的な曲面の横長ディスプレイが点灯する。人感センサーが反応したのか、昨日購入したばかりのRPGが戦闘画面のまま放置された状態になっていた。
俺の部屋?
慌てて、パソコンの時計を確認する。
17時39分、だ。
ゴクリと唾を飲み込む。まさか、瞬間移動?俺の行動がなかったことにされたのか?
そして、自分がゲーミングチェアに座って、右手にマウスを持っている事に気がついた。
あまりの気味の悪さに慌てて右手を離し、椅子を後ろにずらして立ち上がった。
俺、靴を履いている……。
取り繕う気があるのか、ないのか、全く分からない。目茶苦茶な能力だ。
サイコメトリーなんて、これと比べれば子供の手遊びと一緒だ。
正直、ゾッとした。
その時、ポケットが振動し始めた。
体がビクッと反応する。
スマホが振動しているだけだと気がついて、安堵の息をもらす。
山下、か。
『安井くん、今どこにいる? 』
「……自分の部屋だ。山下は? 」
『私も自分の部屋。ここからじゃ、もう風花ちゃんのところに間に合わない。迂闊だった……どうしよう、私のせいで……』
珍しく山下が冷静さを失っている。
正直、この能力は人間の限界を超えている。大したことが分からないのに強制力が尋常ではない。
端的に言って、理不尽だ。
だからこそ対策はしてある。
「山下……切り札は用意してある。多分、問題はない」
『えっ?』
「本来そこにいるべき人間が、倒れている風花を確認しているはずだ」
『……どういうこと? 』
「不幸な未来が確実に実現するということは、必ず役者はあの場に揃うんだ」
電話口の山下が少し沈黙する。何か考えているのかもしれない。
『……もしかして、観測者は不特定多数じゃなくて、全部同じ人なの? 』
「そうだ」
山下は観測者が不特定多数と推理していた。だから、『観測者は誰でも良い』
という間違った仮説を元に行動をしてしまったのだ。
結果、その場にいるはずのない山下や俺は排除されたのだ。
「サイコメトリーで風花の予告編の記憶と観測者の記憶を比較してみたら、完全に合致した」
「観測者の名前は──」
──祐二くん?
「……その声は祐二くんなの?」
駆け寄ってくる足音が聞こえた。絶望的な気分になる。
トマトジュースを服の脇腹に染み込ませて、産業道路に倒れたふりをしているなんて、どう説明したらいいものか……。
これじゃ、完全に変な人に見えるよ。
「風花ちゃん、意識があるの? そ、そうだ、救急車。救急車を呼ばないと」
慌てて、立ち上がり祐二くんの袖をつかむ。
「大丈夫。怪我なんてしてないよ」
「でも、血が……」
「これ、トマトジュースだよ」
体裁を気にしている余裕がないことに気がついて、正直に話す。
祐二くんはよほど慌てていたのだろう。黒縁の眼鏡のフレームが斜めになっていた。
「眼鏡……曲がってるよ」
そう言って、眼鏡をそっと直してあげた。
「よかった……風花ちゃんが死んじゃったのかと思ったら、俺……俺」
祐二くんの目が潤んていた。いや、もう涙が零れ落ちていた。
「大袈裟だなぁ……」
「だってさぁ……」
その時、スマホの着信音が遠くでなっている気がした。
「ごめん、ちょっと待ってて」
自転車のかごに入れてあるトートバッグからスマホを取り出すと、まるで急かすような大きな音が着信音が響き渡った。
相手はりえちゃんだった。
「大丈夫だったよ。りえちゃんも無事だったんだね、良かった。うん、うん……分かった。後で折り返すね」
そういうと手早く電話を切った。
りえちゃんの着信履歴がたくさん残っていた。現場にりえちゃんも安井くんもいないところを見ると、予告編に強制退場させられたのだろう。
でも、りえちゃんの自転車はそのまま置いてあって、予告編の半端な影響力に苦笑いした。
やっぱり、ポンコツだ。予告編は。
振り返ると祐二くんのもとに駆け寄る。
「なあ、風花ちゃん……これは一体なんなんだ?藤井や安井と何かあったのか?」
小首をかしげる。
安井くんは分かるが、藤井くんはなんのことだか分からない。
「ごめん、藤井くんは話した事がないからよくわからないけど、安井くんは今日いろいろ助けてもらったんだ」
「いろいろって……何を? 」
「うーん、彼は占い師なんだよ。……で、占ってもらったら……こうなった」
祐二くんはポカンとした顔をしていたが、私も内心、彼の話がチンプンカンプンだった。
でも、理由はともかく、ここに君がいることが嬉しい。それは恥ずかしくて本人に言えなかった。
祐二くんはタオルとサマーセーターを私に差し出した。
「安井が……風花ちゃんにタオルと上着を渡してやれって。その時は意味が分からなかったけど渡すなら、今だよな」
「うん、ありがと」
安井くんはやっぱり本物の占い師だ。予告編なんかより、人の役に立つ凄い能力だ。
私の顔を祐二くんがじっと見つめていた。
な、なんだろう?
少し、口を尖らせながら聞いてきた。
「安井……とは仲がいいのか? 」
「どうかな? でも、友達だとは思う。なんで、そんなことを聞くの? 」
「いや、だって安井の名前を出したら嬉しそうだから……さ」
彼は目を逸らすように斜め下を見ながら、小さな声でつぶやいた。
「そうだね。安井くんのおかげで今日はすごく助かったんだ」
祐二くんはちょっと驚いた顔をしていた。
ほんの少し間、彼は沈黙したかと思うと、何か意を決したかのように私の顔をまっすぐと見つめた。
「風花ちゃん、俺、君のことが──」
えっ……?
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私の優しいお父さん
有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。
少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。
昔、私に何があったんだろう。
お母さんは、どうしちゃったんだろう。
お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。
いつか、思い出す日が来るのかな。
思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる