レンガの家

秋臣

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ぶちまける

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俺と陽南がバイトしているのはファストフード店。
ドライブスルーもある大型の店舗で、週末はお客さんも多いけどスタッフの数も多くて店内が非常に混み合う。
俺も陽南も一年の頃からやっているので慣れてはいるが、休日の昼のピークの忙しさは本当にきつい。
陽南はドライブスルーで注文を受ける担当を担うことが多い。
多分、陽南の声が柔らかくて聞き取りやすいからかなと思う。

14時過ぎにようやく昼休になる。
「お疲れ」
「うん、疲れたあ」
陽南は素直にそういうとぐったりしてる。
「きつい?」
「うーん、体力的にというより精神的にかな」
「わかる、間違えないようにでしょ?」
「そう、私が間違えるとお客さんに文句言われるの受け渡しの人たちなんだよね、それがきつい」
「それな」
「お願いだから注文に間違いがないか画面でちゃんと確認して欲しいよ」
「あはは!」
「笑いごとじゃないんだってば!」
「わかってるわかってる」
そう言ってポテトを陽南の口に放り込む。
「美味しい…」
「あははは!」

「あのさあ、ここ、あんたたちだけが使ってるんじゃないんだからイチャつくのやめてくれない?」
先輩の横山さんが耳を塞ぐ。
「マジでそれっすよ、勘弁してくださいよ」
後輩の尚希がぼやく。
「俺たち見えてないんすか?」
「見えてない」
俺がそう答えると横山さんが、
「うっわ!開き直ったよ!」
とうんざりした顔をするし、
「居ますから!その陽南さんフィルター外してよーく見て!居るから!」
と尚希が猛アピールする。
それを見て陽南が笑ってる。
ここのバイトは忙しくて大変だけど、陽南一緒だし、仲間が楽しいから好きなんだ。

今日は朝からのシフトだったので俺はこれで上がり。
陽南は18時までだから少し時間潰して待ってようかなと一旦店を出た。
調べたいことあるから図書館に行こうと思いたち歩く。

「あれえ?」
気の抜けた声が聞こえた。
気にせず歩いていると、
「ねえねえ、今永くんだよね?」
俺?
振り向くと、サングラスをちょっとずらして俺を見ている男がいた。
陽南のお兄さん…

正直いい印象がない。
「今永壮祐くんで合ってるよね?」
「はい」
「こんにちは!」
「…こんにちは」
「ふっは!俺嫌われてる?」
はい、とは言えない。
「…いえ」
「今含みがあったね、正直だねえ」
「なにか用でしょうか?
陽南はまだバイト中です」

「うん、陽南に用があったんだけど手間が省けた」
「?」
「陽南にどうすれば今永くんに会えるのか聞きに行こうと思ったんだよね」
「は?」
「そっか、陽南とバイト同じなのか」
「失礼します」

俺はまた歩き出す。
お兄さんと話すことはない。
「ちょっと待ってよ」
「なんですか?」
「そんなに嫌わないでよ」
「……」
「本当に正直だね」
「陽南から聞きました」
「ん?」
「お兄さんに彼氏を取られたこと」
「取ったんじゃないよ、陽南のことをその程度にしか考えられないやつを炙り出しただけだよ」
「それでも陽南は傷ついたし、自分の兄に彼氏を取られるなんて屈辱でしかないですよ」
「取ってないもん」
「そうですか、それならそれでいいです。
でも俺は思い通りになりませんから」
「おっ!」
「はっきり言えばお兄さんのことは好きになれないと思います。でも陽南のお兄さんなので嫌いにはなりません。
そしてお兄さんに興味を持つことは絶対にありません」

「あっは!」
「この前も言いましたけど、俺、面白いこと言ってませんよ」
「今永くんのそれ、いいよね」
「は?」
「陽南大好きなところ、いいなあ」
「そう思うなら俺たちに構わないでください」
「それがそうもいかないんだよね」
「どういう意味ですか?」
「俺がめちゃくちゃ今永くんに興味ある」
何を言ってるんだ、この人は。
「俺はないです」
「俺はあるよ」
「それが陽南を苦しめるんです!」
「おっと」
「これ以上俺たちに構うなら俺もそのつもりで対応します」
「どうする気?」
何にやにやしてんだよ。
「陽南にはお兄さんはいないものと思って接します」
「あはははは!」
俺が言ってることわかってるのか?

「そういうところがいいんだよね」
「……」
「今まで連れてきた男にはいなかったタイプ」
「……」
「今永壮祐くんに興味しかないよ」
「……」

無駄だ。
早くここから立ち去りたい。

「失礼します」
「あれ?帰っちゃうの?」
「はい」
「じゃあ俺も帰ろ」
そういうと俺の後をついてくる。

「こっちに用があるのですか?」
「いや、今永くんがこっち行くからついてってる」
「あの」
「はい、なんでしょうか?」
「俺に興味があるんですよね?」
「ある、大有り!」
「俺も言いたいこと言わせてもらっていいですか?」
「既に言ってる気もするけど、どうぞ」

すう……
「陽南のお兄さんだと思って下手に出てたけど我慢の限界だ。あなたに微塵の興味も湧かない、むしろ嫌いだ、二度と顔見せないでください!」

ぽかんとした顔の深影が次の瞬間爆笑する。
「ほらあ!やっぱりいい!
そういうところめっちゃいい!」
「人の話聞いてますか!?」
「聞いてる、嫌いなんでしょ?
でも俺興味あるどころじゃなくなったわ、好きだ」
「は?」
何を言ってるんだよ、こいつ。

「今永壮祐くん、俺、君に惚れました」
「は?」
「ということで陽南に宣戦布告するよ」
「あんた、何言ってんだ」
「陽南と付き合ってても構わないよ、俺が君を好きだってだけだから。
勿論チャンスがあれば狙うけどね」
「陽南を傷つけたら許さない」
「それは無理かも。だって恋のライバルになるんだから、陽南だって俺だって傷つくことはあるよ、きっと」
「それは俺次第だろ?それなら答えは出てるんだよ、俺は陽南しかいらない」
「今はね」
「これからも変わらない」
「言い切れるの?」
「どういう意味だよ」
「変わらないものなんてないよ」
「だったら今すぐ俺への興味も好意も捻じ曲げてでも変えろよ」
「そうきたか!やっぱり面白い!」

「…とにかく、あなたには興味がないし、好きにはならないです。わかってください。
感情的になって口汚く罵ってしまったことは謝ります、すみませんでした」
「わかったよ、今日のところは引くよ」
「お願いします、嫌いになりたくないんです。陽南のためにお願いします」
「今日は引く」
「……失礼します」
「しゃあね」


なんなんだよ、こうやって陽南の前の男たちにちょっかい出してたのか。
有り得ない。
思っきりぶちまけてしまった、もう嫌われてもいいと思ってやってしまった。
陽南、傷ついちゃうかな…
俺が傷つけてどうするんだよ、守りたかっただけなのに。
隠し事はしたくない、このことも陽南にはちゃんと話す。

図書館に行って頭を切り替えよう。
そのあと陽南を迎えに行こう。


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