16 / 52
変化
しおりを挟む
確実に避けられてる。
学校に行ってもなんとなく距離がある。
普通に接しているように見えるが、絶妙に俺と目を合わせない。
なんだよ、言いたいことあるなら言えよ。
京佐に合鍵を返されてからはセックスもしていない。
京佐の部屋には入れないし、俺の部屋にも来ないし。
フラストレーションと性欲が溜まって爆発しそうになっている。
それなら俺が仕掛けてやる。
俺は何もなかったかのように京佐に話しかける。
話のついでのように。
「ああ、そうそう。京佐、ほら、鍵」
俺は京佐に俺の部屋の合鍵を渡す。
しかし京佐は受け取らない。
「……要らないよ」
「要らないってなんだよ。
鍵持ってた方が便利だろ?」
「要らないって言ってる……」
「だからなんでだよ。あ、じゃあ、京佐の部屋の鍵くれよ。これ、使えねえんだよ」
使えなくなった京佐の部屋の鍵を見せる。
その鍵を京佐が奪い取ろうとする。
「なにすんだよ!」
「返せよ」
「なになに~? なにしてんの?」
曽川と依田が合流した。
「なんの話?」
依田が聞く。
「京佐が部屋の鍵くれないんだよ」
「あらあらあら、そういうこと? お二人さん」
曽川が揶揄う。
「そういうことってどういうことだよw
京佐のやつ、俺の部屋の鍵も受け取らねえし、自分の部屋の鍵もくれねえの」
「拒否w」
「まあ嫌なんだろ、諦めろ」
「そうそう、合鍵は特別なものよ」
と曽川が気持ち悪い顔してうっとりしてる。
「合鍵なんて大したもんじゃねえじゃん」
「……そういうところだよ」
京佐は俺にそう言うとリュックを手にし、そのまま学食を出て行った。
らしくなかった。
あんなに冷たい京佐、初めて見た。
胸がザワザワする。
「京佐!」
京佐を追おうとしたら、依田に手で制された。
「俺が行く、禄郎はここにいて」
静かにそれでいて強く、俺にそう言った。
依田が京佐を追う。
依田……
それを見ていた曽川が、
「きょうさには依田が付いてるから大丈夫だよ」
と俺を宥める。
「でも……」
「禄郎はここにいろ、話がある」
いつもヘラヘラしてる曽川の真顔も俺は初めて見た。
「……なんだよ、話って」
「そうなあ、なにがいいかなあ~
俺オススメの漫画の話、レンタカー借りて横浜までチャーハン食いに行った話、トイレでうんこしたら水流弱すぎて全然流れなくて焦った話……」
後ろのテーブルの女二人が、
「ちょっと!」
と怒ってる。
「あ、すんません」
と曽川がいつものようにヘラヘラ謝る。
「もう! 最低!」
女たちは怒って席を離れてしまった。
「怒られちゃった」
と悪びれもなくヘラヘラしてる。
「ということでどれがいい?」
「なんなんだよ、どれも興味ねえよ」
ちょっとチャーハンとうんこの話は面白そうだなと思ったけど学食で聞きたくはない。
「そう? じゃあ最近観たゲイビの話とかどうよ?」
曽川がにやっと笑う。
「……」
「禄郎、あのDVDのタイトル知ってるか?」
「タイトル?『恋人ごっこ』だろ?」
「それは知ってるんだな」
「それがなんだよ」
「2枚目のDVD、チャプター8で最後だろ? あの後観たか?」
「え、だって映像終わって……」
「やっぱりお前ら2枚目観たんだな」
「あ……」
「まあ、想定内だから驚かねえよ。
そのつもりで渡したんだし」
「曽川、何言ってんだ? 想定内ってなに?」
「きょうさが未使用で3点セット返してきただろ?あれさ、俺が渡したやつに印付けてたんだよ。依田と印つけようぜって悪戯してみたんだ。
ローションとかのパッケージって新品でも底だけフィルムがかかってないじゃん?
そこに印を付けてみた。
お前はズボラだから気にしなそうだけど、きょうさは違うだろ?
印には気づかなくても、あいつなら絶対同じものを買って返して、バレないようにすると思って狙った」
「騙したのかよ……」
「騙したわけじゃねえよ、ただの悪戯、悪ふざけのつもりだった」
「……」
「そのまま返してきた時にすぐ依田とローションの底の印を確認した。
それで使ったのはわかった」
「悪趣味すぎるだろ……こんなことして楽しいかよ」
「遊んで悪かったとは思ってる、ごめん」
「……」
「でもな」
曽川からヘラヘラが消える、真顔で俺を見る。
「DVDの中で男優が言ってたこと覚えてるか?」
「なんか言ってたっけ?」
「これ」
そう言ってスマホを見せる。
曽川のスマホには、
『今あなたには彼がどう見えてますか?
あなたの中で何か変わりましたか?
心に何かありますか?
何もなかったら今すぐ部屋を出て。
何かわからないけど何かがあると思ったら抱きしめてあげて。
きっと答えがわかる時が来るはずだから』
そう表示されていた。
覚えてる。
「DVDを録音したり撮ったりするのはまずいかなと思ってメモった」
「マメかよ……」
「俺さ、これ聞いた時、禄郎ときょうさの顔が浮かんだんだよ。
お前らがこのDVDを観て、これを聞いたら、なにか変わるんじゃないかって思った。
何も変わらないかもしれないけど、もしかしたら変わるんじゃないかって思ったんだよ。
……俺は変わって欲しかった!」
曽川……
学校に行ってもなんとなく距離がある。
普通に接しているように見えるが、絶妙に俺と目を合わせない。
なんだよ、言いたいことあるなら言えよ。
京佐に合鍵を返されてからはセックスもしていない。
京佐の部屋には入れないし、俺の部屋にも来ないし。
フラストレーションと性欲が溜まって爆発しそうになっている。
それなら俺が仕掛けてやる。
俺は何もなかったかのように京佐に話しかける。
話のついでのように。
「ああ、そうそう。京佐、ほら、鍵」
俺は京佐に俺の部屋の合鍵を渡す。
しかし京佐は受け取らない。
「……要らないよ」
「要らないってなんだよ。
鍵持ってた方が便利だろ?」
「要らないって言ってる……」
「だからなんでだよ。あ、じゃあ、京佐の部屋の鍵くれよ。これ、使えねえんだよ」
使えなくなった京佐の部屋の鍵を見せる。
その鍵を京佐が奪い取ろうとする。
「なにすんだよ!」
「返せよ」
「なになに~? なにしてんの?」
曽川と依田が合流した。
「なんの話?」
依田が聞く。
「京佐が部屋の鍵くれないんだよ」
「あらあらあら、そういうこと? お二人さん」
曽川が揶揄う。
「そういうことってどういうことだよw
京佐のやつ、俺の部屋の鍵も受け取らねえし、自分の部屋の鍵もくれねえの」
「拒否w」
「まあ嫌なんだろ、諦めろ」
「そうそう、合鍵は特別なものよ」
と曽川が気持ち悪い顔してうっとりしてる。
「合鍵なんて大したもんじゃねえじゃん」
「……そういうところだよ」
京佐は俺にそう言うとリュックを手にし、そのまま学食を出て行った。
らしくなかった。
あんなに冷たい京佐、初めて見た。
胸がザワザワする。
「京佐!」
京佐を追おうとしたら、依田に手で制された。
「俺が行く、禄郎はここにいて」
静かにそれでいて強く、俺にそう言った。
依田が京佐を追う。
依田……
それを見ていた曽川が、
「きょうさには依田が付いてるから大丈夫だよ」
と俺を宥める。
「でも……」
「禄郎はここにいろ、話がある」
いつもヘラヘラしてる曽川の真顔も俺は初めて見た。
「……なんだよ、話って」
「そうなあ、なにがいいかなあ~
俺オススメの漫画の話、レンタカー借りて横浜までチャーハン食いに行った話、トイレでうんこしたら水流弱すぎて全然流れなくて焦った話……」
後ろのテーブルの女二人が、
「ちょっと!」
と怒ってる。
「あ、すんません」
と曽川がいつものようにヘラヘラ謝る。
「もう! 最低!」
女たちは怒って席を離れてしまった。
「怒られちゃった」
と悪びれもなくヘラヘラしてる。
「ということでどれがいい?」
「なんなんだよ、どれも興味ねえよ」
ちょっとチャーハンとうんこの話は面白そうだなと思ったけど学食で聞きたくはない。
「そう? じゃあ最近観たゲイビの話とかどうよ?」
曽川がにやっと笑う。
「……」
「禄郎、あのDVDのタイトル知ってるか?」
「タイトル?『恋人ごっこ』だろ?」
「それは知ってるんだな」
「それがなんだよ」
「2枚目のDVD、チャプター8で最後だろ? あの後観たか?」
「え、だって映像終わって……」
「やっぱりお前ら2枚目観たんだな」
「あ……」
「まあ、想定内だから驚かねえよ。
そのつもりで渡したんだし」
「曽川、何言ってんだ? 想定内ってなに?」
「きょうさが未使用で3点セット返してきただろ?あれさ、俺が渡したやつに印付けてたんだよ。依田と印つけようぜって悪戯してみたんだ。
ローションとかのパッケージって新品でも底だけフィルムがかかってないじゃん?
そこに印を付けてみた。
お前はズボラだから気にしなそうだけど、きょうさは違うだろ?
印には気づかなくても、あいつなら絶対同じものを買って返して、バレないようにすると思って狙った」
「騙したのかよ……」
「騙したわけじゃねえよ、ただの悪戯、悪ふざけのつもりだった」
「……」
「そのまま返してきた時にすぐ依田とローションの底の印を確認した。
それで使ったのはわかった」
「悪趣味すぎるだろ……こんなことして楽しいかよ」
「遊んで悪かったとは思ってる、ごめん」
「……」
「でもな」
曽川からヘラヘラが消える、真顔で俺を見る。
「DVDの中で男優が言ってたこと覚えてるか?」
「なんか言ってたっけ?」
「これ」
そう言ってスマホを見せる。
曽川のスマホには、
『今あなたには彼がどう見えてますか?
あなたの中で何か変わりましたか?
心に何かありますか?
何もなかったら今すぐ部屋を出て。
何かわからないけど何かがあると思ったら抱きしめてあげて。
きっと答えがわかる時が来るはずだから』
そう表示されていた。
覚えてる。
「DVDを録音したり撮ったりするのはまずいかなと思ってメモった」
「マメかよ……」
「俺さ、これ聞いた時、禄郎ときょうさの顔が浮かんだんだよ。
お前らがこのDVDを観て、これを聞いたら、なにか変わるんじゃないかって思った。
何も変わらないかもしれないけど、もしかしたら変わるんじゃないかって思ったんだよ。
……俺は変わって欲しかった!」
曽川……
20
あなたにおすすめの小説
真剣な恋はノンケバツイチ経理課長と。
イワイケイ
BL
社会人BL。36歳×41歳なので、年齢高めです。
元遊び人と真面目なおっさんという、割とオーソドックス(?)なお話です。個人的には書いてて楽しかった記憶あり。
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
裏の顔は、甘い低音ボイスとセクシーな歌声の、人気歌い手「フユ」。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度だが、情が深く人をよく見ている。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
下っ端公務員の俺は派遣のαに恋してる【完結済】
tii
BL
市役所勤めの野々宮は、どこにでもいる平凡なβ。
仕事は無難、恋愛は停滞、毎夜の癒しはゲームとストゼロだけ。
そんな日々に現れたのは、派遣職員として配属された青年――朝比奈。
背が高く、音大卒で、いっけん冷たそうに見えるが、
話せば驚くほど穏やかで優しい。
ただひとつ、彼は自己紹介のときに言った。
「僕、αなんです。迷惑をかけるかもしれませんが……」
軽く流されたその言葉が、
野々宮の中でじわりと残り続ける。
残業続きの夜、偶然居酒屋でふたりきりになり――
その指先が触れた瞬間、世界が音を立てて軋んだ。
「……野々宮さんって、本当にβなんですか?」
揺らぎ始めた日常、
“立場”と“本能”の境界が、静かに崩れていく。
☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。
【第13回BL小説大賞】にエントリーさせて頂きました!
まこxゆず の応援 ぜひよろしくお願いします!
☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。
オトナとコドモ
すずかけあおい
BL
心配性な社会人×ぼんやりした高校生
歩きスマホで転びそうになった都亜は、美形男性に助けられる。それから男性――聡樹との交流がはじまった。大人な聡樹は、都亜をいつも子ども扱いして……。
〔攻め〕鐘江 聡樹(30)
〔受け〕伴内 都亜(16)
◆性描写を含むページには*をつけています。
◆外部サイトでも同作品を投稿しています。
この変態、規格外につき。
perari
BL
俺と坂本瑞生は、犬猿の仲だ。
理由は山ほどある。
高校三年間、俺が勝ち取るはずだった“校内一のイケメン”の称号を、あいつがかっさらっていった。
身長も俺より一回り高くて、しかも――
俺が三年間片想いしていた女子に、坂本が告白しやがったんだ!
……でも、一番許せないのは大学に入ってからのことだ。
ある日、ふとした拍子に気づいてしまった。
坂本瑞生は、俺の“アレ”を使って……あんなことをしていたなんて!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる