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連れ去り
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俺はまた歩き始めた。
「どこ行くんだよ」
何も聞こえない、誰もいない。
「おいって!」
肩に置かれた手を掴み投げ飛ばす。
三木は天地がひっくり返り、目を白黒させてる。
そのまま三木を置いて俺はひたすら歩く。
「そういや調査書に柔道有段者って書いてあったな。久しぶりに綺麗に投げられたあ」
大の字になって伸びている。
「八雲さん、あの橋に行こうとしてるでしょ? もう昼間でもいいから死のうとしてるでしょ? 無理だよ」
うるさい、お前の声など俺の耳には届かない。
「あの橋ね、意外と高いんだよ。夜だとその距離感が暗さでわからないけど、昼間は絶対無理だよ」
俺は三木を置いて橋に向かった。
もう死にたい、今すぐ死にたい。
俺という存在をこの世から消したい。
キャンピングカーで下った道を怒りに任せて歩く。
ただひたすら死ぬ場所を目指して。
途中、三木のキャンピングカーに追い抜かれる。
まだ邪魔するのか、やれるものならやってみろ、お前のことなどどうでもいい。
橋に着く。
風が強くて少し煽られる。
歩道を歩いて橋の真ん中まで来る。
「あ……」
三木の言っていた通りだった。
夜には全くわからなかった橋の下や川までの距離感がリアルに分かる。
それだけで足がすくんで動けない。
遠くで、
「ほらねー、無理でしょ? 無理なんだよ。だからみんな夜に来るんだもん」
大の字で伸びていた三木がこちらに向かって歩いてくる。俺に追いつき、欄干から橋の下を覗く。
「うわっ! 絶対無理だわ」
「……お前、最初から死ぬ気じゃなかったんだな」
「うん、まあそうね。死ぬ気なんて全くないね。八雲さんの様子見てて、ああこの人は本気だと思って止めてたつもり」
「なんで止めるんだよ、お前に関係ないだろ」
「いや、関係大アリでしょ。
これで八雲さんに死なれたら俺一部加担になっちゃう。元奥さんとはなんもないけど、俺の店の客であることは事実だしね。
調査してるうちにこの人……あ、八雲さんのことね、あんまり不憫で可哀想になっちゃって、マジでやばそうなら教えてくれって調査員に頼んでおいたんだよね。そしたらさ、山の方へ行きましたって報告来て、これはやるなと思って追いかけてみました。追いついてよかったあ、というか追い越して先に着いちゃった。調査員が『過去の事例から推測するとやるとしたらここでしょう』って自殺が多い所教えてくれてね。さすがだよね~ドンピシャだったもん」
「……」
「八雲さん?」
「もう何もないのに生きてる理由ないんだよ。なのに死ぬことも出来ないなんて惨めすぎる……」
俺は放心状態で座り込む。
「ねえ、八雲さん。俺んち来ない?」
「なんで俺がよりによって間男のところへ行かなきゃならないんだ。人をバカにするのも大概にしろ! もう放っておけ。夜まで待てば周りが見えなくなるからやれる」
「間男! 俺、間男なのか! あはははは!」
こいつを突き落としたい。
「いやあ、無理だよ。昼間のくっきり鮮明に見えてた景色を思い出しちゃうんだよねえ。俺がそうだったもん。
俺昼間来てこの景色見てたから夜になっても絶対出来ねえって思ってたよ」
「もうどうでもいいから俺に構うな、帰れ」
「いやいや、俺と一緒に帰りましょうよ」
「行かねえよ」
「ごちゃごちゃうるさいね」
そう言うと三木は俺を肩に担ぎ上げた。
嘘だろ? 俺割とガタイはいい方だぞ?
それを担いだ? は?
「俺さ、ホストやる前、いろいろ経験しておきたくて引っ越し屋とか土木作業員とかもやってたのよ。だから重い物持つコツとか身に付いてんの」
「おい、離せ!」
「暴れないでよ、持ちにくいでしょ。別に取って食おうってわけじゃないんだからさ」
俺はそのまま三木に連れ去られた。
「どこ行くんだよ」
何も聞こえない、誰もいない。
「おいって!」
肩に置かれた手を掴み投げ飛ばす。
三木は天地がひっくり返り、目を白黒させてる。
そのまま三木を置いて俺はひたすら歩く。
「そういや調査書に柔道有段者って書いてあったな。久しぶりに綺麗に投げられたあ」
大の字になって伸びている。
「八雲さん、あの橋に行こうとしてるでしょ? もう昼間でもいいから死のうとしてるでしょ? 無理だよ」
うるさい、お前の声など俺の耳には届かない。
「あの橋ね、意外と高いんだよ。夜だとその距離感が暗さでわからないけど、昼間は絶対無理だよ」
俺は三木を置いて橋に向かった。
もう死にたい、今すぐ死にたい。
俺という存在をこの世から消したい。
キャンピングカーで下った道を怒りに任せて歩く。
ただひたすら死ぬ場所を目指して。
途中、三木のキャンピングカーに追い抜かれる。
まだ邪魔するのか、やれるものならやってみろ、お前のことなどどうでもいい。
橋に着く。
風が強くて少し煽られる。
歩道を歩いて橋の真ん中まで来る。
「あ……」
三木の言っていた通りだった。
夜には全くわからなかった橋の下や川までの距離感がリアルに分かる。
それだけで足がすくんで動けない。
遠くで、
「ほらねー、無理でしょ? 無理なんだよ。だからみんな夜に来るんだもん」
大の字で伸びていた三木がこちらに向かって歩いてくる。俺に追いつき、欄干から橋の下を覗く。
「うわっ! 絶対無理だわ」
「……お前、最初から死ぬ気じゃなかったんだな」
「うん、まあそうね。死ぬ気なんて全くないね。八雲さんの様子見てて、ああこの人は本気だと思って止めてたつもり」
「なんで止めるんだよ、お前に関係ないだろ」
「いや、関係大アリでしょ。
これで八雲さんに死なれたら俺一部加担になっちゃう。元奥さんとはなんもないけど、俺の店の客であることは事実だしね。
調査してるうちにこの人……あ、八雲さんのことね、あんまり不憫で可哀想になっちゃって、マジでやばそうなら教えてくれって調査員に頼んでおいたんだよね。そしたらさ、山の方へ行きましたって報告来て、これはやるなと思って追いかけてみました。追いついてよかったあ、というか追い越して先に着いちゃった。調査員が『過去の事例から推測するとやるとしたらここでしょう』って自殺が多い所教えてくれてね。さすがだよね~ドンピシャだったもん」
「……」
「八雲さん?」
「もう何もないのに生きてる理由ないんだよ。なのに死ぬことも出来ないなんて惨めすぎる……」
俺は放心状態で座り込む。
「ねえ、八雲さん。俺んち来ない?」
「なんで俺がよりによって間男のところへ行かなきゃならないんだ。人をバカにするのも大概にしろ! もう放っておけ。夜まで待てば周りが見えなくなるからやれる」
「間男! 俺、間男なのか! あはははは!」
こいつを突き落としたい。
「いやあ、無理だよ。昼間のくっきり鮮明に見えてた景色を思い出しちゃうんだよねえ。俺がそうだったもん。
俺昼間来てこの景色見てたから夜になっても絶対出来ねえって思ってたよ」
「もうどうでもいいから俺に構うな、帰れ」
「いやいや、俺と一緒に帰りましょうよ」
「行かねえよ」
「ごちゃごちゃうるさいね」
そう言うと三木は俺を肩に担ぎ上げた。
嘘だろ? 俺割とガタイはいい方だぞ?
それを担いだ? は?
「俺さ、ホストやる前、いろいろ経験しておきたくて引っ越し屋とか土木作業員とかもやってたのよ。だから重い物持つコツとか身に付いてんの」
「おい、離せ!」
「暴れないでよ、持ちにくいでしょ。別に取って食おうってわけじゃないんだからさ」
俺はそのまま三木に連れ去られた。
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