いきたがり

秋臣

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未遂

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俺は自分のスマホを解約したことをこれほど後悔したことはなかった。
あの中にはえりや明依、奈々の写真もたくさんあった。
それが辛くて全てを断ちたくて捨てたのだ。
それが今、娘の写真を警察に提供して情報を共有することが出来ないでいる。

激しく後悔する俺に長谷見さんが、
「この場で撮るしかないです。八雲さんは父親なので当然すぐバレてしまうので私が行きます。あの角の植え込みのところにいるロングヘアの女の子ですね?」
「そうです」
「いいですか、なにがあっても車から出ないでください。先ほども言いましたがそれがオーナー始め伊央や皆を守ることに繋がります。勿論、娘さんもです」
「はい」
「必ず保護します」
ヴヴヴと長谷見さんのスマホが振動する。三木さんからだ。
「はい」
「伊央は部屋にいない、外にいるそうだ」
「警察と相田さんに共有しますか?」
「今、相田に伝えた」
「分かりました、一度切ります」
長谷見さんが電話を切る。
「いいですね、絶対守ってください」
「分かりました」


長谷見さんが車から降りてマンションの前を通り過ぎる、そのまま角を曲がっていく。
明依のいる植え込みの前を通る時に一瞥せず前を向いたまま写真を撮る。非常に手慣れている。俺のスマホに写真が送られてくる。
「明依だ……」
電話に切り替わり、
「娘さんで間違い無いですね?」
「はい」
「この写真を相田さんに送ります」
「お願いします」
「私はこのまま車外で様子を見るので八雲さんはそこからお願いします」
「分かりました」
とその時、駅方面から伊央くんが歩いて来た。上背はあるし、あの顔立ちなので目立つことこの上ない。
伊央くん……
エントランスに入ろうとした伊央くんに明依が走り寄る。

「明依! 伊央くん!」
車内の俺の声は届かない。
明依に気づいた伊央くんは驚いた顔をしている。
頼む明依、伊央くんになにもしないでくれ。

伊央くんの腕を明依が掴もうとしたその時、
「はいはい、そこまでね、お嬢ちゃん」
歳は俺と同じかもう少し上だろうか、スーツを着た短髪の男性が伊央くんと明依の間に割って入る。伊央くんを掴もうとした明依の腕をしっかり掴んでいる。

「あの人が相田さんです」
と車に戻った長谷見さんが教えてくれる。
マンション内から警官数人と管理人らしき人が出てきて伊央くんを連れていく。
「伊央くん、待ってよ!」
と叫ぶ明依は、
「離せ、触んな!」
と相田に食ってかかる。
「離したら彼になにするの?」
「私のものにする」
「あの彼を? 面食いだねえ」
「うるさい、離せよおっさん!」
「うーん、無理。離したら危ないしね」

男の声色が変わる。
「ここでやめときなさいよ、今なら犯罪にならないで済む。利口になりな」
と優しく凄む。
明依がうな垂れる。
相田が左手を挙げると警官が出てきて明依を連れていく。

「明依!」 
車から降り駆け寄る。
「八雲さん」
長谷見さんに止められる。
「娘さんのために見なかったことにしてやってください。ここであなたが騒いだらきっとあの子のタガは外れます」
相田も、
「そうね、長谷見くんのいう通りだ。
娘さんはギリギリだが犯罪は犯していない。騒ぐと本当に警察沙汰になるぞ。これだけなら厳重注意でいける」
と俺を諭す。
そこの彼と伊央くんを相田が呼ぶ。
「はい」
「無事か?」
「なんともありません」
「なにもなくてよかった。しかし君何度目だ? 身が持たんだろ? 三木にボディガード雇ってもらえ。一応君に聞いておくが、このことを事件にするか? 訴えるか?
そうすることで犯罪の抑止力になることもある。それを決める権利があるのは被害者の君だ、君が決めていい。人の顔色を伺う必要はない」
「必要ありません。怪我もしていませんし」
「分かった、向こうで警察から話を聞かれるけど少し付き合ってくれるか? 申し訳ない」
「大丈夫です」
伊央くんは警官と話を始めた。

「だそうです」
と相田が手打ちをする。
「全く三木からの電話は毎度碌なことがない。高いぞと言っとけ、長谷見くん」
「はい。助けていただきありがとうございました」
長谷見さんが頭を下げる。

「お父さん、娘さんは警察署の方で少し話をします。大丈夫、彼が事件にしないと言っているので大きなことにはならないと思います、断言は出来ませんが。ただしこれが今後も続くようだとアウトだということは頭に入れておいてください。身元引受人はお父さん?」
「私が……いえ、元妻のご両親の方がいいかもしれません。今私は住所不定、無職ですし、あの子に関わると良い方へ向かわないでしょう」
「向こうのご両親の連絡先など分かりますか?」
娘たちに何かあった時にと空で番号を覚えていた。
「それじゃ、なにかあったら知らせるから。そんなに心配しなくて大丈夫だ、安心しろ」
そう言って相田は警官の元へ行った。
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