好きを教えて

秋臣

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境遇

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「最初は守さんに連れられてきてね、まだ小さかった頃だね。よく喋る元気な子でプリンを気に入ってくれて、いつもさくらんぼを最後に残してた。お父さんの真似してコーヒーも注文して、生意気にブラックで飲んで苦い顔してるのをみんなで笑ったもんだよ。守さんが亡くなってからは大城さんが連れてきてたね。
病気でね、急死だった」

え……

「元気がなくなって、あんなにお喋りだったのに全然話さなくなっちゃって……
一言も口利かないけどプリンは食べてくれたんだ。
残しておいたさくらんぼを嫌いなんだと思って大城さんが食べちゃったら、あきちゃん泣きながらすごく怒って、
『最後に残してたのはお父さんがいつもそうしてたからだ』って。
さくらんぼにお父さんを見てたのかもね」

「大城さん?」
「大城組二代目。最近退いてあきちゃんが三代目を襲名したわね……」
「見上さんは小さい頃からヤクザなの?」
才が聞く。
お前は屈託なさすぎだな。
「あはははは! 直球だなあ。
違うよ、あきちゃんのお父さんの守さんと大城さんは幼馴染でね。ヤクザとかカタギとか関係なく本当に仲が良くて。早くに亡くなった守さんの代わりにあきちゃんの面倒をよく見てた。大城さん、子どもがいなかったからか自分の子のようにかわいがっててね。本当の親子みたいだった」

「あきちゃんも懐いてて、大きくなるにつれ、この人の恩に応えないとと思ったみたい。それでそっちにいっちゃった。大城さんは義理立てしなくていい、こっちに来るなと止めたんだけど、あきちゃんが筋を通した感じだな」

「筋を通したと言ってもあきちゃんのお母さんの貴子たかこさんは大城さんから金銭的援助は一切受けてなかったみたいだから、そんな義理はなかったのよ。どんなに大城さんが援助を申し出ても受けなかったの。
『大城さんは守さんの幼馴染のままでいてください』って突っぱねてたみたい。
それでもあきちゃんは恩義を感じてたのか大城さんのところにいったの。
その頃に貴子さんを亡くしたのも大きかったのかもしれないわね。
守さんが亡くなってから二人で頑張っていたし、貴子さんのことを大切にしていたから」

ミチルさんは優しく微笑む。

「あきちゃんの背中の観音様を見た時、私、ああ貴子さんだって思ったの。
観音様のことはよく知らないけど、あの綺麗な絵を見てなぜかそう思ったのよ」
「そうだね、僕も同じように思ったよ。
貴子さんであり、守さんでもあったのかなって」

マスターがコーヒーのおかわりを淹れてくれる。

「カタギじゃなくなっても、ここにはよく来てくれた。でも他のお客さんを怖がらせたり迷惑をかけるのが嫌だって遠慮しちゃってね。
あきちゃんと深町くん、二人でいるとちょっと雰囲気あるでしょ?
それで店の奥にあきちゃんの席を作ったんだ。
店内を通らずに直接奥に行けるようにして、申し訳程度だけど囲いを作ったら、あきちゃん凄く喜んでくれてね。
『これでまたいつでも来られる』って。
本当によく来てくれるんだよ、深町くんと一緒に」

「見上さんて、かっこよくてかわいいね」
才が満面の笑みで言う。
お前は本当に直球すぎる……

マスターとミチルさんは顔を見合わせて笑い出す。
「君はあきちゃん好きかい?」
「はい! 芯があって絶対曲げない強い人。わかりにくいけど優しくてかわいい!」
「そうか……これからもあきちゃんのこと好きでいてやってくれる?」
「はい」

鼻がツンと痛くなる。
見上さん、ずるいでしょ……こんなのずるい……

才がコーヒーを飲み終え、口を開く。
「マスター、俺、このコーヒー好きです。
酸味とか苦味とかよくわからないんだけど、この味が好みです」
「気に入ってくれて嬉しいよ。うちのオリジナルは酸味が少ないのが特徴なんだよ」
「ということは俺は酸味が少ない方が好みなんだ」
「そうみたいだね」
「その酸味とか苦味とかのバランスで味が変わるの?」
「それだけじゃないけどね」
「コーヒーは奥が深い……」
「だろ?」
とマスターが笑う。

「マスター」
才が真っ直ぐマスターを見る。
「なんだい?」
「俺をここで働かせてください」
「は? お前なに言い出すんだ!?  大学は?」
「行くよ、バイトで雇って欲しい」
「いきなりだなあ」
とマスターが困惑してる。
「すみません、こいつが変なこと言い出して……」
「マスター、ダメですか?」
「いやあ、うちは見ての通り夫婦二人で十分やっていけるくらいの店だし、バイト代もそんなに出せないんだよ」
「コーヒーの淹れ方を教えてもらえればそれでいいです」
「お前、強引すぎるだろ! 迷惑だぞ!」
「せっかく美味しい好みのコーヒーに出会ったのにチャンスを逃したくない」
「あなた?」
ミチルさんが微笑んでる。
「うーん……本当にバイト代、微々たるものだよ?」
「構わないです」
「じゃあ手伝ってもらおうかな」
「いいんですか? やった!!」
話はとんとん拍子に進み、来週からバイトに入ることになった。
俺はやはり育て方を間違えたのかもしれない。


ミチルから帰りながら才がぽつりと呟く。
「見上さんは俺と同じだったんだね」
「うん、そうみたいだな」
「だから構ってくれてたのかな?」
「才のこと大切に思ってるって言ってたぞ」
「うん」
「……」
「俺さ、見上さん好きだよ」
「そうか」
「うん」
「……」
「もう店には来ないのかな?」
「さあな」
「組長だもんね」
「そうだな」
「来てくれないとつまんないし寂しい」
「……そうだな」
一番の常連客だったから来なくなるのは俺もちょっと寂しいかもしれないな……

一ヶ月後、普通に見上さんは店に来た。

しんみりしちゃったじゃねえかよ!
くそっ!
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