好きを教えて

秋臣

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有限

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数日前から頼がおかしい、おかしいと言っている。
どうしたの? と聞くと、
「客からクレームじゃないけど、予約取りにくいって言われるんだよな」
「システムエラー?」
「いや、よくわからない。たまたま予約したい日が他の人と重なっちゃってるだけだと思うけど」
「ふうん」


久しぶりに見上さんが店に来た。
「よう、坊主」
「こんにちは、見上さん。深町さんも」
深町さんは久しぶりじゃない、時々ミチルで会うけど、それは内緒の話。
「坊主、誕生日だったんだろ?」
「なんで知ってるの?」
「お前が散々いついつが誕生日!って言いまくってたんだろ?」
「あ、そうか」
「坊主らしいな」

少し遠慮気味に深町さんが俺の前に立つ。
「才くん、これをどうぞ」
「え?」
「私からです、大したものではありませんがよろしければ……」
深町さんが紙袋を差し出す。
「いいの?」
「はい」
頼を見たら頷いてる。
「開けてもいいですか?」
「本当に大したものではないです」
手挽きのコーヒーミルだった。
いつも挽いてある豆を買ってて、自分でも挽きたいと思ってたから嬉しい!
ミチルで会うからこそ知っててくれてた。
「深町さん、ありがとう! すごく嬉しい!」
「いえ」
と言いながら珍しく照れてる。

「じゃあ俺からもだ」
「え?」
「深町」
「はい」
深町さんは見上さんに指示され、俺にスマホの画面を見せる。

なにこれ?
頼の店の予約サイトじゃん。
え? どういうこと? これがなに?

あっ!

「頼! ちょっと店の予約サイト見て!」
「え?」
「いいから早く!」
「なんだよ……」
ブツブツ言いながら自分の店の予約サイトを確認する。
「見たよ? なによ?」
「よく見てよ!」
「……え? は? ええっ!?」

頼の店の来月の予約が全て埋まっている。
頼が慌てて詳細を確認する。
予約は全て見上さんだった。
一日6時間予約枠を確保してある。
これだけ一人で予約を入れてしまうと実質他の人は思うように予約を入れられない。
これか、頼がお客さんから予約が取りにくいと言われたのは……

頼の店は30分5千円なので、
6時間で6万円。
6万×25日=150万円。
150万!?
施術無しでこの金額……

「見上さん! これどういうことですか?」
頼がたまらず見上さんに問う。
「俺から坊主へのプレゼントだ」
深町さんが頼に分厚い封筒を渡す。
「え?」
「現金払いの約束ですので」
「いや、さすがにこれは……」
「違法なことはしていません、正当に予約を取りました」
「でも……」
「坊主は夏休みだろ?
二人でゆっくり旅行にでも行ってくればいい」
頼が困惑してる。
「頼ちゃんへの時間のプレゼントでもあるな。ゆっくりできる時にゆっくりしろ、時間は有限なんだぞ」

頼が困っているのはよくわかる。
こんなやり方見上さんじゃなきゃ無理だけど、それを受けていいのか……
でも俺、本当はすごく嬉しかったんだ。
頼は店、俺はバイトですれ違うことも多くなっていた。
だからなによりも時間が欲しかった。

俺が見上さんに礼を言おうとしたその時、
「見上さん、ありがたく受け取ります」
そう言って頼は頭を下げた。
見上さんはふっと優しく笑うと、
「深町行くぞ」
と声をかける。
「はい」
「見上さん! ありがとう!」
立ち去る背中にそう礼を言うと、
「坊主の二十歳の祝いだ、頼ちゃんと好きに使え」
振り返らず後ろ手に手を振って見上さんは今日もまた5分足らずで帰っていった。
頼は頭を下げ続けていた。

頼は開き直った。
「せっかく見上さんにもらった時間だ、有効に使うぞ」
「うん!」
その夜から二人で計画を立てた。
こういうのは勢いだ!
ずっと行きたかったカナダへ行ってみることにした。
でかい所へ行ってみたい! という俺と頼の夢を叶える。
いつでも行けるようパスポートは取得済み。eTA申請も済んだ。
ミチルのマスターにも許可をもらった。
「行ける時に行きたいところへ行っておいで」
と優しく送り出してくれた。
ずっと行きたくて二人で貯金してたからほとんどそれで賄えた。見上さんのお金は店の売り上げとしてプールしてある。
もちろん売り上げは有り難い、なによりも時間を貰えたことが嬉しかったんだ。

ミチルに来ていた深町さんはなにも言わず静かに微笑んでいた。
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