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式島 昴
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「志郎さん、俺ね、一絃さんが働いてる会社はこの前知ったけど、おおよそ見当はついてたんだ。そのうちの一つだったよ。
33歳でそこの経理係長でしょ?
早いペースだよね。
ってことはおそらく、課長への昇進か、海外赴任が次のステージのはず。
俺の予想では海外赴任だね。
経験積ませるには必要だからね。
2~3年……もっとかな? 海外で経験積んで帰って来たら、経理課長ではなく、経営企画部あたりにひっぱられるんじゃないかと思ってる。財務って可能性もあるけど、一絃さんはそっちじゃないな、なんとなく。
前に一絃さんといる時に外国人に行き方を教えてくれって英語で言われて、俺、英語できるでしょ?
だから俺が教えたんだけど、それ見て、
「その場所と路線、よく知ってたな」
って一絃さん言ってたから聞き取れるんだよね。
ある程度の英語ができる、経理から海外赴任を経験させるとなると……やっぱり経営企画部とかだろうな。
あんまり仕事の話はしないけど有能なのはわかる。
会社の深部、内情を把握してる経理ってさ、地味に見えるけど実は違う。そこを仕切ってるのは相当やり手なはず。
そんな人材を会社が放っておくはずないし、一絃さんだってもっと上を狙ってるはずなんだ。
え?
そんな思惑通り行くわけない?
志郎さん、わかってないなあ。
一絃さんってね、ああ見えて野心家だよ。
チャンスがあれば絶対逃さないし、そのための努力も惜しまない。
でも、恋には臆病でポンコツなんだよなあ。
まあ、そこがいいんだけどさ。
見てなよ、俺の言った通りになるよ。
そうなると、いよいよ一絃さんも会社の根幹に携わってくる。
これはね、俺の願望かもしれない。
俺が本気になった男は小さくまとまる男じゃないだろ? という願望。
俺が入社した会社は商社とも密接な関係があるから、俺はコンサルとして、登り詰めてくる一絃さんをそこで待ち受ける。
俺は会社ごと一絃さんを抱き込んでやる。
恋では向き合ってもらえなかったけど、肩を並べて仕事をすることはできる。やっと対等になれるんだ。
俺もそのための努力は惜しまないし、必ずのし上がって見せる。
どうよ、これ。
なかなか面白い人生プランでしょ?」
どういうことだ。
昴くんは何をしようとしているんだ?
呆然としてる俺を見て志郎さんが笑う。
「一絃さん、封筒の中身見てよ」
俺は志郎さんに言われるがまま封筒を開ける。
封筒には二枚の名刺が入っていた。
昴くんのものだ。
「一枚は名刺をくれた彼にって言ってたよ」
名刺を見る。
NcK!?
NcKだと!
外資系コンサルタント、トップじゃないか!
就職最難関企業の筆頭だぞ!
昴くん、ここに就職したというのか?
抱き込んでやるというのは、弊社が文字通りビジネスとしてサポートされる側だからだ。
「志郎さん、これ……」
「本当だよ」
「そうなのか……全然予測もしてなかった……」
「一絃さんは昴くんのことを知らなすぎる」
「え?」
「昴くん、旧帝大だよ」
「ええっ!?」
嘘だろ……
大学生なのは知ってたけど、通ってる大学は聞いたことなかった。
あ、違う……聞いたけど、
「どこだっけなあ」
とシラを切られたんだ。
それにしても大学名と昴くんが結びつかない。
「お父さんが外交官でずっと海外で暮らしてたんだって。昴くんが高校に入るくらいの時に日本に戻ってきたから、日本語の他に英語とドイツ語が話せるんだよ」
知らなかった……
「高校で日本に戻ったけど、目立つのが嫌いなのに見た目で目立つし、それが嫌で学校では地味にしてたらしい。本当に普通の高校生だったみたいね。
無難に高校生活を送って、トップに行っとけばなんとかなるんじゃないかとか思って旧帝大に行ったんだって。大学はそれなりに楽しかったみたいだよ。でもゲイだからそっちの居場所も欲しくて、いろいろ探してうちに辿り着いたって言ってた。
で、ここで一絃さんと知り合ったってわけ」
昴くんは自分のことはほとんど話さなかった。
志郎さんは昴くんの気持ちを代弁する。
「きっと自分のことを話して面倒とか重いとか言われたくなかったんじゃないかな。
でもなりより子どもと思われたくなかったんだよな。
昴くん、一絃さんと外で会う時は身なりに気を付けていたよ。一絃さんに恥をかかせないようにって」
昴くんとの心地良さは何もかも俺への気遣いだったと今になって気づくなんて……
「今更、それも俺が言うことじゃないけどさ」
「はい」
志郎が切り出す。
「昴くんが一絃さんのこと本気だったのはわかってるよね?」
「……」
「あの子、かわいくてかっこいい、両方を兼ね備えた顔してるし、性格もあんなだからチャラついて見えるけど、誰にどんなに誘われても絶対OKしなかったよ。
一絃さんだけだった」
「俺は……」
「うん」
「昴くんのそれは若い子の気の迷いとか、年上への憧れだろうって思ってて……」
志郎さんが腕組みをする。
「嘘だね。
一絃さん、本気にならないようにしてたでしょ。
若い昴くんに捨てられるのが怖くて。
プライド?」
「……」
「ずるいやり方だよな。
昴くんは怖くなかったと思ってる?」
「……」
「昴くん、22だよ。怖くないわけないだろ?
本気で真っ向からぶつかっていってるのに、若いってだけでかわされて、そのくせ体は欲しがって。
一絃さん、卑怯だよ」
そのとおりだ。
俺が昴くんから逃げてたんだ。
自分が本気になるのが怖かったんだ。
若いから、まだ学生だから……
それを言い訳にしていた。
若い子の気の迷いで振られるなら耐えられるかもしれない。
昴くんが社会人になった時、対等になった時に捨てられたら……きっと俺は耐えられない、そこまで想像していた。
「昴くん、悪酔いなんて絶対しないんだけど、一度だけ潰れたことがあった。
一絃さんにもう二人きりでは会えないと言われた日だよ。
ここへ来て浴びるように飲んで潰れてた。
『俺とそいつと何が違ったんだろうな』って言ってた。
弱音吐いたのその時だけだよ。
好きなら諦めるなよって言ったんだ、俺。
でもな『俺が一絃さんを困らせたらダメでしょ?』って……
『それに諦めたわけじゃない、少しの間譲ってあげただけだし』って強がってた。
昴くんは強い。
一絃さんが思ってるよりずっとずっと強いし、大人だよ。
自分をわかってるから自分を貶めたりしない」
昴くんの名刺を指差しながら、
「一絃さん覚悟しなよ。
昴くんに会社ごとロックオンされたんだから」
「はい……」
「俺は逃した魚はデカすぎたと一絃さんが悔しがる姿を是非とも見たいね」
そう言って志郎さんは、がははと笑った。
そして何かを思い出したのか、パン! と手を打ち俺に言った。
「そうそう忘れてた、昴くんから伝言。
『以後、お見知りおきを』
だって」
スケールが違いすぎるよ……昴くん……
近寄れば火傷するような太陽みたいな子だと思っていた。
本当の昴くんは守ってあげなければ消えてしまう小さな蝋燭の灯火だった。
火傷してでも触れたかった、君の中にある柔らかな暖かさに俺は甘えきっていた。
逃げてごめん。
君と出会えて初めてゲイであることに喜びを感じたんだ。
俺は君のことを大切に思っていた。
それだけは絶対嘘じゃない。
君の人生プランの見立て通りになったら……
今度は逃げないよ、昴くん。
その小さな灯火を猛火にしようじゃないか。
ビジネスでなら俺は君と渡り合えるかもしれない。対等になれるかもしれない。
俺は君に恥じぬよう受けて立ちたい。
33歳でそこの経理係長でしょ?
早いペースだよね。
ってことはおそらく、課長への昇進か、海外赴任が次のステージのはず。
俺の予想では海外赴任だね。
経験積ませるには必要だからね。
2~3年……もっとかな? 海外で経験積んで帰って来たら、経理課長ではなく、経営企画部あたりにひっぱられるんじゃないかと思ってる。財務って可能性もあるけど、一絃さんはそっちじゃないな、なんとなく。
前に一絃さんといる時に外国人に行き方を教えてくれって英語で言われて、俺、英語できるでしょ?
だから俺が教えたんだけど、それ見て、
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って一絃さん言ってたから聞き取れるんだよね。
ある程度の英語ができる、経理から海外赴任を経験させるとなると……やっぱり経営企画部とかだろうな。
あんまり仕事の話はしないけど有能なのはわかる。
会社の深部、内情を把握してる経理ってさ、地味に見えるけど実は違う。そこを仕切ってるのは相当やり手なはず。
そんな人材を会社が放っておくはずないし、一絃さんだってもっと上を狙ってるはずなんだ。
え?
そんな思惑通り行くわけない?
志郎さん、わかってないなあ。
一絃さんってね、ああ見えて野心家だよ。
チャンスがあれば絶対逃さないし、そのための努力も惜しまない。
でも、恋には臆病でポンコツなんだよなあ。
まあ、そこがいいんだけどさ。
見てなよ、俺の言った通りになるよ。
そうなると、いよいよ一絃さんも会社の根幹に携わってくる。
これはね、俺の願望かもしれない。
俺が本気になった男は小さくまとまる男じゃないだろ? という願望。
俺が入社した会社は商社とも密接な関係があるから、俺はコンサルとして、登り詰めてくる一絃さんをそこで待ち受ける。
俺は会社ごと一絃さんを抱き込んでやる。
恋では向き合ってもらえなかったけど、肩を並べて仕事をすることはできる。やっと対等になれるんだ。
俺もそのための努力は惜しまないし、必ずのし上がって見せる。
どうよ、これ。
なかなか面白い人生プランでしょ?」
どういうことだ。
昴くんは何をしようとしているんだ?
呆然としてる俺を見て志郎さんが笑う。
「一絃さん、封筒の中身見てよ」
俺は志郎さんに言われるがまま封筒を開ける。
封筒には二枚の名刺が入っていた。
昴くんのものだ。
「一枚は名刺をくれた彼にって言ってたよ」
名刺を見る。
NcK!?
NcKだと!
外資系コンサルタント、トップじゃないか!
就職最難関企業の筆頭だぞ!
昴くん、ここに就職したというのか?
抱き込んでやるというのは、弊社が文字通りビジネスとしてサポートされる側だからだ。
「志郎さん、これ……」
「本当だよ」
「そうなのか……全然予測もしてなかった……」
「一絃さんは昴くんのことを知らなすぎる」
「え?」
「昴くん、旧帝大だよ」
「ええっ!?」
嘘だろ……
大学生なのは知ってたけど、通ってる大学は聞いたことなかった。
あ、違う……聞いたけど、
「どこだっけなあ」
とシラを切られたんだ。
それにしても大学名と昴くんが結びつかない。
「お父さんが外交官でずっと海外で暮らしてたんだって。昴くんが高校に入るくらいの時に日本に戻ってきたから、日本語の他に英語とドイツ語が話せるんだよ」
知らなかった……
「高校で日本に戻ったけど、目立つのが嫌いなのに見た目で目立つし、それが嫌で学校では地味にしてたらしい。本当に普通の高校生だったみたいね。
無難に高校生活を送って、トップに行っとけばなんとかなるんじゃないかとか思って旧帝大に行ったんだって。大学はそれなりに楽しかったみたいだよ。でもゲイだからそっちの居場所も欲しくて、いろいろ探してうちに辿り着いたって言ってた。
で、ここで一絃さんと知り合ったってわけ」
昴くんは自分のことはほとんど話さなかった。
志郎さんは昴くんの気持ちを代弁する。
「きっと自分のことを話して面倒とか重いとか言われたくなかったんじゃないかな。
でもなりより子どもと思われたくなかったんだよな。
昴くん、一絃さんと外で会う時は身なりに気を付けていたよ。一絃さんに恥をかかせないようにって」
昴くんとの心地良さは何もかも俺への気遣いだったと今になって気づくなんて……
「今更、それも俺が言うことじゃないけどさ」
「はい」
志郎が切り出す。
「昴くんが一絃さんのこと本気だったのはわかってるよね?」
「……」
「あの子、かわいくてかっこいい、両方を兼ね備えた顔してるし、性格もあんなだからチャラついて見えるけど、誰にどんなに誘われても絶対OKしなかったよ。
一絃さんだけだった」
「俺は……」
「うん」
「昴くんのそれは若い子の気の迷いとか、年上への憧れだろうって思ってて……」
志郎さんが腕組みをする。
「嘘だね。
一絃さん、本気にならないようにしてたでしょ。
若い昴くんに捨てられるのが怖くて。
プライド?」
「……」
「ずるいやり方だよな。
昴くんは怖くなかったと思ってる?」
「……」
「昴くん、22だよ。怖くないわけないだろ?
本気で真っ向からぶつかっていってるのに、若いってだけでかわされて、そのくせ体は欲しがって。
一絃さん、卑怯だよ」
そのとおりだ。
俺が昴くんから逃げてたんだ。
自分が本気になるのが怖かったんだ。
若いから、まだ学生だから……
それを言い訳にしていた。
若い子の気の迷いで振られるなら耐えられるかもしれない。
昴くんが社会人になった時、対等になった時に捨てられたら……きっと俺は耐えられない、そこまで想像していた。
「昴くん、悪酔いなんて絶対しないんだけど、一度だけ潰れたことがあった。
一絃さんにもう二人きりでは会えないと言われた日だよ。
ここへ来て浴びるように飲んで潰れてた。
『俺とそいつと何が違ったんだろうな』って言ってた。
弱音吐いたのその時だけだよ。
好きなら諦めるなよって言ったんだ、俺。
でもな『俺が一絃さんを困らせたらダメでしょ?』って……
『それに諦めたわけじゃない、少しの間譲ってあげただけだし』って強がってた。
昴くんは強い。
一絃さんが思ってるよりずっとずっと強いし、大人だよ。
自分をわかってるから自分を貶めたりしない」
昴くんの名刺を指差しながら、
「一絃さん覚悟しなよ。
昴くんに会社ごとロックオンされたんだから」
「はい……」
「俺は逃した魚はデカすぎたと一絃さんが悔しがる姿を是非とも見たいね」
そう言って志郎さんは、がははと笑った。
そして何かを思い出したのか、パン! と手を打ち俺に言った。
「そうそう忘れてた、昴くんから伝言。
『以後、お見知りおきを』
だって」
スケールが違いすぎるよ……昴くん……
近寄れば火傷するような太陽みたいな子だと思っていた。
本当の昴くんは守ってあげなければ消えてしまう小さな蝋燭の灯火だった。
火傷してでも触れたかった、君の中にある柔らかな暖かさに俺は甘えきっていた。
逃げてごめん。
君と出会えて初めてゲイであることに喜びを感じたんだ。
俺は君のことを大切に思っていた。
それだけは絶対嘘じゃない。
君の人生プランの見立て通りになったら……
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