地味子なのに突然聖女にされたら、闇堕ち中の王子様が迎えに来ました。 ~恋愛して世界救おうとか私には無理です~

みずほ

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2.ガイアでの暮らし

イヴの末路とレオの薬

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 イヴが出ていき3人になった執務室。それから、ハイデラがあらかじめ招集の声をかけていたグレンとアベル、ジゼルも合流し6人となった。    


「相変わらず、わざとらしく人払いをする」

 先程のイヴに対するハイデラの態度に、ライオネルが苦言を呈す。それに咳払いをして睨んで答えるハイデラ。

「ごほん。人聞きが悪いですよ。まだ当人は知らなくて良いことなのです。しかしあなた方にはしっかり、周知していて頂きたい」

 イヴの前で見せた柔らかい表情とは打って変わり、声のトーンを落として皆の顔を一瞥した。

「年取ると人間は甘くなるのかね。いやが応にも巻き込まれるんだ。本人だって知っておくべきだろ」

「私も同感」

 アベルとジゼルの言うことは正論だ。しかし、納得はできない。

「あいつは優し過ぎて精神に影響が出やすい。慎重に関わった方が良い」

 俺の発言に、驚いたような顔をする面々。おそらく遠征に行っていた時は大目に見てもらっていたんだろう。なんとなく察していたハイデラとライオネルも確信めいた顔だ。
 
 あーあ、これでバレたかと。両目を閉じて深くため息をつく。  

 人一倍厳しい視線を向けていたグレンが、沈黙を破って宰相の話を促す。

「皆が思うことはひとまず置いておいて。ハイデラ続けてくれ」

「願望機がまたこの世界に出現すれば、この世はまた血の海となるでしょう。あの力は、恐ろしい。天下を取れる力です」

「あやつはどうしてこれをあなた、すなわちガイアへ譲ったのでしょう。2人の間で力を進化、または変化させようとしているのやも。強大な力へ成長させ、やがて自分の手中へおさめる」

「きっと、あなたも選ばれた人材なのでしょう。亡き第二王妃とともに」

 唐突に出てきた第二王妃というワード。思わず眉根を寄せて右手に力が入る。

 ハイデラがわざと俺を試したと、知った時には時すでに遅し。また注目を浴びるはめになった。この重苦しい話が終わったら、きつい尋問を覚悟した。

「……その狂人化が誰かに仕組まれていたことなら?イヴをここへ連れてくるのも偶然ではなく必然として誰かのスケジュールに組み込まれていたとしたら?」

「私はこの世界で神にも等しい力を持とうとしているあいつらが怖いのです。そんな世界に奇しくもヴィンセント様が同じ時代に生まれ、あなた方が生まれた」

「大きな歯車が、あのいたいけな子どもを中心に回り始めているのでは、と不安でなりません」

 神妙な面持ちのハイデラに、ライオネルがあっけらかんと言い放つ。

「感情移入し過ぎだ。ガイアのことだけ考えれば良い。小娘1人の命でこの世に安寧が訪れるのであれば、安いものだろう」

「レオは望んでないようだがな。珍しく情に絆されて」

 ちらっとレオを見るアベル。

「いつから薬飲んでないんですか?」

 ジゼルに単刀直入に問われ、一斉に疑いの目を向けられる。もう誤魔化しなんてきかない、降参するほかない。
 何が自分自身、本心からの言葉になるか分からない。すなわち、何が最後の言葉になるか分からないのだ。それまでは、悔いなく正直に生きたい。

「薬はイヴと出会ってから飲んでない」

「なぜ?あれを飲まないとどうなるか分かってるだろう。皆の危険をさらしてまで、なぜ飲まない?」

 グレンのもっともな追求に、ライオネルも深くため息をついた。

「そうですね、あまりにも危機感が足りない」

「前回のこともあって兵士だって怖がっている。ちゃんと飲め」

 いつもだったら命令に従うのに、今回は素直に頷けなかった。グレンやライオネルを見据えて反論する。

「今、副作用のせいで彼女を不安にさせたくない」

 その一言に、琴線が切れたのかライオネルがつかつかと長い足を大股で近寄ってきて、俺の襟元をぐいっと掴んだ。

「あなたの我儘で、俺の部下が死んだら真っ先に殺しに行きますよ」

 目を見たら分かる、冗談じゃない本気の脅しだ。

「ライオネル、手を離せ。分をわきまえろ。いくら馬鹿なことを言っていても俺の弟だ」

 看過できない無礼にグレンが制す。ライオネルは申し訳ありませんでした、と口だけの謝罪を述べ乱暴に手を離した。


 はぁ、とため息をついて頭を抱えるグレン。その表情はただの苦悩一色というより、少し嬉しいような表情にも見えた。

「……久しぶりだな、レオと話すのは。本当は俺だってあんな薬飲ませたくない」

「グレン様!」

「分かっている。レオ、お前は彼女をどうしたい。このままではここで都合良く軍事利用されるだけだ。そしてやがては帝国やフェンリルの手に渡るだろう」

「おそらく、最後はエマだかのかわりにフェンリルの地下深くに眠らされる。そしたら次の聖女が生まれるまでそこで地を浄化するという名目で閉じ込められなければいけないんだろう」

「俺は、そんな悲劇許さない」

 更に驚いた面々、最初に口火を切ったのは宰相のハイデラだった。

「お言葉ですが、ガイアには関係ないことです。まずはレオ様の治療が優先事項、その後のイヴに関してあまり深入りするのは、この国にとって得策とは言えません」

 淡々と述べるハイデラに、うーん、と唸るグレン。認めたくはないが間違ったことは言っていない。

「まぁ、それが正論だが」

「どうか、第一王子として、いえ王位継承権第一位の次代国王としてのお立場を考えて、イヴの対応についてはくれぐれも慎重にお願いします」

 なにとぞ、なにとぞ、というハイデラに短いため息をつくグレン。

「ハイデラ、私の立場をお前に苦慮される覚えはない」

「はい、失礼いたしました」

「……お前らには分からんだろうが、レオは薬を飲むことに一度だって躊躇うことはなかった。それは自分よりも誰かを傷つけたくなかったからだ。それが今、自分や誰かのためじゃなくイヴのために薬を飲みたくないと言っている。それを兄としては尊重してやりたい。アベルはどう思う?」

「もうずっと、ぼーっとしてるレオ兄しか見てなかったから。はっきり意思表示すんの初めてじゃないか?薬飲まなくてもさ、ある程度、あのキスで自制できんじゃん?俺も飲まなくて良いなら飲んで欲しくないよ、あんな薬」

 兄弟の意向に押し黙るハイデラとライオネル。重苦しい雰囲気の中、キスというワードにジゼルが名案を思いついたとばかりに発言した。

「ねぇ、毎晩キスして一緒に寝たら良いんじゃない?」

「は?」

 思わず、腑抜けた声が出た。先程、彼女の負担を考慮して違う浄化の方法がないか、ハイデラと模索していこうと話したばかりだ。
 しかし現状、他に方法がない。薬を飲みたくない、彼女とキスもしたくない。あれもこれも嫌だとは言っていられない。

 一瞬唖然とするも、「悪くないな」と言い始めたグレン。アベルもまるで茶化すように、笑っている。

「そうしよう。ただ、おかしな行動がみられた場合はすぐに薬を飲ませる」

「ちょっと待ってくれ、その約束をする前に彼女にどちらが良いか確認したい。彼女が少しでも嫌な素振りをするようだったら、大人しく薬を飲むよ。そのかわり、誰か必ず彼女のサポートなりケアなりしてくれ。それが条件だ」

「分かった、分かった」

 俺の必死の主張に、笑いながら答えるグレン。難しい顔をしているライオネルに尋ねる。

「ライオネル、お前は部下が可愛いんだろうが俺も弟が可愛い。最低限の願いは叶えてやりたい。これで勘弁してもらえないか。心苦しいとは思うが、この決定を覆したいなら父上に言ってくれ」

「これはまた難問を言う。国王様が三兄弟が決めたことに反対するはずがないでしょう。あの方はいつだってあなた方の味方なのですから」

 まるでライオネルの顔にやれやれしょうがない、書いてあるようだ。俺たち三兄弟は、小さい頃から、ライオネルに武芸の稽古を厳しくつけられてきた。

 
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