誰にも見えない自分専用ダンジョンでレベル上げしてたら世界ランキングに入っていました

七瀬ななし

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第五十六話 六十五階は美味しい場所だった?

鈴木努は、

ついに――

六十五階へ到達した。

警戒しながら進む。

深層特有の重圧。

濃い魔力。

一歩間違えれば死ぬ領域。

……のはずだった。

「……静かだな」

敵の気配がない。

罠もない。

不気味なくらい平穏だった。

そして、

奥へ進んだ努は立ち止まる。

「うわ」

金貨。

宝石。

銀塊。

ダイヤモンド。

見渡す限りの財宝。

山。

谷。

きらめく黄金の海だった。

「これは……」

「お宝ゲットしたな」

危機感より先に金勘定だった。

ニーが呆れる。

「まず疑いなよ」

チーも真顔。

「こんな露骨な宝物庫ある?」

努は少し考えた。

「……あるかも」

「ないよ」

その時だった。

努の脳裏に一つの知識がよぎる。

「確かドラゴンって……」

「光り物集めなかったっけ?」

言った瞬間、

背後に巨大な気配。

空気が凍る。

振り向かない。

それが生存本能だった。

「これはいかん」

即断。

転移。

数秒後。

四十階安全地帯。

努は床に転がった。

「やばいやばい」

「完全に前に倒した龍の親じゃん」

汗だくだった。

かつて二十六階で倒した小型龍。

その同種、

いや比較にならない巨大さ。

圧。

殺意。

格が違った。

「……あんなの、まだ倒せんぞ」

珍しく冷静な評価だった。

「ここでしばらく周回だな」

現実的判断である。

だが、

努の口元がゆがむ。

「くくく……」

ニーが嫌な予感を覚える。

努は両手を開いた。

そこには、

ダイヤ数個。

金貨数枚。

しっかり握っていた。

「持ってきたもんね」

「やったね!」

最低だった。

その頃、

移動販売ケットシー屋台。

ミューは絶叫した。

「なんてもの持ってきたのにゃ!!」

「それ、あいつの所有物にゃ!!」

「え?」

「え?じゃないにゃ!」

「ドラゴンは執着深いのにゃ!」

「お前、これでしつこく狙われるにゃ!」

努の顔色が変わる。

「そんな怖い金、受け取れんにゃ!」

ミューは素早く金貨と宝石を奪い、

アイテムボックスに押し込んだ。

「証拠隠滅にゃ!」

「そういう問題?」

だがミューは商人だった。

数秒後には笑顔に戻る。

「ところで今日は朗報があるにゃ」

嫌な予感しかしない。

取り出したのは、

黒光りする一本のバット。

不穏だった。

「ドラゴン特攻付き!」

「創造神様謹製!」

「燃えよドラゴンズバットにゃ!」

沈黙。

努は確認した。

「……おいくら?」

「魔石六十個にゃ!」

「高い」

一拍置く。

「買った!」

即決だった。

ニーが叫ぶ。

「なんでだい!」

「名前最高だろ!野球といえば中日、野球といえば俺だろ!」

「誰の真似だよ!」


努は握った。

その瞬間、

手に馴染む。

重心。

握り。

振り抜き。

完璧だった。

「……しっくりくる」

今まで持った剣より。

斧より。

槍より。

何より。

バットが一番しっくりきた。

チーが遠い目をする。

「この人、戦士じゃなくて不良だったのかな」

努は素振りを始めた。

ブン。

ブン。

風を切る音。

「くくく……」

「これさえあれば……」

「俺の時代キタコレ!」

完全に浮かれていた。

その夜、世界ランキング更新。

65

世界中が騒然。

「また進んだ!」

「誰だよこいつ!」

「止まらない!」

誰も知らない。

世界第一位がその時、

ドラゴン討伐用バットを手に素振りしていたことを。
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