誰にも見えない自分専用ダンジョンでレベル上げしてたら世界ランキングに入っていました

七瀬ななし

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第八十二話 今さら現れたヒロイン

 第1階層。

 安全地帯。

 そこで今日も鈴木努は修行していた。

 六体に分身し、六方向から同時演奏。

 第一の努がトランペット。

 第二の努がホルン。

 第三の努がトロンボーン。

 第四の努がフルート。

 第五の努がクラリネット。

 第六の努が指揮兼全体統制。

 もはや何の訓練なのか、本人以外には分からなかった。

 その時だった。

 パチパチパチ……

 静かな拍手が響いた。

 努たちは一斉に振り返る。

「はあ?」

 そこに立っていたのは、一人の女性だった。

 長い銀髪。

 透き通るような白い肌。

 翡翠色の瞳。

 風に揺れる森色の衣。

 そして耳は、長く尖っていた。

 誰がどう見ても――

 エルフである。

 チーが目を見開く。

「……あらら、ついに本物が来たわね」

 ニーは腕を組んだ。

「今まで猫とか創造神とかいた時点で今さらなんだよ」

 女性は優雅に一礼した。

「お初にお目にかかります。私はエルフの里より参りました、リーゼと申します」

 努は首をかしげる。

「なんでここに?」

 彼女の説明は衝撃的だった。

 このダンジョンと、エルフの住まう世界樹のダンジョンは深層で繋がっている。

 そしてこのダンジョンが攻略されることで、世界樹側の瘴気も浄化され、エルフの世界は守られるのだという。

「若い私が選ばれてこのダンジョンの攻略を始めようとしていたら音楽が聞こえてきて」

「なるほど、だったら俺たちが進めば進むほど、そっちの世界も救われる確率が高いんだ」

「ここに入れる資格者は、ただ一人。私が倒れれば他の巫女が挑戦することになっております」

 努は少し考えた。

「なるほど。このダンジョンは多分100階あるんだ。そして、今、俺たち96階の攻略中だ」

 その瞬間。

 リーゼはその場にひれ伏した。

「救世主様……!」

 努は慌てた。

「いやいやいや、違う違う」

 そして横にいたニーを指差した。

「創造神様の使いはこっちだよ」

「え?」

 ニーが固まる。

 次の瞬間。

 リゼリアはニーへ向かって全力土下座した。

「神の御使者様……!」

「なんでだよ!」

 ニーが叫ぶ。

 チーは腹を抱えて笑っていた。

「似合ってるわよ、神の使い」



 さらに話を聞けば、エルフ側には予言があった。

二十年以内にこのダンジョンを攻略できねば、世界樹は枯れ、世界は滅ぶ。

 その使命のため、若き代表者として選ばれたのがリゼリアだった。

「実際、まだ二十歳です」

 彼女は少し照れながら言った。

 チーが小声で努に囁く。



「若い、美人、使命持ち、健気。完全にヒロイン枠じゃない」

 ニーも頷く。

「設定盛りすぎなんだよ」

 努は遠い目をした。

「……もうすぐこの物語終わるのに、今になってヒロイン出てくるってどういうことだ」

 全員が固まった。

 努もはっとした。

「やば」

「メタいわね」

 チーが即座に突っ込む。

「こういうの禁止なんじゃなかったのか?」

 ニーも呆れる。

 ミューは笑っていた。

「終盤に急に新ヒロイン投入、王道にゃ」

 リゼリアは事情をよく分かっていなかったが、真っ赤になっていた。


「ひ、ヒロイン……?」

 努は咳払いした。

「いや、今のは忘れて」

「は、はい……!」

 なぜか嬉しそうだった。

 その日から、リゼリアも第1階層で修行に加わった。

 六人の努に混ざり、一人だけ普通に弓術練習をしていた。

「この空間だけ情報量おかしいわ」

 チーが呟く。


 ついに、努にも嫁ができそうであった。



 ……もうすぐこの物語終わるけど。
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