二つの魂は剣を振るう

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第二章

第33話「揺れる戦場」

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 カサンドラの肩をかすめた短剣の一撃は、決して深くはなかった。
 だが、戦場にとっては十分すぎる衝撃だった。

「やったぞ! あの女将に血が――!」
「小娘が斬ったんだ!」

 王国兵たちの口々の叫びが広がる。崩れかけていた盾列が立ち直り、槍の穂先が一斉に前へと突き出された。絶望に沈んでいた空気が、わずかな希望で色を変える。

 一方で、帝国兵は主の負傷に息を呑み、すぐに怒声をあげた。
「カサンドラ将軍に傷をつけるとは!」「討て!」
 士気は逆に高まる。狂気じみた眼差しで、彼らはさらに前へと詰め寄った。

 戦場そのものが、大きく揺れていた。希望と恐怖が渦を巻き、どちらに傾くかは、いま刃を交える二人の勝負に委ねられているかのようだった。

 カサンドラは血の滲む肩を気にも留めず、長剣をゆるりと振るった。滴る赤が刃を伝い、地に散る。
 その目は冷たく光り、敵味方を凍りつかせる。

「……面白い。前とはまるで別人のような眼だ。誰に鍛えられた?」

 挑発とも、純粋な興味ともつかぬ声。
 リシアは答えず、両の剣を握り直した。

(怖い……でも、私はもう退かない。これが、私の剣だから!)

 胸の奥から、ベルナルトの声が響く。
『よいぞ、リシア。斬り結ぶたびに、わしの剣とお前の剣が重なり合っていく。恐れるな――この震えも、お前の力に変えろ』

「……うん」
 リシアの唇が小さく動く。青と金の瞳に、戦場の光が宿る。

 カサンドラが踏み込み、長剣を振り下ろした。
 重い一撃が地を割り、周囲の兵たちが吹き飛ばされる。
 その隙を縫うように、リシアは前へ躍り出た。直剣で軌道を逸らし、短剣を逆手にして腹部を狙う。

 だが、カサンドラは瞬時に反応した。
 長剣を捻り返し、短剣を弾き飛ばす。空中で銀の刃が回転し、土に突き刺さった。

「惜しいわね。けれど――まだ浅い」
 カサンドラが低く囁き、白刃を構える。

 リシアは短剣を拾おうと身を沈める。
 その背に矢が降り注いだ瞬間、セリナが駆け寄り、槍で弾き落とす。
「リシア! 気を抜くな!」
「ありがとう、セリナ先生……!」

 セリナは短く頷き、再び前線へと戻る。彼女の心は叫んでいた。
(あの子を死なせるわけにはいかない……! けれど、今の戦いを止めれば――あの覚悟を踏みにじることになる)

 リシアは地を蹴り、再び短剣を握る。
 息は荒い。腕は重い。それでも心は折れていない。

(ベルナルト……次は、もっと深く)
『ああ。だが焦るな。隙は必ず生まれる。お前の剣で、切り開け』

 再び交差する刃。
 甲高い金属音が戦場を震わせ、王国と帝国の兵たちは一斉に動きを止めて二人の戦いを見守った。

 血と火花の中、青と金の瞳が燃える。
 リシアは小さな体で、圧倒的な力の奔流に抗いながら、なお前を見据えていた。
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