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第8話「揺れる均衡」
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冷たい照明が灯る会議室。
壁に映し出された監視映像には、昨夜の戦闘の記録が繰り返し流れていた。
黒い布をまとった少女――〈ジョーカー〉が、必死に銃を構え、赤いマントの怪盗を追う姿。
しかし最後に積荷をさらったのは、やはりクラウンだった。
「……結果は失敗。君の働きだけでは不十分だ」
無機質な声が天音の耳に突き刺さる。
ヴァルハラ社の幹部は、彼女に表情ひとつ見せず淡々と告げた。
「次の任務では、別の影を同行させる。詳細は追って伝える」
「……了解」
天音は感情を押し殺し、静かに頭を下げる。
その胸に抱いた〈Quiet Teddy〉だけが、彼女の小さな鼓動を知っていた。
(また……信じてもらえなかった)
内心の声を、誰も聞くことはない。
唇の端に浮かぶのは、無表情を装うための硬い線。
◇
午後。
高校の進路相談室。
神楽隼人は机の上に資料を広げ、向かいの生徒に問いかけていた。
「将来、やりたいことはあるか?」
「うーん……まだ決まってなくて」
目を伏せる生徒を見つめながら、隼人はふと遠い日の自分を思い出す。
やりたいことが見えず、ただ日々をやり過ごしていた頃の空白。
――その空白を埋めるように、彼は仮面を被った。
耳元でヴェイルの声が落ちる。
「昨夜の設計図には、子供を用いた実験記録が含まれていました」
「子供を……」
思わず握る手に力がこもる。だが、すぐに笑みを作った。
「夢は、まだ見つからなくてもいい。探し続ければいいんだ」
生徒は安心したように頷いた。
隼人は胸の奥に渦巻くざわめきを、笑顔の裏に押し込めた。
◇
夕暮れの商店街。
天音は駄菓子屋の袋を片手に、ふらつきながら自販機に小銭を入れていた。
だが古い機械は反応せず、ガコンと硬貨を飲み込んだまま沈黙する。
「え、ちょっと! 返してよー!」
小さな拳で叩くが、返却口はうんともすんとも言わない。
その後ろから、低い声がかかった。
「調子が悪いらしいな。……試してみてもいいか?」
振り返ると、スーツ姿の男が立っていた。
琥珀色の瞳に軽い笑みを宿した、見覚えのある“大人”。
「あ……この前の、おじさん」
隼人は苦笑し、指先で軽くボタンを押す。
カラン、と音を立てて瓶が転がり出た。
「ほら。こういうのは力じゃなく、ちょっとしたコツだ」
「すごい! ありがとう!」
天音は小さな手で瓶を抱え、嬉しそうに笑った。
「お礼に……これ、あげる」
彼女は駄菓子屋で買ったばかりのラムネを一本差し出した。
「おじさん、ラムネ飲んだことある? めっちゃおいしいんだよ」
「ふふ、じゃあいただこう。君のおすすめなら、きっと名演だ」
隼人は軽く頭を下げ、ラムネ瓶を掲げる。
天音は「変な人だなぁ」と呟きつつも、どこか楽しげに手を振った。
◇
夜の帳が降りる。
天音は制服を脱ぎ捨て、仮面と黒布をまとった。
〈Quiet Teddy〉が闇の中で静かに形を変え、銃口を光らせる。
「……次は、必ず」
少女の声が消え、影がトンネルへと溶けていった。
その頃、ヴァルハラ社の別室。
幹部たちが密やかに頷き合う。
「ジョーカーには知らせるな。第二の影を動かす」
「はい。彼女には彼女の役を演じさせればいい」
知らぬ間に、天音の背後にもう一つの影が忍び寄ろうとしていた。
壁に映し出された監視映像には、昨夜の戦闘の記録が繰り返し流れていた。
黒い布をまとった少女――〈ジョーカー〉が、必死に銃を構え、赤いマントの怪盗を追う姿。
しかし最後に積荷をさらったのは、やはりクラウンだった。
「……結果は失敗。君の働きだけでは不十分だ」
無機質な声が天音の耳に突き刺さる。
ヴァルハラ社の幹部は、彼女に表情ひとつ見せず淡々と告げた。
「次の任務では、別の影を同行させる。詳細は追って伝える」
「……了解」
天音は感情を押し殺し、静かに頭を下げる。
その胸に抱いた〈Quiet Teddy〉だけが、彼女の小さな鼓動を知っていた。
(また……信じてもらえなかった)
内心の声を、誰も聞くことはない。
唇の端に浮かぶのは、無表情を装うための硬い線。
◇
午後。
高校の進路相談室。
神楽隼人は机の上に資料を広げ、向かいの生徒に問いかけていた。
「将来、やりたいことはあるか?」
「うーん……まだ決まってなくて」
目を伏せる生徒を見つめながら、隼人はふと遠い日の自分を思い出す。
やりたいことが見えず、ただ日々をやり過ごしていた頃の空白。
――その空白を埋めるように、彼は仮面を被った。
耳元でヴェイルの声が落ちる。
「昨夜の設計図には、子供を用いた実験記録が含まれていました」
「子供を……」
思わず握る手に力がこもる。だが、すぐに笑みを作った。
「夢は、まだ見つからなくてもいい。探し続ければいいんだ」
生徒は安心したように頷いた。
隼人は胸の奥に渦巻くざわめきを、笑顔の裏に押し込めた。
◇
夕暮れの商店街。
天音は駄菓子屋の袋を片手に、ふらつきながら自販機に小銭を入れていた。
だが古い機械は反応せず、ガコンと硬貨を飲み込んだまま沈黙する。
「え、ちょっと! 返してよー!」
小さな拳で叩くが、返却口はうんともすんとも言わない。
その後ろから、低い声がかかった。
「調子が悪いらしいな。……試してみてもいいか?」
振り返ると、スーツ姿の男が立っていた。
琥珀色の瞳に軽い笑みを宿した、見覚えのある“大人”。
「あ……この前の、おじさん」
隼人は苦笑し、指先で軽くボタンを押す。
カラン、と音を立てて瓶が転がり出た。
「ほら。こういうのは力じゃなく、ちょっとしたコツだ」
「すごい! ありがとう!」
天音は小さな手で瓶を抱え、嬉しそうに笑った。
「お礼に……これ、あげる」
彼女は駄菓子屋で買ったばかりのラムネを一本差し出した。
「おじさん、ラムネ飲んだことある? めっちゃおいしいんだよ」
「ふふ、じゃあいただこう。君のおすすめなら、きっと名演だ」
隼人は軽く頭を下げ、ラムネ瓶を掲げる。
天音は「変な人だなぁ」と呟きつつも、どこか楽しげに手を振った。
◇
夜の帳が降りる。
天音は制服を脱ぎ捨て、仮面と黒布をまとった。
〈Quiet Teddy〉が闇の中で静かに形を変え、銃口を光らせる。
「……次は、必ず」
少女の声が消え、影がトンネルへと溶けていった。
その頃、ヴァルハラ社の別室。
幹部たちが密やかに頷き合う。
「ジョーカーには知らせるな。第二の影を動かす」
「はい。彼女には彼女の役を演じさせればいい」
知らぬ間に、天音の背後にもう一つの影が忍び寄ろうとしていた。
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