月下遊戯(げっかゆうぎ)

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第15話「黒い相棒」

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昼休みの教室。
窓の外では蝉の声が途切れ途切れに響き、校庭を駆け回る子どもたちの笑い声が差し込んでいた。
白石天音は机に突っ伏し、視線をぼんやりと宙に泳がせていた。

「天音ちゃん、どうしたの? 眠い?」
隣の友だちが心配そうに覗き込む。

「ん……ちょっとね。昨日、夜ふかししちゃった」
天音はぎこちなく笑ってみせる。

机の横で〈くまさん〉が揺れた。
天音はそっとそれを抱き寄せ、胸の前で強く握る。

(ほんとは……眠れなかっただけ)
目を閉じれば、あの冷たい仮面と刃が迫る光景が浮かぶ。
「感情は不要」と言い放ったクイーンの声が、まだ胸を締めつけていた。

それでも――昼の自分は“普通の小学生”。
「ほら、見て!」と友だちが見せる駄菓子の袋に、無理やり笑顔で応じる。
くまさんの柔らかい感触を確かめながら、心の中で小さくつぶやいた。

(ねえ……わたし、本当に大丈夫だよね?)



放課後。
夕陽に染まる商店街。
天音は小銭を握りしめ、並ぶジュースを前に悩んでいた。

「うーん……どれにしよう……」

「また迷ってるのか」

不意に背後から声。
振り返ると、スーツ姿の神楽隼人が立っていた。
相変わらず落ち着いた眼差し。手には分厚い書類の袋。

「おじさん!」
思わず声が弾む。胸の重さが一瞬だけ軽くなる。

「おすすめは?」
隼人が肩をすくめながら問いかける。

天音は真剣な顔で棚を見つめ、一本の缶を差し出した。
「これ! 夏はやっぱりオレンジ!」

「ふふ……君の舞台にはよく映えそうだ」
「また変なこと言ってるし」

頬をふくらませる天音に、隼人は微笑みを返した。
何でもないやりとりなのに、不思議と心が温かくなる。



その夜。

高層ビルの屋上。
〈クラウン〉は街の灯を見下ろし、昼間の映像を反芻していた。
オレンジジュースを誇らしげに掲げ、無邪気に笑う小さな少女。

「……なるほど。人間の顔も、悪くない」
仮面の奥で琥珀の瞳が細められる。

ヴェイルが告げる。
「Q-01。揺らぎは増しています」

「だからこそ、観客は惹かれる。完璧な人形より――人間くさい役者を」
クラウンはマントを翻し、夜風に溶けた。

「さあ……次の幕で、どう踊ってみせる?」

月明かりが、彼の影を長く引き伸ばしていた。
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