転生勇者を観察していたら、不可解だらけの日常が始まった件

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第5話 封印の遺跡、都合よく開く

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学園祭の翌週、校内はまだ色とりどりの紙花の残り香に包まれていた。浮き足立つ空気の中、次なる行事の発表が行われる。

「次の課外授業は──《灰色の遺跡》だ」
教師の声が響いた瞬間、教室がざわめきに包まれる。

「えっ、あの遺跡って百年に一度しか開かないんでしょ?」
「今年はちょうどその年なんだって!すごーい!」
「やっぱり勇者さまが来たからだよ!」

私――白霧ルカは、黒革のノートを取り出し、羽ペンを走らせた。

『偶然、百年に一度の扉が開く年。勇者が入学した直後に。
あまりにもできすぎている。不可解』

「ルカ、また書いてる!」
カレンが机に身を乗り出す。長い栗色の髪がさらりと揺れた。
「ほら、絶対おかしいじゃん! 王女が転校してきて、今度は遺跡オープン!? 勇者の物語、盛りすぎだよ!」

「偶然にしては確率が低すぎるな」
ユウリは淡々と指を組み、考え込む。
「古文書によれば、封印は“真なる導き手が現れたときに開く”とされていた。つまり、蓮の存在そのものが条件だと……」

「演出のしすぎだよ!」
カレンが再び声を上げる。
だが、他の生徒たちは「運命だ!」「勇者さまと王女殿下のための遺跡だ!」と大盛り上がりだった。

当の蓮はといえば、例のぎこちない笑顔のまま、肩をすくめていた。
「俺、まだ全然……何もわからないのに」

そのとき、遺跡の中央に置かれた石の扉が、きしむような音を立てて勝手に開いた。
中からは淡い光を放つ一冊の古代書が、ふわりと宙へ浮かび上がる。

「勇者さま……これを受け取ってくださいませ」
セシリア王女が両手を差し伸べ、頬を紅潮させながら蓮に言った。

クラス中からは歓声が上がり、誰もが目を輝かせている。
私は静かにノートを開き、書き記した。

『遺跡の扉、勇者の一言で開く。
古代書は彼のために浮かび上がる。
これは偶然ではない。ご都合主義の舞台装置だ』

カレンは頭を抱えて転げ回った。
「もうやだ~!王女が加わったと思ったら、今度は遺跡まで開くの!? どんだけ勇者に都合いいの!」

ユウリは小さくため息をついた。
「この世界、やはり物語として構築されている……。不可解だ」

私はそっと微笑み、ノートを閉じた。
――観察者にとって、今日もまた退屈しない一日が始まったのだ。
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