転生勇者を観察していたら、不可解だらけの日常が始まった件

Y-z

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第6話 封印遺跡の奥で

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 《灰色の遺跡》の扉が開いた翌日、私たちのクラスは課外授業として遺跡探索へ向かうことになった。
 百年に一度しか開かないという伝承の場所に、王女殿下まで同行すると知ったとき、全員の目はきらめき、まるで冒険譚の主人公になったかのようにはしゃぎ出した。

「すごいよね! 学園祭の翌週に、こんな大イベントだなんて!」
カレンはローブの裾を翻しながら、手を叩いていた。
私は肩をすくめて、黒革のノートを膝に広げる。

『百年に一度、都合よく扉が開く。勇者の到来に合わせたかのような演出。不可解』

 遺跡の内部は、私の予想通り妙に整っていた。壁画は色鮮やかに残り、床はついさっき磨かれたように光沢を放っている。

「ねぇルカ、見てよ。こんなに綺麗な遺跡ある? 誰か毎日掃除してるの?」
「……その可能性も、なくはない」
「いやいやいや!百年も閉ざされてたんだよ!? 完全におかしいでしょ!」
 カレンは声をひそめながらも、半ば叫んでいた。

 ユウリは冷静に指を壁の模様へ走らせる。
「この文様は封印術……しかも最近刻まれた痕跡がある。百年どころか、数日前のものかもしれない」
「つまり誰かがわざわざ開けたってこと?」と私は小声で問う。
「その可能性が高い。……勇者が現れたこの時期に」

 ユウリの言葉が終わらぬうちに、地の底から重い音が響き渡った。
 遺跡の奥、黒い霧がもくもくと湧き上がり、漆黒の鎧を纏った巨体が姿を現す。

「グルルル……勇者! ついに来たか……! 我らが主のため、お前を討つ!」

 あまりに都合のよい登場に、教室から見物に来ていた生徒たちは一斉に叫び、歓声と悲鳴が入り混じった。
「すごい!これが運命の戦いだ!」
「かっこいいー!」

「ちょ、ちょっと!どうして昨日開いたばっかの遺跡に、もう魔王の手下が待ってるの!? 絶対おかしいでしょ!」
 カレンが信じられないという顔で叫ぶ。

 私は羽ペンを握り直し、さらさらと書き記した。

『封印の遺跡。魔王の僕、都合よく待機中。
勇者の物語は、もはや出来すぎた舞台劇のよう』

 蓮は剣を構え、王女と“いつの間にか仲間になった”在校生と肩を並べていた。
 光る魔導書を背に、三人はまるで英雄譚の挿絵から抜け出したかのようだ。

 私はその光景を見上げ、ページに最後の一文を加える。
「……また、不可解」
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