転生勇者を観察していたら、不可解だらけの日常が始まった件

Y-z

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第7話 喝采の影で

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 遺跡の広間に黒い霧が渦巻き、漆黒の鎧をまとった巨体が現れた。
「フハハ……勇者よ。ついに姿を見せたな! 我らが主の復活、その始まりを告げるために、ここでお前を待っていたのだ!」

 その言葉に、クラス中が一斉に息を呑む。
「うそ……昨日開いたばかりなのに!?」「本当に待ってたってこと!?」
 ざわめきはすぐに歓声へと変わり、誰もが興奮した目で蓮を見つめた。

 当の勇者本人は、剣を握りながら苦笑いを浮かべる。
「……なんでこうなるんだよ」
 迷いが滲む声を、誰も気に留めない。

 王女セシリアは優雅に一歩前に出て、杖を掲げた。
「勇者さま、わたくしがお支えします」
 その言葉は、あまりに舞台じみていて、カレンは思わず頭を抱えた。
「ちょっと待って! 王女さまが自らサポートって、そんなのご都合イベント以外に説明つかないでしょ!」

 ユウリは落ち着いた声で付け加える。
「しかも、敵は“百年に一度開くはずの遺跡”の奥で待機していた。確率的に考えても……不自然すぎる」



 黒騎士が大剣を振り下ろす。
 鋼と鋼がぶつかり合い、火花が散った。蓮は押されながらも、必死に剣を構え続ける。
 在校生の魔術師が詠唱を響かせ、炎の壁を張る。王女は祈りを捧げ、眩い光を放つ。

 三人が一糸乱れぬ動きで連携すると、あれほど凶悪だった魔王の手下はあっさりと崩れ落ちた。

「すごい! 勇者さまの完全勝利だ!」
「やっぱり勇者には仲間と試練がつきものだよね!」
 生徒たちは拍手喝采。頬を赤らめた王女が、蓮を尊敬の眼差しで見上げる。

 だけど私たち三人は、盛り上がる教室の空気に取り残されていた。

「……ねぇ、ルカ。昨日遺跡が開いたばっかなのに、どうして中に魔王の手下がスタンバイしてるの? 意味わかんないんだけど!」
 カレンが信じられないと首を振る。

 ユウリは冷静に眼鏡の奥で光を弾かせ、
「脚本家でもいるのか? まるで勇者が来る日を予期して、敵が待っていたようだ」と呟く。

 私は黒革のノートを広げ、静かに一行を書き加えた。

『勇者に合わせて展開される“都合の良い戦い”。
拍手喝采の裏に漂う、どうしようもなく奇妙な気配』

 蓮は勝利の歓声に囲まれながら、どこか寂しげに微笑んでいた。
 私はその横顔を見つめ、胸の奥に小さなざわめきを抱いた。

「……不可解。舞台はまだ続く」
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