転生勇者を観察していたら、不可解だらけの日常が始まった件

Y-z

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第8話 迫られた選択

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 遺跡での戦いから一夜明けても、学園は興奮冷めやらなかった。
「勇者さまと王女殿下が並び立つなんて!」「伝説の再現だ!」
 そんな声が廊下の至る所で飛び交っている。

 教室に入ると、さらに奇妙な空気が広がっていた。
 生徒たちが半ば当然のように話しているのだ。
「次は誰が勇者さまの仲間になるんだろう?」
「カレンとかいいんじゃない? 元気あるし!」

「ちょっと待ってよ、なんで私!?」
 カレンが慌てて机から立ち上がる。その瞬間だった。

「……カレン」
 蓮がこちらを見つめ、静かに声をかけてきた。
「君も、一緒に来てくれないか」

 空気が一変する。
 クラスの視線が一斉にカレンに注がれ、王女セシリアまでが頷いた。
「勇者さまがお望みなら、きっと相応しいのでしょう」
 在校生の魔術師も微笑みながら言葉を添える。
「仲間は多い方がいい。彼女なら役に立つはずだ」

「いやいやいや! なんでそうなるの!? 私、魔法も剣もダメだし!」
 カレンは必死に否定するが、足が勝手に一歩前へ出てしまう。
 まるで何かに押し出されるように。

「……やめなよ」
 その腕をつかんだのは、私だった。

 教室のざわめきが止む。
「ルカ……?」
「カレンはここに残る。少なくとも、今は。
 彼女はあなたと共にすることを希望していない」

 私の声は淡々としていたが、誰も言葉を返せなかった。
 ユウリだけが低く続ける。
「強制する必要はないはずだ。仲間になるかどうかは本人が選ぶことだ」

 蓮は困ったように視線を落とし、しばし沈黙した。
「……ごめん。俺、ただ……一緒にいてくれたら、って思っただけで」

 空気が緩み、カレンはようやく深呼吸をした。
「……もう、心臓止まるかと思ったじゃん」

 私は黒革のノートを開き、一行を書き記す。

『勇者の物語は、仲間を増やそうと動き出す。
けれど、すべてが受け入れられるわけではない』

 ページを閉じると同時に、教室のざわめきが再び戻ってきた。
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