転生勇者を観察していたら、不可解だらけの日常が始まった件

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第14話 不可解なる実習

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 近郊で魔王の配下が現れた――その報せを受けて、学園は慌ただしく動き出した。
 だが教師たちの決定は意外なものだった。
「予定通り、次の実習は近郊の森で行う。ただし勇者さまがいるから心配はない」

「えええっ!? よりによって魔王の手下が出た場所で実習!?」
 カレンが机を叩いて立ち上がる。
 ユウリは冷静に眼鏡を押し上げた。
「偶然にしては出来すぎだ。……勇者の舞台が用意されたと見るべきだろう」

 私はノートを開き、一文を記す。

『危険地帯での実習決定。
勇者に都合よく舞台が整えられていく。不可解』



 実習の日。
 生徒たちは緊張と興奮を入り混ぜた顔で森の入口に集まっていた。
「勇者さまがいるから大丈夫!」「これも伝説になるんだ!」
 口々にそう囁く声が、胸をざわつかせる。

 先頭に立つ蓮は、どこか硬い表情をしていた。
 王女セシリアと魔術師の在校生が両脇に並び、三人の姿は眩しいほど絵になっている。
 その視線が、一瞬だけ私たちに向いた。
 ほんの短い間。けれど、確かに。



 森に足を踏み入れると、空気は途端に湿り、冷たく重くなる。
 鳥の声も消え、風すら止んだようだった。

「……嫌な感じ」
 カレンが小声でつぶやく。
 ユウリが低く答える。
「すでに待ち構えているな」

 その言葉と同時に、森の奥から黒い影が揺れた。
 地面を這うように霧が広がり、赤い眼光が複数、暗闇に浮かび上がる。

「グルルル……勇者……」
「主の命により、お前を討つ!」

 ――まるで、勇者の到来を待っていたかのように。



 生徒たちの悲鳴が森に響き渡る。
「きゃあっ!」「本当に出た!」
 教師たちは必死に整列を叫ぶが、勇者を中心に空気が収束していく。

 私は羽ペンを走らせ、書き記した。

『魔王の配下、偶然にも実習地で待ち構えている。
舞台の幕は必然のように開かれた。不可解』

 蓮が剣を抜き放ち、前に出る。
 その背に、再び皆の期待が集まっていた。
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