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第21話 勇者の影
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放課後の校舎は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
回廊を歩いていた私は、ふと足を止める。
柱の影に身を寄せ、息をひそめると、視界の先にひとつの人影が見えた。
中庭の片隅。
勇者――神谷 蓮が、剣を地に突き立てたまま佇んでいる。
夕暮れの光を背に受け、肩を落とした姿は、英雄と呼ばれる存在というより、迷子の少年のように小さく見えた。
⸻
「……俺は、間違ってないよな」
掠れた声が、風に混じって届く。
「誰かが傷ついたから、俺は力を出せた。
あれでいいなんて……そんなはず、ないのに。
俺は……帰りたい。こんな筋書きの中で、生きるために来たんじゃない」
その言葉を、私は鮮明に聞いた。
隣に潜んでいたカレンは耳を澄ませていたが、すぐに首を傾げて小声で言う。
「……今、何か言ったよね? でも……よく聞こえなかった」
ユウリは黙って目を細め、蓮をじっと見つめた。
「声は曖昧だ。だが、確かに迷っている」
それでも私には――はっきりと届いていた。
まるで彼が、私にだけ語りかけているかのように。
⸻
胸の奥がざわめき、羽ペンを持つ手が震える。
観察者として記さなければならないのに、言葉が出てこない。
彼の声は、演技ではなかった。
作られた英雄の仮面を脱いだ、ひとりの少年の本音だった。
⸻
私はようやく、ページに一行だけを書きつける。
『勇者は帰還を望む。
英雄の仮面の下に、迷いと不安がある。
不可解は、彼自身を侵食し始めている』
書き終えた瞬間、蓮がふと顔を上げた。
赤い夕陽の中、その視線がこちらの影を射抜いた気がして、私は思わず息を呑んだ。
回廊を歩いていた私は、ふと足を止める。
柱の影に身を寄せ、息をひそめると、視界の先にひとつの人影が見えた。
中庭の片隅。
勇者――神谷 蓮が、剣を地に突き立てたまま佇んでいる。
夕暮れの光を背に受け、肩を落とした姿は、英雄と呼ばれる存在というより、迷子の少年のように小さく見えた。
⸻
「……俺は、間違ってないよな」
掠れた声が、風に混じって届く。
「誰かが傷ついたから、俺は力を出せた。
あれでいいなんて……そんなはず、ないのに。
俺は……帰りたい。こんな筋書きの中で、生きるために来たんじゃない」
その言葉を、私は鮮明に聞いた。
隣に潜んでいたカレンは耳を澄ませていたが、すぐに首を傾げて小声で言う。
「……今、何か言ったよね? でも……よく聞こえなかった」
ユウリは黙って目を細め、蓮をじっと見つめた。
「声は曖昧だ。だが、確かに迷っている」
それでも私には――はっきりと届いていた。
まるで彼が、私にだけ語りかけているかのように。
⸻
胸の奥がざわめき、羽ペンを持つ手が震える。
観察者として記さなければならないのに、言葉が出てこない。
彼の声は、演技ではなかった。
作られた英雄の仮面を脱いだ、ひとりの少年の本音だった。
⸻
私はようやく、ページに一行だけを書きつける。
『勇者は帰還を望む。
英雄の仮面の下に、迷いと不安がある。
不可解は、彼自身を侵食し始めている』
書き終えた瞬間、蓮がふと顔を上げた。
赤い夕陽の中、その視線がこちらの影を射抜いた気がして、私は思わず息を呑んだ。
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