転生勇者を観察していたら、不可解だらけの日常が始まった件

Y-z

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第22話 残響の宝珠

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 その日、学院は明らかに歪んでいた。
 同じ廊下を歩いているはずなのに、気がつけば最初の角へと戻ってしまう。
 昨日までいなかった生徒が、三人も四人も「当たり前の顔」で混ざり込んでいる。
 そして、どこからともなく囁きが響いていた。

 ――君に会いたい。
 ――伝えられなかった言葉を。

 途切れ途切れの恋文のような声が、校舎全体に残響のように反響している。



「ルカ、これ……聞こえてるよね?」
 カレンが青ざめた顔で私の袖をつかむ。
「……ああ。不可解」
 私は短く答えた。

「中心を探す」
 ユウリは冷たい声で言い、魔法陣を描く。
 床に淡い光の線が走り、廊下を抜けて中庭へと導いた。



 中庭では、生徒たちが混乱し泣き叫んでいた。
 存在しないはずの影が増え、互いに矛盾したことを叫び合っている。

「皆、下がれ!」
 剣を掲げて立ちはだかったのは勇者――神谷 蓮だった。
 剣が光を放ち、溢れていた影が後退する。
 人々は歓声をあげたが、私は見た。
 その瞳に宿る迷いを。
 ――また犠牲を前提とした力を呼び出している。



 囁きの声が強まり、石畳の一角から震える気配が伝わってくる。
 私は息を呑んだ。
「……ここだ」

 ユウリが術式を重ねると、石畳の隙間から透明な宝珠が浮かび上がった。
 内部では淡い光が脈動し、途切れた恋文の声を繰り返していた。

「残響の宝珠……舞台の綻びを溜め込み、吐き出している」
 ユウリが言う。



 術式が施され、宝珠は静かに封じられた。
 残響は弱まり、廊下の歪みも影の増殖も消えていく。

「……これで終わった?」
 カレンが不安げに私を見る。

「終わってはいない。抑え込んだだけだ」
 私はノートを開き、羽ペンを走らせる。

『異変は舞台のほころび。
だが勇者を中心に広がり、彼を縛るように作用している。
宝珠を封じ、静寂は戻った。
だがこれは収束ではなく、仮初めの沈黙にすぎない』

 顔を上げると、蓮がこちらを見ていた。
 歓声に包まれる中、ただ彼の瞳だけが、深い迷いを映していた。
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