転生勇者を観察していたら、不可解だらけの日常が始まった件

Y-z

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第28話 不意の交流

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 雑踏を抜けるほど、夜の色は濃くなっていった。
 看板の光が路地の壁を染め、遠くで鉄のうなりが薄れていく。私たちは四人で並んで歩いた。

「ねえ」
 沙耶がくるりと振り向く。
「名前、教えて? 一緒に歩いてるのに名乗らないの、変でしょ」

「……カレンといいます」
 緊張でこわばった声。それでもまっすぐに。

「カレンちゃん、いい名前」
 沙耶が笑って、私たちにも視線を向ける。

「……ルカです」
「ユウリ」
 私とユウリは簡潔に。

「オッケー。じゃ、こっちも」
 沙耶は胸を軽く叩いてみせる。
「木村 沙耶! よろしくね」
「……佐伯 真琴。沙耶とは同じクラス」
 真琴は落ち着いた声で告げ、軽く会釈した。

 ――そのとき、胸の奥で小さな鈴が鳴る。
 神谷 蓮。木村 沙耶。佐伯 真琴。
 苗字+名前。この世界の呼び方は、彼と同じ“二つの名”で整っている。
 ページの端に、私は小さく記す。

『名の構成、勇者と整合』

「その服……制服、じゃないよね?」
 真琴がためらいがちに問う。
「えっと……特別な、制服なんです」
 カレンは言葉を選ぶ。真琴は深く追わず、代わりに沙耶が明るく笑った。
「でも似合ってるよ。映画の衣装みたい!」

 歩きながら、沙耶が空を仰ぐ。群青の向こうに、白い光が滲む。
「このあと、どこ行くの?」

 カレンの足がわずかに止まった。
「……行くところ、いまは……」
 言いよどむ彼女を横目に、ユウリが静かに継ぐ。
「宿はない。この街のことも、何も知らない」

「だよね」
 沙耶は即座に頷くと、ぱっと表情を明るくする。
「じゃ、今日はうちに来なよ。放っとけないし!」

「ちょっと、沙耶」
 真琴が眉を寄せる。
「急に連れて帰るのは……」

「大丈夫。親もいるし、事情くらい話せる。困ってる人を見捨てる方が変でしょ?」
 言い切る声は軽いのに、不思議と強い。

 カレンが不安げに私を見る。
 私はひと呼吸だけ置き、言葉を選ばず短く返した。
「……助かります」

 ユウリも「助かる」と小さく頷く。
 真琴は逡巡ののち、ふっと息を吐いた。
「……わかった。私からも事情は説明する」

 歩き出した三人の背中を追い、私はノートを閉じる。
 記録は充分。今は歩幅を合わせる番だ。

『この街で最初に交わしたのは、善意の名乗り合い。
その手に、今日は委ねる』

 夜風が少し冷たい。けれど、肩の力は、ほんの少し抜けた。
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