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第29話 異世界の夜
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沙耶の家に入ると、玄関には整然と靴が並んでいた。
「靴は脱いでね」沙耶が当たり前のように言う。
私とカレン、ユウリは一瞬ためらいながらも従った。
板張りの床は見慣れないほど清潔で、靴を脱いで歩くという習慣にも妙な納得感があった。
居間に通されると、天井から均一な光が降り注いでいた。ろうそくも魔導灯もない。
私たちは思わず目を細める。
「……不思議な仕組みね」ユウリが小さく呟いた。
「え、これ? 電気だよ!」沙耶が壁のスイッチを押すと、光がぱちんと消え、また点る。
「普通の照明だよ。どこの家でも使ってるし」真琴が肩をすくめる。
私たちはただ黙って頷いたが、その光はあまりにも自然で、あまりにも不可解だった。
座布団に腰を下ろすと、沙耶が期待に満ちた目で切り出した。
「それで……どこから来たの?」
「……アストリア王国から」私は正直に答えた。
「アストリア……?」真琴が首をかしげる。「そんな国、聞いたことないよ。地図にも出てこないし」
「私たちの世界では、確かに存在している国なの」カレンが静かに言う。
「……ちょっと待って。それってつまり、“別の世界”ってこと?」真琴の声は震えていた。
「やっぱり! 異世界転移じゃん!」沙耶が身を乗り出す。
「ちょっと沙耶、落ち着いて!」真琴が慌てるが、沙耶の目は輝いたままだ。
「ねぇねぇ、異世界っぽい物とか持ってるの!? 魔法の杖とか!」
私は小さく息をつき、腰のポーチから氷の羽ペンを取り出す。
淡い青白い光が灯り、空気がひやりと震えた。
「……なに、それ……本当に光ってる……」真琴が呆然と呟く。
「きゃーーっ! 本物だ!」沙耶は子どものように歓声を上げた。
その後の夕食は驚きの連続だった。
白くふわふわした米。黄金色の汁物。焼かれた魚。
箸を持ったカレンは悪戦苦闘し、何度も米を落としてしまう。
「うぅ……難しい……」
「こうやって持つんだよ」沙耶が笑いながら手を添えると、カレンは顔を赤くした。
一方ユウリは一度見ただけで器用に使いこなし、真琴をさらに驚かせていた。
食後、浴室に案内されると、カレンは目を丸くする。
「えっ……これ、一人ずつ入るの? 贅沢すぎる!」
「スイッチひとつでお湯が出るんだよ」沙耶が胸を張る。
ユウリは蛇口をじっと観察し、「魔力を使わずに湯を制御している……」と小声で分析していた。
私は湯気に包まれた浴室を見つめ、この国の“日常”を不可解として記録に加えた。
夜。布団に並んで横になると、部屋の中は静かだった。
「なんだか、不思議な一日だったね……」カレンが小声で言う。
「……明日も記録を続ける必要がある」私は答える。
「本当に異世界から来たんだ……なんか、信じられないけどちょっとワクワクするね」沙耶は隣の布団で笑った。
「……信じられない。でも、見ちゃったからには……」真琴は布団に顔を埋めて小さく呟いた。
私は氷の羽ペンを手に取り、短く記す。
――記録。この世界は、私たちにとって“異世界”。
不可解に満ちた夜が、静かに幕を開けた。
「靴は脱いでね」沙耶が当たり前のように言う。
私とカレン、ユウリは一瞬ためらいながらも従った。
板張りの床は見慣れないほど清潔で、靴を脱いで歩くという習慣にも妙な納得感があった。
居間に通されると、天井から均一な光が降り注いでいた。ろうそくも魔導灯もない。
私たちは思わず目を細める。
「……不思議な仕組みね」ユウリが小さく呟いた。
「え、これ? 電気だよ!」沙耶が壁のスイッチを押すと、光がぱちんと消え、また点る。
「普通の照明だよ。どこの家でも使ってるし」真琴が肩をすくめる。
私たちはただ黙って頷いたが、その光はあまりにも自然で、あまりにも不可解だった。
座布団に腰を下ろすと、沙耶が期待に満ちた目で切り出した。
「それで……どこから来たの?」
「……アストリア王国から」私は正直に答えた。
「アストリア……?」真琴が首をかしげる。「そんな国、聞いたことないよ。地図にも出てこないし」
「私たちの世界では、確かに存在している国なの」カレンが静かに言う。
「……ちょっと待って。それってつまり、“別の世界”ってこと?」真琴の声は震えていた。
「やっぱり! 異世界転移じゃん!」沙耶が身を乗り出す。
「ちょっと沙耶、落ち着いて!」真琴が慌てるが、沙耶の目は輝いたままだ。
「ねぇねぇ、異世界っぽい物とか持ってるの!? 魔法の杖とか!」
私は小さく息をつき、腰のポーチから氷の羽ペンを取り出す。
淡い青白い光が灯り、空気がひやりと震えた。
「……なに、それ……本当に光ってる……」真琴が呆然と呟く。
「きゃーーっ! 本物だ!」沙耶は子どものように歓声を上げた。
その後の夕食は驚きの連続だった。
白くふわふわした米。黄金色の汁物。焼かれた魚。
箸を持ったカレンは悪戦苦闘し、何度も米を落としてしまう。
「うぅ……難しい……」
「こうやって持つんだよ」沙耶が笑いながら手を添えると、カレンは顔を赤くした。
一方ユウリは一度見ただけで器用に使いこなし、真琴をさらに驚かせていた。
食後、浴室に案内されると、カレンは目を丸くする。
「えっ……これ、一人ずつ入るの? 贅沢すぎる!」
「スイッチひとつでお湯が出るんだよ」沙耶が胸を張る。
ユウリは蛇口をじっと観察し、「魔力を使わずに湯を制御している……」と小声で分析していた。
私は湯気に包まれた浴室を見つめ、この国の“日常”を不可解として記録に加えた。
夜。布団に並んで横になると、部屋の中は静かだった。
「なんだか、不思議な一日だったね……」カレンが小声で言う。
「……明日も記録を続ける必要がある」私は答える。
「本当に異世界から来たんだ……なんか、信じられないけどちょっとワクワクするね」沙耶は隣の布団で笑った。
「……信じられない。でも、見ちゃったからには……」真琴は布団に顔を埋めて小さく呟いた。
私は氷の羽ペンを手に取り、短く記す。
――記録。この世界は、私たちにとって“異世界”。
不可解に満ちた夜が、静かに幕を開けた。
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