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彼はもしかして……
しおりを挟む試しに受けてみよう、みたいな考えでここへ来てしまった事を、激しく後悔した。
王宮は、どこもかしこも煌びやかで。
僕は完全に、場違い。
王家の紋章が押された受験資格の証明書が無ければ、僕は王宮の建物どころか城門にさえ入れてもらえなかっただろう。
お世話係の受験者は今、王宮の広間に集められている。
30人くらいいるけれど平民らしき人は僕の他に誰もいない。
僕は教会に寄付された古着の中で一番良い服を着てきたのに。
この場にいる誰よりも、みすぼらしい格好だった。
他の人は貴族同士面識があるのか、お互いに挨拶を交わしたりしている。
知り合いのいない僕に話しかけてくる人はもちろんいない。
自分から人の輪に入っていく事もできず、壁を背にして立つ。
見上げると天井から吊り下げられている大きなシャンデリア。
そして神々が描かれた美しく荘厳な天井画。
こんな光景、初めて見た。
……あれ?
子どもの、泣き声……?
広間を見渡してみるけれど、子どもはいない。
でも確かに聞こえてくる子どもの泣き声。
けっこう小さい子?
しかもひとりじゃなくて、何人か泣いている気がする。
そんな事を考えていたら、広間の大きな扉がガチャリと開いた。
巨大な敷物を抱えた人が入ってきて、広間の中央まで行くと抱えていた大きな絨毯を敷いていく。
その後に続いて広間に入ってきたのは、子どもを抱っこした女の人たち。
格好からして、侍女のような人たちかな?
次から次へと入ってくる、30人くらいだろうか?
子どもをいれると、その倍の人数。
侍女らしき人たちは子どもを絨毯の上におろすと全員部屋から出て行ってしまった。
残されたのは、泣いていたり状況が分からずキョトンとしている30人ほどの子どもたち。
見た感じ0歳から2歳くらいの子。
ふと孤児院のみんなを思い出す。
泣いていても子どもはやっぱりかわいい。
ここにいるのは貴族の子かもしれないけれど、孤児院の子と本質は変わらない。
見た目で比べるなんて無意味だ。
格好だけで惨めな気持ちになっていた自分を反省した。
「これから試験について説明します」
高いところから響いてきた声に、思わずヒュッと息を飲む。
この声――!?
ばッと声のした方へ視線を向ける。
視線の先に立っていたのは、脚が長くてスタイルがいい背の高い男性。
うしろで一つに束ねられた艶やかな銀色の長い髪は全く違うけれど――
顔は、間違いなく怜だった。
あ……だけど瞳の色が違う。
前世の怜のように黒くない。
宝石みたいに美しい青い瞳。
だけどやっぱり、顔のつくりは怜そのもの。
「あああああの人、誰!?」
思わず一番近くにいた男性の肩を摑んで聞いてしまった。
『誰ってお前、ナチュール侯爵だろ。この国の宰相の』
眉を寄せ迷惑そうな表情の男性が、小声で答えてくれた。
知っていて、さも当然というように。
貴族なら当然、この国の宰相の顔も知っているのだろう。
平民の僕は今日初めて会った。
瞳の色と髪は違うけれど、こんなにも怜と似ているなんて。
彼は、もしかして――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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