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しおりを挟む私がいる畑のすぐ脇の道に止まった白い軽トラック。
運転席のドアが開き、一見すると格闘家のような雰囲気の男性が降りてくる。
もし本当に格闘家だったら、たくさん女性ファンがいそうな容姿。
ちょっと強面だけど太陽のように笑うその男性は畠園幸太さん、30歳で私と同い年。
「あいりー」
「どうしたの、コウちゃん」
「昼飯食いに一回戻るだろ? 乗ってけよ。熟し過ぎたので悪いけど、藍璃のところに持っていく桃もあるから」
「わぁ、コウちゃんの所の桃、好き。ありがとう」
若い頃のコウちゃんは金髪で、喧嘩も多く親にかなり心配をかけていたらしい。
昔ヤンチャをしていたのかなって思わせる、日焼けした頬にうっすらと残る傷痕と左耳のピアス。
コウタって呼んでくれよ仲間はみんなそう呼ぶから、って初めて会った時に言われたけど。
今まで男性を呼び捨てにした事が無かった私は、結局コウちゃん呼びに落ち着いた。
コウちゃんの姪っ子さんがそう呼んでいたから。
結婚して隣町に住んでいるというコウちゃんのお姉さんは、実家の果樹園が忙しい時期に手伝いに来ているらしく私も何回か会った事がある。
明るくサッパリとした姉御肌で、コウちゃんと雰囲気がよく似ていた。
コウちゃんがヤンチャしていた時期は大変だったらしいけど、そんな姿が想像できないくらいご家族みんな仲がいい。
若い頃、家にはほとんど寄りつかず親に心配をかけていたというコウちゃんも、今はご両親の果樹園で手伝いどころか大黒柱として働いている。
日々の農業で鍛えられた逞しい腕でハンドルを握るコウちゃん。
同い年だけど、農家としては大先輩。
村のおじいちゃんおばあちゃんたちに負けないくらいコウちゃんは色々親切にしてくれるので感謝している。
「午後の集まり、車の方が便利だから乗ってけよ。一時半くらいに迎えに行くから」
「ぇ、でも他に送迎が必要な人いるんじゃないの? 歩いていくから大丈夫だよ」
「年寄り連中は先に集会所へ集まって、みんなで昼飯食ってるって」
「そっか、それなら一緒に乗せてもらおうかな。コウちゃん、いつもありがとう」
コウちゃんは右手でハンドルを握りながら、左手で自分の頭を軽く掻いた。
「あー、だりぃ。町内会の集まりなんて行くのめんどくせー。サボってどっか行かねぇ?」
今まで町内会なんて縁が無かったけれど、この村ではみんな加入していて月に一回集まりがある。
議題はほぼ毎回同じ。
災害時の防災活動の確認と、どうしたら農作物の販売を促進できるかについて。
これまで三回参加したけど、販売促進についてはこれといった案が出る事は無く。
みんな情報交換という名のお喋りを楽しんでいる感じだった。
口の悪いコウちゃんだけど、根は優しい。
自分から積極的に話はしないけど、大切な事は聞いていて。
防災用品の点検とかおばあちゃんができなくて困っている力仕事とか、気づくとコウちゃんがしている。
そんなコウちゃんは、町内会のみんなから慕われていた。
「ふふ、そんなこと言わないで。みんながコウちゃんと話すの楽しみにしているの分かるもの」
「そのみんながうるせぇんだよな、早く結婚しろって」
「みんなコウちゃんの事、自分の家族みたいに心配で可愛いのよ」
就職先の限られたこの土地に残る者は少ない。
だから自立して村を出て行った子どもや孫の代わりに、残った若者たちは高齢者にとって家族同然のように心配され可愛がられている。
「結婚といえば、藍璃はもう結婚する気、ねぇの?」
コウちゃんは、私が離婚してここに来たことを知っている。
直接聞かれた事はないけど、誰かに話したのがいつの間にか伝わっていて。
「……うん、私はもう、いいかな」
「そっか……」
ん、マズいかな?
これ以上私の話なんてしたら、コウちゃん結婚に夢も希望も持てなくなっちゃうかも。
「ぁ、でも、私は離婚しちゃったけど離婚しない夫婦の方が多いし。コウちゃんは結婚したら、お姉さんたちみたいに幸せな家庭を築けると思う」
「結婚……ね、相手がその気になってくれなきゃ無理だな……、ぁ?」
「ひゃ!?」
コウちゃん相手いるんだって思った瞬間、軽トラックが急に止まった。
私の家の門が見えるけど、まだ手前の所で。
「誰だ、あいつ。この辺で見た事ねぇな」
「かなやくん……?」
「知り合い?」
訝しむような声でコウちゃんに聞かれた。
そう、知り合い。
私の家の前にいる男性を、私は知っている。
「……弟」
義理の、弟。
でも今は、ほぼ他人なのかな。
統哉さんと離婚して、『元』義弟だから。
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