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きゅぅぅん♡
しおりを挟む「エイト様、私を恋人にしてくださるのですか?」
「んー、どうだろうねぇ?」
再びエイト様が、ふぁさっ、と前髪をかきあげる。
「セ、セーブ……?」
目を見開き驚いているワンツ様の横を通り、ツカツカとセーブ様に向かって歩いていく女性がいた。
恋人のように腕を組んだ状態になっているエイト様とセーブ様に近づいていったのは、ナイッツ子爵令嬢。
「エイト様が愛しているのは私ですわ。今度ヤッホー湖へデートに行く約束をしましたのよ。だから私、ヤッホー湖周辺のおすすめスポットについて調べましたの」
「僕のためにヤッホーで調べてくれたのかい、嬉しいよ」
違いますエイト様、ナイッツ子爵令嬢はヤッホーで調べたのではなく、ヤッホーを調べたのです。
「デートを楽しみにしてくれていたんだね。なんて可愛いんだ、愛しているよ」
ポンッと花が咲いた。
ついさっきセーブ様へ愛を告げた時と、同じくらい綺麗な花。
「嬉しいですわ。ねぇ、エイト様、私の事を一番愛していらっしゃるのでしょう?」
エイト様とセーブ様の前に立つナイッツ子爵令嬢が、可愛らしくコテンと首を傾げる。
すると少し離れたところから、テーン子爵令嬢が声をあげた。
「いいえ、エイト様が最も愛している女性は私です。私がクッションをコレクションしていると知ると、何度もプレゼントしてくださいましたのよ」
優雅に扇子を揺らしながら、テーン子爵令嬢がエイト様たちの方へ近づいていく。
ちなみにこの国にテーン子爵はおふたりいらっしゃる。
とても背が高く恰幅もよいお方と、非常に小柄なお方。
そのためそれぞれ、大テーン子爵、小テーン子爵と呼ばれていた。
声を発したのは、小テーン子爵家のご令嬢の方。
「プレゼントを喜ぶ姿が可愛かったね、愛しているよ」
ポンッと花が咲く。
先のふたりの時と、同じくらい綺麗な花。
私はエイト様と話す機会がなくて知らなかったけれど。
エイト様はおそらくプレイボーイ、というものなのでしょう。
先ほどのワンツ様と同じくらい、目を見開いているセーブ様。
「エイト様、先日は君だけを愛していると言ってくれましたよね……?」
「もちろんだよセーブ嬢。僕は愛を告げる時、そのタイミングでは必ずひとりの女性だけを想っているさ」
「ぇ……?」
「愛しています、エイト様」
小テーン子爵令嬢がセーブ様のいる方と反対の方からエイト様に腕を絡ませるのと同時に、ポンッと花が咲いた。
「今度私の誕生日に記念すべき十個目のクッションをくださるっておっしゃっていましたよね。楽しみですわ。私絶対に、エイト様から十個目のクッションをいただきたいんですの」
クッションを、十個も……。
小テーン子爵令嬢は、なぜそんなにクッションを集めていらっしゃるのかしら……。
テンテケテケテケ、テンテン、パフ♪
皆がハッとして動きを止めた。
今の音楽は、この国で暮らす者なら老若男女問わず誰でも知っている曲。
この曲が鳴ったという事は、あの方からのお言葉がある――
卒業生代表としての私の挨拶が終わったタイミングで別室に移り、また最後の方でいらっしゃる予定だったはずだけれど……。
騒ぎを聞いて、もうこの会場へ戻られていたのかもしれない。
「大切な卒業パーティーを台無しにするつもりなのか、そなた達は」
威厳のある声がフロアに響き渡った。
皆が一斉に、頭を下げる。
この国の陛下、ケイ王に向かって。
「騒ぎの原因となっていたのは、ワンツ、スリーフォフ、エイト、アイーブ、セーブか。騒動を起こした責任は取ってもらわねばならん。五人には処罰を申し渡す」
ケイ王陛下の命令に逆らう事は許されない。
スリーフォフ様にも、処罰だなんて……。
私の婚約破棄なんかに、スリーフォフ様を巻き込んでしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「まず、ワンツとセーブ。そなた達は結婚してシークス子爵家を継ぎ、業務日誌を毎日欠かさず記載せよ」
「「は、はいっ」」
ワンツ様とセーブ様の声が揃う。
よかった……。
処罰と言っても、陛下はそんなに無理難題をおっしゃるつもりではないらしい。
婚約をせずに結婚するのは貴族では珍しいけれど、愛し合っているふたりだから問題ないでしょう。
毎日業務日誌をつけるのも、領地を治める者として当然のことですし。
「なお、毎日必ず夫婦間で愛を告げ、出現した花の数、大きさなどを観察し、ふたりとも業務日誌へ記録するように。業務日誌は週に一度、国の監査役に提出する必要があるからな、さぼることは許されんぞ」
「「…………」」
「返事は?」
「「は、ぃ……」」
「では今日はもう退席し、ただちに手続きに入れ」
仲良く一緒に肩を落としたワンツ様とセーブ様の姿が見えなくなると、ケイ王陛下はエイト様の方へ顔を向けた。
「エイトよ。其方には軍の801部隊で三週間訓練に参加することを命ずる」
やはり陛下はお優しい。
801部隊は、軍の中でも隊員同士の仲がものすごく良いと評判の部隊ですもの。
絶対に801部隊へ入隊したいと、自ら志願する者もいると聞く。
ただ女性隊員はいないから、プレイボーイのエイト様には少しつらいかもしれない。
陛下が右手を上げると、逞しい身体の男性が現れた。
たしか、801部隊の隊長。
「本日からさっそく、軍の宿舎で生活するがいい」
隊長はエイト様を軽々と抱き上げると、私たちに背を向け会場の出口の方へ歩いていく。
後ろ姿を眺めていたら、出口の直前で立ち止まった。
エイト様に何か囁いていらっしゃるご様子。
??
なぜかポンッポンッポンッと連続して可愛らしい花が咲いた。
「では、スリーフォフとアイーブよ」
「「はい」」
「ボクシング侯爵領の民のために、と今まで二人が勉学に励んできたのは知っている。その力、存分に発揮するがいい。スリーフォフとアイーブで婚約し、一年後スリーフォフが学園を卒業するのと同時に夫婦となり協力してボクシング侯爵領を治めていくことを命ずる」
ぇ……?
スリーフォフ様が私と……??
「承知いたしました」
凛とした声でスリーフォフ様が答える。
そうよね、王命は絶対だもの……
「……承知……いたしました……」
スリーフォフ様、婚約破棄された私なんかと婚約しなければならないなんて……
「以上だ」
陛下が会場を出ていった。
堪えていたけれど、スリーフォフ様に申し訳ない気持ちが溢れてしまい、涙が頬を伝っていく。
スリーフォフ様が慌てた様子でハンカチを取り出し、私の涙を拭いてくれた。
「申し訳ありません、アイーブ様。結婚なんて嫌ですよね」
「いいえ、結婚が嫌なのではなくて。スリーフォフ様に申し訳なくて」
「なぜ申し訳ないのですか……アイーブ様と結婚できるなんて嬉しいです」
スリーフォフ様が、はにかみながら微笑んだ。
そんな表情、初めて見る。
きゅぅぅん♡
あら何かしら、今のは?
心臓が、音を立てたような??
スリーフォフ様が、そっと私の手を握る。
「ずっとあなたをお慕いしておりました。もう我慢しなくてよいのですね。愛しています、アイーブ様」
ボボボボボボボボボンッ!!
今まで見たことのない大きな花が次々に咲いた。
【完】
最後まで読んでいただけたなんて!!
ありがとうございました、愛しています♪
ボボボボボボボボボンッ♪♪
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