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2.運命の邂逅
しおりを挟む睡魔とともに白夜の感覚がすーっと遠のいていく。
睡魔によって呼吸速度が遅くなることで酸素が少なくなった身体に、大きなあくびをかますことで酸素を取り込んだ。
(眠い、眠すぎる。つうかなんで俺がこんなところに来なくちゃならねぇんだ)
不貞腐れたように心の中で愚痴を零すのがこの男、史上11番目のランクSとなる近衛 白夜だ。
現在白夜がいるのは嫌々参加したランク試験会場ではなく、私立覇琴学園高校の講堂にいる。
巨大な広さと講堂の内装を照らす大きく平らな電球は、現代風の貴族のお屋敷を彷彿させる。
白夜はピカピカの新入生。
しかし新入生によく見受けられる初々しさは微塵も感じない。
白夜は入学式の真っ最中に、パイプ椅子に座ったまま眠りこけていた。
意識や感性は眠りの中、目立つこともなく只々そこに存在しているだけの人。だからこそ白夜は今自然体となっている。
強いどころか弱そうな雰囲気を醸し出しており、どこかほっておけないが積極的に関わりを持つのは躊躇ってしまう。
やや矛盾を含む表現ではあるが、何故か興味をそそられてしまう。そんなものを白夜から感じる。
白夜の望みはただ一つ。
これから三年間、大過なく平凡な学園生活を送ること。できればクラスメイトの中で影の薄い位置に居座ること。
白夜はそんな少年だった。
「はぁ~~~~っ」
あくびを噛み殺すことなく傲慢に開き、目元を擦る。
それからゆっくりと瞼を開いて……白夜はきょとんとした。
眼前に広がるのは大量に設置されたパイプ椅子だった。
一緒に座っていたはずの新入生を含め生徒たちの姿は誰一人も見えない。教師もいない。そこにいるのは怠そうに瞼をあげた白夜のみ。
「嘘だろ……」
やってしまった。そんな思いが白夜の中で満たされる。
勿論ここにいた人たちは何も悪くない。寝過ごしてしまった、それ以前に人の話を聞いていなかった白夜が100悪いのは自身も重々承知している。
「っていうか次どこに行けばいいんだ?」
そう、白夜が直面している問題。それは次どこに行っていいのかわからないというものである。
どこに何があるかは地図か何かを見ればわかる。しかし、生徒たちや教師らがどこに行ったのか、これまで学園生活を送ったことのない白夜が見当つくはずもなく、頭を悩ませるしかない。
「あぁ詰んだ。高校生活始めて初っ端から詰んだぜ」
白夜は講堂の天井を仰ぐ。
このままではまずい。仮にここから動いて生徒たちに遭遇したとしてもここから動かないにせよ後に見える未来は平穏を望む白夜の意に反する最悪の展開ばかり。
「なるほど。剣士が切磋琢磨し合う謂わば実力がモノを言うこの覇琴学園で入学式居眠りとは、随分と余裕そうですね」
初日からやらかしてしまいこれからどう動こうか悩んでいた矢先、聞こえるはずがない人の声が後方から耳に入った。
「え?」
目線を後ろに向けば一人の少女が立っている。
「全く、駄目ですよ。初日から居眠りなんて」
その少女は細身で華奢な体型ではあるもの儚げな印象はない。
無駄な肉のない引き締まった少女の肉体は魅入るほどの美しさがあり、肩に差し掛かる程度に伸ばされた艶やかな黒髪はよりその存在感を強めている。
「あんた、もしかして俺と同じ新入生か?」
「だとしたらなんですか?」
「あーいや、別に大した話じゃないんだが……」
何処か言いにくそうに言葉を紡ぐ白夜に、少女は首を少し横に捻る。
「悪いけど今日入った新入生がいる場所まで連れて行ってくんねぇか?」
「何故私にですか?」
「いや……少し言いにくいんだが学校っつうものを今まで通ったことがなくてな。こういう場合どう動けばいいのか分からねぇんだわ」
「そうですか。はぁ、仕方のない人ですね……」
その返事に白夜はぱぁぁぁとした笑顔を見せる。
しかし、その表情は少女の一言で一瞬にして崩れ去る。
「お仕置きです」
「へっ?」
少しばかりの玩具を遊ぶ子供のような笑いが孕んだ声と、自分の素っ頓きょな声とともに目の前の視界が少女の拳で埋め尽くされた。
その余りにもの突然の出来事に白夜は一瞬表情が固まる。
(はやっ……!)
それは裏拳。
本来裏拳は真っ直ぐに繰り出す拳に比べるとやや威力が劣る。
しかし、少女が放つ裏拳のスピードはまさに一瞬とよべるスピード。その一瞬の時間が裏拳の威力を底上げしている。
どうすれば脆い人形のように傷つけたくないくらい綺麗な艶肌を持った少女の細い腕からそこまでに早い裏拳が打てるのか。
身の危険が迫る刹那白夜はそんな少しの疑問を抱くも、己の身体はそんな思いとともに後方へと吹っ飛ばされた。
「ブホぅっ!?」
白夜は悲鳴とも聞こえなくはない声を漏らし、綺麗に並べられていたパイプ椅子を巻き込みながら被害を受けた腹部を抑えて悶絶する。
「イッテーーーーー!!!!!」
「あれ?おかしいですね」
裏拳を放った張本人である少女は、使った自身の左拳をマジマジと見ながら技が決まったにもかかわらず浮かない顔を浮かべている。
(いきなり初対面の人間殴るとか、こいつぜってぇヤベェやつだ)
蹲りながらも白夜は少女を視界から外すことなく収め、心の中で少女を危険人物認定にする。
そんな事も露知らず、少女は白夜の所へと足を運ばせた。
「痛そうにしているところで悪いですけど、何故あの時避けなかったんですか?」
「はぁ?」
「とぼけないでください。あなたは私の裏拳が視えていたはずです」
「……」
そう、白夜はあの時少女の裏拳をちゃんと目で追っていた。
では何故避けないのか。少女の中でそのことが先程から引っかかっていた。
特殊性癖な人物ならば話は違うが、見たところ目の前にいる少年はその一部に該当しない。
ならば何故避けないのか。そんな疑問が少女の頭の中でぐるぐると回り、先程の浮かない表情を作り上げていた。
「俺はおたくと違って頭のネジが吹っ飛んだ超生物じゃないんでね。あんたの言ってること何一つ理解できねぇよ」
「失礼かつ心外な返しですが今は咎めません。だって私はそれより気になることがありますから」
「気になることだ?」
「私はあなたがとても不安定な存在に見えます」
「不安定?」
理解が追いつかなくて首を傾げているのか、それとも白夜は本当に分かっていないのか。
少女は白夜を見極めるような鋭い視線を向ける。
「ええ、私はとてもあなたが不安定な存在に見えます。いや、正確には不自然と言うべきですね。まるで感性に対して身体が追いついていないといいますか……」
「だからさっきも言ったろ、俺はおたくの言っていることがわかんねぇって。そんな訳のわからんことを言う前に無害な人間を叩いたことに対しての謝罪の一つでもしたらどうだ?」
あくまでシラを切る白夜。その瞳からは頑固な意思などはない。だが問い詰めても喋りそうな感じでもない。
少女はため息一つ漏らすとこれ以上問い詰めるのは諦めて、右手を差し出した。
「はぁ、分かりました。突然殴ったことに関してはすみませんでした。それと、いい加減立ってください。この状況を見られると少し困りますから」
「これほどまでに意思が乗ってないすみませんは初めてだぜ」
困るくらいなら初めからするなと心の中で愚痴るも、白夜は素直に少女の手を取り起き上がった。
「んで、おたく一体どちら様?」
「そういえばまだ名前を名乗っていませんでしたね」
少しばかり妖艶な微笑を浮かべる少女。
男を引きつけるような魔性が孕んだ笑みに、先程の件で気が立っていた白夜もついつい少女に魅入られる。
「どうせなんか目的があって俺に近づいてきたたちだろ?」
「ええ、元々私の存在を知ってほしいかったので私はあなたに近づきました」
「……やっぱりな」
少女に向ける白夜の視線が鋭くなる。
明らかに友達になりたいだとかそういう明るい理由ではないだろう。だとしたらいきなり殴るのはおかしい。
白夜は少女に対して警戒を強めた。
少女も突然変わった白夜の気配を分かっているものの突っ込むことはせず、流暢に言葉を重ねた。
「でもまぁ、本命は自己紹介なんかではなくこちらのほうでしょうか」
「ん?どういうことだ?」
訝しげに眉を顰める白夜。対して少女は余裕のある笑みを絶やさない。
「今となっては甚だ疑問ですが、私は知っていますよ?あなたがランクSの称号を持っていることを」
「……!」
「あの拳程度避けられないとは少し落胆を隠しきれませんが構いません。元々あまり期待していなかったので」
「はぁ……?あんた馬鹿か?俺がランクSな訳ねぇだろ」
「ふふ、この期に及んで隠しますか。けど私はどちらにしてもあなたに分かってほしいのです。牽制という意味でも本物という意味でもお見せします。これが、力というものです……」
声高に語尾を強めたその瞬間、少女は強い心の意思を漏らすような深みのある声音で唱えた。
「今こそ審判の時、天下無双を成し遂げん絶対なる力を齎す神たちよ、我が呼びかけに応えよ、エーデルワイス!!!」
少女の口から呪文のようなものが放たれた直後、突如としてどこからともなく踊り舞うように光の粒子が少女の手の平に集まりだす。
(なんだ、この濃密なエネルギーは!)
あまりに突然すぎる現象に白夜は困惑と、凄まじいほどに高まっていく異常なエネルギー反応に驚愕する。
(眩しっ!?)
光の粒子が徐々に形を帯びていく。
集まりに集まった光の粒子によってその輝きは辺り一面を強く照らし、その神々しい光の強さに白夜は視界を腕で隠した。
「私は────」
凛とした声音と共に徐々に光が収まっていく。
視界から強い光と先程まで龍のように荒れ狂っていたエネルギー反応が無くなっていくのが分かり、白夜は隠していた腕を下ろす。
するとそこに視えたのは、
「これは……」
「世界最強にして世界最恐の氷蓮剣士……ローデワイス・アリスの娘、ローデワイス・キスリラと申します」
そこには艶やかな腕の先に磨き抜かれた銀色の二刀の剣と、全てを狩り尽くさんとする獰猛な獣をその瞳に宿した可憐で美しい少女がいた。
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