異世界で勇者と暮らしたら自立してない女はいやだとかいいだしました。わかった、ならば自立します!!

音無野ウサギ

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異世界で勇者と暮らしたら

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「もう君の面倒は見てられない。リコ、自分のことは自分で出来るようになって欲しいんだ」

非常に見た目の整った青年はそう言った。とても憂いた瞳で。

 この青年、非常に見た目が良い。
 金に近い茶色の髪は窓から差し込む春の日差しによってキラキラと輝いているし、憂いをたたえている瞳はエメラルドグリーンであり、すっと通った鼻筋に何故か色気のある血色の良い唇。この青年に見つめられて動作不良を起こさない人間を見る日がないのは、私の日常であった。

 そう。
 この青年、非常に見た目の良い青年と過ごして早10年。
 どうやら彼は私に三行半を突きつけようとしている。

 そして私の言えることは

「わかりました。近いうちに出ていくから、今までありがとう」

 俯いてつぶやく。
 彼の望むとおりに・・・しかない、よね・・・・

「それじゃあ、仕事に行くから」

 そう言って非常に見た目の良い青年は出ていった。残された私は玄関の扉がしまった音を聞いてから、ひとーつ、ふたーつ、みぃーっつ、三回腹式呼吸をして顔を上げた。

 いぇーぃ!!

 ご近所迷惑になるといけないので声を出さずにガッツポーズを取る。

 やった!!ついに!!開放宣言がでました!!

 体の奥からじんわりと熱が広がっていく。いつもどこかに感じてた窮屈さが消えていく。

 これが、あれか!異世界の女神特性の祝福ってか私にとっては呪いでしかなかった、

 勇者に望まれたらそのとおりに動きたくなる、別名搾取されたがりマン製造の魔法。が溶けていく感じに違いない。

 ふふふふふ。これで自由だ!!

 異世界に放り込まれて早10年。毎日毎日イケメンだけど生活能力のないクズの世話だけをしてきたけど、これでやっと解放される。


 君にそばにいてほしい。 一人での外出禁止令

 家で美味しいものを食べたい。三食うまい飯をつく令

 キレイな家って居心地いいよね。俺の居心地のいいように掃除整頓してく令

 おひさまの匂いのする布団っていいもんだよね。天気のいい日は布団を干してく令

 他の人の言う言葉に惑わされないで。言語能力UPしないでく令

 俺以外の男に取られたくないんだ。男性と交流しないでく令

 君のことは好きだけど、勇者or冒険者としての付き合いが。ボン・キュッ・ボンなお姉ちゃんとのつきあいは俺の好きにさせてく令

 彼女は悪気があるわけではないんだ。そこはこらえて。モテる俺のそばに居られるだけでいいと思ってく令

 君の愛らしさを俺以外に見せたくない。顔が見えないように前髪伸ばして地味にしてお令

 その他、色々色々・・・・令。
 
 勇者が望みを口にするとそれを叶えるために縛りが出来る。
 そのぜーんぶに縛られ振り回されてきたのが私、リコです。

 日本生まれの日本育ち。

 大都会東京で普通の大学生をしていたある日、友達に連れられて日本で一番高い山を登りに行ってはぐれて、一人山道を降りてきたら異世界にたどり着いていました。

 樹海にはおりていません。繰り返します、絶対樹海にはおりていません。
 そもそも世界遺産、登山客だらけの登山道で迷うって。意味わからない。
 絶対樹海にはおりていません、がたどり着いたのは緑の深い森でした。やっぱり樹海?

 地球年齢早30歳。彫りが深く上背のある人が多いこちらの世界での見た目年齢では、まだ成人したてに見られることも多い。

 ちなみにこちらの成人は16歳なので、いやー無理無理って思ってるけど、
 周りの異世界人かなり本気でそう思っているから怖い。
 あれだな、この薄っぺらい小さい体のせいだろうな。きゅー、泣けちゃう。

 確かに薄っぺらいだろう、周りの異世界人たちは地球の西洋人たちみたいに大きい人が多い。
 ボン・キュッ・ボンなお姉さんかボン・ボン・ボンな丸いお方が成人女性多しである。

 髪の色は異世界あるあるで素っ頓狂なピンクとか青といったことはなく、基本暗い茶から金といった髪の毛の色が多い。なぜかは知らんが黒は居ない。人間には。

 瞳の色は地球のひとよりバリエーションが多い。赤や紫といった地球ではあまり見かけない人がいるが、それはもっている魔力によるらしく、私みたいな焦げ茶の人もいる。だいたい土魔法使いだ。

 赤が火、青が水、緑が風、黃が光、茶が土。まあ、使える魔法の属性が混ざると色も混ざる感じ。

 まあいい、魔法もあれば、魔物もいる、そんな異世界に迷い込んだのが10年前。

 たまたま最初にあったのが魔王討伐に向かう勇者一行で、魔物あふれる森の中だったせいで魔王討伐に同行し、意外にもあっさりと魔王を倒した勇者一行は国に戻り褒美をもらい、さて私も地球へ帰る道を探さねば、と思っていたときだ。

 とっても見た目の良い勇者が私を見たんだ。そして名前を呼ばれた。

 「リコ・・・君と一緒にいたいんだ」

 しばらく旅の仲間として過ごしたとはいえ非常に見た目の良い青年に見つめられたんだから、私だって動作不良を起こす。

 純日本人として暮らしてきた中でエメラルドを見る機会なんて早々ない、ましてや生きてるエメラルドに見つめられるなんて、平たい顔の民族には絶対ない日常だ。

 勇者一行、皆かなり麗しい外見だったので、イケメン美女には耐性ができたと思ったけど、一瞬息が止まって、徐々に頬に熱が集まると同時に心臓のあたりが冷える感じがあった。

 あれ?おかしいな。顔は熱くなってるのに、なんで冷える感じが?と思ったのはつかの間。

 それがまさかの勇者ののぞみを叶える魔法にかけられていたとは・・・・不覚。

 勇者一行をたたえる祝賀会のあと仲間たちに私が勇者と共にいることになったと伝えたときに、男性陣は良かったな。といい。女性陣には哀れみの目を向けられた。

 聖女と呼ばれる光魔法の使い手であるフェリシアにはこう言われた。

「大丈夫。人の気持ちは変わるもの。いつか解放されるわ。いつでも力になるからね」

 仮にもめでたい門出になんて言い草なんだと、ちょっと憤慨したけど、聖女だけあって優しく慈しみにあふれる彼女の言うことだから悪気はないんだと、自分をなぐさめて、ありがとうフェリ。よくわからないけどありがとう。気持ちを込めてその手を握った。

「りこ。私は弟が大きくなるまでしばらくの間家を継ぐことになるけど結婚はしない。自由になったら遊びに来い。」

 そういってお日様みたいな笑顔で私とフェリをまるごと抱きしめてくれたのは女性騎士のシスレイヤ。

 え?あなた上流貴族様のお嬢さんだったよね。結婚しないのはだめでは?と思いながらムギュムギュされて、ああ、彼女たちとの日々も終わりなのね。とちょっと涙ぐんだりして。

 それからは王都にあるそこそこ大きなお家に二人暮らし。

 玄関から入ったところから右手にリビングがあり、その奥にダイニング、キッチンの先に大きな庭。

 庭には大きな林檎ににた実をつける背の高いローフェルの木が3本あって、春にはサクランボみたいな柔らかな小さな実、秋にはそれこそリンゴみたいな白い果肉のテニスボールみたいな実をつけてくれる。その他庭をぐるりと囲むように地球で言うところのベリー系の低木。

 畑にはハーブや季節の野菜。

 二階にはメインベッドルームと使われていない部屋が3つがあって子供が出来たら子供部屋になるであろうと思っていた。

 が、ほんとうに、子供が出来なくて良かった・・・・

 勇者のわけわからんのぞみのせいで私は手伝いを頼むことも出来ず、

 毎日毎日、掃除、洗濯、料理、庭仕事に追われた。

 よくわからないけど毎日へとへとになるまで家のことをやって勇者の帰りを待つ日々を3年ほど過ごしたある日生活魔法が使えるようになっていた。

 土足禁止の概念がないこの世界で、床をきれいに保つための掃き掃除拭き掃除にほとほと疲れたある日、地球でのお掃除ロボットを思い浮かべてホウキを見ていたら、

 急にホウキがひとりでに動き出したのだ。

 もしやと思いハタキやちりとり雑巾を見つめるとそれぞれが動き出した。

 いつも私が掃除していたようにキッチンからリビング、バスルーム、ベッドルームと粛々と掃除をする。庭に出て畑を見ると雑草が抜かれていく、まるで私が畑に座って作業をしているように。

 洗濯も料理も同じ。ルーティーンになっていることは私がイメージするだけでできるのだ。

 風呂の支度も同じ。井戸からの水くみに湯沸かしは無理ゲーもいいところだった。

 薄っぺらいけどアスリートですか?という筋肉の塊をつくったこの家事ブートキャンプに終わりが来たんじゃない?

 便利さに驚愕した私はこの現象を生活魔法と名付けた。
 あれか、石の上にも3年ってことか・・・・そうつぶやいた私は帰れぬ地球を思って久しぶりに泣いた。



 生活魔法が使えるようになったということは、私の生活に余裕ができたことを意味する。
 掃除洗濯におわれて異世界の成り立ちを学ぶこともままならなかった私は情報収集から始めた。

 魔王討伐に付き合った3ヶ月程の旅の最中にフェリやシスレイヤから教えてもらった知識によると、この世界は大きな国が私の住んでいる大陸に3つ、中くらいの国が4つ。言葉に関しては共通語と言われる古語。そして通常各国で使われる各国固有の言葉。

 隣り合う国は言語としては違うけど理解ができるらしい。大抵国の間には魔物の出る深い森がある。

 たまに森の中で魔物を統率して勢力を拡大する魔王と言われる上位種が出てくる。

 すると魔物が人が住む地域にまで出てくることがあるので、魔王を討伐する勇者だの聖女だのが派遣される。魔物というのは魔法の力のある動物なので、魔法のない動物は普通に動物として存在する。見極めが難しいので基本森で見かけた生き物は討伐する。魔物も動物も食べられる。魔物を食べると人間の魔力がアップする。だから魔物が出る森で冒険者として魔物を狩ることを生業にしている人たちは魔力が上がりやすい。魔物が出る森で過ごすことで魔力が上がることもある。

 だから王都の平民よりも辺境と言われる森の近くの平民のほうが魔力が多い。貴族はもともと魔力が多いので、森の近くで住んでも平民が貴族の魔力量を超えることは難しい。魔力を増やすために森に居続けると魔物になる。

 森の魔力は人には害があるらしく辺境の人々は短命である。

 魔法というのはどこから来ているのか、ある人は精霊のおかげだといい精霊信仰をし、ある人は世界を作った女神のおかげだといい女神を信仰し、ある人はこの世界に漂う魔力を人の体が吸収して利用しているのだという魔力吸収論を唱えている。そして信仰心にあつい国では女神や精霊のありがたみを感じない魔王の手先としてめちゃくちゃ弾劾されたらしい。見つかったら八つ裂きレベルの迫害に口にする人は減ったらしい。そりゃそうだ。

 日本で信仰心薄く生きてきた私としては魔力吸収論が正しいと思う。要はそこにある魔力を使って魔法を使うことは誰でも出来る。魔力を吸収して利用する器官が強いか弱いか。貴族というのはその器官がめちゃくちゃ高性能。平民は性能が低い。だから魔力が多い森の近くで暮らすと魔力を使えば使うほどもとから弱い器官を酷使してダメージを受けてしまい、短命になる。多分瞳の色は魔力を利用する器官が適している魔力の傾向を表している、と思う。多分かなりいいところをついてると思うんだけど、じゃあ女神や精霊は居ないのかというと・・・居る。

 困ったことに居る。伝説レベルだけれど100年に一回くらいは人間世界に影響を及ぼすので、ネッシーやツチノコよりは確実な存在である。しかも私のよくわかんないけど勇者の願いを叶えたくなる呪いはこの世界の女神から魔王を倒した勇者への祝福だったのだ・・・

 うん。迷惑だよね。10年ぼうにふった被害者 リコより

 兎にも角にも、7年前から私は準備をしていたのだ。聖女フェリシア、フェリが言ったとおり人の気持ちは変わるもの、勇者の気持ちはとうとう私から離れた。呪いは解けた。

 どうして離れたのかとか、誰がとかは、気にしない。だって地球だって離婚は日常茶飯事。婚姻制度というものがないこの国では(ないんだよねー好きだから一緒にいる。普通の平民には名字なんかないし、受け継ぐ財産もない。)一緒にいるのは夫婦。離れて暮せば他人。それだけだ。

 やたらめったら見た目がいい男でも、自分を大事にしてくれない男をいつまでも愛せるわけがない。

 最初から勇者が求めたのは私が勇者を一番大事にしてほしい、それだけだった。

 彼は私を大事にさせてくれ。とは願っていないのだ。

 生活魔法が使えるようになってから時間が出来て、私が考える余裕ができたことが悪かったのか、気づいてしまったものはしょうがない。

 私も勇者をもう愛しては居ない。最初からそれが愛だったとも思えない。

 そばにいてそれだけで気持ちがほっこりするような、ドキドキするような恋心はどこかへ消えてしまった。春風になって大気を巡って、どこかのお嬢さんにもらってもらっていればいいと思う。

 恋心がきえたのは少し悲しいことだと思う。

 でもこれからあったかいご飯もふかふかの布団も勇者には与えられない。

 料理のできない勇者はホコリにまみれて固くなったパンをくわえるといい。

 広い家がきれいに保たれていたのは私のおかげだと思い知るといい。

 都会育ちの虫嫌いの私の気持ちが虫除け結界を張っていたせいでゆっくり眠れていたんだとか、消臭魔法でトイレがにおわなかったとか、そういう日本都会人スタンダードが当たり前と思っていた勇者が前の不便な生活に戻れるか・・・まあ、頑張れ!

 あと褒賞金、俺は人生を楽しみたいって後先考えず使ってたから、金庫には何もないけど頑張って。

 庭の野菜を買い取ってくれてた行商のおばちゃんにはちゃんと言っておくから。

 もう私は居ないから、二度と近寄るな、と。

 つまり現金収入はなくなるわけだけど、仕事してるんだから大丈夫でしょう?

 本当に仕事してるかは知らないけど。

 どこかの貴族のお嬢さんだとか後家さんだとかいろいろ仕事してらっしゃるみたいだしね。

 うん。いい大人なんだから、頑張れよ。

 出ていく前に魔力に反応して育つつる草式魔物雑草を各部屋にしこんでいく。
 ベッドの下。
 家具の陰。
 床板の隙間。

 すぐには見つからないようなところに。

 彼が寝ている間に魔力に反応してぐんぐん育つといいなぁ。目覚めたらガリバー旅行記のガリバーさんが小人の国にたどり着いた状態になっているとちょっとうれしいなぁ。

 元気に育て♪
 くるくる巻きつけ♪
 かわいい蔓草♪
 魔力を吸って大きく太く♪ふんふんふん♪

 辛いときには鼻歌を歌うのよーって教えてくれたのは今はもう会えない高校時代の親友。

 言霊っていうのがあるんだから、嫌な言葉を口に出すとブサイクになっちゃうんだから。

 そうね。ブサイクは御免こうむる。これから地球へ帰る道を探さなくっちゃいけないんだもの。

 何はなくとも人に不快感を与える外見じゃあ、前途多難。

 ルネッサンス期ではないけど、ここ異世界でも美しさは正義!美は正義

 ハサミを取り出し鏡の前に立つ。ザクザク。

 のれんのように視界を塞ぐ邪魔な前髪を切る。

 胸のあたりで全体の長さを整える。

 すぅっと息を吸って吐き出す。ふぅーーーーー頭の上に両手を当てて。もう一度深呼吸。
 目を閉じる。
 大学に入るときに染めた明るめの茶色を思い出す。髪の根元からは吐く息と一緒に一気になでおろす。

 ちょっとピリピリとした刺激が頭皮に感じられる。
 思っていた以上に美容室での髪染めを再現してしまったらしい。

 ゆっくり目を開けると、そこにはきれいに明るくなった私の髪。
 なんだかツヤツヤのキラキラ具合にびっくりしたけど、これは魔力がカラーコーティングしているからだろうか。
 いつまで持つかわからないけど、ちょっと美容室帰りのいい気分を思い出す。
 よし。上出来だ!
 これで目立つ黒髪はごまかせた。

 平たい顔以外は現地の人間に紛れるはず。
 久しぶりに見た私はあの頃より少し大人になったみたい。
 苦労は人を育てるのね・・・ふぅ。

 それから3日分程の着替えと食料、わずかな現金を入れた手提げ袋を手にもつと私は勇者の家をあとにした。

 昼ごはん時の街はあちらこちらからいい匂いがして、街の真ん中にある広場には屋台が出ていた。

 ピザパンみたいにパン生地の上にチーズと肉が載せられて焼かれたパンを買って噴水の横に腰掛ける。

 焼き立てアツアツのチーズをにょ~んと伸ばしながら食べていると、知らない世界だけどなんとかなるような気になってくる。

 生活魔法ってかなり便利だと思うし、電化製品とかイメージするだけで発動できるし
 多分なんとかなるかな。
 これからフェリとシスレイヤに会って、仕事のこととか相談だな。うん。

 根っからの前向きさから自分の未来は明るいな、と思っていた私が蔓草の魔物に絡まれて魔力を吸われすぎて戦うことのできなくなった勇者と一晩でかさかさ老婆にになった3人の貴族の女性たちが王都の屋敷で見つかったという事件の犯人として指名手配された黒髪の少女の話を耳にするまであと10日。

 戦えなくなった勇者から追われるようにして異世界各国を逃げ回る未来をまだ知らない。



====後日談=====

「お前!俺の魔力返せー!!」

「・・・・(この白髪あたまのヨボヨボおじさんは誰かな?」

 とりあえずスタンガン! 

 バリバリバリ!!

「ふぅ、またつまらぬものを切ってしまった」(切ってはない。切っては)

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