黒王子とミルクと人魚

音無野ウサギ

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前編 ミルクちょうだい

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 大草原を越え砂漠を越えた先の先、東洋では人魚の肉は不老不死の薬だという。

 そして西洋のある海洋国の年老いた王は病にかかり死を恐れ、五人の王子たちに人魚を捕らえてこいと命令をした。



 『もしも人魚を捕らえてこれたら褒美としてなんでも願いを叶えてやる』



  老王のその言葉に第二、第三、第四王子たちは大きな船を仕立てて大海へと出かけたが、荒れ狂う海から帰ってこなかった。



 狡猾な第一王子は人魚を捕らえてきた弟たちから手柄を横取りするつもりで浜辺で待ち構えていたので初めから海に出ていなかった。



 さて困ったのは第五王子。父王の手前出かけないわけにも行かないが、後ろ盾のない彼は大海へ出るような大きな船を用意することが出来ない。困った挙げ句、王宮の食料庫から酒瓶一つ持ち出して、老いた漁師に頼んで小さな船で人魚を探しに出かけることになった。



 うららかな春の太陽が照らす海原に第五王子と漁師はいた。



「王子様。お気をつけて。人魚たちはこの浅瀬を越えた先の洞窟にいると言いますじゃ。ここで育った人魚が遠くの海へ行くって村の年寄が言っとりましたで」



 日に焼け目の色が薄くなった年寄りの漁師は白いモジャモジャとしたひげに囲まれた口を動かして王子に告げた。肌が赤いのは酒を飲んでいるせいであって日焼けのせいではない。ベテランではあるが酒に弱いこの年寄は王子が王宮から持ち出した酒で雇えた唯一の船頭だ。



 そう遠くないところに大きな岩で出来た小島が見える。いたるところに顔を出している岩のせいでこれ以上は船を近づけることは出来ないという訳だ。



「わかった。行ってくる。ここで待っていておくれ」



 年の頃なら十代なかばだろうか、つやつやとした黒髪黒目の麗しい真珠のような肌をした少年が上着を脱いで半裸になり海へと入る準備をする。さあ靴を脱ぐぞとしたところ急に大きな波が船を揺らした。



「わっ」



 ドボンと大きな水しぶきを上げて王子と漁師は海へ落ちた。



 が、そもそもそんなに深くない、王子はトントンと足先で砂を蹴り海面へと向かおうとする。しかし急になにかに足をとられがぼりとしこたま水を飲んだ。



 水中で王子が見たものは足に絡みつく無数の海藻かいそうの黒い影。足を振りもがけばもがくほど更に隣の海藻が絡みつく。慌てて水面みなもに顔を出そうとするがあと少しのところで届かない。いつの間にか腕にまで海藻が絡みついていた。



 少し先に同じように手足をとられ海藻と一緒に波に揺られる漁師。コポリコポリと鼻から漏れていく泡が水面へと向かう。ゆらゆらと光線が射す中、王子の意識は途切れかける。



 ふわりと広がる白い海藻が絡みついてきたのを見たのを最後に彼は意識を手放した。



 ☆☆☆



(!!)



 人魚のフィーヨは漁師の小舟に乗った黒髪の少年を岩の陰から見ていた。

 太陽の光をかえすつやつやの黒髪は夜の海の様で美しい。



(なんだあれ?もっと近くで見たい!!ほしい!!)



 そうフィーヨが思ったその時、大きな水しぶきが上がり少年の姿が船の上から消えた。



 するりと水の中に体を滑り込ませ海底から少年の元へと急ぐ。自慢の尾びれがぐんぐんしなりフィーヨを少年の元へと運ぶ。



 海藻たちのいたずらな手が少年の手足を絡め取っている。絡みついた海藻を尾びれの先っぽで切り裂くと少年の目がフィーヨを見た。



(黒真珠だぁ)



 少年の瞳を見たフィーヨは自分の胸の音が急に大きく高鳴ったのにびっくりして尾をひとふり。海底の砂をほわりと巻き上げた。



 ☆☆☆



 洞窟の入口まで少年の体を押し上げたフィーヨは白真珠の様な肌が青ざめていることに気づいた。



『人間は私達と違って海の中にいると死んでしまうのよ』



『だから人間と一緒にいる時は気をつけてあげないといけないわ』



『死んでしまうとミルクをもらえなくなるの』



 今はもう遠くの海に行ってしまった姉たちが言った言葉を思い出しフィーヨは少年の体を陽の当たるところまで持っていった。ぐいぐいと腹を押して動かすとグポと水を吐き出しながら少年が目を開けた。



「おまえダイジョーブ?」



 王子は眼の前にいるキラキラと光る物体が何なのかすぐにはわからずゲホゲホと更にむせながら砂浜で体を起こした。



 横にいるのはプラチナブロンドの長い髪をした上半身裸の少年。だがその下半身はウロコで覆われ太陽の光をキラキラと跳ね返している。そして見逃しようのない大きな大きな尾びれ。



 だがウロコよりもキラキラと光るのは王子を見つめる瞳だった。



 大きな黒い瞳孔の周りを金色の虹彩がぐるりとまわり赤い縁取りのまぶたがそれを覆っている。パチリパチリとまばたきをする度に上下の瞼が目を包んだ。



(にんぎょ……だ)



 さてどうするべきか?王子は考えを巡らせる。



 この人魚、大きさはさほどでもない。十歳ほどの子供のような上半身にそれより若干長さのある下半身。豆を入れる大袋に上半身を入れて縛れば肩にかついで運ぶことができそうだ。



 問題は大袋もなければこの島を出るための船も見当たらないというところだ。



(さて困ったぞ。褒美をもらうためには生きていても死んでいても構わないが城まで運ばないといけない。逃げられないようにするにはどうすればいいのか)



 その瞳に映る自分の姿と目を合わせていると人魚が更に近くによってきた。王子の直ぐ側に顔を近づけてくんくんと匂いを嗅がれる。人魚からは潮の香りがした。



「フィーヨ、おまえ、たすけた」



「え?しゃべれるのか?」



 驚きに王子はのけぞった。



「フィーヨくちある。しゃべれる。ニンゲンことば。れんしゅうした」



「フィーヨっていうのか。助けてくれてありがとう」



 悪巧みにきづかれないように王子が礼を言うとフィーヨはその大きな目を閉じて嬉しそうに体をゆらした。ズシンと音を立てて尾びれが砂を叩く。



「うん。おれい。ミルクね」



「ミルクはここにはないだろうな。牛がいるのは山の方だから」



 王子が陸を探して視線を走らせると人魚は王子の足に手を伸ばした。



「いたくない?ふたつ。みっつ?」



「え?足のことか?痛くない。人間は生まれた時から二本足だからな。人魚と違って」



「フィーヨ、ニンゲンたすけた」



「あぁありがとう」



「ミルク。ニンゲン。ミルク」



「ミルクと言われても俺は持ってない。子供を生んだ女性でもないから母乳も出ない。悪いが城に帰ったらお礼にミルクを届けるよ」



「こども。ミルク?」



「ミルクは子供を生んだ動物が出すものだから。ミルクは子供が飲むものだろう」



 王子がそういうと人魚は嬉しそうにまた体を揺らす。



「フィーヨはこども。ミルクのむ」



「そうだろうな。俺は成人だ。だが食事に出ればミルクをのむぞ。母乳は飲まない」



「フィーヨ。こども。シロイから」



 楽しそうに尾びれを揺らす様子はたしかに子供っぽく王子の目にうつった。



「なぁ。フィーヨ以外に大人の人魚はいないのか?家族は?」



「ねえさまたち。もうおおきい。とおく。ここいる。ちいさなフィーヨ。だけ」



「そうか。フィーヨだけか。一人はさみしいな」



「フィーヨさみしい?」



 フィーヨの分厚いまぶたがパチリと閉じてひらいた。



(こいつは意外に簡単にことが進むかもしれないぞ)



 まだまだあどけない様子の人魚は人間の恐ろしさを知らないらしい。だまくらかして連れていけるかもしれない。王子は内心ほくそ笑んだ。



「さみしいってわかるか?なぁフィーヨがさみしいなら人間の国に来るかい?」



「なんで?」



「俺と一緒に居たらさみしくないだろう?あと俺の父親が人魚をひと目見たいって言ってるんだ」



「ちちおや?」



「そう。お前みたいなかわいい人魚をみたら病気もどっかに飛んでいく……」



(しまった。病気を治すための不老不死の話をこいつは知っているか?)



 つい油断して口が滑った。王子は恐る恐る人魚の様子を伺う。ここで疑われたら海に逃げられてしまうだろう。そうなると人間が人魚を素手で海で捕まえるのは無理だ。



「フィーヨじゃだめ。おおきいなおせる。ちいさいだめ」



 王子の焦りとは裏腹に人魚は相変わらず尾びれでタシンタシンと砂を叩いてご機嫌の様子である。



「そうなのか?」



「あかい。おおきいサンゴいろメス。フィーヨしろい。オス。おまえキレイだからフィーヨあげてもいいけどな」



「綺麗って、男につかう褒め言葉ではないんだけどな」



「ほめてない。おまえ、キレイ。しろしんじゅのはだ。くろしんじゅのめ、おおきい。よるのうみのかみ。フィーヨ、おまえ、スキ、ほしい。フィーヨ、ひとり、いつも、しずか」



 そう言って人魚は王子に身をよせた。両腕を王子の背中にまわし首に顔をすりつける、湿った肌がぴとりと王子の肌に吸い付くように馴染んだ。



「ひゃ!」



「おまえ、あたたかい」



「フィーヨは冷たいっていうか、なんかずっしりしてるな。ウロコはうん。硬いな。これ触り方間違えたら刺さりそうだな」



「ほめられた」



 フィーヨがふんふんと鼻を鳴らす。ぺとりぺとりと首筋を這うのはフィーヨの舌らしい。興奮した犬のような様子に王子は苦笑いをした。



「ほめ……まあいいか」



「おまえ、なまえ?」



「エミリオだよ。エミリオと呼んでいいぞ。一応王子だからな家臣の前では王子様と呼べよ。まぁ俺が王子だって思ってる家臣がどれだけいるかだけど。母様が亡くなってから俺はずっとひとりだからな。偽物王子なんて呼ばれてる」



「エミリオ。フィーヨいっしょ。あたたかい。スキ」



「そうだな。お前の肌を人肌って言っていいのかわからないけど。人は裸で抱き合うとあたたまるからな。今は太陽が出てるからあたたかいけど夜は俺の体は冷えるぞ。なんせ服がない。かぜをひくだろうな。その前に城に帰りたいんだがお前俺を港まで運ぶことはできるか?」



「できる。でもげんきいる。ミルクいる。フィーヨおなかすいた」



「だからミルクは今持ってない」



 水かきの付いた指がエミリオの腰紐をひいた。へその下にフィーヨの視線が動く。



「ニンゲン。みじかいアシからミルクでる」



 そこでやっとエミリオはフィーヨの求めるミルクが何か気づいた。



「え?え?」



(まさか、そんな、人が人魚を薬とするように、人魚にとって人間も食べ物なのか?)



 己の想像が恐怖をよびおこし血の気が引いていく。



 人魚を食うのはあくまでも父王であって自分で人魚を食べたいから探したのではない。人魚に食われるのは筋違いだ。



 エミリオは逃げようと体をよじる。



「ミルク」



 どしりとフィーヨの体がエミリオの腹に乗る。



「おい、やめろ!!」



 押しのけようとする両手はフィーヨのするりとした上半身で滑ってしまう。ろくな抵抗もできないエミリオのイチモツがフィーヨに見つかり引きずり出され、あっという間に食べられた。



「いたっ……くない?」



 てっきり食いちぎられるとおもっていた己の性器が人魚の口に吸い込まれては吐き出されみるみる硬い芯をもった様子に王子は驚いた。



 ぬるりと冷たい肌とちがい驚くほどフィーヨの口内は熱くもったりとした肉襞にくひだで出来ていた。



「な、ぁ、ああぁぁあ゛、あ、そんな、あ!」



 与えられる快楽に喉を開きのけぞり、びくびくと腰を震わせたエミリオは動きをとめた。



「くっ」



 仮にも一国の王子である自分がまさか子供の人魚にこんな目に遭わされるなんて。驚きと屈辱がエミリオを襲うがフィーヨの方は彼のイチモツに夢中である。



「もっと。もっとね」



 きゅぽんと音を立ててイチモツから口をはなしたフィーヨはたらりと垂れた一滴も逃すまいと陰茎の根本まで舌を這わした。



「く、ふぅぅっ」



 あたえられる熱と刺激になすすべもなくエミリオのイチモツは芯を取り戻す。



 その後は壁で反響したぴちゃぴちゃという水音と抑えた息遣いが長い間洞窟の中に大きく響くことになった
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