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14 ある晩のミカの独り言
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隣の部屋でしていたフィルの気配が消えてどうやら深く寝静まったらしいと俺は自分の寝台を抜け出した。温まっていた身体が部屋の空気に一息で冷やされるが気にならない。毎晩のこととはいえこの瞬間を楽しみに毎日を過ごしているのだ、音を立てぬよう夜の猫のようにするりと身体を闇に滑らせる。
フィルの部屋に入って寝顔を見下ろす。息をしているのか心配になるほど動かないフィルが月明かりに照らされている。そっと下腹部に手を重ねても気づく様子はない。いつものようにフィルの腹の奥から少しづつ魔素を抜き取りだす。だんだんと身体中に満ちてゆく魔素の気配。魔素の塊である魔石から魔素を抜き取るよりも格段と甘く感じるのは気のせいではないはずだと思う。他の魔法使いはもちろん師匠にも聞けないことだから確かめようがないけれど。
初めて会った時からフィルはおかしな子供だった。
どう考えても死んでもおかしくない量の魔素を取り込んでいるのに死んでいない。
師匠は最初にフィルの両親から助けを求められたときに少し手助けをしただけだと言った。母親が妊娠期に魔素を含む食材を取りすぎたことによる子供への悪影響で病弱を極めていたフィルの体を少しいじっただけだと。持ち直すのはいっときの事、すぐに寿命が来るだろうと。だからお前が側に居て見張っていろと命じられた。絶対に他の魔法使いに攫わせるなと念を押された。
なのにその後のフィルは行動範囲が広がるたびに恐ろしい勢いで周りの魔素を取り込んでいくのに具合が悪くなる様子がない。王都の周りの森に野草を取りに行けば森の空気中に漂う魔素を取り込んでポーション作りに使われる野草の魔素の含有量を変えてしまい野草を使う魔法使いたちが首を傾げる始末。
いつまでたっても本人は死なないでピンピンしてる。監視のために一緒にいる俺は暇でしょうがない。
借金回収のために学園卒業後は師匠がフィルを直接みるって言ってたけどまあ普通に弟子にするわけではないわな。こいつ才能ないし。必要なのはその身体の中に貯められている魔素だけ。どういう風にみるのかは聞かなかった。
フィルの方はと言えば直接言われなくても何となく察したんだろう、俺を恐れ遠ざけようとし、刹那的な生き方をするようになった。
王子のお気に入りの立場になってからは貰った小遣いで無駄遣いをしまくる。わがままな振る舞いも目立って増えた。王子以外には気を遣わないものだから裏でフィルのことを嫌う者が一気に増えた。それからは悪い評判が雪だるま式に周りからの嫌悪を集めていく。あわよくば将来の寵姫を目指していた女性陣はもとより学園時代に何かしらの縁を求めていた男達まで。
あんまり敵を作るもんじゃない、王族の寵愛なんて気分次第だと忠告すれば年下に図星指されてムカついたんだろうな。俺のことを汚ならしい魔法使いの小僧って言いやがった。バーカ、俺はお前より年上だっての。ちょっとしくじったから外見が子供になっただけで順調に元に戻りつつあるってんだ。こいつは自分の体の特異性に気づいてないから俺はフィルが寝静まった夜中にこいつの体に溜まった魔素を使って成長してるんだけど使いすぎると師匠にばれてぶっ飛ばされるだろうからほんの少しずつな。でもまあムカついたから喧嘩はしといた。
ある日の放課後階段から落ちたフィル。落とされたんだろうなとは思いつつ、喧嘩したばかりだからしらない振りで治療してやった。
そしたら礼を言いやがった。ありがとうなんて言うの久しぶりじゃね?頭打ったのか?あ、打ってたな。
それからフィルはお人好し行動がふえた。変な女子に絡まれてるなとは思ったが特に王子に言いつけるでもない。挙げ句の果てに今日の怪我だ。死にかけるほど血を流して俺じゃなかったら治癒魔法でも助けられなかっただろう。
野草採集なんて魔素を吸収してしまうフィルには無理な課題をこなしていたらしい。真面目に授業を受けて良い生徒になりたいって。将来のために。
そんなことしても将来は決まってるんだけどな。
今のところは師匠一択だ。
階段から落ちた後のフィルは素直というか幼いというか王子の膝に乗って照れたりしてちょっと可愛げが増したな。
昔のキャンキャンうるさかったお前より今のお前ならもうしばらく付き合ってやってもいいかと思うぜ。
でも師匠がそろそろ待つのに飽きた気配があるんだよな。あの人魔法使いのくせに辛抱強くないんだよな。あと十年くらい待っててやれよって思うけどな。そしたら俺だってもう少し何とかしてやれるんじゃないかって。
最近時々思うんだ。
もしもお前に魔法使いの手があったらなって。
友達とは言わず同僚くらいになれただろうか?
俺はフィルの腹からそっと手を外した。最近どうも余計なことを考えてしまう。暇なのかな。まぁ暇だな。
魔法使いは生まれつきの才能が全てだ。
自然の中または身体に流れる魔素を魔力に変換できなければ魔法使いではない。それが魔法使いの唯一絶対の条件魔法使いの手。伝説では魔法使いが死んだあとも魔道具として残る大魔法使いの手がこの国のどこかにあるらしい。
もしもその魔道具があればお前も魔法使いになれたかもな。でもお前がそんだけ溜め込んだ魔素を魔法に変えれないなら他の奴に使われるしかないんだ。そうだろう?
すぴぴと軽い鼻息を立てたフィルが寝返りを打った。
「俺と逃げるか?地の果てくらいまでは行けると思うぜ?」
フィルの間抜け面を見てたら存外楽しい旅になりそうな気がして俺はらしくない言葉をはいた自分に苦笑した。月夜は鬼門だ。
フィルの部屋に入って寝顔を見下ろす。息をしているのか心配になるほど動かないフィルが月明かりに照らされている。そっと下腹部に手を重ねても気づく様子はない。いつものようにフィルの腹の奥から少しづつ魔素を抜き取りだす。だんだんと身体中に満ちてゆく魔素の気配。魔素の塊である魔石から魔素を抜き取るよりも格段と甘く感じるのは気のせいではないはずだと思う。他の魔法使いはもちろん師匠にも聞けないことだから確かめようがないけれど。
初めて会った時からフィルはおかしな子供だった。
どう考えても死んでもおかしくない量の魔素を取り込んでいるのに死んでいない。
師匠は最初にフィルの両親から助けを求められたときに少し手助けをしただけだと言った。母親が妊娠期に魔素を含む食材を取りすぎたことによる子供への悪影響で病弱を極めていたフィルの体を少しいじっただけだと。持ち直すのはいっときの事、すぐに寿命が来るだろうと。だからお前が側に居て見張っていろと命じられた。絶対に他の魔法使いに攫わせるなと念を押された。
なのにその後のフィルは行動範囲が広がるたびに恐ろしい勢いで周りの魔素を取り込んでいくのに具合が悪くなる様子がない。王都の周りの森に野草を取りに行けば森の空気中に漂う魔素を取り込んでポーション作りに使われる野草の魔素の含有量を変えてしまい野草を使う魔法使いたちが首を傾げる始末。
いつまでたっても本人は死なないでピンピンしてる。監視のために一緒にいる俺は暇でしょうがない。
借金回収のために学園卒業後は師匠がフィルを直接みるって言ってたけどまあ普通に弟子にするわけではないわな。こいつ才能ないし。必要なのはその身体の中に貯められている魔素だけ。どういう風にみるのかは聞かなかった。
フィルの方はと言えば直接言われなくても何となく察したんだろう、俺を恐れ遠ざけようとし、刹那的な生き方をするようになった。
王子のお気に入りの立場になってからは貰った小遣いで無駄遣いをしまくる。わがままな振る舞いも目立って増えた。王子以外には気を遣わないものだから裏でフィルのことを嫌う者が一気に増えた。それからは悪い評判が雪だるま式に周りからの嫌悪を集めていく。あわよくば将来の寵姫を目指していた女性陣はもとより学園時代に何かしらの縁を求めていた男達まで。
あんまり敵を作るもんじゃない、王族の寵愛なんて気分次第だと忠告すれば年下に図星指されてムカついたんだろうな。俺のことを汚ならしい魔法使いの小僧って言いやがった。バーカ、俺はお前より年上だっての。ちょっとしくじったから外見が子供になっただけで順調に元に戻りつつあるってんだ。こいつは自分の体の特異性に気づいてないから俺はフィルが寝静まった夜中にこいつの体に溜まった魔素を使って成長してるんだけど使いすぎると師匠にばれてぶっ飛ばされるだろうからほんの少しずつな。でもまあムカついたから喧嘩はしといた。
ある日の放課後階段から落ちたフィル。落とされたんだろうなとは思いつつ、喧嘩したばかりだからしらない振りで治療してやった。
そしたら礼を言いやがった。ありがとうなんて言うの久しぶりじゃね?頭打ったのか?あ、打ってたな。
それからフィルはお人好し行動がふえた。変な女子に絡まれてるなとは思ったが特に王子に言いつけるでもない。挙げ句の果てに今日の怪我だ。死にかけるほど血を流して俺じゃなかったら治癒魔法でも助けられなかっただろう。
野草採集なんて魔素を吸収してしまうフィルには無理な課題をこなしていたらしい。真面目に授業を受けて良い生徒になりたいって。将来のために。
そんなことしても将来は決まってるんだけどな。
今のところは師匠一択だ。
階段から落ちた後のフィルは素直というか幼いというか王子の膝に乗って照れたりしてちょっと可愛げが増したな。
昔のキャンキャンうるさかったお前より今のお前ならもうしばらく付き合ってやってもいいかと思うぜ。
でも師匠がそろそろ待つのに飽きた気配があるんだよな。あの人魔法使いのくせに辛抱強くないんだよな。あと十年くらい待っててやれよって思うけどな。そしたら俺だってもう少し何とかしてやれるんじゃないかって。
最近時々思うんだ。
もしもお前に魔法使いの手があったらなって。
友達とは言わず同僚くらいになれただろうか?
俺はフィルの腹からそっと手を外した。最近どうも余計なことを考えてしまう。暇なのかな。まぁ暇だな。
魔法使いは生まれつきの才能が全てだ。
自然の中または身体に流れる魔素を魔力に変換できなければ魔法使いではない。それが魔法使いの唯一絶対の条件魔法使いの手。伝説では魔法使いが死んだあとも魔道具として残る大魔法使いの手がこの国のどこかにあるらしい。
もしもその魔道具があればお前も魔法使いになれたかもな。でもお前がそんだけ溜め込んだ魔素を魔法に変えれないなら他の奴に使われるしかないんだ。そうだろう?
すぴぴと軽い鼻息を立てたフィルが寝返りを打った。
「俺と逃げるか?地の果てくらいまでは行けると思うぜ?」
フィルの間抜け面を見てたら存外楽しい旅になりそうな気がして俺はらしくない言葉をはいた自分に苦笑した。月夜は鬼門だ。
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