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番外編 2-1 ポメ王子は男姫様のことだけ考えている
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育ちが育ちなだけに俺のルーディアは我慢強い。
やりたいことも本当の気持ちも押し殺して偽の次期女王として振る舞っている。
立派な心がけだし、誰にでもできることじゃない。
国民のため、王族として本当に立派だと思う。
でも俺には本当の気持ちを教えて欲しい。
俺といる時だけは我慢しないで欲しい、と思うのは俺のわがままなのか?
どうか良い夢を、そう願った俺は腕の中で眠るルーディアの額に口づけた。
☆☆☆
「姫様…ルーディア様」
トントントントンと小刻みに扉を叩く音がする。
重たいまぶたをなんとかこじ開けてみると俺の目の前には黒い絹糸のような艶やかな髪。
寝ぼけたままその一房を手に取りキスを落とす。
ずっと触れたかった彼に触れられる喜びに胸が震える。髪の一筋すら愛おしい。先日までこの美しい人のそばにいられなくなる日が来るのだと暗澹と日々を過ごしていたのが嘘のようだ。
(もう、朝か)
トントントンと扉を叩く音はやまない。ルーディアの侍女のカリンは諦める気はないらしい。
窓にかかった幕の端からさす光が予想外に強くてまばたきをくりかえす。どうやら思っていたより寝過ごしたのか。
俺の腕の中で可愛らしく寝息を立てるのは愛しの婚約者。未来の我が妻、いや夫?まぁ定義はいい。彼は最愛の存在だ。
昨晩無理をさせすぎたらしく、ルーディアは健やかな寝息をたてたままピクリとも動かない。カリンの声など届いていないらしい。
昨晩の可愛らしい彼の様子を思い出して俺の頬が緩む。また最後は気を失うように眠りに落ちさせてしまったな、そう思い出しただけでまた体の奥に熱が集まってしまう。
(だめだ、だめだ)
「ルーディア様!!…ローウェル様!!いらっしゃいますね!!」
声の調子が強くなってきた。
これはまたお怒りのようだ。ルーディアの筆頭侍女カリンは俺たちの事情を知っているから遠慮も何もない。俺の犬化の秘密を知った最近は俺のことを躾のできない駄犬だと思っている節がある。
「しょうがない。愛しい姫のためならお叱りは俺が受けよう」
そっと髪をかき分け額にキスを落とすとルーディアの目蓋がかすかに震えた。
長いまつげが眼窩に落とす影までも愛おしい。
幼子のようにいとけない顔で眠るルーディア。
(…かわいい)
透き通りそうな白い肌に散らされた薔薇の花弁を増やしたくなって俺は己を制した。
(カリンの奴め。俺の自制心は最大限にがんばってるんだが)
そっと寝台を出て扉に近づく。とりあえず床に落ちていた寝巻きを拾い身に付け人目についても問題ない格好をつける。鎌首をもたげかけている俺の分身には落ち着くように言い聞かせる。
「姫様、お願いします。今日の神事は欠席できないんですよ!!お支度に時間がかかるんですから開けてください」
少しだけ扉を開けると寝室の扉の外にはカリン。部屋の中が見えないように俺はカリンの視線を遮る位置に立つ。
「あーカリン。すぐに起こすからもう少しだけ待ってくれ」
申し訳無さそうに顔を出した俺に筆頭侍女は目を剥いた。俺が王子でなければ何をされていたかわかなないほどの殺気が飛ばされた。
「ローウェル様!やっぱり!!神事の前は縁起が悪いからやめてくださいとおねがいしましたのに!!」
「すまんすまん」
「絶対悪いと思ってませんよね?先週も同じことなさいましたし!!」
「先週も同じことをして神罰が下ってないんだから俺の行為は問題ない、とは思わないか?」
真面目な顔をして言ったら更に氷の視線を飛ばされた。この国の人間は信心深くて手に負えない。
「浴室に湯を張りますのですぐに姫様を起こしてくださいませ!!お願いしますよ!!今日のお支度はいつもより時間がかかるんですから!!」
できる侍女はここで駄犬をしつけるよりも効率を優先させることにしたらしくすぐに引き下がった。
さて、俺は愛しの婚約者を優しく起こすことにするかな。
湯が張られるまで少々時間があるわけだし。ルーディアの唇を味わうくらいの時間はあるよなぁ。
そう思って寝台に戻った俺は異変に気づいた。
「う、だ、めぇ」
布団から頭を出して苦しそうに眉を寄せて顎を突き出したルーディアはいやいやというように首を動かした。
「どうした?ルー?苦しいのか?」
そっと布団をずらし息をしやすいように空間を確保する。暑いのかルーディアの頬が赤く染まっている。
「もっ、ローウ…」
俺の名を呼びかけて途切れた言葉に夢の中でも俺のことを思ってくれているのかと俺の頬が緩む。
わずかに目蓋が動いた。すぐに愛らしい眼で俺にほほえんでくれるだろうと思って俺はルーディアを見つめた。
ピクピクとまつげが動き…
(おはようの後は恥じらうかな?それともキスをねだるかな?)
幸せな数秒後を予想した俺はまた頬が緩んだのを感じた。
ルーディアはパチリと目を開け俺のことを見るとすぐさま枕をつかんで投げつけてきた。至近距離すぎて顔面でまともに受ける。痛くはないが驚いた。
「いじわる!嫌い!!」
驚きに固まる俺をおいて寝起きの悪いルーディアとも思えない素早さで寝台を出て支度部屋へと行ってしまった。
部屋へ一人残された俺。
(…解せぬ。夢の中の俺は何をしたのか)
俺は己の準備のために自分の部屋へと向かう。
(ルーディアがいじわるとなじるほどのこと…悪くない。今日の夜はそっちでいくか)
爽やかな朝の空気の中、清々しい気分で淫靡な計画をたてる俺はすれ違う者たちと貴公子然とした笑みをかわした。
やりたいことも本当の気持ちも押し殺して偽の次期女王として振る舞っている。
立派な心がけだし、誰にでもできることじゃない。
国民のため、王族として本当に立派だと思う。
でも俺には本当の気持ちを教えて欲しい。
俺といる時だけは我慢しないで欲しい、と思うのは俺のわがままなのか?
どうか良い夢を、そう願った俺は腕の中で眠るルーディアの額に口づけた。
☆☆☆
「姫様…ルーディア様」
トントントントンと小刻みに扉を叩く音がする。
重たいまぶたをなんとかこじ開けてみると俺の目の前には黒い絹糸のような艶やかな髪。
寝ぼけたままその一房を手に取りキスを落とす。
ずっと触れたかった彼に触れられる喜びに胸が震える。髪の一筋すら愛おしい。先日までこの美しい人のそばにいられなくなる日が来るのだと暗澹と日々を過ごしていたのが嘘のようだ。
(もう、朝か)
トントントンと扉を叩く音はやまない。ルーディアの侍女のカリンは諦める気はないらしい。
窓にかかった幕の端からさす光が予想外に強くてまばたきをくりかえす。どうやら思っていたより寝過ごしたのか。
俺の腕の中で可愛らしく寝息を立てるのは愛しの婚約者。未来の我が妻、いや夫?まぁ定義はいい。彼は最愛の存在だ。
昨晩無理をさせすぎたらしく、ルーディアは健やかな寝息をたてたままピクリとも動かない。カリンの声など届いていないらしい。
昨晩の可愛らしい彼の様子を思い出して俺の頬が緩む。また最後は気を失うように眠りに落ちさせてしまったな、そう思い出しただけでまた体の奥に熱が集まってしまう。
(だめだ、だめだ)
「ルーディア様!!…ローウェル様!!いらっしゃいますね!!」
声の調子が強くなってきた。
これはまたお怒りのようだ。ルーディアの筆頭侍女カリンは俺たちの事情を知っているから遠慮も何もない。俺の犬化の秘密を知った最近は俺のことを躾のできない駄犬だと思っている節がある。
「しょうがない。愛しい姫のためならお叱りは俺が受けよう」
そっと髪をかき分け額にキスを落とすとルーディアの目蓋がかすかに震えた。
長いまつげが眼窩に落とす影までも愛おしい。
幼子のようにいとけない顔で眠るルーディア。
(…かわいい)
透き通りそうな白い肌に散らされた薔薇の花弁を増やしたくなって俺は己を制した。
(カリンの奴め。俺の自制心は最大限にがんばってるんだが)
そっと寝台を出て扉に近づく。とりあえず床に落ちていた寝巻きを拾い身に付け人目についても問題ない格好をつける。鎌首をもたげかけている俺の分身には落ち着くように言い聞かせる。
「姫様、お願いします。今日の神事は欠席できないんですよ!!お支度に時間がかかるんですから開けてください」
少しだけ扉を開けると寝室の扉の外にはカリン。部屋の中が見えないように俺はカリンの視線を遮る位置に立つ。
「あーカリン。すぐに起こすからもう少しだけ待ってくれ」
申し訳無さそうに顔を出した俺に筆頭侍女は目を剥いた。俺が王子でなければ何をされていたかわかなないほどの殺気が飛ばされた。
「ローウェル様!やっぱり!!神事の前は縁起が悪いからやめてくださいとおねがいしましたのに!!」
「すまんすまん」
「絶対悪いと思ってませんよね?先週も同じことなさいましたし!!」
「先週も同じことをして神罰が下ってないんだから俺の行為は問題ない、とは思わないか?」
真面目な顔をして言ったら更に氷の視線を飛ばされた。この国の人間は信心深くて手に負えない。
「浴室に湯を張りますのですぐに姫様を起こしてくださいませ!!お願いしますよ!!今日のお支度はいつもより時間がかかるんですから!!」
できる侍女はここで駄犬をしつけるよりも効率を優先させることにしたらしくすぐに引き下がった。
さて、俺は愛しの婚約者を優しく起こすことにするかな。
湯が張られるまで少々時間があるわけだし。ルーディアの唇を味わうくらいの時間はあるよなぁ。
そう思って寝台に戻った俺は異変に気づいた。
「う、だ、めぇ」
布団から頭を出して苦しそうに眉を寄せて顎を突き出したルーディアはいやいやというように首を動かした。
「どうした?ルー?苦しいのか?」
そっと布団をずらし息をしやすいように空間を確保する。暑いのかルーディアの頬が赤く染まっている。
「もっ、ローウ…」
俺の名を呼びかけて途切れた言葉に夢の中でも俺のことを思ってくれているのかと俺の頬が緩む。
わずかに目蓋が動いた。すぐに愛らしい眼で俺にほほえんでくれるだろうと思って俺はルーディアを見つめた。
ピクピクとまつげが動き…
(おはようの後は恥じらうかな?それともキスをねだるかな?)
幸せな数秒後を予想した俺はまた頬が緩んだのを感じた。
ルーディアはパチリと目を開け俺のことを見るとすぐさま枕をつかんで投げつけてきた。至近距離すぎて顔面でまともに受ける。痛くはないが驚いた。
「いじわる!嫌い!!」
驚きに固まる俺をおいて寝起きの悪いルーディアとも思えない素早さで寝台を出て支度部屋へと行ってしまった。
部屋へ一人残された俺。
(…解せぬ。夢の中の俺は何をしたのか)
俺は己の準備のために自分の部屋へと向かう。
(ルーディアがいじわるとなじるほどのこと…悪くない。今日の夜はそっちでいくか)
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