ぼくらの秘密ー大好きな人に真の姿をさらけ出す薬を盛ってみた

音無野ウサギ

文字の大きさ
8 / 12

番外編 2-2 罰当たりな駄犬は神殿で白昼夢を見る

しおりを挟む
 この国、エーデルオートは大国だ。その国教として建国神達を祀る神殿はそのもって余る財力を注がれておりたいそう大きい。白い石造りの巨大な神殿は大人が二人がかりで手をつないで囲めるような大きな柱が何本も立ち天井を支えている。四角い箱のような形状だが三方の壁がなく壁のある一方に祭壇が作られている。

 神事は主に王族が取り仕切ることになっているので今ルーディアは女王陛下と並んで祭壇前にいる。

 神殿の中には国内の有力貴族たちが参列している。が、いつもより若い男が多い気がして俺は周りに視線を走らせた。あからさまに俺のことを気に食わないという視線を飛ばしてくる男どもがいたが大抵はルーディアに岡惚れしているボンボンどもだ。惚れた女を落とすのに親の金と地位を使わなければならないような哀れな奴らなので気にする必要もない。

 お前とルーディアとの婚約は運が良かっただけだろう。と言われてしまえばその通りだとうなずくしかない。王族とはいえ小国。おまけに何の因果か犬に変化する呪いのような体で生を受けたのだ、ルーディアのような最愛の人と結ばれるくらいの大幸運がなければ俺の人生帳尻が合わないだろう。

 嘆いたこともあるが俺はこの人生で良かったと思っている。

(だから絶対に離れないし放さない)

 俺はルーディアへ視線を戻した。

 ルーディアの衣装は大変に豪華だ。何重にも重ねた鮮やかな絹衣。そこへ金糸で神への願いを図案にし刺繍で入れるこの国の伝統的なもの。一枚一枚は軽く薄いが総重量はかなり重たくなるらしい。

 ある日、その衣装にかかる金額だけで俺の出身国の国民達が半年は食べられると説明するカリンに生返事をしながら、脳内でその衣装を着たまま行為に及んだらどうなるだろうと俺は想像した。

 嫌がるルーディアを丸め込み、最終的には二人で半裸になりながらの着衣性交。更に脳内のルーディアを前後不覚の状況に陥れ『もっと奥まで』とねだらせる。甘くとろけたその声が俺の耳の奥に響く。『いぃ…も…ああぁん』ルーディアが気を失うまで腰を振り続け…

 俺は瞬きほどの間で駆け巡ったその卑猥な想像を押し殺し「汚したら大変だよなぁ」と平静を装いつつ呟いた。

 あくまで普通に呟いたその言葉だったのに、その瞬間カリンからは『絶対さわるなよ!神事のお衣装を着てる姫様に欲情したらお前の一物をちょん切るぞ』という殺気を飛ばされた。俺は彼女の勘の良さに冷や汗をかきつつ視線をそらした。

 その後、最近のカリンの忠義心は狂信者の域に達しつつあるのではと自国から連れてきた侍従にこぼしたら『あんたのせいだろう』と視線で冷たく答えられた。

 まぁ多少の自覚はある。俺は時間さえあればルーディアをとろけさせたいと思っている。

 次期女王としての重圧を抱えて頑張っている彼を甘やかすことができるのは俺だけだと思えばこそ。と言うのは建前で我慢だの王族としての振る舞いだのといった余計なものを取り去った彼が可愛いからそれが見たい。ただそれだけだ。性的にとろけさせるのが楽しいのだ。悪いか?

 はっきり言えば神殿にいる今だって思っている。俺の頭の中では昨晩のとろけたルーディアが自動再生され続け、かわいいおしりを俺に向けている。

本当に神がいるのなら俺は今すぐ雷にでも打たれて死ぬはずだと思うほどに不敬だ。自分の神殿内で神事を捧げる人間を脳内で犯し続ける人間がいれば異国人だからといって見逃してくれるような神はいないと思う。

 だがそれもこれもルーディアの美しさのせいだ。もちろん衣装も美しいがそれをまとうルーディアの美しさは神がかっている。そして美しいものを見たらつい汚してしまいたくなるのが人の性というものだ。

 だから俺は彼が衣装を着ている儀式の前後にはルーディアの側には近づかないことにしている。だが儀式の衣装を着る前と脱いだ後はその限りではない。これは俺の最大限の努力であり譲歩なのだがどうやらカリンには伝わっていないらしい。

 儀式の日のカリンは関係のないものが怯えるほどに殺気立っている。今朝もそうだった。俺はその殺気にもなれたものなので動じなかったが。

 まぁ…実際のところルーディアへの忠誠心が暴走して本当にあれをちょん切られそうで怖いと思うこともある。なので衣装を着る前に思う存分汚させてもらっているのだが…

 …ぞくり

 神殿の外にいるはずのカリンの殺気を感じた気がして俺は一つ身震いをし、改めて祭壇に目を向けた。

 大仰な衣装を身にまとったルーディアは本当に女神のようで、そんなルーディアを美しいと思うのは俺だけではない。神殿で神事に携わる皆が祭壇前に並んだ王族の中でも一際美しい次期女王を見つめていた。皆真面目そうな顔で祭壇に向いているが心の中では何を思っているのかわかったものではない。

 筆頭は俺だ。間違いない。

 だが他の男の脳内でどんなに汚されても俺がルーディアを守ることは出来ない。

(だから後でお清めしよう)

 また一つルーディアに触れる理由ができた俺は真面目な顔をして祭壇を見つめた。

 優しげに軽く結ばれた口元。伏し目がちのまま神事を進めるルーディア。俺はそんな彼を少し離れた列から他の貴族とともに見つめる。

 儀式の最後に他の王族とともに神の像に向かい頭を垂れて感謝を捧げる小さな姿。

 だがその姿はいつもより儚く寂しげに見えて俺の心に不安の波をざわりと立てた。

(ルーディアを幸せに出来ますように)

 俺は信じてもいない神に向かって皆と一緒に頭を垂れた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

処理中です...