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第2部 継承
EP39 仮面
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リージョンK。
セントラルから遠く離れた最北の地。
ここは宗教紛争が頻発している、地域だ。
抱える都市の幾つかは廃墟と化しており、彼らが身を潜めるにはもってこいの場所だった。
黒衣を身に纏い、仮面をつけた者たちが灯りを持って集う。
彼らは注意深く辺りを見回し、街に吸い込まれるようにして入っていく。
黒い嘴の付いた仮面を被った男が、崩れかけたホテルの階段を使い、地下へと降りていく。
集った者たちの中心で、男は周囲を軽く一瞥した。
皆が被る仮面は一つとして同じものが無い。
それが不気味なほどの異様感を際立たせていた。
この世界はある時を境に、“守護者”と呼ばれる存在が支えてきた。
守護者は30年に一度、大いなる海の門を開くという。
この時、守護者は自身の依代となる器ーー”人間”を必要とした。
守護者が必要とする“器”を用意する任を受けたのが、各々仮面をつけた者たちだ。
黒い嘴のついた仮面の男――宰導の男はしばし、思考に耽る。
――我々の存在意義は“守護者”の存続と維持にある。
“守護者”とその“番”が持つとされる特異な技術は、神の力と同等だ。
そんな守護者に対し“狂信的な信頼を寄せる一部の支持者”たちを、世界は|“過激派組織”と呼ぶが、
グライゼルとは本来守護者に忠実な使徒であり、聖なる役目を担うもの。
だからこそ自身を、世界にとっての「調整弁」と定義している。
グライゼルは守護者の忠実なる“悪役”なのだ。
雨水の滴る音が、漆黒の空間に響き渡る。
仮面をつけた同胞たちが、次々と階段を下り、また一歩と近づいて来る。
この地下室はとても広い。教育機関の運動場程度の面積はあるだろう。
澱んだ空気はなく、防音システムも最新のものを扱った薄暗い空間。
それがグライゼルの本拠地なのである。
―*―
地下室の中央に古い金属製のテーブルが1つ置かれている。
その上には、“守護者”の象徴――人ならざる神のシンボルが置かれていた。
宰導の男の横に、黒い仮面をつけた女性が立つ。
「レイハ様、我らに祝福をお与え下さい」
宰導の声に女性は頷き、右手を天井に向かって掲げた。
それだけで、傷を抱えた何人かの同胞の傷が癒えた。
どんな傷もたちどころに治してしまうその力に、同胞たちは感涙する。
レイハを褒めたたえ、宰導の後に続いてレイハと繋がる守護者に向けて儀式的な沈黙を保つ。
『我らの“守護者”がこの世界をお守り下さるがゆえに、この世界は正しく廻る』
レイハの言葉に続くように、守護者の存続を絶対視する思想を宰導は語る。
宰導は仲間たちに事実を告げた。
「よく聞け、皆の者。我々の守護者さまにとって最高の依り代――“器”が見つかった」
宰導の言葉が静かに染み渡った。
“守護者”には“器”となる存在が必要不可欠だ。
しかもその肉体はわずか30年しかこの世界に存在できない。
そんな“器”を偉大なる神に奉げる使命をまさか自分たちが全うできるとは。
これまでの祈りが今まさに成就すると知った仮面の者たちは昂揚感に包まれる。
『皆の者――』
レイハの声が闇を切り裂いた。太い蝋燭の炎が一瞬、大きく揺らぐ。
宰導をはじめとする仮面の者たちが一斉にその場に膝まづく。
『器を出迎えに参る。おのおの配置につけ』
冷たい号令が地下室に響きわたる。
息を顰めた世界の闇が動き出した瞬間だった。
セントラルから遠く離れた最北の地。
ここは宗教紛争が頻発している、地域だ。
抱える都市の幾つかは廃墟と化しており、彼らが身を潜めるにはもってこいの場所だった。
黒衣を身に纏い、仮面をつけた者たちが灯りを持って集う。
彼らは注意深く辺りを見回し、街に吸い込まれるようにして入っていく。
黒い嘴の付いた仮面を被った男が、崩れかけたホテルの階段を使い、地下へと降りていく。
集った者たちの中心で、男は周囲を軽く一瞥した。
皆が被る仮面は一つとして同じものが無い。
それが不気味なほどの異様感を際立たせていた。
この世界はある時を境に、“守護者”と呼ばれる存在が支えてきた。
守護者は30年に一度、大いなる海の門を開くという。
この時、守護者は自身の依代となる器ーー”人間”を必要とした。
守護者が必要とする“器”を用意する任を受けたのが、各々仮面をつけた者たちだ。
黒い嘴のついた仮面の男――宰導の男はしばし、思考に耽る。
――我々の存在意義は“守護者”の存続と維持にある。
“守護者”とその“番”が持つとされる特異な技術は、神の力と同等だ。
そんな守護者に対し“狂信的な信頼を寄せる一部の支持者”たちを、世界は|“過激派組織”と呼ぶが、
グライゼルとは本来守護者に忠実な使徒であり、聖なる役目を担うもの。
だからこそ自身を、世界にとっての「調整弁」と定義している。
グライゼルは守護者の忠実なる“悪役”なのだ。
雨水の滴る音が、漆黒の空間に響き渡る。
仮面をつけた同胞たちが、次々と階段を下り、また一歩と近づいて来る。
この地下室はとても広い。教育機関の運動場程度の面積はあるだろう。
澱んだ空気はなく、防音システムも最新のものを扱った薄暗い空間。
それがグライゼルの本拠地なのである。
―*―
地下室の中央に古い金属製のテーブルが1つ置かれている。
その上には、“守護者”の象徴――人ならざる神のシンボルが置かれていた。
宰導の男の横に、黒い仮面をつけた女性が立つ。
「レイハ様、我らに祝福をお与え下さい」
宰導の声に女性は頷き、右手を天井に向かって掲げた。
それだけで、傷を抱えた何人かの同胞の傷が癒えた。
どんな傷もたちどころに治してしまうその力に、同胞たちは感涙する。
レイハを褒めたたえ、宰導の後に続いてレイハと繋がる守護者に向けて儀式的な沈黙を保つ。
『我らの“守護者”がこの世界をお守り下さるがゆえに、この世界は正しく廻る』
レイハの言葉に続くように、守護者の存続を絶対視する思想を宰導は語る。
宰導は仲間たちに事実を告げた。
「よく聞け、皆の者。我々の守護者さまにとって最高の依り代――“器”が見つかった」
宰導の言葉が静かに染み渡った。
“守護者”には“器”となる存在が必要不可欠だ。
しかもその肉体はわずか30年しかこの世界に存在できない。
そんな“器”を偉大なる神に奉げる使命をまさか自分たちが全うできるとは。
これまでの祈りが今まさに成就すると知った仮面の者たちは昂揚感に包まれる。
『皆の者――』
レイハの声が闇を切り裂いた。太い蝋燭の炎が一瞬、大きく揺らぐ。
宰導をはじめとする仮面の者たちが一斉にその場に膝まづく。
『器を出迎えに参る。おのおの配置につけ』
冷たい号令が地下室に響きわたる。
息を顰めた世界の闇が動き出した瞬間だった。
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