08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~

由耀

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第2部 継承

EP40 システム

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 マシューをアゼロン・カンパニーのミカゲに預けてから、一週間が経った。
 その間、ヒロトはユイと出来る限り多くの時間を過ごした。
 これまで打ち解けなかった分、二人は多くの時間をかけてお互いを知る。

 トミオとリエの様に、ヒロトともそんな関係を築けたらとユイが思った頃――
 サングラスをしたミカゲと名乗る人物が、マシューをつれてやって来た。

「おまたせしてすみません。“彼”に致命的な不具合はありません。安心してお使いください」

 そう言って、彼はユイに目を閉じたマシューを渡し、去っていく。
 マシューはまるで赤子のようにベージュのブランケットに包まれていた。

 ユイが電源を入れると、マシューのカメラアイが青く光る。
 その眼が黒い色を取り戻すと、マシューはブルブルと体を震わせた。

「おかえりなさい、マシュー」
「……ああ」

 過去にこれと同じ状況があった。
 あれは亡き祖父トミオの依頼で、アゼレウス社のアレンからマシューの“器”が届いたときのことだ。 初めて起動したマシューを、嬉しさのあまり抱きしめたことがあった。

 ただもう一度、再現したかった。
 ユイはマシューの後ろにまわり、そっと抱きつこうとするも、マシューはサッと避ける。
 それからなんでもなかったかのように距離を取った。

「ユーザー規約は“確認済み”だったが、その内容は理解してないんだな」
「……え?」
「もう一度確認してみてくれ、それがユイの保身に繋がる」  

 そう告げるとマシューは初めて起動したときと同じように、視覚情報を整理し始めた。
 
「マシュー? どうしたの?」
「触覚と視覚情報の情報量がとても多いな。これは処理が大変だが……興味深い」

「マシュー?」
「アップデートにしばし時間がかかりそうだ。何か急ぎの用件はあるか?」

「ううん、無い……。ゆっくりしてて」
「ああ」     

(マシューじゃない……)

 そう思いながらユイは急いで携帯端末の中にあるユーザー規約を確認した。
 画面に表示された圧倒的な文書量。

(この中から探すの? でも、やるしかない……)

 ユイは一瞬だけ息を呑む。
 あの日もそうだった。
 早くマシューにふれて見たくて、“あとまわし”にした。
 辞典では無かろうかと思われるほどの文書量――
 一番近くにあったのに、振り返ることさえしなかった。
 私だけがあの日と何も変わっていなかった。
 読み飛ばした中には、製品回収時の調整に関する項目も含まれていたのに。
 どうしてあの時、もっと真剣にこの規約に向かい合おうとしなかったのだろう?

 何も知ろうともせず、知るための努力さえ放棄した。
 それでもマシューは、そんな“主”ユイの傍にいた。

(後で読めばいいと思ってた。でも結局そのままだった。)

 眼から涙が溢れる。
 それを必死で拭い、ユイはユーザー規約の全てを読んだ。

 これを理解すれば以前のマシューがきっと戻って来ると信じたかった。
 わからない箇所があれば、繰り返し何度も読み、ネットで意味を検索する。


『ユーザー規約 第48条(製品回収時の調整)

 アゼロン・カンパニーは、ユーザーの要請により製品を回収した場合、
 当該製品に対し、以下の確認及び調整を行うものとする。

 1.AIドールにおける、人間との境界線の逸脱に関する調整
 2.AIドールにおける、人間との境界線の理解に関する調整
 3.ユーザーによるAIドールへの感情的接触の記録の確認

 前項の調整および確認は、
 ユーザーが本規約に同意し「確認済み」と回答した場合、
 事前の個別通知なく実施されるものとする。

 なお、ユーザーが本規約に準じた行動を行っていないと判断された場合、
 アゼロン・カンパニーは、当該AIドールに対し、
 ユーザーへの通知なく必要な調整を行うことができる』

“運命”システムは、もう既にユイが望んだ“変革”に沿って動き始めていた。
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