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EP04
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物心つく頃から、トミオは機械が好きだった。
不注意で壊してしまった端末を、再び稼働させた時の感動は、今でも忘れられない。
モノが壊れる理由は様々だ。
だが故障の原因のほとんどは、ユーザー自身が意図して起こしたものではない
ただその行動をとれば壊れてしまうという結果を知らなかっただけ。
トミオの両親は、モノはモノだと割り切るタイプの人間だった。
そういう考えもあると理解はしている。その考えを否定したくはない。
だが配慮した扱いをするのでもなく、エラーが出れば気に入らないと新たにする。
家の中には大抵最新の機械があった。そうした機械の中に長く使われたものはなかった。
どれほど丁寧に作られ機能的で素晴らしくとも、その価値を発揮しないまま新しいモノと入れ替わる。そんな状況を切なく感じていた。
こうした両親のおかげか、トミオは常に新しい技術に触れることができた。
両親をモデルに、モノの扱い方やどこを改良すれば長くユーザーに愛されるかも、知るきっかけが出来た。両親は心から望み、納得させるだけの結果を出せば、惜しみなく学びの機会を与えてくれたからだ。
そんなトミオが目指した道――。
壊れた機械を修理する仕事に就きたい。自分が作った機械を愛用するユーザーのために、本当に良いものを届けたい。
そのためには優れた技術と最先端の知識、経験が必要だ。トミオが選んだのは、アゼロン・カンパニーと提携を結ぶ大手端末機械メーカー、アゼレウス社だ。
学生の頃からこの会社に所属し、幾つもの資格試験を経て「修理技能士」のライセンスを取得する。トミオが正規雇用となってからはいつの間にか「特級技士」と呼ばれるようになっていた。
特級技士とは、修理技能士の中でも熟練の技術を持った者のことを指す。多くの修理技能士の模範だ。だがトミオ的には地位や名誉、肩書きなどはどうでも良かった。
トミオが「特級技士」であるという事実を知る者は、上層部のわずかな人間と友人たちのみ。何も知らない後輩たちは、トミオを出世コースを踏み外した哀れな「修理技能士」の一人として見ていた。
それどころか極度のワーカホリックと誤解する者もいるほどだ。
同期の友人たちは、トミオ自身がこうした誤った認識を受け入れている事実に憤慨する。
「俺はそれで構わない。俺を超える若手が増えるならそれでいい」
定年を迎えても、会社はトミオを必要とした。
最後まで活躍する場所を得られたことは、とても幸運なことだとトミオは考えていた。
ー※ー
杖をついたトミオがゆっくりと歩く中、白衣を着た若い女性看護師とすれ違う。
B5サイズほどの端末を抱える彼女は、まだ二十代後半に見えた。
リエもまた看護師をしていた。
この病院は大きな総合病院で、アゼレウス社とは提携を結んでいる。そのため社員は何かあるとこの病院で診てもらう。急患が出れば当然遅れることもあるし、最悪、再来院となることもある。最近は遠方からの来院も多いのだろう、朝早くから来ている患者がすでにロビーに集まっていた。
大きな画面に診療番号と診療室が表示される。携帯端末を開き、診療番号をもう一度確認する。63番……今は30番台が掲示されている。どうやら待たなければならないようだ。
(いいさ、待つことには慣れている。たとえ待った先に何が起ころうとも)
空いている椅子にゆっくりと静かに腰を下ろすと、正面には先ほどの中庭が見える。
降り注ぐ柔らかな光を眩しそうに目を細め、トミオは昔の記憶に想いを馳せた――――。
不注意で壊してしまった端末を、再び稼働させた時の感動は、今でも忘れられない。
モノが壊れる理由は様々だ。
だが故障の原因のほとんどは、ユーザー自身が意図して起こしたものではない
ただその行動をとれば壊れてしまうという結果を知らなかっただけ。
トミオの両親は、モノはモノだと割り切るタイプの人間だった。
そういう考えもあると理解はしている。その考えを否定したくはない。
だが配慮した扱いをするのでもなく、エラーが出れば気に入らないと新たにする。
家の中には大抵最新の機械があった。そうした機械の中に長く使われたものはなかった。
どれほど丁寧に作られ機能的で素晴らしくとも、その価値を発揮しないまま新しいモノと入れ替わる。そんな状況を切なく感じていた。
こうした両親のおかげか、トミオは常に新しい技術に触れることができた。
両親をモデルに、モノの扱い方やどこを改良すれば長くユーザーに愛されるかも、知るきっかけが出来た。両親は心から望み、納得させるだけの結果を出せば、惜しみなく学びの機会を与えてくれたからだ。
そんなトミオが目指した道――。
壊れた機械を修理する仕事に就きたい。自分が作った機械を愛用するユーザーのために、本当に良いものを届けたい。
そのためには優れた技術と最先端の知識、経験が必要だ。トミオが選んだのは、アゼロン・カンパニーと提携を結ぶ大手端末機械メーカー、アゼレウス社だ。
学生の頃からこの会社に所属し、幾つもの資格試験を経て「修理技能士」のライセンスを取得する。トミオが正規雇用となってからはいつの間にか「特級技士」と呼ばれるようになっていた。
特級技士とは、修理技能士の中でも熟練の技術を持った者のことを指す。多くの修理技能士の模範だ。だがトミオ的には地位や名誉、肩書きなどはどうでも良かった。
トミオが「特級技士」であるという事実を知る者は、上層部のわずかな人間と友人たちのみ。何も知らない後輩たちは、トミオを出世コースを踏み外した哀れな「修理技能士」の一人として見ていた。
それどころか極度のワーカホリックと誤解する者もいるほどだ。
同期の友人たちは、トミオ自身がこうした誤った認識を受け入れている事実に憤慨する。
「俺はそれで構わない。俺を超える若手が増えるならそれでいい」
定年を迎えても、会社はトミオを必要とした。
最後まで活躍する場所を得られたことは、とても幸運なことだとトミオは考えていた。
ー※ー
杖をついたトミオがゆっくりと歩く中、白衣を着た若い女性看護師とすれ違う。
B5サイズほどの端末を抱える彼女は、まだ二十代後半に見えた。
リエもまた看護師をしていた。
この病院は大きな総合病院で、アゼレウス社とは提携を結んでいる。そのため社員は何かあるとこの病院で診てもらう。急患が出れば当然遅れることもあるし、最悪、再来院となることもある。最近は遠方からの来院も多いのだろう、朝早くから来ている患者がすでにロビーに集まっていた。
大きな画面に診療番号と診療室が表示される。携帯端末を開き、診療番号をもう一度確認する。63番……今は30番台が掲示されている。どうやら待たなければならないようだ。
(いいさ、待つことには慣れている。たとえ待った先に何が起ころうとも)
空いている椅子にゆっくりと静かに腰を下ろすと、正面には先ほどの中庭が見える。
降り注ぐ柔らかな光を眩しそうに目を細め、トミオは昔の記憶に想いを馳せた――――。
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