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第四話【錬金術】

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翌日。
「お嬢様!!王宮から錬金術の先生と、使用人がいらっしゃいました!」と慌てふためくミア。
「そんな慌てなくても、先生がくる事は分かってた事じゃない。」と言って私は、読んでいた本をパタリと閉じて立ち上がる。
「いえ、それが使用人の数が…。」と戸惑いオロオロした顔をするミア。
これは見てみないと分からないと思い急いで玄関へ向かった。

玄関についてみれば正装をした父と母が使用人にペコペコと頭を下げていた。父は手紙のような物を持っていた。そして、その先には明らかに錬金術やってそうな服を着た、顔に小皺がある男性と燕尾服を着た男性15人と王家専用のメイド服を来た女性15人が綺麗に整列していた。どうしてこんなにも使用人がいるのだろうと、首を少し傾げつつ「お待たせ致しました。」と声をかければ燕尾服をビシッと着こなした男性がニコッと笑顔を向けて「エルヒリア様、私はこの部隊の執事長ギルバートと申します。ジェイド王子よりお手紙を預かって参りました。」と言って懐から手紙を取り出すギルバート。
手紙なら魔法の伝書鳩で十分なはずなのに、わざわざ使用人に持たせて、今このタイミングで渡すという事は今すぐ開封して読めって事よね。
手紙を受け取って、早速開いて口に出して読んでみた。
……
愛するエルヒリアへ
持病の為直接会いにいけなくてすまない。
本来なら僕がやらなければならない仕事なのに、君に頼ってしまう事になりそうだ。そこで、僕の最も信頼している使用人30名を君の元へ送る事にした。有効に使ってくれ。
クラリアス公爵が驚かぬよう、もう1通手紙を持たせた。安心して任務に励んでくれ。
ジェイドより
……
「使用人?」
チラリと玄関に並んだ使用人を見渡した。
(え?もしかしてこれ全員?)
「本日より、エルヒリア様の手足となるよう仰せつかっております。」と手を胸に当てて一礼する男性陣と手をおヘソの当たりで組み礼をする女性陣。
(ま、まじか。人は足りないと思ってたから嬉しいは嬉しいけど、ここまでしてもらえると恐いわね。任務って事にしたのね。)
「エルヒリア、ジェイド王子から極秘の任務を頼まれているそうだな?私も、先程手紙をもらって読み終えたところだ。」
「30人ともなると、本館にはもう部屋が…。」とお母様。
「うむ。裏の使ってない屋敷だが、そこを使ってもらおう。エルヒリア、何を頼まれているのか知らないが裏の屋敷の鍵をお前に預ける。好きに使うと良い。」とお父様。
(ウソ、こんなにも簡単に裏の屋敷の使用許可が下りるの!?ジェイド王子やるわね。BADENDになるだけのショタ王子だと思ってた。ごめんね。)

【一方その頃、ジェイド王子は大きなくしゃみをしていた。】

早速使用人と錬金術の先生を連れて本館の裏にある屋敷へ向かった。
屋敷に入ってみると結構な埃が被っていて、蜘蛛の巣だらけ、この屋敷だけ出入りを禁じていたかのようで驚いていた。
「ミア、どうして、この屋敷はこんな状況なの?」
「えっと、確かお化けがでるだとかで封鎖するようになったのだとか。」
「お化け?魔法ではなく?」
「さぁ?何代か前のクラリアス公爵が現れるのだとか。」
「へぇ…それで使われてなかったのね。本館に負けないくらいに立派な建物なのに勿体ない。」
「エルヒリア様は一度部屋へお戻り下さい。本日中に、このお屋敷をピカピカに磨き上げますので。」とギルバート。
「そうね、分かったわ。じゃあ、お願い。まさか、こんなにも使えない状態だとは思わなかったわ。錬金術の先生は本館の客室へご案内致します。」と言えば先生はニコッと微笑む。

裏の屋敷から再び本館へ戻ってきて、客室に入り先生に座ってもらう。
「先生も住み込みですか?」
「はい。そう仰せつかっております。」
錬金術の先生は眼鏡をしていて、更に眼鏡チェーンがついており、前世の言葉を借りるならエモい。そして錬金術士の制服らしきローブの胸にはキラキラした綺麗なバッチがズラりとつけられている。この国のバッチは実績や使用許可等の役割をしている。つまり、今目の前にいる先生は超ベテランでとても有能人という事になる。
「そうですか。これからお世話になります。改めまして、エルヒリア・クラリアスと申します。」と言って頭を下げると、驚いた顔をして此方を見る先生。
長い沈黙が続いたので流石に「どうされましたか?」と尋ねる。
「いえ、貴族の方に頭を下げられる事がなかったもので…。」
「あ…。」
(やっちゃった~!!!前世の癖で!!)
「此方こそ、宜しくお願い致します。遅くなりましたが、クルス・リスメギスと申します。」と先生は少し汗をかいてニコっと笑う。

「先生。早速なのですが、私はスープの石を作りたいと思っております。」
「スープの石?でございますか?」と不思議そうな顔をして首を傾げる先生。
「はい。どうしてもスープに使用する食材を見られるわけにはいかないのです。そこで食材を石にしてしまってお湯で煮れば石が溶けて、スープになるといった感じの物が作りたいのです。」
「なるほど。エルヒリア様は既に錬金術が魔法のように無から有になるものではなく、等価交換による、物質の変化だとご存知なようにお見受け致します。」
「えぇ、それはなんとなく。(アニメで)」
「なるほど、最初の授業はそこを理解して頂こうと思っておりましたが、早速実践へ移っても大丈夫そうでございますね。」
「え?皆理解できない事なのですか?」
「はい。錬金術で無から金を作り出して見せた馬鹿者がいたせいで、錬金術とは金を生み出せる術だと思い込まれている方が多いのです。錬金術士からすれば、それはハッタリだと分かってしまいます。何故なら錬金術は、魔法が使えない者が編み出した合法的な魔法にしか過ぎませんので。」
なるほど。この世界で魔法を使うには、魔法学校へ通って王宮から支給される杖をもらって、卒業して魔法バッチをつけなければ法律違反として捕まってしまう。
錬金術はきっとお金が無くて魔法学校へ通えない何者かが、魔法を合法的に使う為に編み出した術なのだろう。
「で?どうすればいいのですか?」
「まずは錬金術の基本。魔力を何かの入れ物に詰めるという作業が必要になります。スープの石を作りたいとの事ですから入れ物は蓋がある壺か鍋等が宜しいかと思います。私は魔法を使って器を作り出して、その中に魔力を詰めて錬金します。」
「壺か鍋が必要なのね。」
「本日は私が作った小瓶に魔力を詰める練習をしましょう。」と言って先生は懐から蓋のついた小瓶を取り出してローテーブルに置き、スッと私の方へ押し進める。私はその小瓶を受け取った。
「わかりました。」
先生は次に魔法を使う為の杖を取り出して私に向け「杖の先端を握って見て下さい。」と言った。握ってみれば体中に血液が巡るような感覚が走った。これが魔力なのかと少し体が震えた。前世では全く感じた事のない力に驚きを隠せなかった。どうしてこんなにも面白い事が身近にありふれているのに、本来のエルヒリアは、いえ、過去の私は、どうして勉強なんてほとんどしないで恋にばかり現を抜かしていたのだろう。そんな事さえ思えてしまう。杖から手を離して小瓶を両手で包み込み、先程感じた魔力の流れを瓶へ注いだ。すると瓶の中は黒い煙のような、その中に宇宙があるかのような不思議なモヤモヤで満たされた。
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