聖女のやる事じゃない件について

第十四話【歪んだ温かさ】

「アメリア、後は俺にまかせてくれる？」

アビスの言葉に、アメリアは少しもたれかかるようにして、深く息をついた。
「はい…。」 
彼女はそっと頷き、アビスに全てを託す決意を示しました。

「メーベル！五段階！」
アビスの声が厳かに響く中、彼の呼びかけと共に、空間に不思議な光が急速に広がり、ロココ調の赤い椅子の形を成しました。

アビスは椅子にゆったりと座り、「おいで、アメリア。」と語りかけました。その声は優しく、しかし確固たるものでした。アメリアは迷いなくその招きに応え、彼のそばへと歩み寄りました。
アビスは彼女の手を取り、優しく握りました。その手は暖かく、彼女に安心感を与えました。
「俺の膝の上で休んでて。」
アメリアはためらうことなく、アビスの膝の上に身を預けました。彼の膝の上で彼女は心地よい安らぎを感じ、彼のそばで眠ることができる幸せを実感しました。
アビスは彼女の頭を優しく撫でながら、静かに彼女を見つめました。その目には、深い愛情が溢れていました。
「さて、面倒だけど、片付けようか。」

夕暮れが迫る中、アビスはガナン王国の入り口に戻ってきた。そこには銀髪の騎士、ヴェルンツを含む他の騎士団員が立っていた。彼らはアビスの到着を静かに待ち構えていたが、その目には深い悲しみが滲んでいるようにも見えた。

「騎士団は全員集まったか？」アビスが尋ねると、ヴェルンツは深くため息をつきながら答えた。「ああ、全員そろった。」

「お疲れ。じゃあ始めよう。」アビスが言うと、ヴェルンツは黙って頷き、その表情には悲しみと同時に理解が交錯しているようだった。最終的には、彼も同意を示した。

アビスは片手でアメリアを抱きしめ、もう片方の手でステッキを握りしめました。彼の周りには魔法のエネルギーが渦巻き、そして彼の手元に集まりました。そして、彼の手から放たれたエネルギーが、ガナン王国上空に巨大な光の球体を形成し始めました。

その球体はまるで太陽のように輝き、周囲の暗闇を一掃するほどの輝きを放っていました。アビスの魔法の力がその場に強烈な存在感を示していました。

アメリアはアビスの腕の中で、その壮大な光景を見上げながら微笑みました。「綺麗･･･。」彼女の声は静かで、感動と感謝が込められていました。

アビスも微笑みながら、彼女の言葉を受け止めました。



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王城への帰還後、アビスとアメリアはアズレイの執務室にいた。その部屋は静かな雰囲気に包まれ、穏やかな灯りが部屋を照らしていました。アズレイは机に向かって書類を整理しており、彼らの姿をチラリと見た。

「化け物はお前の方だったな。アビス。」

アズレイの声が部屋に響き渡りました。彼は書類を整理しながら、アビスに向かって言葉を発しました。その言葉には驚きと皮肉の混じったニュアンスが漂っていました。

アビスは微笑みながら反論しました。「そうですか？俺だって、化け物になることもありますよ。」彼の声には自虐的な笑いが含まれていました。アズレイはギロリとアビスを睨みました。

アズレイの視線は鋭く、そのままアビスを貫きました。彼の目には、厳しい警告の意味が込められていました。アビスはその視線を受け止めながらも、微笑みを崩しませんでした。

アズレイはアビスとアメリアをじっと見つめながら、深い溜息をつきました。その表情には複雑な感情が入り混じっていました。

「あそこまでやる必要があったのか」と彼の口から漏れる言葉は、悲しみと疑問が込められていました。

アビスは重々しい表情でアズレイを見据えました。彼の声は穏やかでありながら、その中には断固とした決意が感じられました。

「ありましたとも。大切な友人を勝手に殺戮人形として利用しようとした。貴方方はその罰を受けるべきだ。」アビスの言葉には強い意志が込められており、その声は執念に満ちていました。

アズレイはアビスの言葉を聞いて、表情を硬くしました。アズレイはアビスの言葉に反応しませんでした。彼の表情は硬く、そのまま静寂が部屋に広がりました。

『え？あれ？ここどこ？』

アメリアの心が戻ってきた瞬間、アビスは一瞬目を見開いたが、直ぐに彼女の肩を抱いて言った。「すみませんが、大掛かりな魔法を使ったので休ませてもらいます。」と言いました。
アズレイは何も言わずに彼らを休ませることに同意しました。
アビスとアメリアはアズレイの執務室を後にし、部屋に戻りました。


アビスはベッドに座り、やさしくベッドをトントンと叩きながら、アメリアに隣に座るように促しました。アメリアは彼の招きに応じて、ベッドの隣に座りました。
次に、アビスは体を後ろに倒すと、自然にアメリアもその動きに合わせて仰向けになり、手を絡め、互いの温かさを感じ合いました。

『ど、どうしたのアビス！』
「戻ってこないかと思って不安になった。」
『え？どういう事！？』
「心の声が途絶えてた。リアが壊れてたらどうしようって不安になった。」

アビスは深い溜息をつきながら、アメリアの手を強く握りしめました。

『アビス、私、戦ってる時辛かったけど、アビスの事考えてたらなんとか耐えれたよ。』
「そうかな？俺には耐えきれてるようには見えないけど。」
『え？そう？』
「そうだよ。」
『そっか。』
「まぁ、でも。おかげでリアにかけられてる魔法の正体が分かった。」
『え！？じゃあ解けるの？』
「リア、その魔法を解くのは時間がかかるんだ。それに、その魔法を解く方法が１１歳の子供が耐えられるようなものではない。残念だけど、少なくとも今はこのままの状態が続くかもしれない。」
『えー、そんなぁ。』
「大丈夫。時が来たら解いてあげるよ。」

静寂が部屋を包み込み、穏やかな雰囲気が漂っている中、アメリアの心は突然、深い罪悪感に包まれました。彼女はアビスとのこの時間が、本当に正しいのか、許されるべきなのか、と考え込んでしまいました。しかし、アビスはアメリアの葛藤に気づき、彼女の心が罪悪感に揺れ動くのを感じ取りました。

部屋の静けさを打ち破るように、アビスの口から意外な告白が漏れました。「リア、聞いて？俺、ガナン王国を滅ぼしてしちゃったんだ。」

驚きを隠せないアメリアの反応に、アビスは深いため息をつきます。
「記憶、残ってない？」
『えっと…。』
アメリアは、アビスの言葉に驚きながらも、記憶をたどりました。その光景は彼女の心に深く刻まれていました。アビスが魔法でガナン王国を木っ端微塵に吹き飛ばす様子。その瞬間、美しくも壮絶な光景が目に浮かびました。

アビスはアメリアの心配を察し、優しく彼女を慰めようとしました。「俺の手も汚れてる。大丈夫だよリア。」彼の声には、安堵と共に温かな優しさが込められていました。

穏やかな雰囲気の中、アメリアの心の声がアビスの脳内に響きました。『馬鹿。どうやったらそんな考えになるのよ。』その声にはやや不満が込められています。

アビスは微笑みながら返答しました。「そうだね。俺は800年は生きてるから自分でもわからないな。」彼の声は軽やかで、少しの冗談めいたトーンが含まれていました。

『アビスは800歳なのね。』
「恐らくね。途中から数えるのを忘れてしまったんだ。」
『ふーん。』
「800年生きていても、リアといる今この瞬間が俺にとっては一番楽しいんだ。だから俺はリアの隣にいたい。」
彼の声には、確かな自信と純粋な愛情が込められていました。その言葉は、アメリアの心を温かく包み込みました。
『物好きめ。』