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11p【初バトル】

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最初は暗闇だったが、カチッという音と同時にぼんやりと灯りが灯った。
すると目の前にワニに乗った老人が現れた。

何かが僕目掛けて突進してきて、それをウォールが防いでくれた。突進してきた何かに目をやれば鷹だった。
ハクはあっさりと鷹を斬り、そしてワニに乗った老人を斬った。報酬がすぐに届いたので僕は思わず二度見してしまった。

そして、しばらくしてハクだけで8階までは進めたけど、9階のモンスターは人型で凄く手ごわくてハナビの魔法でなんとか倒す事ができたが魔力をほぼ使い果たしてしまった。
10階に辿り着くと、なんと10階のモンスターは僕を癒してくれた。魔力も満タンにしてくれて、どうしようか迷っているとハクが容赦なく斬りつけて倒してしまった。

それから11階、12階とハクだけでクリアをし、13階では耳を塞ぎたくなるようなトランペットの音が鳴り響いて、大きな二足歩行の猫が現れた。なんだか怒り狂っていて突然猫パンチをしてきたのでウォールが守ってくれた。ウォールごと僕も吹き飛ばされて、その猫パンチは止まる事を知らず体力が尽きてクエスト終了になってしまった。
景色がいつの間にか塔の外に変わっていた。

「ん?もう出てきたんですか?」とシンカさんは椅子から立ち上がって本を閉じた。
「はい…。すみません。」
「何階までいけました?」
「12階まではいけました。13階の猫が強くって怒涛の猫パンチが強烈すぎて負けてしまいました。」
「あぁ、ビュレトの猫パンチは強烈ですよね。あれは力でゴリ押しするかギミックを使うしかないんですよね。」
「ギミック…?」
「あの階の壁に杖がかかってるんですけど、あれで地面に三角形を描いて、その中にビュレトを誘い込んでやるとピタっと動きが止まるんで、その間に削るんです。」
「初見じゃわかりませんよ!」
「はははっ。それもそうですね。一応そこそこお金貯まったんじゃないですか?」
「1200Enくらいには。シンカさんは何階まで登ったんですか?」
「愚問ですね。73階登りきってます。」
「えぇ!?」
「うちのギルドの幹部クラスは全員登り切ってますよ。あぁ、ですが、ルナだけはギル長なのに登りきるのに現実世界の2年は費やしてますね。登り切ったあとも一生やらないって言ってましたし。」
「…僕も一生登り切れる気がしません。」
「さて、もう夕方ですけど、次の町にでも行きましょうか。」
塔の近くに門があって、その門をくぐった瞬間にピコンっと音がしてシンカさんが立ち止まった。
「なんの音ですか?」
「自分がバトルを申し込まれました。」と言ってシンカさんの前にホログラム画面が出ていた。
それからバトル開始のカウントダウンが表示されていた。

「えっ…。」
「安全地域から出るとこうなるんで、よく覚えておいてください。」と言ってシンカさんは微笑む。
バトル開始カウントダウンが0になった。
すると、どこからともなく顔の綺麗な男性が現れて「初心者…ではなさそうだなぁ。」と呟いた。
「あ、すみません。初心者の方ですか?ちゃんと確認してからバトルしないとダメですよ?」とシンカさんが少し声を張り上げて言えば敵である男性の顔に怒りマークがついた。
「初心者じゃないにしろ!!AIじゃねーか!!こんなとこほっつき歩いてるくらいだ!勝てるに決まってる!」
「クスッ…。それはそれは失礼しました。」そう言ってシンカさんは本のようなものを取り出して装備した。
シンカさんは魔法タイプなのか…と、そう思った瞬間!!!

素早い動きで思いっきり男性を本で殴った。ゴンッと鈍い音がした。
「ぐあっ!!!!」と男性が痛そうな声をあげた。
とても痛そうだ。体力を見ると半分も減っていて驚いた。

「シ…シンカさん、それ鈍器なんですか?」
「はい、オリハルコンとかいうこの世界で最高峰の硬さを誇る素材で作られた鈍器です。」とシンカさんは真面目な顔で解説してくれた。
やっぱり鈍器なんだ…。
「チッ。ならプレートに着替えるまでだ!!」
男性はそういって鉄の甲冑を一瞬で装備しだした。

「なーんちゃって。」シンカさんがそういうと本がパカッとひらいて空に浮いて「たーまやー!」と叫べば大きな炎の球体が男性目掛けて降り注いで男性の体力があっさりと0になった。
「ばか…な。AIごとき…に。」と言って男性は地面に這いつくばる。
「敵の言葉を真に受けちゃダメでしょ。それに着替える間わざわざ待ってあげたんですよ?」シンカさんは土埃を払う仕草をする。
「じゃあ!!その後ろに連れてるのが初心者だろ!!!主マークはついてないもんなぁ!」と言って立ち上がり僕を見る男性。
「主マークって?」
「主マークというか。設定の表示で主マークエフェクトってのがあるんですけど、それをONにしておくとAIと主の距離が10m以内なら薄い鎖のようなエフェクトがでるんですよ。あ、もちろんエフェクトは課金で種類を選べますよ。」
「へぇ…。」
「やっぱり初心者か!!なら一勝もらうぜ!!」と言って男は何かの薬を飲んで体力と魔力を回復した。
「うわっ!!」
目の前にバトル開始カウントダウンが表示される。
「あーあ。ちなみにアンタ…。えーーっと。チャーリーさん?あと何回でペナルティなんですか?」
男性の頭の上にチャーリーと表示された。
「あと1回だ。」と言いながら装備をあれこれいじっている。
「そうですか。残念ですね。」とシンカさんはふっと笑う。
カウントダウンが0になって…僕はタクトを握る。
「僕だけでも勝てそうですが、ここは慎重にハナビ!ハク!」とエイボンが指示をだした。
「まかせて。」ハナビは本を開いて呪文を詠唱する。
「いける。」ハクは素早い動きで相手を早速切りつけにかかった。
ハナビとハクの魔力が減っていく…継ぎ足さないと…。僕はタクトの先端をハクの頭上を目掛けて照準をあわせて魔力を補充し、次にハナビの魔力も補充する。
な、なんか僕だけ別のゲームをしてる気分だ。
「なんの音もないのに指揮棒をふってる姿は実にシュールですね。」とシンカさんに言われた。
ふってるわけではないんだけど…集中して魔力注がないと…。
……って、あれ?
「うわあああああ!!」とチャーリーが悲痛の叫びと共に血だるまになっていた。

僕の目の前にWINという文字が表示された。そして賞金も手に入っていた。

「しまった。削りすぎた。」とハクが垢ぬけたような顔をしていた。「詠唱…もう終わるのに…。」とハナビが頬を膨らませていた。
チャーリーが目の前から消えてしまった。
ペナルティになったら速攻ゲーム終了になってペナルティ通知が現実世界のメールに届く。
かわいそうにと…心底思ってしまった。

「ちゃんと強いじゃないですか。」
「そんな…ルナさんと千翠さんのおかげですよ。」
「そうですね。プレイヤースキルもなさそうですし。」
心にグサっと何かがささった。

「さて、次の町目指しますよー。」
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