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38p【ヒルコ対策】

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「すみません。さっきの戦いのショックで休みたいかもしれませんが、先にAIをつける事が最優先なんで。」とシンカさんに言われた。
「いえ、咲の為なら…。」
「サキ?」とシンカさんが首を傾げる。
「あ、僕の欲しいAIの名前です。って言っても僕が勝手にそう呼んでるだけなんですけど。」
「AIをゲットした時に、直ぐに名前をつける事が何よりも優先されます。なので、真っ先にその名前をつけてあげると良いですよ。」と言って微笑みかけてくれるシンカさん。
「はい。」
町の人々が此方を見ていた。
「あの、なんか見られてる気がしますね。視線を感じるというか。」
僕は、つい周囲をキョロキョロしてしまう。
「あぁ。ラートさんが有名人だからだよ。」とシンさんが教えてくれた。
「しかし、ヒルコめ。やってくれたな。」とラートさんが静かに怒っていた。
「えっと、ヒルコさんってどういう人なんですか?」
「現実世界で俺とライバル会社の社長だ。あれに対抗できるのはルナか俺か俺の班の副官デリック、後は千翠しかいない。アイツとのタイマンは勝っても負けても大損だ。」
(てことは…?ラートさんって、どっかの会社の社長さんなんだ。)
「千翠さんもどこかの社長なんですか?」
「リアルの詮索はハラスメント行為ですよ。」とシンカさんに言われた。
「あ、すみません。」
無事にムーンバミューダ社公式運営ショップでチケットを購入し、ついでに必要な物を買いそろえてすぐにルナさんの部屋に戻った。

「おかえりなさい。ラートはもう離れていいわよ。」とルナさん。
「あぁ。」と言ってパーティーが解散されてラートさんはゲートを開いて消えていった。

「さて、これからだけど、ばつを消す為のクエストが現実世界の1年に一回だけあるの。ヴァルプルギスの戦場よ。1位をとれば1位報酬で罰が一回消えるわ。」
「ヴァルプルギスの戦場ですか。」
「ええ。でもそれはもっと先の話。今からログアウト後の話をするわ。よく聞いて、起きたらまず携帯の電源を切るの。これで勝負は挑まれないわ。」
「え!?そうだったんですか!?」
「そうよ。だって、このゲームは携帯ゲームだから。それから、現実世界でAIチップを貰ったら、一度携帯の電源を入れてAIチップをすぐに読み込ませておきなさい。その後家に帰るまで絶対に携帯の電源をいれない事。」
「チップって直ぐに読み込めるものなんですか?」
「えぇ。チップって名前だけど実際はメモリで充電器を刺すところに刺せば読み込めるそうよ。読み込みが終わったら自動で【リアル】が開かれてAIを追加しました。って画面がでるはず。そこで名前をつけて電源を切るのよ。」
「わかりました。」
「あと、AIのレベルが3以上なら勝手にそのAIとパーティーが組まれてる状態になるわ。」
「なるほど。」
「すぐにログアウトしてしまいたいでしょうけど、ログアウトする前に夜組の終業式見ていってちょうだい。現実世界の23時の夜がその日よ。」
「ま、長い時間をギルドハウス内で過ごすことになりそうですけどね。」とシンカさんが言った。
「えっと、今ログアウトしても寝付けないと思いますから見ていきます。」
「じゃあ、しばらくよろしくお願いします。」とシンカさんからパーティー招待がきて、シンカさんとパーティーを組んだ。
「よろしくお願いします。」
「まぁ、自分一人じゃとても、ヒルコの手下に勝てる気しないんで、さすがにルナ班の誰かをつけますけどね。」
とシンカさんは公開型のホログラム画面を出してギル員一覧を見ていた。
(僕は数に入ってないんですね。)
「待って。もう一人だけ、ヒルコにも手下にも勝てそうで暇してる幹部がいるわ。」
「え?あー…なるほど。全く試した事ないですけど、確かに一人いますね。暇って言い方したら怒りそうですけど。」
「えっと、誰ですか?」
「ルナが人間種にんげんしゅの中で一番愛したと言われる人です。面白いから内緒にしときましょう。」
「えぇ!?」
(愛したって事は、元彼!?噂では幹部はルナさんの元彼だらけらしいからな。ありえるかも。その中でも一番って、やっぱり一緒に住んでいた千翠さんじゃないかな。)
「シンカぁぁ~?今からその情報を最重要機密扱いにするわ。あと、今日はシンと寝る。」
ルナさんは怒り筋をたてていた。
「クスッ。珍しくルナを怒らせたね、シンカ。」とシンさんがニヤリと意地悪な顔をする。
「ルナっ!誤解です!これは嫉妬です。許して下さいルナ。」と情けない顔をしてルナさんに近寄るシンカさん。
「ふーんだ。」
(えっと、僕はこの茶番をいつまで見てればいいんだろう。)

「大丈夫?部屋で休んだら?」とシンさんが声をかけてくれた。
「だ、大丈夫です。なんか慣れました、もう。」
「冗談は置いといて、真面目な話、シンカはリキの側についてて、シンはしばらく私の護衛。私の大事な大事な片時も離れたくないAIをつけてるんだから、安心してこの世界を楽しみなさい。」とルナさんは真面目な顔をして僕に言った。
「え、あ、ありがとうございます。」
予想もしていなかった言葉に驚く僕。
「ギル員にスパイがいた場合、もしくは金に目がくらんでヒルコ側についた人がいた場合、リキさんをヒルコの待つ部屋へゲートで放り込んだり誘い込んだりする可能性があります。ですから、終業式までの間共に行動しろという事です。」とシンカさんが細かく説明してくれた。
「あ、そうだったんですね。すみません。」
「いいのよ。シンカ、晩餐の用意をしてきなさい。リキもそれについて行って。」
「わかりました。」とシンカさんと僕がハモってしまって顔を見合わせた。
ルナさんの部屋を出て大広間に入って、大広間の中の小さな扉を開けて入ってみると、12畳くらいの部屋で、中には冷蔵庫っぽいものがびっしりおかれていて、その真ん中に大きなテーブルがあった。
部屋の名前は厨房。
「りきさん、邪魔になるんでそこの椅子にでも座っててください。」
「はい。」近くにあった椅子に座った。
シンカさんは冷蔵庫をあけて食材を取り出し、テーブルの上に並べた。ホログラム画面を出して操作し、包丁をとりだすとシンカさんの右手元横に更に小さなホログラム画面が現れた。包丁の先で食材にタッチして手元のホログラム画面をタッチすると、タッチされた食材が料理に変化した。一度で5個同じ料理ができたり、2個しかできない時もある。どうやらランダム性があるようだ。とにかくそれを素早い動きで何度も何度も繰り返す。できた料理は次々と部屋に入ってくるルナさんに似たAI達が運んでいく。
「現実世界の料理って、もっと複雑なんですよね?」
「え?あ、はい。料理は良くするんで、現実世界でもこれくらい簡単だったらなって思ってしまいます。」
「ふーん。この世界の料理は、料理スキルを上げた人にしかわからない事なんですが、上限値に達したら上限値達成報酬に複雑なパズルがもらえます。もちろんホログラム画面上のパズルですけど、種類は様々で、それが見た目として繁栄されるようになります。つまり上限値以下は運営の考えたデフォルトの見た目料理ができるだけなんです。」
「なるほど。それって、一度組み合わせたら保存とかして、次から同じ見た目の料理が出せる…とかそんな感じなんですか?」
「はい。そうですよ。何千種類もの料理を登録しないといけなくて、凄く苦労しました。あ、まだ全部登録できたわけじゃないですけど。」と喋りながらも、シンカさんはどんどん料理を作っていく。それをルナさんに似たAI達が広間へ運び出す。
そういえば、僕も増えたアビリティポイントをゲートに全部振ってしまおう。
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